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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百二十一話 天界の現実

眼下に広がる大海原。透き通った綺麗な蒼ではあるが、遥か上空から見つめると違いがわかる。


孝治は小さく息を吐いてゆっくりと後ろに下がった。それと同時に孝治がいた地面が暴落する。それに怯えるようにニーナとツァイスの二人が一歩後ろに下がった。


「これが現状なんッスね。天界が必死になるわけッスよ」


「だね。ニーナ。私達に見せて良かったの?」


「それはわかりません。ですが、あなた達は私とツァイスを救ってくれました。ですから、あなた達が一番望むことを教えたまでです」


「お兄ちゃん達がどうして追われていたかは僕達にはわからないけど、悪い人じゃないと思う」


その言葉に孝治は空を仰ぎ見た。晴天の空は眩いまでの太陽の光を大地に降り注がせている。そんな長閑な光景でも、天界の現状は深刻だった。


孝治が視線を移す。そこには廃墟と共に空に浮かぶ浮島。ただし、島の大半が崩れて住むには全く適さないだろう。


これが現実なのだ。天界の現実。


「繋がったな」


「何がッスか?」


「マクシミリアンが何故、音界に来ているのか。おそらく下調べだろう。天界の住人を移住させられるかどうかの」


「人界は適さないから音界か。目の付け所は全く悪くないかも。でも、音界ってそんなにたくさん移住出来た?」


「音界は人界と同じサイズだ。ゲートを通じて隣り合うが触れない世界と言われている」


ちなみに、音界の総人口は約6000万人であり人界と比べれば遥かに場所がある。


「どうりで天王マクシミリアンが音界にいたわけッスね。それにしても、崩落する大地」


「天界の民は新たな居住地を探していた。魔界と争いが起きたのはこれが原因かな?」


「それは違うッス。ただ、気にくわないという理由から戦争が始まってズルズルとここまで続いているだけッスよ」


「身も蓋もないというか」


「だが、気になることは一つあるな」


孝治が周囲の浮島を見ながら目を細めながら頷いた。その目には魔術陣が張り巡らされており、孝治の目は目視ではわからない何かを見ているようだった。


刹那やルネも同じように周囲を見渡す。ただし、こちらは魔術を使用していない。


「原因はなんだ?」


「わからない。一部は僕達『灰の民』が引き起こしたと言っているけど、僕達にそんな力はない」


「私達が持っているのはこの黒が混じった忌むべき翼だけですから」


「ちなみに、魔界が引き起こしたって説は無しッスよ。魔王自体、派手な殴り合いが大好きッスからそういうちまちました手は好まないッス。それに、魔界の民も倒すべき敵と倒さなくてもいい敵の分別は出来るッス」


「そういう意味じゃない。俺が言いたいのは魔術的な要素が一つも見当たらないのだ」


その言葉にルネは見開いて慌てて魔力の流れを見る魔術を展開して周囲を見渡した。周囲を見渡しても確かに魔力の異変はない。


島が浮くというのは魔術が関わっていなければありえない。又は魔法が関わっている。それなのに、いくら目を凝らしてもルネの目にはその異変は見つからなかった。


あまりに正常に、まるで、自然に落石が起きるように浮島の一部が崩れている。


「ありえない。こんなのありえない。あらゆる事象には魔力が関わってくる。だから、こういう自然に崩落するなんてありえない」


「えっと、お兄ちゃん達、どういうこと?」


「自然現象ということだ。つまりは、世界の寿命」


「そんなものがあるんッスか?」


「理屈上の話だ。世界は有限であり寿命がある。寿命が無くなった世界は自動的に崩壊する。もしくは、こう言うべきか。存在を失い、誰からも認知されなくなる」


「ありえないッス」


孝治の言葉に刹那がすかさず反論する。それほど、孝治の最後の言葉は突拍子もないことだったから。


存在を失い、誰からも認知されなくなる。


はっきり言って意味がわからない。刹那も同じなのだろう。それはルネも同じ。だが、ニーナだけは真剣な表情だった。


「世界が有限ってことは他の世界にも寿命があるってことッスよね。なら、歴史的に一番古い人界ではその兆候が起きていてもおかしくないッス。これは寿命じゃなくて別の理由があるはずッス。何か、世界を崩壊させるような理由が」


「そんな理由があるならそれをどうにかしようと天界は動くと思う。天界だって、ただ指をくわえて見ているだけじゃないはずだから私達が知らない研究結果だってたくさんあるはず。それが無いってことは」


「考えたくはないッスけど、寿命ッスね。それが本当にあるとしたなら、どうしようもないってことになるッスよ」


「つまり、魔王の側近だから認めたくないんだ」


「敵である天界だとしても、たくさんの人が傷つくことが起きていいわけがないッス」


刹那とルネの二人は怪訝そうな顔つきで話し合っているが、孝治は目を凝らして向こうの浮島を見つめていた。


まるで、何かを見つけたかのように。そして、静かに弓を取り出す。


「どうかしたッスか?」


刹那の疑問に孝治は答えることなく静かに弦を引き放した。放たれた光の矢が浮島に突き刺さる。すると、その光の矢と孝治の手を結ぶように魔力によって編まれた光の紐が出来上がっていた。


孝治は静かにそれを引っ張る。すると、光の矢は浮島の一部に突き刺さったまま引っ張り剥がしていた。


孝治の腕の中に浮島の破片が収まると同時に浮島全体に大きなひびが入る。そして、砕けた。


「なっ」


「「えっ?」」


刹那とルネ、ツァイスの三人が絶句する。そんな光景を見ながらも孝治はニーナの手を引いて歩き始めた。


「ここは見つかる。少し離れるぞ」






近くの茂みから浮島があった場所を覗く。すると、そこにはたくさんのドラグーンの姿が見える。それほどまでに大事なのだろう。


人がいなかったとは言え、浮島一つが崩壊したことを考えれば当たり前か。


「うじゃうじゃいるッスね。ここから『灰の民』の居住区までそれほど遠くないはずなんッスけど」


「いや、まあ、そこのバカがしでかしたことだけど、連帯責任で私達も」


「お兄ちゃん。お兄ちゃんはバカなの?」


三人の視線が孝治に突き刺さる。すると、孝治はフッと笑みを浮かべた。並みの女の子ならクラッときてもおかしく無いような見事な笑みだ。


「褒めるな。恥ずかしい」


「「「褒めてない!」」


三人が最低限の音量で叫ぶ。普通は展開するはずの消音魔術は天界していないため声が大きすぎたら隠れているのがバレてしまう。


ただ、こういう何もない状況での消音魔術は簡単に見つかるので消音魔術の方がリスクは高いというべきか。


「考えもなしに打ったわけではない。これを見ろ」


そう言いながら孝治は腕の中にあるものを差し出した。


正確には、破片を削り取り出したとある石版をみんなに見えるように差し出した。


そこに踊る文字。それを見た瞬間、刹那とルネが息を呑む。


「これって、もしかして」


「考えている通りだろう。解読してみてかなり半信半疑ではあったが」


「アカシックレコードッスね」


その名前は有名だろう。簡単に言うなら過去に描かれた未来の事象を描く石版。それがアカシックレコードだ。


様々な書物に現れ、空想上の産物として語られたものがそこにあった。


「これについて語ってもらえるな? ニーナ」


その場にいる全員がニーナを向く。すると、ニーナは観念したかのように頷いた。


「私が知るのはあくまで伝承上の出来事です。それ以上を語ることは出来ません」


「知る限りを語って欲しい」


「わかりました。それはアカシックレコードと呼ばれています。未来を描く石版。又の名を、『創世計画』」

創世計画が意外なところで繋がっていきます。ちなみに、天界編は大半が第四章に近い位置にあります。

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