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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百二十話 旅立ち

声が出ないとはこういうことだろうか。


ぶつかり合った時、ルーリィエさんはさらに加速したように見えた。現に、ルーリィエさんの左手は音姫さんの右手手首を受け止めている。


音姫さんは確実に距離を測ったはずだ。それなのにズレたということは、


「バーストフォロー。この土壇場で?」


「今までの限界を突破したのか。それにしても、人界の模擬戦はこういうものなのか? 僕が知っているものとは大きく違うが」


「うーん、音姫さんと亜紗さんならもっと激しい戦いになるかな。音姫さんと由姫さん、音姫さんと孝治さんも同じような戦いかも」


「これが人間の力だと言うのか」


絶句したい気持ちは僕もよくわかるよ、ルーイ。だけど、これが事実なんだよ。


人界最強クラスと戦う場合は特にこうなる。ランキング的に言うなら二桁に入ったらかな。


こういう戦いを見ていると、つくづく白兵戦は怖いと思ってしまう。


「悠人。鈴とリリーナを呼んで来てください。ルーイはクーガーとラルフを。旅立つ準備を行います」


「わかった。呼んでくるよ」


「リマ。その間だけメリルを頼んだ」


「わかりました」


僕は走り出した。


これから僕達は白騎士と一緒にレジスタンスの本拠地に向かう。首相は反対したが副首相が簡単に頷いてくれたのは意外だったけど、民主的に多数決で対話が決まった。


レジスタンスと強力出来ればファントムやセコッティを追い詰めていける。


メリルが望む平和な世界。それを作り上げるのが僕の戦いだ。


「頑張ろう」


僕は小さく頷いて二人のいる場所に向かって走り出した。






「お疲れ様」


音姫の声が聞こえる。その時になって私は音姫に向かって倒れ込んだ。


体力は限界。精神的にも限界だし体も限界。もう少し戦いがあれば確実に負けていた。


「久しぶりだな。弟くんに負けて以来だから本当に久しぶり。リリィちゃんの勝ちだよ」


「当たり前よ。私は天王になる存在だから」


「楽しみだな。リリィちゃんが天王になったら天界に行けるようになるよね。天界の道場破りをしに行くから」


「迷惑だから来ないで」


そんなことになったら全ての道場が音姫によって破壊されてしまう。天王になってもそれだけは阻止しないと。


「お疲れ様。今は休んで」


「休むわけにはいかないの。私はまだ勝っていないから」


私は体に力を込めて立ち上がる。そして、アークレイリアを拾い上げた。


「私はほんの少し打ち合っただけなのに腕が動かしにくいくらいに痛い。これで勝ったわけじゃないから」


「そうかもね。でも、まさか紫電零閃が受け止められるとは思わなかったな。まさかの三段加速だったし」


その時のことははっきり言って記憶にない。


紫電一閃の弱点を付いたのは良かった。だけど、上手く受け止めたはずなのに受け止めた左腕は痺れている。


でも、どう動いたか記憶にはない。どうしてこうなったのかも。


まだまだ勝った気にはならない。本当に勝つにはもっと訓練しないと。


「お疲れ様。リリィちゃん。聞こえる?」


その時になって私はようやく周囲の状況に気づいた。誰もがみんな私達に向かって拍手している。


「次は最大連撃を使うから、その日まで強くなってね」


「やっぱり本気じゃなかった」


白百合流は一撃ではなく連撃にその極意がある。だから、音姫は本気じゃなかった。でも、音姫は本気だった。本気じゃなかったならあんな速度は出せない。


だけど、あれが白百合流の本気じゃない。


「勝ってやるから。次も」


そう言って私は笑みを浮かべた。






「すげー戦いだったな」


拍手しながら浩平はオレにだけ聞こえるように言った。確かにすごい戦いだった。


周と孝治の二人が本気で打ち合った時と同じくらい、いや、それ以上にオレは未だに興奮している。


「そうだな。紫電一閃にあんな弱点があると思わなかったし」


「次の模擬戦では狙ってみよう」


「止めとけ止めとけ。今のはリリィの技術勝ちだ」


「三段加速じゃな。普通はそんなことが出来ないがの」


確かに出来ない。二段加速なら簡単だ。


スタートは遅めで続いて60%くらいの力で加速。そして、最大限まで加速する。それによって相手の感覚を誤魔化す有名な擬似的バーストフォローの手段。


リコがその代表例だろう。使用者への負担がかなり大きいからまず使用されないが。


今回、リリィが使ったのは二段加速の上位である三段加速。理論上、本当のバーストフォローによって加速が起きなければ発生しないかなり特殊なものだ。


土壇場で出来るようなものじゃないけど、あの加速を見せつけられたらな。


「最後の加速によって音姫の計算を狂わせた。誰もが出来なかった白百合流の弱点を上手くつけたところにあるの」


「悠聖、どうして誰も狙わなかったんだ?」


「あのな、音姫さんは気配だけで気づくんだぞ。紫電一閃自体が高速の剣技だし、それを超えて行くにはそれ以上の速度がタイミングをズラすしかない。まあ、音姫さんならズラしても簡単にどうにかするだろうけどな」


「なるほど。つまりは緩急をつけろってことか」


「オレの話を聞いていなかっただろ」


簡単な緩急なら音姫さんは簡単に刈り取るだろう。今回の場合は予想外だったというのが一つあるが、通常ではお目にかかれない三段加速だからというのもある。


そもそも、三段加速が出来るのって現状では時雨さんくらいなんだよな。


「よし。次は俺が音姫さんに勝つ」


「人の話聞いてろよ。年中お花畑」


「ピンク色ってのは認めるぜ」


「一度ぶん殴ってやろうか」


こいつには皮肉すら通じないだろう。おそらく、全てがポジティブに受け止められる。


本当に、年中お花畑ののうないピンク野郎は。これでも戦闘能力が高いってのも一つの問題なんだろうな

闇討ち出来ないな。


「ともあれ、俊也、委員長。準備は出来ているか?」


「大丈夫です。非常食や水等緊急時のものを所持しています。後、非常用にコンドームも」


「水をいれるにはかなり便利だからな。じゃなくて、必要ないだろ」


こいつらの頭も年中お花畑なのか?


オレは小さくため息をついてゆっくりと、だけどしっかりとした足取りで歩いてくるリリィを見た。リリィはオレに向かってVサインを作り上げている。その後ろでは音姫さんが苦笑している。


さてと、これから残酷なセリフを言わないといけないのは少し心が痛むな。


「お疲れ様。よくやったな」


「当り前。私は天王を目指すんだからっと」


体勢を崩したリリィをオレは支える。リリィは嬉しそうにはにかんだ。


「ありがとう。悠聖の声、聞こえたよ」


「それはよかった。さてと、リリィ、準備はいいか?」


「準備?」


どうやら全く想定していなかったらしい。まあ、仕方ないか。


オレは小さくため息をついて頷いた。そして、今の状態のリリィにとってすごく残酷な言葉を投げかける。


「優月を救いに行くために今から出発するんだよ」


「へっ?」


時間が止まる。そして、ひきつった表情で一歩後ろに下がった。


「嘘だよね?」


「事実だ」


「ドッキリ?」


「ある意味そうだな。まあ、戦いの後だから行くのが無理なくらい体が悲鳴を上げているなら無理せずに休んでもいいぞ。その代わり、見捨てて先に行くから」


「ちょっと待って。行くわよ。行けばいいんでしょ!? せめて、治癒だけさせて欲しいんだけど!!」


オレは委員長を見た。委員長は苦笑しながらもリリィに近づく。そして、リリィに治癒魔術をかけ始めた。


治癒なら委員長に任せればいい。だから、オレは浩平の方を向いた。


「浩平。後は頼むな」


「いや、まあ、いいんだけどさ。悠聖。行くのか?」


「どうかしたのか?」


浩平の顔がどこか不安そうになっている。まるで、これから何が起きるか知っているかのように。


「なんか嫌な予感がするんだよな。周が言う感覚と同じかは分からないけど、お前が何か起きるかのような嫌な予感が」


「大丈夫だって。オレを誰だと思っているんだ。これでも万世術師と呼ばれた最高の精霊召喚師だぜ。杞憂だよ杞憂」


「それならいいけど、まあ、ちゃんと優月ちゃんと返って来いよ」


浩平が拳を突きだす。だから、オレはその拳に拳をあてた。


「ああ。言ってくる」






「どうやら、みんな旅立つみたいだね」


歌姫の居城。その一番上の屋根の上に正の姿はあった。正は楽しそうに笑みを浮かべながら動きだした悠人や悠聖達を見ている。


「片やレジスタンスと協定を結ぶため。片や精霊を取り返すためファントムに殴りこみをかける。本当なら僕はその様子をみたいところだけどね」


そう言いながらクスクスと笑う正。そして、正はその手に聖剣を取り出した。


「じゃあ、行こうか。僕は僕の旅に。孝治達が無事だったらいいんだけど」


そういいながらため息をつき、正の姿は虚空へと消え去った。

次の投稿まで若干日が空きます。スランプはおそらく脱出したので他の作品の更新をしていくので。

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