第百十七話 復調
とりあえず、リリィVS音姫が終わったら他の作品を更新しようかと思っています。多分、スランプは脱出しました。
拳を握りしめる。両腕ともに異常なし。足に力を込める。両足共に異常なし。周囲に召喚陣を作り出す。高速展開異常なし。
「アルネウラ」
『ようやくだね』
召喚陣から飛び出したアルネウラがオレの手を握ってくる。オレはその言葉に笑みを浮かべながら頷いた。
「白川悠聖。復調だ」
訓練場を駆け回る一機のフュリアス。その足にはローラーがついており、背中のブースターは飛行というより加速用のブースターだ。さらには、常時エネルギーシールドを展開しながら駆け回っている。
特徴を言うなら、そのフュリアスはずんぐりとしており、今の設計では考えられないくらいの太さであり、その大きさではありえないくらいの機動だった。
そんなフュリアスが駆け回る訓練場に変形したベイオウルフが入ってくる。その背中には二つのブースター状態のグラビティカノンダブルバレット。
『機動性は高いようだね。だったら、戦闘能力はどうかな?』
リリーナの声が響き渡ると同時にベイオウルフが通常の人型形態に変形する。その手にはグラビティカノンダブルバレットが握られている。
ローラーで駆け回るフュリアスはすかさずベイオウルフに肉迫した。
『速い』
小さく呟きながらもグラビティカノンダブルバレットを捨てて対艦刀を両手に握る。そのままベイオウルフは一気に駆けた。
だが、ベイオウルフの対艦刀が届く前にフュリアスがアンカーを放つ。
『バレバレだよ!』
その攻撃を苦し紛れだと思ったリリーナが対艦刀で払おうとした瞬間、アンカーがまるで糸のようにほどけた。
『なっ?』
すかさず背中のブースターを吹かして距離を取ろうとするが、ほどけたアンカーが元に戻りベイオウルフの右腕に絡みつく。そのままベイオウルフは引き寄せられてフュリアスの跳び蹴りをまともにくらった。
吹き飛んだベイオウルフが体勢を戻した瞬間、ベイオウルフが再度引き寄せられる。とっさにアンカーを左の対艦刀で斬り裂くが、斬り裂いた瞬間、新たなアンカーが今度は両腕に絡みついていた。
だが、ベイオウルフも黙ってはいない。ベイオウルフの体中から吹き出した蒸気がアンカーをドロドロに溶かしていた。
さすがにアンカー部分は魔鉄製ではないからかベイオウルフが吐き出す熱へは対処出来ないようだ。
『舐めてたらダメみたいだね。こっちも本気で』
『すでにチェックメイトだよ』
その声はローラーのフュリアスから。しかも、七葉の声。ベイオウルフはそのまま前に踏み出そうとして、転けた。
『えっ?』
よく見ると、リリーナの足を膜が包み込んでいた。熱を吐き出しているはずの部分ですら。
『えっ? あれ? これ、何?』
『剄線だよ。このイージスカスタムはかなり特殊使用なんだから。剄線は極細の魔鉄を利用したものだし、上手く組み合わせればそういう風に出来る。ベイオウルフは最大パワーはすごいげど、熱の放射が上手く出来なければ最大パワーを出せない。違う?』
『うう、年下に負けるなんて』
『私の方が『GF』歴は長いんだよ』
「たった数日じゃがな」
そんな様子を訓練場の端で呆れたような表情でアル・アジフは見ていた。その隣にはすごく怖い顔をしたルーイとハラハラしている鈴がいる。
ベイオウルフとイージスカスタムのコクピットが開き、そこからアークベルラを持つリリーナと剄線の槍を持つ七葉が現れこの距離では聞こえない言い争いを始め出す。
「どうじゃ。イージスカスタムは。面白いじゃろ」
「地上しか戦えない地走機か。だが、大きさに反して機動力は高い。イージスカスタムということは名前からしてイージスのように防御に特化しているのか?」
「防御にも特化しているじゃ。シールドは全てエネルギーシールドじゃが、通常のグラビティカノンダブルバレットくらいなら弾くレベルの高出力を可能としておる。本来ならかなり危険なものじゃが、ワンオフ機としてしか使えない特殊機構もあっての、軍事転用が考えられても頓挫するのが普通じゃ」
「ワンオフ機?」
聞いたことのない言葉に鈴が首を傾げる。それにルーイが小さく溜め息をついた。
「イグジストアストラルのような特殊な性能があり一機しか存在していない又は悠遠のような一人のパイロットしか存在していない機体のことだ。だが、イージスカスタムなのにどうしてワンオフ機だ? 僕には理解出来ないんだが」
「企業秘密じゃ。と言っても、七葉の才能がピタリと一致した機体じゃからな。我や周、悠人でもイージスカスタムは動かせぬ。いや、周なら軽々と動かしそうじゃな」
「海道周は一体何者だ?」
「世界最強の器用貧乏にしてオールラウンダー。兵士から指揮官、パイロットまで何でもござれの大天才。そして、このオレの親友」
「そなたか」
アル・アジフが振り返る。そこには笑みを浮かべた悠聖と隣に付き従うアルネウラの姿があった。
訓練場にいち早く来てみればすごく面白いものが見れた。あれが七葉専用フュリアスのイージスカスタムか。
重そうな割には軽快な動き。さらには、フュリアスの天敵である剄線を操る機体。
「七葉用に精神感応の首輪を作ったのか?」
「チョーカーと言ってくれんかの。悠人のものはさすがに首輪じゃが、我が作れる最高傑作を渡しておる。そなたが気づいたことは事実じゃが、ちゃんとリミッターもかけておるぞ」
「何の話だ?」
話についていけないルーイが不思議そうにオレ達を見ている。それにオレは笑みを浮かべた。
「悪いな。こればかりはアル・アジフさんの口から聞いてくれ。にしても、イージスカスタムは地上戦最強のフュリアスじゃないのか?」
「聞き捨てならないな。僕や悠人がいるんだぞ」
やっぱり怒ったか。まあ、普通は怒るわな。
オレは軽く両手を上げて笑みを浮かべた。
「そういう意味じゃない。イージスカスタムと相手をするなら射撃が一番有効だろうし、機動力が極めて高いから飛行禁止にしたら距離は開けられないぜ」
「悠聖の言う通りじゃ。そもそも、七葉は空間把握は得意じゃが、フュリアスの場合は一気に下手になっての。じゃから、イージスカスタムは地上戦に強いように設計した。意味はわかりにくいかもしれぬがの」
「僕からすれば設計して一日足らずで作り上げる方が意味は分からない。それよりも、大丈夫なのか?」
ルーイの言葉はオレに向けられたもの。オレは一瞬だけキョトンとして頷いた。そして、質問の意味に気づく。
「まあな。重傷って言うほど酷い怪我じゃないし、こういう怪我なんて日常茶飯事だ」
「それはそれでどうかと思うが。無事なら大丈夫だな。本当なら僕はお前に首都を任せたかったが」
「七葉や浩平がいるから大丈夫だろ。まあ、それに今日は大勢のギャラリーが集まるし、その時にいろいろ託すさ」
オレはそう言いながら笑みを浮かべ、振り返った。そこには真剣な表情で向かってくるリリィの姿。その手にはアークレイリアが握られている。
服装はボロボロだがやる気は満々だ。
「準備はいいのか?」
「うん。悠聖はもう大丈夫?」
「白川兄妹は完全復活だ。それよりも、今はお前自身の心配をしてろ。相手は音姫さんだぞ」
「大丈夫。みんなからエールをもらったから」
「そっか」
オレはリリィの頭を撫でた。リリィはくすぐったそうに目を細め、そんなリリィの背中をアルネウラが軽く叩く。
『頑張ってね。ライバルさん』
「ありがとう、アルネウラ。白百合音姫は」
「私はいつだって大丈夫だよ」
その言葉にオレは飛び跳ねそうになっていた。何故なら、いつの間にか隣に音姫さんがいたからだ。音姫さんがにっこりと笑みを浮かべる。
「じゃ、準備運動を始めようか」