幕間 束の間の休息
すごく懐かしいメンバーが揃っています。
真剣な表情でオレを見つめるメグと夢。そんな視線を受けながらオレは作業を継続する。
チラチラと見てくるのは真人。その隣にいるハトとワカメが視界の隅に収まっているのだがまるでボディビルダーのごとくポーズを取っているのがすごくウザい。
逆に余裕そうにしているのが一誠と健太。健太の場合は少し違うだろうが。
オレは小さく溜め息をついた。そして、持っていたペンを置く。
「なあ、本音を言っていいか?」
オレは溜め息をつきながら頭を抱えた。
「お前ら、一誠と夢を除くお前ら全員留年する気か?」
机の上に並んでいるのは一桁台のオンパレードを叩き出した追試対策の模擬試験パート8だ。一桁じゃないのは一誠と夢の二人だけ。しかも、二人共三桁だ。
この二人なら追試は大丈夫だろう。オレも問題はないけど、問題はこいつら全員。
「お兄ちゃん、私、すごかったでしょ?」
そう言いながら誇らしげに胸を張るのは都島高校の制服を着た茜。編入試験に無事合格(一週間の徹夜で詰め込んだ)した茜ははれて都島高校生となった。しかも、同じクラス。
まあ、ちょっと前まで長期間入院していたからこそのクラスなのだろう。
それはいい。問題が、茜は勉強が好きだ。ただし、学業は大嫌いだという事実だ。英語や国語は普通に満点だ。ただ、それ以外は全く覚えていない。
今回の模擬試験は数学に理科と社会。『GF』メンバーは追試は英語が免除されるらしい。確かに、由姫にメグと夢を除いて全員英語はペラペラだからな。驚くことにハトまでも英語がペラペラだ。
ただ、問題がそれ以外。
「確かにすごかったな。まさか、○×式50問で0って。他もどうして○×で一桁出せるんだよ」
100点満点だから期待値は50なのに。
「おかしいな。夢やみんなで勉強したはずなのに」
「せめて、由姫も参加してくれていたら」
「いや、さすがに腕が動かせませんから」
と言いながら由姫はギブスて固定された腕を振る。かなりよくなってきたのか、固定された状態なら少しは動かしても大丈夫になっている。
オレからすればそうなっていてかなり嬉しいけど。まだまだ予断は許さないし、後遺症が残る可能性もあるが。
「どうすればこれで一桁を出せるんだか。高校一年生のレベルだぞ。これくらい解かなければ第76移動隊の一員であることに疑問を思うが」
「一誠、俺達一応高校生だからな。とは言っても、ボロボロだな。鉛筆に頼ったのはマズかったか」
「俺様も筋肉に頼ったのはマズかった」
「お前ら一度人生をやり直せ」
オレは頭痛がしてきたので思わず額を抑えていた。本当に、こいつらの頭の中はどうなっているんだ?
「ふっ、筋肉になんて頼るからです。私はこの中では三位という自信はありますよ」
「ワカメは確かに三位だな。8点で」
「これこそワカメ占いの勝利」
「髪の毛燃やすぞクソワカメ」
そもそも、ワカメ占いって何だよ。お前はワカメが嫌いじゃないのかよ。
「お前ら、留年するぞ」
「周は余裕だからいいよね。同レベルの問題をやってもほとんど100点の癖に」
「皆さん、私みたいな怪我をすれば試験を免除されますよ」
「お前みたいな怪我をしようとしたら腕が千切れる可能性の方が高いからな」
ついでに、一生腕が動かせない可能性もかなり高い。そんな怪我だから免除されるけど、普通は免除されないからな。後は成績優秀者くらい。
そもそも、オレ達が追試を受けるのは学園都市騒乱後に音界でドタバタしていたため第76移動隊の大半が追試されるという事態に。
茜の場合は追試はないけど。
「なぁ、レヴァンティン。有効な対策は無いか」
『人生やり直せばいいと思いますよ』
「お前ら。こんなデバイスに言われているんだぞ。やる気見せないでどうすんだ!?」
「これが僕達の限界だよ」
「バカ野郎! 俺達に限界なんてねぇ! 周、次の問題を頼む」
「ねえよ!」
そもそも、お前らがここまで点が取れないことが一番想定外だ。
「個別にしたいところだがメンバーが足りないな」
「そう、だね。周君に、頑張ってもらう?」
「レヴァンティン、頼んだ」
『丸投げですか? まあ、私も丸投げしますけど』
どうやらレヴァンティンですら諦めるレベルらしい。まあ、○×でこんな点数とうような奴らなんて諦めたくなるよな。
「はあ、対策はオレが組み上げる。レヴァンティン。練習プログラムをみんなのデバイスに送ってくれ」
「「「げっ」」」
オレの言葉にメグとハト、ワカメが声を上げた。それにオレは大きくため息をつく。
こいつら、絶対にこれが終わったら遊び行くつもりだったな。ただでさえ大変な時期だと言うのに。
「一応、オレ達はいつでも出られるように準備しておかないといけないんだぞ。帰還組と言っても向こうから要請があればすぐさまでなければならない。移動隊だからこそ出来る芸当だけどな。まあ、訓練メニューをちゃんと消化できるなら遊びに行ってもいいけどさ」
「この俺様の筋肉にかかれば容易いことだ!」
「この私を舐めてもらってはこまりますね」
ハトとワカメの二人が笑みを浮かべる。こいつらはかなり力があるからな。今までの訓練はかなり軽めに流していたけど、全員復調だから本気を出した練習プログラムなのに。
現にこの中で一番長いメグが死んだような状態になっている。
「じゃあ、レヴァンティン頼んだ」
『任せてください』
オレは小さく息を吐いて空を見上げた。そして、大きな息を吐く。
「みんな、しっかりやっているかな」
「不安?」
いつの間にか隣に来ていた由姫が微笑みながら尋ねてきた。オレはそれに素直に頷く。
「そりゃな。不安にならない方がおかしいだろ。そもそも、由姫がこんな状態になっているんだし」
「向こうにはお姉ちゃんがいるし、頼れる人もいるから大丈夫だよ」
「そうだったらいいけどな」
本当にそうだったらいい。でも、不安なことが一つあるんだ。もし、今の政権がクーデターで倒された理でもしたならみんなは、
「考えても仕方ないか」
そう言いながらオレは小さく息を吐いて突如として聞こえてきた阿鼻叫喚の声を耳にし笑みを浮かべた。