第百十五話 翼の話
スランプは少しずつ抜け出せているみたいです。まだ、若干引きずっていますが。他の作品はもう少し時間がかかりそうなのでとりあえず、こちらを先に上げていきます。
「二人に紹介するわ」
そう言いながらアークフレイの剣を持つ少女を光さんは抱き締めていた。
「ミスティーユ・ハイロス。うちの舎妹や」
その言葉に僕達が固まる。
舎妹? というか、あの剣はどう見てもアークフレイの剣だよね? それがどうしてここにあるのかわからない。
リリーナもルーリィエさんもわけがわからずお互いにアークベルラとアークレイリアを持ったまま固まっているし。というか、光さんは完全に僕の存在を忘れているよね? 二人に紹介するって言っていたし。
「「へっ?」」
リリーナとルーリィエさんが変な声を上げる。その気持ちはわからないでもないよ。
「「ええぇぇぇぇぇぇええ!!!」」
続くのはやはり驚きの言葉。二人は呆然としながらもミスティーユと呼ばれた少女を見る。
アークフレイを持つと言うことは彼女が白騎士なのだろう。ただ、イメージが違いすぎて何を言えばいいかわからない。
「光、あなたはどうして暴露してるのよ」
「面白いから」
「関西人か」
冬華さんが呆れたようにため息をつく。それに光さんは楽しそうに笑みを浮かべた。
「そんなこと言わんでも。ミスティは強くなりたいんやろ。やったら、ライバルが近くにいた方が強くなれる。うちもそうやったし」
「あなたのライバルって誰?」
「慧海さん」
「ライバル通り越して化け物のレベルじゃない」
確かに光さんは面単位の火力に関してなら凄まじいけど、さすがにあの善知鳥慧海さんを相手にしてライバル宣言と言うのはどうかと思う。あの人は噂によれば神剣を三本持っていて広範囲えの攻撃と一撃の高さが世界で一番と言われてもいるし。
一撃の高さなら楓さんや茜がいるから今はどうかわからないけど。
でも、同レベルの強さを持つ人がライバルとしているならそれは強くなれると思う。僕もルーイと真正面から模擬戦でやり合うまでは並ぶ者がいないくらい強いと思っていたし、ルーイが僕並みに強いとしってさらに強くなれた。だから、光さんの考えには賛成だ。
「えっ? あ、あの、わ、私はそんな、皆さんみたいに強くはありませんし、ズルしてますし」
「ズルって何よ。もしかして、アークフレイに鎧があってこと?」
ルーリィエさんが不満そうに尋ねる。その言葉にミスティーユは頷いた。
確かに、あの鎧って攻撃のほとんどを無効化するらしいよね。詳しくはわからないけど、もしかしたら、グラビティカノンダブルバレットの最大出力も無効化されるのかな? 使えば砲身が完全に壊れるから使えないけど。
「それなら大丈夫。アークフレイはアークの中で唯一特殊能力がないものだから。私のアークレイリアはアークの中で一番、潜在能力を保有している。リリーナのアークベルラはその次。基本が強いアークはその分特殊能力が弱いの。だから、そんなことを心配するくらいなら自分の心配をした方がいいわよ。言っておくけど、私はこの戦い勝つつもりだから」
その言葉にこの空間が緊張するのがわかった。
ある意味、この空気をぶち壊す宣戦布告。それがわかっていながらルーリィエさんはそう言ったのだろう。対するリリーナは不適に笑っている。
「なんだ、リリィもなんだ」
「あんたも?」
「そりゃね。今の魔界はパパが頑張ってくれているから戦いは少ないけど、やっぱり戦いは起きる。私はね、平和な魔界ってのを見てみたいから」
「そう。私とリリーナはこう言っているけど、ミスティーユはどうするつもり? 勝つつもりはあるの?」
「それは」
ミスティーユが口ごもる。ミスティーユはレジスタンスだから二人みたいな強い理由はないのだろう。そう思った瞬間、視界の隅で何かが動いた。
すかさず大型エネルギーライフルをそちらに向けると、そこには精霊召喚符を持った男の姿。魔術を放つ準備は終わっている。
「間に合え!」
僕は最大限までブースターを吹かした。放出されるエネルギーが翼となって加速する。それと同時に魔術が発動した。
一直線に三人を狙う雷撃。僕は左手を伸ばし、その雷撃を掴もうとした。だが、雷撃は指先を掠める。威力はかなり落ちたが止めることは出来ていない。
三人に当たる覚悟でエネルギー弾で蹴散らすしかない。そう思った瞬間、ルーリィエさんが動いていた。
アークレイリアを握り締め、本来の雷よりも遥かに遅い速度で進む雷撃に向かって腕を振る。そして、雷撃を断ち切った。だが、断ち切った雷撃が魔術陣を展開する。
ライトニングボム。
特定条件下で爆発する雷撃を放つ雷属性の上級魔術。
僕はすかさず魔術陣に向かってエネルギー弾を放った。魔術陣を掻き消すようにエネルギー弾が通過し、ライトニングボムの発動を停止する。
間に合った。そう思いながら背後から迫り来る嫌な予感に向かって後ろ蹴りを放つ。硬い感触を感じて振り返ると、そこには顎を蹴り飛ばされた男の姿。完全に気絶している。
「ルーリィエさん、無事?」
僕がそう尋ねると、その場にいる全員がポカンと口を開けていた。尋ねたルーリィエさんが何とか口を動かす。
「無事、だけど、今、何をしたの?」
「何って、蹴り飛ばしただけだけど?」
みんなが何に驚いているかはわからない。僕はただ単に蹴り飛ばしただけなのに。
すると、リリーナが呆れたように溜め息をついた。
「まあ、悠人だしね」
「それ、説明になってないから。それにしても、今の動きはまるで『翼の民』みたい」
その言葉にミスティーユを除く全員がルーリィエさんを見た。
「まるで目があるかのように背後からの攻撃を察知して回避したりカウンターを叩き込んだり。完全な隙に攻撃したはずなのに避けられたり。まあ、天界に伝わる伝説だけど、お爺ちゃんとか年長者は大体信じているって、どうかしたの?」
ルーリィエさんはその時になってようやくみんなに見られていることに気づいた。でも、理由はわからないだろう。
僕が『翼の民』だなんてルーリィエさんは知らないはずだ。だから、その名前が出た時に驚いてしまっただけ。ただ、それだけ。
「『翼の民』?」
ミスティーユが不思議そうに、だけど眉をひそめて尋ねてくる。
「そう、『翼の民』。過去に存在していた神の末裔とか、魔科学時代の技術を有する生き残りとか、未来からやってきた人物とか言われているけど、実際のところは私にもわからない。私はあまり信じていないけど」
「リリィは『翼の民』について詳しいんだね」
「まあね。『翼の民』は魔力の翼を持つ種族であり、光翼、聖翼、神翼と三つのカテゴリーに分類されるの。光翼は一般人クラス。翼を収束させて攻撃を受け止めたり翼の力で飛行したり。聖翼は光翼の力に翼からエネルギーの塊を射出出来る存在。光翼よりかは位は上。最後の神翼は『翼の民』の王が持つ翼。今までの力に魔力に関するものを受け止めて吸収し、吐き出す力もあるの。ちなみに、これらの詳しい話は天界書房の『神翼の伝承』ルイス・ハーベイ著人界の値段で4980ドルで発売してるから」
「値段、おかしくない? というか、なんでリリィがそこまで詳しいのかな?」
「無理やり覚えさせられた」
ルーリィエさんが少しだけ遠い目をしている。
僕は冬華さんと光さんを見た。二人は目で訴えている。隠すようにと。まあ、マクシミリアンとかは知っているけど、天界全体に知られたらそれで話はややこしくなるかもしれない。
それに、今のルーリィエさんの言葉に少し気になるところがあったし。
「それはともかく!」
気を取り直すように叫んだルーリィエさんはミスティーユに手を伸ばした。
「私はあなたとも仲良くしたい。いがみ合うのは好きじゃないってのもあるけど」
「そう言いながら魔王の娘を敵視していたのはどころの誰かな?」
「し、仕方ないじゃん。あの頃はあんたのこと全く知らなくて、魔王派残虐非道な化け物だって聞いていたから、その娘も同じじゃないかなって」
「明らかに偏見だよね? こんなお淑やかな美少女はそんな化け物みたいになるわけじゃないよ! 悠人もそう思うよね?」
「お淑やか?」
「そうなの!!」
どうやら触れてはいけないことだったようだ。すると、傍観していたはずのミスティーユがクスッと笑った。そして、ルーリィエさんに手を伸ばす。
「私からもミスティのことを頼む。ミスティは見た目通りに臆病なところがあるからな」
その話し方に僕達は完全に固まった。冬華さんですらぽかんとしている。笑っているのは光さんだけ。
「私はハイロス。短い付き合いにはしたくないからよろしく頼む」