第百十四話 ミスティーユ・ハイロス
白騎士正体編パート2。
ついでにちょっとした魔力粒子と核晶と魔力と魔術についての関係も語ってます。
「な、ななな、何を言っているんですか? わ、私はただ、た、タイミングを逃して」
「そうか」
光が小さく息を吐いてレーヴァテインを下ろす。ただ、それだけであってコピーしたレーヴァテインを消すことはしない。
いつでもレーヴァテインを放てるような状況にミスティは額に汗を流す。
「殺す気なんてそうそう」
「うちは不思議やってん。なんで音界であんたみたいに強い、強いと言っても言うほどやけど、音界の基準では桁違いに強い。どうしてあんたはそんなに強い」
ミスティの言葉を遮って光が口を開く。それに冷や汗をかきながらミスティはまた口を開いた。
「そ、それは、生まれから強くて」
「嘘やな」
また、光が言葉を遮る。
「どうして音界に魔術が強い人がいないのかはちゃんとした理由があんねんで。ここの魔力粒子は変換効率に優れてる。それは楓から聞いた話やから事実やろうな。変換効率に優れているということは魔力粒子が魔力に変わりやすいということ。ミスティはどうして人が魔力を生み出せるか知ってるか?」
ミスティは首を横に振った。
「人が息を吸い込むことによって魔力粒子を吸収し、肺から血液の中に魔力粒子が流れる。そこから血液によって核晶に到達し魔力が変換され、血液によって魔力が体中に行き渡る。変換効率に優れた魔力粒子はすぐに魔力に変換される。つまり、音界の魔力粒子は核晶を経由せずにそのまま体中に魔力として移動する。ここまでが音界の特徴や」
ここからが本題。と光は前置きをして真剣な表情で語り始めた。
「そして、魔術が使える環境は体内に魔力があること。ただし、核晶からの魔力に頼っている部分は大きいから、魔術というのは核晶がどれだけ魔力を作れるかに依存してんねん。音界の場合やったら、魔力自体が核晶にも流れるから核晶に魔力は蓄積出来る。ただ、核晶に蓄積出来る魔力の量はどれだけ核晶が魔力を作ったかに依存する。つまり、音界の生まれは核晶自体が育ってないことが多いねん。これは人界の研究論文の中にあるから事実や。ミスティはうちが言いたいことがわかるよな?」
「わ、私みたいな人は、普通は生まれない?」
「そうやな。少し魔術が使えるだけならうちは不思議には思わんけど、ミスティが使うのは身体強化。しかも、炎系統の身体強化。そんな魔術が音界生まれで出来るわけがない。だから、質問や。ミスティは敵か味方かどちらや?」
その質問にミスティは険しい表情で数秒考える。そして、フッと笑みを浮かべた。
「降参だ。さすがに、この状況で暴れるほど私はバカじゃないし、ミスティも覚悟がない。こういう荒事は私が対応させてもらう」
「その話し方、アークフレイを着ている時のミスティやな」
「それには誤解がある。アークフレイを着ている時は私だ。アークフレイを着ていない時はあくまでミスティ。私の名前はハイロス。ミスティの名前であるミスティーユ・ハイロスは私とミスティの二人がいるという意味だ」
「えっ? そうなん?」
ハイロスの言葉に本気で驚く光。それにハイロスは楽しそうに笑った。そして、笑いながら鞘に入ったアークフレイを腰から外し、地面に置く。
光はそれを見てレーヴァテインのコピーを消し去った。
「ちなみに、ミスティの産まれは私も知らない。私がミスティの中に生まれたのはミスティにアークフレイが渡ってから。ミスティは優しい少女だ。戦うことを拒否したからか、殺すことが嫌だったか、はたまた私がアークフレイの精神かはわからないが、ミスティも私も産まれをしらない。おっと、私が話すのはここまでにするか。真実はミスティの口から語ってもらわないと」
そう言いながらクスリと笑ったハイロスは目を瞑った。そして、彼女が目を開けた時にはキョロキョロと周囲を見渡して不安そうにしている。
まるで、誰かに聞かれてないか警戒しているかのように。それを見た光はクスッと笑った。
「ミスティ、大丈夫や。ミスティにはうちしか気づいてない」
「よよよ、良かった。誰かに聞かれたりしたらと思うと私」
「大丈夫大丈夫。うちは口が軽い方やから」
「全然大丈夫じゃないです!」
大きな声を上げたミスティがハッとして自分の口を手で塞ぐ。その姿が面白くて光はさらに笑ってしまった。
「ともかく、ハイロスの言葉は本当なん?」
「はい。私は両親を知りません。記憶があるのは孤児院にいた時からです。孤児院の中で育ち、そして、街が何者かに焼かれた日、私はアークフレイとハイロスと出会いました」
「焼かれた」
光は少しだけ暗い気持ちになる。
街が焼かれる。それは光の記憶の奥底にあるトラウマ的な光景と同じだからだ。ただ、規模という点では桁違いに違うが。
「それからレジスタンスに入りました。皆さん、アークフレイを私が持っていることに驚きますが、私もアークフレイを手に入れた理由がわかりません」
「そうか。辛いこと思い出させたな?」
「辛い、のでしょうか。街が焼かれるまではみんな私のことを化け物扱いしましたし、私も自分が化け物だとわかっていました。だから」
だから、大丈夫です。そう続けようとしたミスティの体を光は抱き締めた。女子にしては高身長なためミスティの頭が光の胸に当たる。とは言っても、感触はささやかなものではあるが。
「大丈夫じゃないくせに。ミスティは辛かってんな」
「わ、私は、そんなんじゃ」
「本当は化け物なんて言われたくなかった。みんなと一緒に遊びたかった。違うか?」
「私は」
「うちらは絶対にミスティを化け物扱いせえへん。むしろ、ミスティがうちらを化け物扱いするかもしれへんな」
「そ、そんなことは………あります」
さすがのミスティも否定することが出来なかった。
第76移動隊は同年代と比べたら化け物ばっかり揃っている。それを知るミスティから言わせてもらえば自分自身が一般人に見えてくるだろう。
「やから、大丈夫。何かあったらうちに相談し。うちが守るから」
「で、でも、どうしてそこまで」
「うちな、本当の両親はもうおらんねん。人界で何十万って人が無くなった事件に巻き込まれてな。もちろん、うちも巻き込まれた。幼なじみと一緒に。しかも、犯人は幼なじみの両親やったっていう笑えないおちがついたな。やから、他人とは思われへんねん」
「そんな事件が」
ミスティもさすがに驚くだろう。何十万という規模が段違いだからだ。
式典の時の戦いですら死者は万に達しなかった。それを超えるというのは普通なら想像出来ない。
「うちはそれから強くなった。その事件で他人と関わりたくなくなった幼なじみを見たからな。それと、満足に動けなくなった幼なじみも。やから、繰り返したくないと思ったんや。強くなれば守れるって。ミスティも同じやない?」
「強くなればみんな私を認めてくれる。強ければみんなを守って私の居場所を作ることが出来る。確かに、そう思いました」
「そうやろ? やから、うちもミスティの居場所になったる。ミスティ、妹みたいやし」
そう言いながら光はミスティから離れた。ミスティが不思議そうな顔をしてると光の足がアークフレイの柄に触れ、アークフレイが跳ね上がる。
ミスティがそれをとっさに受け取り、光は呆れたように苦笑しながら振り返った。その手にはレーヴァテインが握られている。
「ミスティは有名人であることを自覚した方がいいんやないかな?」
「えっ?」
「来るで」
その言葉と共に光が後ろに下がり、ミスティの体を抱え上げた。そのまま大きく後ろに跳ぶのと同時に二人がいた場所に雷撃が落ちる。
その時点でミスティはようやく状況に気づくことが出来た。
「どこかの組織かはわからんけど、ミスティを狙っているみたいやな」
「そんな。気配なんて無かったのに」
「アークレイリアを注視しているからや。ライバルやからってもう少し周囲に気を配らんなあかんで」
「気づいていたんですか!?」
光が着地するとさらに後ろに跳んだ。そこはすでにリリィ達の訓練しているテリトリー。
二人を追いかけるように五人の男が精霊召喚符を掴んで現れる。それを見た光は小さく笑みを浮かべた。
「頼むで、冬華!」
「意味がわからないわよ!?」
そう言いながらも律儀に男達に向かった駆ける冬華。男達の内二人が冬華に向かって進み、残る三人が迂回してミスティを狙う。
光は着地をした瞬間にミスティの背中を押して前に押しやった。ミスティは前に進みながらもアークフレイを抜き放ち真っ正面にいた男を斬り裂く。だが、浅い。男はすかさず後ろに下がり、左右から他の男がミスティに迫る。
ミスティは一瞬だけ立ち止まり、そして、
「呆然としない! 隙だらけよ!」
「そういう時は攻撃するか後ろに下がるべきだよ!」
左の男をリリィが、右の男をリリーナがそれぞれアークレイリアとアークベルラで斬り裂いていた。ミスティはアークフレイを握り締め、後ろに下がった男との距離を詰める。男はとっさに雷撃をミスティに向かって放つが、ミスティはそれをアークフレイで弾き、アークフレイを振り下ろした。
鮮血が飛び散り男が絶命する。それを見たミスティは小さく息を吐いた瞬間、その体が抱き締められた。
「二人に召喚するわ」
抱き締めたの光。二人はリリィとリリーナ。
「ミスティーユ・ハイロス。うちの舎妹や」
舎妹とは舎弟の女性バージョン。男が舎弟なら女は舎妹です。そんな言葉はないと思いますが。