第百九話 次に向けて
スランプ継続中。若干文章が酷いかもしれません。
「悠遠のブース固定を確認。よし、大丈夫だね」
いつものように悠遠を停止させる。そして、コクピットを開いた。そこに広がっているのは広くはないけど悠遠、アストラルルーラ、ベイオウルフ、イグジストアストラルが収納出来る整備ブースの空間だった。
航空強襲空母アロンダイト。
今、僕達が乗っている航空空母の名前だ。エスペランサと同じ航空強襲空母だけど、人界で国連が航空強襲空母二番艦として開発した空母。だが、あまりの技術差に未完全な航空強襲空母しか出来なかった。
それを拾ったのが音界であり歌姫親衛隊。おかげでアロンダイトは今では歌姫親衛隊の旗艦となっている。
性能はさほど高くはないのでよほどのことが無ければ使わないらしいけど。それにしても、どうしてこれを前に使わなかったのか不思議でならない。
「さてと、みんなはまだコクピットから出てないみたいだね。先に戻っておこうかな」
「ふむふむ。まだ悠人の反応速度にエターナルツヴァイ自体がついていっていないみたいやな。そうなると、悠人自体が規格外の能力ってことか。システム的には限界値なんやけど」
「何してるの?」
いつの間にかアンが悠遠に取り付いて先ほどの戦いのデータを見ていた。普通はもう少し後なんだけどね。
技術者の本音がパイロットに直接響くから。
「悠人はすごいな。エクスカリバーのデータを見ていても思うけど全体的なバランスの高さ以上に反応速度がかなり早い。うちが集めた平均の約八倍の反応速度や」
「そんなに?」
「下手したら歴代最高の実力者やな。この子はうちの自慢の機体やけど、エターナルが存在してたらどうなるとかは思うな」
「エターナルって確か魔科学時代のフュリアスの一機だよね? あんまり噂は聞かないけど」
あらゆる戦場に対応出来る高機動型のフュリアス、という話は聞いたことがある。だけど、それ以上はあまり聞かない。ただ、悠遠という名前だから悠遠の翼を持つ機体だとは推測出来るけど。
イグジストアストラル、マテリアルライザー、ストライクバーストの魔科学の遺産がある以上、過去の産物はあまり話題にはならない。最近はベイオウルフも加わったし。
「そうやな。ある意味一番謎に包まれた機体や。他の機体のヴェスペリアやラインセントラルは戦闘機型の広域戦闘型フュリアスと多彩な武装と攻撃範囲を持つ攻撃特化型フュリアスなのに、エターナルだけは秘匿されとる。まあ、一部知っている人がいるみたいやけどな」
一部というのはおそらくアル・アジフさんのことだろう。確かに、アル・アジフさんならきっと何もかもわかっている。
だけど、アル・アジフさんはきっと教えてくれない。自分で辿り着かないと駄目だから。
「そう言えば、エターナルツヴァイに乗ってて何かおかしな点は無かった? まだ乗り始めやから甘い部分がいくつかあると思うけど」
「悠遠のおかしな点? 微調整する部分もあまりないかな。スペック的には十分に足りているし」
「そりゃな。スペックを弄るに弄って限界以上まで引き出したからな。まあ、人界での超オーバースペックフュリアスであるデュランダルには勝てへんけど」
あれはおかしい。というか、設計図どおりに作っても僕ですら操作出来ないとされている究極の機体。
アル・アジフさんから小言で聞いた話だけど、スペック的には魔科学時代の広域戦闘型であるヴェスペリアに匹敵するとかしないとか。
周さん。あなたはどんな機体を作るつもりだったんですか。
「問題はないみたいやな。本当やったらデモンストレーションの後に模擬戦闘をやって調整って流れやったんやけどな」
「あんな戦いがあったしね。本当ならダークエルフを使うべきだったかな?」
「リアクティブアーマー装備していないダークエルフなんて紙装甲やろ。『天聖』アストラルソティスには勝たれへん。まあ、いきなりあそこまで動かしたのは焦ったけど。それに、『創聖』と『豊翼』。未知数な装備をあそこまで使えるなんてあんた何者なん?」
「えっと、頭の中に勝手に使い方がわかったからかな。何というか、こういう使い方が出来るって本能的に」
そもそも、『加護』がどんな能力かは名前から推測出来たから良かったけど、『創聖』と『豊翼』は本当に使い方がわかった。今でもなんとなしに使えるけど。
「不思議体験やな。っと、そろそろ更衣室に向かわんでいいんか? みんな向かってるで」
「あっ。ありがとう、アン。悠遠をお願いね」
僕はアンに背中を向けて走り出した。そして、身体強化魔術をかけて手すりから飛び降りる。
「翼の………」
そんな背中からアンの小さな声が聞こえたような気がした。
パイロットスーツを無造作に脱ぎ捨てる。そして、インナーの姿のままルーイは小さく溜め息をついていた。そして、更衣室にある鏡を見る。
「ラフリア、強化型ギガッシュ、イージス、ラパルト、メルセデス。どうしてここまで様々な機体を集められる?」
ルーイが呟いたのは基地内で破壊したフュリアスの名前だった。イージス以外は全て音界のフュリアスだが、ラパルトやメルセデスは世代遅れの機体であり、使用している数は極めて少ない。それなのに、基地内では普通に数があった。
「敵は本当に何なんだ? ほとんどが音界のフュリアスとは言え、どこにそんな財力が」
「財力を考えては駄目だと思う」
その声にルーイは振り返る。そこには更衣室に入ってきた悠人がいた。悠人はパイロットスーツを脱いでインナーの姿になる。
「それに関しては僕も同じだよ。あんな基地を作ろうとしたらどれだけお金がかかることか。でも、今の状況を考えたら誰が敵でもおかしくはないよ」
「根拠は?」
「平原での戦いで天界の話は音界政府に伝わっていると言ってたよね? 意図的に情報がシャットアウトされていることがある。そういう場合は自分達で情報を集められるようにならないと」
悠人の言葉にルーイは目を丸くする。それに悠人はキョトンとした。
「どうかしたの?」
「いや、いつもの悠人と違うように見えて。お前は本当に悠人か?」
「酷いな。僕だって第76移動隊の一員だったんだよ。というか、周さんが電子戦にかなり強かったからそういう知識は教えてもらってたの。戦いにおいて情報は重要だから」
「だから、学園都市騒乱の時に作戦があれだけ精密だったのか」
「あれは周さんが相手の行動を推測した結果だけどね。でも、情報が大事なのは事実。フルーベル平原でのセコッティや今回のファントム。もしかしたら、同じかもしれない」
「待て。僕には意味がわからないんだが」
悠人の言葉をルーイが慌てて止める。
セコッティはリーダーが黒猫である。だが、セコッティの一員である『黒猫子猫』が首都の戦いにおいて共に戦ったという報告はルーイも耳にしていた。
だから、ルーイは意味がわからなかったのだ。セコッティとファントムは違うと考えているからだ。
「あっ、ごめん。言い方が悪かったよ。僕はセコッティとファントムの背後が同じだと考えているんだ。もしかしたら、その背後が天界と繋がっている可能性もあるし、学園都市騒乱における“義賊”達の背後にいた可能性だってある」
「黒幕、というわけか。これも周も」
「ううん。僕の推測。ファントムはただ単に今の世界を憎むあまりメリルさえ恨む組織にあんな大規模な基地なんてありえない。そして、セコッティもエンシェントドラゴンの確保なんてまずありえないから。エンシェントドラゴンは伝説的なドラゴン。学園都市騒乱でもその姿はあったけど、特殊なやり方が必要だった。さらにはどちらも精霊召喚符を所有している。ついでに、学園都市騒乱では“義賊”の機体に天界の技術が使用されていた。それを並べたら何かが見えてこない?」
「どれも背後に何かがいるとしか思えないな。可能性としては天界か」
「でも、ルーリィエさんは確実に否定する。内部分裂している可能性はあるけど、僕は少し違うと感じているよ」
そう言いながら悠人はロッカーから自分の服を取り出した。
「本当の黒幕は別にいる。そう思って仕方ないんだ」
実は第二章の敵一部と繋がっていたりするかも、という今回の話でした。スランプ中ですが復調の兆しは少しだけあるので頑張って書いていきます。他の作品では未だにスランプですが。