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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百六話 病室にて

終盤はかなり大波乱なことになる予定です。前~中盤において展開された話を一気に終わらせていくので。もちろん、筋書きは出来ていますが先に謝っておきます。

確実に話数は半分じゃすまないです。というか、夏休みまでには終われない。無理があります。

まあ、一番の問題は孝治と正の天界への旅なんですけどねwww

『三日前。式典最中に起きた裏切り。それを引き金に起きた未曽有の事件。私はそれを許すことが出来ない!』


近くにあるラジオから響く音界首相の声。それを聞きながらオレはハラハラしつつ一生懸命練習している姿を見ていた。


そこには左手に林檎を、右手に光の刃を作り出したアークレイリアを持つリリィの姿。光の刃によって器用に皮が剥かれている。


問題は根元ではなく先っぽで向いていること。同じ病室にいる冬華や委員長はオレ以上にハラハラしていることだろう。


『悠遠の翼を持ちながら、歌姫を殺そうとした『天聖』アストラルソティスのパイロットとその配下ガルムス達。そして、同じタイミングで国民の抹殺を狙ってきた集団。私はこの二つを許すことが出来ない!』


慎重に。だけど遅くなく、むしろ早くアークレイリアが動く。


アークレイリアの特集形態であるグローリーソードと呼ばれる特殊な刃だそうだ。本来ならアークの戦いまで残したかったらしいけど、身を守るために使ったからこれからは鍛えたいとか。


『このまま放置していれば私達はまた狙われるだろう。私とて戦いたいというわけじゃない。兵に死地に赴け、と言いたいわけがない。誰が好き好んで戦争を起こすか。だが、やるしかないのだ。先に倒さなければこちらがやられる。私達は戦うしかないのだ!』


リリィがスナップで林檎を上に上げた瞬間、素早くアークレイリアを振った。


空に舞った林檎は八等分に分かれ冬華が差し出した皿の上に見事に乗る。


「どう? 私って天才?」


「手に山ほど貼り付けた絆創膏を見せつけられてもな。ともかく、せっかくだからいただ」


林檎に手を伸ばしたら、冬華が素早く皿を退けた。オレは手を伸ばした体勢で固まり、冬華はそんなオレを見ながら林檎を掴み差し出してきた。


「あーん」


「来ると思ったよ! まあ、冬華ならいいんだけど」


「もう、悠聖ったら」


「はい、悠聖。あーん」


すると、リリィが素早く冬華の差し出した林檎を奪いオレに差し出し、もとい、押し付けてくる。オレはしぶしぶ口を開いて林檎をかじった。


「美味しい?」


「美味しいな。どこの林檎だ?」


「えっと、人界の日本の青森産」


「一番の問題は季節が違うような気がするんだが」


「悠聖」


冬華が怖い顔をして林檎を差し出してくる。怖い顔と言っても視線を向けているわけじゃなく、視線を向けているのは実はリリィだったりする。


まあ、さっきみたいなことがあったしな。


「嫉妬って可愛いな」


「なっ」


冬華の顔が瞬間沸騰したかのように真っ赤に染まる。そして、俯いた。


「だって、最近、悠聖がルーリィエとしか遊んでいないから」


「林檎いただき!」


「させるか!」


お前らは林檎一個で争うなよ。争っているのはオレに食べさす権利だと思うけどさ。


『全ては音界のために! 最大多数の幸福を追求するために!』


オレは小さく溜め息をついてラジオを消した。最大多数の幸福ね。為政者としてはしっかりとした言葉だ。


ラジオを消したオレに対して全員の視線が向いてくる。


「この首相はわかってないな」


「どういうこと?」


リリィが不思議そうに首を傾げる。リリィもわかっていない一人だったのか。


「最大多数の幸福の追求。人界なら最も行われていることよ。だけど、それは少し外れた人達は切り捨てるということ」


「政治家としては悪くないけど、それは結局反発者を増やすことになるから。レジスタンスとかそこに問題があるんじゃないかな?」


「ふーん。人界って難しいのね。というか、あんた誰?」


リリィと委員長はそう言えば初面識だったな。


「第76移動隊唯一の治療兵で委員長」


「ああ、あの」


「あれ? 私って委員長の名前が有名?」


有名どころか有名すぎて。


見習いなのに本職の治療兵をひっぱたいて指示を出しつつ動くということをすれば誰だって有名になるよね。


「遅れました」


「ごめんなさい。弟くんと連絡を取っていて」


そうしているとドアが開いて俊也と音姫さんが部屋の中に入ってきた。これで、フルメンバーだね。


何も知らされていないリリィが不思議そうに首を傾げる。


「何かあったの?」


「何かあったというより、悠聖はあなたに伝えていないのね」


「伝えていない?」


リリィがまた不思議そうに首を傾げる。まあ、確かにそうなんだよな。というか、リリィに話せば確実について来るから踏ん切りがつかなくて。


「リリィちゃんには話した方がいいかな。私達は優月ちゃんを攫った相手、呼称としてファントムを追うことになったの。私を体長としたこの5人で」


「ふーん。じゃ、私もついて行く」


「「ちょっと待った」」


オレと冬華が同時に声を上げる。というか、何だそれは。


買い物に行く→私もついて行く。的なノリの返事は。


「危険だとわかっているのか? オレ達が向かうのは」


「敵地、でしょ。私はアストラル機装に興味を持ったからここに来た。だけど、それを取り巻く環境を見て、アストラル機装なんてどうでもいい。問題は精霊召喚符だと感じたから」


「そういう問題じゃないのよ。あなたの実力だと厳しい」


「覚悟の上。アークレイリアに選ばれた以上、私は戦う覚悟はしていたから。確かにちょっとは怖いけど、大切な仲間を救うためなら私は頑張れる」


覚悟はどうやら決めているようだ。だったら、オレに文句は無、


「それじゃちょっと弱いかな」


だが、異を唱えたのは音姫さんだった。音姫さんが光輝を鞘から抜き放ってリリィに突き出している。それにリリィは反応出来ていない。


というか、いつの間に鞘から抜き放ったんだ?


リリィは微かに一歩後ろに下がっている。対する音姫さんは笑みを浮かべたまま一歩踏み出した。


「今の剣速で十合打ち合えたなら、合格」


「無理よ!」


それに異をって、だんだん回ってきたな。別の言葉で言うなら反対するのはって意味は変わらないか。


「今の剣速なら、私でも最大4回しか払えない。それをリリィにだなんて」


「冬華ちゃんにはフェンリルがいる。委員長ちゃんには俊也君が絶えず引っ付くから大丈夫だとしても、リリィは最悪孤立する。作戦に行く以上、私は全員を生還させたいから」


「だとしても」


まだ食いつこうとする冬華の肩をオレは掴んだ。そして、リリィを見る。


「リリィはどうだ?」


「私は」


リリィの目に浮かぶのは怯え。無理もない。今の音姫さんの剣速は一歩でも踏み出していたなら気づかない内に首を飛ばされていたからだ。


さすがは世界最強の一角と言うべきか。そうだとしても、あの敵相手には辛いかもしれない。


「考える時間と鍛える時間は三日。悠聖君の治療が完了するまで。試験日も同じ日だから。覚悟があっても実力が無ければ無駄死にだよ。それがわからないならついて来ないで」


そう言いながら音姫さんが退室する。まあ、音姫さんは単独行動をする可能性もあるからオレもどういう作戦かわかっている。だから、音姫さんがいなくても大丈夫だ。


だが、不安の色がみんなの目に浮かんでいる。特に、リリィの目に。


「なあ、今の剣速は冬華に見えたのか?」


「ギリギリ見えたわ。だけど、あれを払えというのは無理。打ち合えても四回。十回も行けば神業よ」


「それは音姫さんが神業なのか打ち合った人が神業なのか」


「どっちとも。力は速度に比例する。あの剣速に対応するにはあれについて行ける速度かありえないくらい大きな力か」


「反射するか」


その言葉はリリィの口から漏れていた。そして、手の中にあるアークレイリアを見ながらリリィが小さく頷く。


「冬華さん。私を鍛えてください」


「私だと音姫の仮想敵になりえないわよ。というか、音姫の仮想敵なら刹那の方が」


「仮想敵じゃなくて、アークレイリアのポテンシャルを最大限使えるようになるために練習したいから」


「どういうこと?」


「オレに話を振られても。リリィはまだアークレイリアを使いこなせていないのか?」


「うん」


リリィがそう言うなら事実なのだろう。それを考えるとオレはどういう風に言えばいいのだろうか。


アークレイリアの力を引き出すことが出来たとしても、音姫さんに勝てる要素が増えるというわけじゃないと思う。


「守ってもらってばかりは嫌だから。次は私が、みんなを守る番になる。ダメかな?」


「ダメじゃないけど、冬華」


「わかったわ。俊也と委員長も手伝ってもらえる? 少しキツい訓練にするから」


そう言いながら冬華が立ち上がる。俊也も委員長も頷きながら立ち上がる。


音姫さん相手なら今から訓練しても間に合うかはわからないけど、訓練していた方がいいだろう。


「気をつけろよ。冬華、容赦しないから」


「あはは。覚悟はしてる」


「じゃ、悠聖。訓練が終わったら見舞いにまた来るから」


「期待してる」


オレが軽く肩をすくめながら言うと冬華がクスッと笑いながら病室を出て行った。続いて俊也や委員長も出て行く。そして、リリィも同じように。


全員が出て行った後、俺は小さく息を吐いて窓を見た。そのまま呆れたように言葉をかける。


「出てきたらどうだ、親友」


「気づいていたか」


その言葉と共に孝治が部屋の中に入ってくる。そのまま壁に背中を預けた。


「お前の気配を間違うわけがないだろ?みんないる中入ってきたらいいのに」


「お前だけと話したいことがあってな」


「なるほどね。で、話ってなんだ?」


俺はリリィが切った林檎を口に含んだ。うん、美味しい。


「天界に侵入することにした」


「ぶふっ」


口に含んだ林檎を思わず全て噴き出してしまった。


「はあぁ!?」


「天界に侵入することにした」


「いやいやいや、そういうことを聞いているんじゃなくてさ、オレが聞きたいのはどうしてって意味だよ!!」


「天界を知るにはそれが一番だろ?」


「正規の方法で行けよ」


監視はつくけどな。


「俺が知りたいのは天界の現状だ。誰もが何かを隠している」


確かに、詳しい話はリリィに聞いても教えてくれないだろうけど。確かに、そういう部分を見るには侵入するのが一番か。


「それに関しては、僕も同席していいかな?」


「なっ」


「ほう」


いつの間にか窓に腰かける女の子、海道正の姿があった。気配が全くなかった。というより、今の気配はまるで周みたいな気配。


「天界については僕も興味がある。孝治が行く手段とは少し違うけど、現地集合なら可能だよ」


「そうか。なら、共に行こう」


「いやいやいやいや」


「いやが一個増えたね」


「つまりは賛成か」


「そう言う意味じゃねえ!!」


こいつら本当に頭がおかしいんじゃないの?


「天界に侵入って正気か? 最悪、関係が一気に悪化して」


「わかっている。だからこそ、知りに行く。知らなければ何も始まらない」


孝治は完全に覚悟をしている。もし、孝治が失敗して天界との火蓋が切って落とされたなら真っ先に最前線で戦うだろう。責任の取り方として。


そこまで覚悟されているなら、オレは何も言うことが出来なくなった。


「ちっ。好きにしろ」


オレは小さくため息をついて天井を見上げ、孝治の方を見た瞬間、そこに孝治の姿はなかった。もちろん、正の姿も。


気が変わらない、又は余計なことを言われる前に逃げたな。


「ったく、これからどうなるんだよ」


オレはまたため息をついてベッドに体を投げ出した。

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