第百五話 終結
これで話数的には半分なはず。という予定で進行中の「新たな未来を求めて」です。というか、次からは泥沼の戦争状態になるんですけどね。さすがに歌姫の命を狙ったり首都を破壊しようとした勢力を放っておくわけがありませんし。
落下中の破片の動きが止まった。明らかにありえない光景。攻撃の手が止まるが僕は破片の合間を縫うように加速する。
すかさず左手をレバーから放して片手で情報を打ち込んでいく。
「鈴、お願い!」
翼からエネルギー弾を放ち巨大な破片を砕きながらその情報を鈴に向かって送信した。落下すれば市街地に大きなダメージを与えるであろう破片。それのデータを渡したのだ。
僕は素早くその場から飛び退きながら両手に作り出したエネルギーライフルの引き金を引く。
だが、そんな僕の体に嫌な予感が走った。とっさにレバーに手を起きつつペダルを右だけ踏み込んだ。そして、悠遠の体が右に移動しながら回転する。回転しながら両手のエネルギーライフルの引き金を引いた瞬間、湧き上がる光が周囲の破片を一気に砕いていた。
コクピットの中を赤いアラートが鳴り響く。損傷箇所を示すモニターが点滅するけど気にすることなく勘に従って悠遠を動かす。
どれくらいだろうか。光が収まった時、そこに破片の姿は無かった。どうやら今の魔術が全てを消し去ったらしい。
「た、助かった」
僕の体から力が抜ける。今のは本気で死ぬかと思った。というか、悠遠の右腕と左足が付け根から消滅しているし、右足は膝から下がなく、左腕は手首から先が無い。さらには頭部も破損しているからかメインカメラに異常があってサブカメラに切り替わっている。それでもサブカメラのいくつかが壊れているのか風景を映すモニターの大半がブラックアウト。
まさか、味方の攻撃に殺されかけるなんて。
「でも、助かったからいいかな」
『悠人!』
その声と共に悠遠の体に軽い衝撃が襲った。後ろのカメラは壊れているからわからないけど、今の声からイグジストアストラルが悠遠を抱いているのだろう。
「今の状態を教えてくれないかな? カメラの大半が壊れていて」
『イグジストアストラルにお姫様抱っこされているエターナルツヴァイだよ。お姫様抱っこなら私がしたかったのに』
「あはは。じゃ、全ブースターとスラスターを切断するね。二人は大丈夫だった?」
『そもそも、巻き込まれたのは悠人だけだったんだよ。さすがの悠人でも死ぬかと思ったし。鈴は魔術の中に飛び込むし』
確かに僕も死ぬかと思った。実際、悠遠のエネルギー残留量はたったの2%。翼から放つエネルギー弾の弾幕は目に見えてエネルギーを消費する。それに、自動で『加護』まで発動したし。
『悠人、怪我、ないよね?』
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。今の周囲の状況は?」
『敵勢力は逃走中。多分、そろそろ命令が入るんじゃないかな?』
逃走中ならその敵をどうするか命令が入るはずだ。僕は小さく息を吐いてシートに深く座った瞬間、スピーカーからメリルの声が響いた。
『歌姫メリルです。皆さん、ありがとうございました。逃走中の敵勢力を追撃する余力はありません。ですから、今は逃げ遅れた人の探索及び救助をお願いします。詳しい命令は後で知らせますが、今は多くの方を助けてください。お願いします』
「鈴、基地に戻ろう」
『助けに行かないの?』
「今の悠遠だと盗まれたら被害が大きい。それに、ベイオウルフも異常があるよね?」
『どうしてわかったの?』
リリーナが不思議そうに尋ねてくる。その声を聞きながら僕はクスッと笑った。
「システム面で異常が出ると思うよ。ベイオウルフという規格外の機体なら」
『なるほどだね。じゃ、早く基地の整備ブースに戻して救助活動を行おうよ。鈴だってそれなら文句ないよね?』
『うん。じゃ、飛ばすよ』
鈴の言葉と共にイグジストアストラルが加速する。僕はそれを感じながら小さく溜め息をついた。
「一体、これからどうなるのかな?」
「一体、これからどうなるのでしょうか?」
地下シェルターの一つ。歌姫専用のシェルターの中に少しだけ青ざめながら首都の光景を見るメリルと入り口を警戒する都の姿があった。
メリルが不安そうな顔をしながら都に尋ねる。都は断章を体に預けながら少しだけ首を傾げる。
「連絡を聞いている限り、少し不思議な状況ではありましたね。こういう時に周様がいてくれればとは思いますが、さすがに無理なので私の推測でよければ話しますよ」
「お願いします」
メリルは頭を下げた。都はそれに笑みを浮かべて頷く。
「わかりました。直接関係していないのでよくわかったことですが、今回は勢力が五つあったように思えます」
「五つですか? 二つではなく?」
メリルが二つと思ったのは無理もない。上手く状況判断が出来たとしても三つ、いや、四つが普通だからだ。
都はメリルに向かって頷きながら右手をメリルに見せるように上げ、人差し指を立たせる。
「まずは第一勢力。通信でもあったように『天聖』アストラルソティスに乗るガルムスを中心とした歌姫であるメリルさんを狙った一派」
メリルは頷く。命を狙われたからこそその勢力はよくわかった。さらに都は中指も立てる。
「続いて第二勢力。これは精霊召喚符を扱う混乱に便乗した謎の勢力。もしかしたら、式典最中に何かをする予定だったかもしれませんが」
「それはガルムス達と同じ勢力ではないのですか?」
「同じ勢力なら、同時のタイミングで動き、市街地でフュリアスを使います。ですが、ガルムス達が動かした場所は首都の外です」
「つまり、違う勢力ということですね。ですが、私達を狙ったのは」
「私もそこが疑問になっています。ですが、よくよく考えるとあのタイミングが一番ベストだったかもしれません。メリルさんの周囲の警護が少なく、そして、メリルさんを殺しても影武者を立てる状況ではないあのタイミングが」
「意図せず同時だったと言いたいのですね」
都は頷いた。確かにそれなら納得はいく。もし、歌姫が殺されたなら今頃はさらに混乱していただろう。
都は話を変えるように今度は薬指を立てた。続けざまに小指も立てる。
「第三勢力はあの巨大なフュリアスを扱う天界の勢力。ですが、第四勢力も天界の勢力です。後者は天王マクシミリアンが率いていますが」
「確かに、天王マクシミリアンが乗るストライクバーストがあの巨大なフュリアスに攻撃を仕掛けていましたね。では、後の勢力は」
都は少しだけ不安そうに親指を立てた。
「これはおそらく私だけの見解かもしれません。第五勢力はアークを狙った勢力。理由は、わかりません」
悠遠がゆっくりと地面に下ろされる。それをモニターで確認しながら僕は小さく息を吐いた。そして、コクピットを開けようとして操作を始めた瞬間、コクピットが外から開けられた。
僕が目を丸くしているとコクピットが開いた。外部から操作を受け付けたようだ。そして、外から誰かが飛び込んでくる。
「すまぬ、すまぬ!」
アル・アジフさんだった。泣きながら僕にしがみついてくる。こんな光景を周さんに見られたらって、違う!
「アル・アジフさん、どうかしたの?」
「悠人。我をぶってくれ」
「アル・アジフさんってドMだったの!?」
「違うわい!!」
あれ? 逆ギレされた?
「我が放った魔術が、そなたのいる場所で発動して」
「確かにあんなすごい魔術はアル・アジフさんくらいしか、いや、もう一人いるか」
海道茜という化け物を忘れていた。
「じゃから、我をぶってくれ。そうじゃないと我の気がすまぬ」
「アル・アジフさんを叩いたら僕が申し訳なくなるよ」
「じゃが」
「それに、ありがとう」
僕はアル・アジフさんを抱き締めた。アル・アジフさんは驚いて僕を見上げる。
「アル・アジフさんが無事で良かった。僕は生き残る確率が高かったし」
「そなた、バカじゃな」
「うっ、真っ正面から言われると頷いてしまう僕がいる。でも、まあ、魔術を放ってから今までの時間がアル・アジフさんへの罰かな?」
アル・アジフさんが不思議そうに首を傾げる。
「生きた心地しなかったよね?」
「そうじゃが」
「なら、それが罰だよ。今は僕が助かったことを喜んでよ」
「悠人、悠人!」
抱きついてくるアル・アジフさん。僕はそんなアル・アジフさんの頭を撫でながら笑みを浮かべた。
やっぱり、アル・アジフさんは僕のお母さんだよ。
都の推測からだとこの作品は六つの勢力(細かく分ければ六つどころか九つになりますが。『GF』、『ES』、魔界を含めて)が争う大混戦状態です。話数的には半分と言いますがストーリー的には終盤に入っていきます。アークの戦い、天界の事情、音界の内紛にレジスタンス。さらに言うなら真のエ、ゲフンゲフン。これ以上はネタバレですね。これだけなら何もわからないはず。
出来れば夏休みまでには終わらせたいところ。つまりは後2ヶ月で百話ほど。1日計算約1.6話。無理だろこれ。