第百四話 破壊作業
ベイオウルフは化け物です。
ディザスターの体をエネルギーシールドが覆う。それを見ながら僕は悠遠を高く飛翔させていた。
ここまで来て実感できるけど、ディザスターの大きさは航空空母とは比べ物にならない。このまま落下したなら首都の大半は落下によって消え去るだろうことは容易に想像できた。こいつを倒しても落下を食い止める何かを考えないと。
「今は一番厄介なフレキシブルカノンの破壊だね」
僕は小さく息を吐いてフレキシブルカノンを中止する。そして、フレキシブルカノンにエネルギーが収束すると同時に翼からエネルギー弾の弾幕をディザスターに向かって放っていた。それと同時にエネルギー師をる度が解除される。
やっぱり。
心の中でそう思いながら僕は悠遠を大きく飛翔させる。そのまま翼からエネルギー弾を大量にはなっていく。
相手のエネルギーシールドは攻防一体なわけではなく、内側も外側もどちらからも攻撃を伏せぐ。だから、エネルギーシールドを展開している間は攻撃が来ない。逆に、ベイオウルフの火力ならエネルギーシールドを貫くことが出来る。
それだけ見ればこちらの有利だけど、問題は倒した後になる。
「他人任せだけど、今の悠遠の火力じゃどうしようもない。アル・アジフさん、楓さん、エレノアさん、頼みますよ」
他人任せだけど、この三人ならこんなぐらいの巨体くらい簡単に溶かしつくしてしまうに違いない。特に、楓さんの最大火力は世界最強と言われているし、狭間戦役に置いて何十というフュリアスを一瞬で消し去った事実がある。
迫りくるエネルギー弾を回避しながら僕は作り出したエネルギーライフルからエネルギー弾を放った。だが、それはディザスターが再度作り出したエネルギーシールドによって受け止められる。
「相手を完全に追い詰めてはいるけど、このままじゃ相手の方が先に地上につくかな」
効果速度を考えても破壊よりも着地が速い。こんな巨体が着地すれば、場所によってはシェルターが壊れる可能性だってある。
そして、一番の問題が、このディザスター自体が何らかの爆弾を有していないかどうかくらいか。
「もし、爆弾があるならそれだけでかなり大変だけどね。でも、今はそんなことを考えているより、どうにかして敵の攻撃を」
『なるほど。悠遠か』
その聞き覚えのある声に僕は振り向いた。そこには、純白のフュリアスを従えたストライクバーストの姿。完全に後ろを取られている。
「その声、天王マクシミリアン」
『何か騒がしいと思ってきてみれば、こういうことになっていたとはな』
「お前達が仕組んだことだろう! 何を他人事のように!」
『天界も全てが一枚岩と言うわけではない』
「えっ?」
マクシミリアンの声にはどこか苛立ちの色が出ていた。
その答えを聞くよりも早く、ストライクバーストがディザスターに向かって両肩の方からエネルギー弾を放つ。それはエネルギーシールドを貫くがディザスターの装甲に散る。どうやらかなり減衰されるらしい。
でも、ストライクバーストであれなんだよね。エネルギーシールドの上から破壊するベイオウルフの出力って一体どうなっているのかな?
『我らとて、地上の民を消し去ろうとは思ってはいない。会話できるのだからな。一方的に滅ぼすのは会話のできない異形達だけだ』
「でも、あれは天界の兵器だよね?」
『希望を求めて作られたものが絶望を作り出した失敗作だ。だが、我らの出番は必要ないみたいだな』
その言葉に僕は舌を向く。そこには、巨大な光が見えていた。正確には収束を開始した光の弾が。
「あれは」
『最大火力のフルバーストか。面白い。我らはこれから地上に飛び散る破片の破壊作業に移る。悠遠の乗り手よ。お前はどうする?』
「お前達は僕達の敵だ。でも、今だけは戦わない。でも、お前達は一体何なんだ」
『知りたければ調べることだな。天界について』
ストライクバースト及び純白のフュリアスの群れが地上に降下を始める。僕は小さく息を吐いて片手に構えるエネルギーライフルではなく、両手で持つエネルギーライフルを構えた。
「限界まで収束させて、最大限まで細くして、狙い撃つ。今は、時間を稼がないと」
「うっわー、最大収束のフルバーストでもするのかな?」
ベイオウルフのコクピットの中。そこでリリーナは冷や汗を流しながら後方で収束を開始した魔力の塊を見ていた。ベイオウルフも魔力を変換したエネルギーを収束して利用しているが、魔力をエネルギーに変換するので同じ魔力の量でも威力はどうしても下がってしまう。
とは言っても、魔鉄に対して強いと言う事実は変わらないが。
『呑気に言っている状況じゃないよね。向こう、完全に防御を固めてきたよ』
「大丈夫大丈夫。今からベイオウルフの真価を見せるから」
そう言いながらリリーナはマニュアル通りに操作を開始する。
話は変わるが魔力の収束を行う際に魔力は全て術者が持つ魔力を使うというわけではない。空気中にある魔力然り、空気中に漂う魔力粒子然り。あらゆる魔力を利用する。もちろん、術者の魔力を最も使用するのが収束系統の魔術だ。
だが、フュリアスの場合は全てのエネルギーは自前で利用しなければならない。もちろん、不可能ではないが、やれば出力エンジン及び変換機関が膨大な熱を帯び最低でもオーバーヒート。最悪内部から爆発という最悪の状況になる可能性がある。だからこそ、収束するエネルギー弾は武器の砲身の中で収束される。
ベイオウルフの肩と膝の装甲が大きくスライドした。それと同時にそこにある排熱口から熱気が噴き出す。
フュリアスで収束する場合、問題はその熱量に耐えられるかどうか。その熱量は最高で2000℃に達するため、魔鉄は絶えられてもシステム自体が耐えられないのだ。だが、そのシステムその他全てが太陽の中でも稼働できるぬよう名耐久力があるならそれを可能とする。
ベイオウルフのあらゆる出力エンジンが最大まで稼働する。そして、稼働して生まれたエネルギーが収束へと回され、余ったエネルギーがベイオウルフの中を動き回る。それによってさらに生み出されるエネルギー。飽和したエネルギーは排熱口から吐き出され、ベイオウルフの腰にマウントされた砲へと吸い込まれていく。
「出力800、900、1000、1200、1500、1800、2200%。飽和限界到達。照準よし」
両腰にマウントされた砲門から溢れ出る収束しきれなかった飽和したエネルギー。それを見ながらリリーナは引き金を引いた。
「消え去って!!」
膨大なエネルギーが放たれベイオウルフの体は大きく後ろに下がる。だが、エネルギーの塊は確かにディザスターに狙いをつけ、そして、ディザスターの内部で爆発が起きた瞬間にその下半身を一瞬で消し去っていた。エネルギーシールドごと。
通り過ぎたエネルギーは膨大な熱量を伴い、熱に強いはずの魔鉄を溶かし、蒸発させる。
「狙いがそれた」
『あれでそれたんだ。凄く、自信をなくす』
「鈴、第二射来るよ」
『へっ?』
少し落ち込んだ鈴が顔を上げた瞬間、ベイオウルフの横を駆け抜けるようにエネルギー弾の塊がディザスターの上半身を呑み込んでいた。だが、ベイオウルフのように溶かしきることは出来ていない。これはこれで凄いのだが、問題はこれからだった。
ディザスターが爆発する。もちろん、飛び散るのは大量の破片。
「やっぱり。装備をフル装備にして」
『手数なら私は負けないよ。リリーナは落ちついて換装してね』
鈴の声を聞きながらリリーナは少しだけ急ぐように装備を換装していく。
空で爆発する巨大なフュリアス。それを見ながらオレは地面を転がっていた。正確には、腹を光の剣が貫き、地面に縫いとめられたままの姿で。
「ちくしょう。破片が」
「他人のことを考えている時か」
その声を聞きながらオレは顔を向ける。そこには優月を肩に担いだ男の姿があった。もう一方の手には優月の武器である薙刀とよく似た薙刀が握られている。
「てめぇ」
悔しいことに完敗だった。降り注ぐ破片をどうにかしないといけない状況で、オレは動けない。近くにいるのは血を流して倒れているアルネウラだけ。
「その若さでこの強さは確かに見事だが、どうやらそれほど強くなかったみたいだな」
「くそっ。優月を、優月を、返せ!」
「目的が変わった。ここで貴様を殺すのは簡単だ。だが、絶望を見て死ぬ方が断罪としては有効だろう。だからこそ、生き残る方がいいだろう」
「お前は、どういう目的で、優月を」
「全ては神の意志のままに。さあ、絶望を感じろ。それがお前に対する罰だ」
男の姿が消える。担いだ優月と一緒に。
「くそっ。くそっ! くそっ!!」
破片がこちらに落下してくるのを見ながらオレは声を上げた。守れなかった。完膚なきまでに負けた。オレが負けた。
動けない。ただ、破片だけを見て落ちてくるのを待つことしか出来ない。
オレはここで、死ぬのかよ。
「優月。ごめん」
そして、オレの視界を影が覆い、光が闇を切り裂いた。
「悠聖!」
目を開けたそこには冬華とリリィの姿。リリィはアークレイリアから光の刃を出している。
「冬華。優月が」
「今は黙って。ここは危険だから」
そう言いながら冬華がそれを見上げる。
「みんな、必死に破壊しているから」
「一つ質問していい?」
ミルラの隣にいるラウがふてくされたように頬を膨らませながらミルラに尋ねる。ミルラは魔術陣を展開して魔術を放ちながら顔だけラウに向けた。
「何かな?」
「どうして僕達も参加しているのかな?」
「そりゃ、無駄な犠牲を出さないためだけど?」
「見つかったらどうするの?」
「実は見つかっていたり」
ミルラはそう言いながら少し前のことを思い出していた。何故なら、破片の迎撃を開始した瞬間をお歩姫によって目撃されたのをミルラだけは見つけていたのだ。
それを言わなかったのはラウが確実に戦いに行くから。
「でも、この状況なら見逃してくれると思うよ」
「その根拠は?」
不満そうに言いながらもラウは魔術を放って破片を迎撃している。それを見ているミルラはクスッと笑った。
「だって、もう、敵味方関係ないから」
「壮観だね」
正が小さく笑みを浮かべながら魔術陣を操作する。それと同時に動きが遅くなる破片の群れ。その全てを空から降り注いだ光が的確に打ち抜いていた。
「便利じゃな。その魔術は」
「これは僕だけの専売特許さ。まあ、周も鍛えれば出来るだろうけど、こういう時には役立つよ。でも、凄いよね」
「そうじゃな。少し前まで戦っていた敵味方関係なく破片の破壊作業を行っておる。一つになっていると言うべきじゃな」
空ではガルムス達一派が破片に向かって砲撃を加えている。そして、破片を挟んで反対側には同じように砲撃を加えるストライクバーストを中心とする天界一派。さらには、地上では『黒猫子猫』達も魔術による砲撃を行っていた。
もちろん、音界のフュリアス部隊も砲撃を行っている。
「周は、これを目指しているつもりなのかな?」
「そうかもしれぬな。じゃが、おそらく違う」
そう言いながらアル・アジフアは正に向かって笑みを浮かべた。
「あやつはそなたと同じ未来を求めているわけではないぞ」
「どうかな。でも、近いのは確かだよ」
正が小さく息を吸って目を瞑る。それと同時に正の足元を中心に魔術陣が浮かび上がった。そかも、超巨大な魔術陣が。
「時間は十秒。出来るかい?」
「我を誰だと思っているのじゃ?」
アル・アジフの周囲で大量の魔術陣が展開される。そして、アル・アジフは不適な笑みを浮かべた。
「そんなもの、朝飯前じゃ」