第百三話 魔科学の遺産
最近風邪気味な上に書く時間が取れません。なので、更新速度がさらに遅くなるかも。
夏休みまでには、夏休みまでには第三章を終わらせたいのですがね、無理ですね。
縦横無尽に駆け回るエネルギー弾。まるで大空に飛ぶ鳥を狩るかのようにエネルギー弾が曲線を描いて通り過ぎる。それを避けるように三機のフュリアスが大きく動いていた。
一機はイグジストアストラル。魔科学時代の遺産の中で絶対無敵の防御力を持つフュリアス。防御力の割には速度も高いためイグジストアストラルは縦横無尽に迫るエネルギー弾を時にはその手にある聖盾ウルバルスで受け止めながら回避する。
一機は悠遠。魔科学時代の遺産と言われる悠遠の翼を三つ持ったフュリアスであり、高い機動力と作り出したエネルギーシールドで危なげなくエネルギー弾を回避していた。
最後がベイオウルフ。魔科学時代に設計図が完成されながら日の目を見ることが無かった魔科学時代最後のフュリアス。そのフュリアスが背中につけたバックパックのスラスターを最大限にしつつ攻撃を回避している。
魔科学時代の遺産と言うべき三機。その姿を見ながら正はクスッと笑っていた。
「伝説が再び、というわけかな」
「その発言を聞くと、どうやらそなたは魔科学時代に渡ったようじゃな」
空に浮かんでフュリアス達の戦いを楽しんでいた正の隣にアル・アジフに座ったアル・アジフが浮上してくる。その近くにはカグラの上に座った楓の姿も。
「おや、君達は戦わなくもいいのかな? まだ、地上では戦っているみたいだけど」
「避難は無事終わった。他は音姫達がどうにかやるじゃろ。それに、加護が無ければ我は街を壊してしまうからの」
「アル・アジフさんはまだマシだよ。私なんて消し去るし」
「市街地では戦えない、というわけか。だから、見学かな? それとも僕に」
「マテリアルライザーのパイロットは周だけじゃ。そなたではないぞ、周」
「ごもっともで」
正は笑みを浮かべながら空を見上げる。そして、楽しそうに笑みを浮かべた。
「もう、僕達が介入する場所はないね。寂しいかい?」
正の言葉はアル・アジフに向かって放たれた言葉。アル・アジフは軽く肩をすくめて頷いた。
「そうじゃな。悠人を保護した時、リリーナと鈴の二人の面倒を見ることになった時。それらから比べてしまえばあの三人はとても強くなった。そして、魔科学の遺産をここまで目にすることが出来るとはの」
「イグジストアストラルは魔科学時代のフュリアスだけど、エターナルツヴァイとベイオウルフは魔科学時代のフュリアスじゃないんじゃないの?」
「僕も詳しいことはわからないけど、エターナルツヴァイはエターナル、つまりは悠遠と瓜二つだよ。そして、ベイオウルフは未完のフュリアスだと言われている。詳しい話はアル・アジフからあるんじゃないかな?」
「黙秘じゃ。我は全てを知っている。だが、全てを語る状況ではない。とは言っても、みんなから話を聞けば話は完成するがの」
そう言いながらクスクスわらうアル・アジフ。そして、アル・アジフは小さく笑みを浮かべた。
「そなたらが目指す未来まで飛ぶがいい。そなたらは自由な翼を持つのじゃから」
それが誰に向かって言ったのかはここにいる二人にはわからなかった。
『うにゃー!!』
リリーナがいつもは言わないような声を出しながらフレキシブルカノンから放たれたエネルギー弾を回避する。
確かに叫びたい気分はわかるけど。でも、今までより攻撃密度は少なく感じる。
『集中的にリリーナが狙われているね』
「さすがに相手のエネルギーシールドを簡単にぶち抜いた火力は危険視しない方がおかしいよ」
というか、どういう出力エンジンを使っているのだろうか。歴代最高峰のエクスカリバーですら直列の時で今の悠遠と同等クラス。ただ、最大値でになるけど。
多分、鈴が放ったあれよりかは出力が低いと思う。そう考えると悠遠ってしょぼいね。
『呑気に話している暇があるなら注意を引くような攻撃をしてくれないかな!?』
一人一生懸命叫びながら回避させているリリーナが涙目で訴えてくる。
それにしても、ソードウルフと比べてベイオウルフは機動力がかなり上がっているよね。
『シルヴィルスを使って注意を引こうにも、構えたら攻撃が飛んでくるし。悠人は無理かな?』
「悠遠自体の火力がそれほど高いわけじゃないから。それに、射程外すぎるよ。近づきたくても近づけないし」
『もう! 一人で頑張る!』
その瞬間、ベイオウルフの両肩と両膝の部分が開いたように見え、エネルギーシールドがベイオウルフを包み込んだ。
エネルギー弾がエネルギーシールドに直撃するけどベイオウルフはびくともしない。そのままベイオウルフが背中のブースターの内二つを腰に構えた。
『ぶち抜け!』
そのままエネルギーシールドを突き破って放たれるエネルギー弾。だが、それはフレキシブルカノンから放たれた大量のエネルギー弾によっていくらか減衰し、最後はディザスターが作り出したエネルギーシールドによって受け止められた。
ベイオウルフはどうやら全体防御のエネルギーシールドを展開出来るらしい。あれだけのエネルギー弾を受けて破壊されないとは相当高出力のエネルギーシールドだ。
ディザスターからの攻撃が止まる。攻撃が、止まる?
「そういうことか」
僕はペダルを踏み込んで悠遠を大空に向かって駆け上がらせた。エネルギーシールドが消えて変わりにフレキシブルカノンの砲塔がこちらを向く。
「リリーナ! 鈴! 出来る限りディザスターにエネルギーシールドを使わせる攻撃を行って! ディザスターは攻撃と防御を同時に出来ないみたいだから!」
『リリーナ、お願い。私が守るから』
『わかった!』
フレキシブルカノンからエネルギー弾が放たれる。それを全て回避しながらは僕はディザスターを睨みつけた。
早く、倒さないと。
アンカーが壁に突き刺さりアストラルルーラの体が静かに移動する。
「熱源センサーの類は無いみたいだが、注意はしないとな。それにしても、この大きさは」
アストラルルーラを操作するルーイは小さく呟いた。アストラルルーラがいるのはディザスターの中。
あの後、出撃口を見つけ出したルーイはそこからディザスターの中に入り込んだ。入り込んだのはいいものの、ディザスター内部はフュリアスが軽々と通れるほど大きな通路がある。ただ、戦闘出来るような大きさではなく、もしエンカウントしたなら難しい状況になるだろう。
「音界を滅ぼすつもりだったのか? あのゲートから考えて天界の勢力だろうが、あそこまで排他的では無かったぞ」
アンカーを壁から外してアストラルルーラは床に着地をした。そして、エネルギーライフルを取り出して通路の角からエネルギーライフルを持たない左手の小指を出した。
小指の先にあるカメラには何もない通路が映し出されている。
「敵の姿は無し、か。要塞だと思ったが少し違うのか? まあ、いい」
すかさず通路に飛び出してアンカーを放つ。アンカーは通路の向こうにある壁に突き刺さってアストラルルーラを高速で壁に引き寄せた。
曲がり角に近づいた瞬間にアンカーを外し小指のカメラで次の通路を確認する。
「部屋?」
そこにあったのは通路の先にある部屋だった。何か大きなものが置かれている。
ルーイは小さく息を吸い、そして、角を曲がった。そして、アンカーを放たず背中のブースターだけで部屋に向かって飛翔する。
注意を怠らず部屋に入ったルーイを待っていたのは部屋の中央に鎮座する巨大な出力エンジンだった。いや、巨大というのは語弊があるだろう。
フュリアス同士が十分に戦えそうな広さがある部屋の半分近くを出力エンジンが占めている。フュリアス何機分というのは相手にこの出力エンジンに失礼だと思えるレベルだった。
『アストラルルーラか。元『歌姫の騎士』だな』
その声に反応してルーイはすかさずその場から飛び退いた。だが、攻撃はない。その代わり、視線の先にはクロノスの姿があった。
『まさか、ディザスターがここまでお前達のような子供によって追い詰められるとは。天神様がストライクバーストに乗ることでようやく食い止めることが出来た機体だと言うのに』
「お前達の目的は何だ? どうして音界を襲う?」
『ディザスターのテスト運用、だとしたら?』
ルーイの返答はエネルギー弾だった。だが、エネルギー弾はクロノスの前に現れたエネルギーシールドによって受け止められる。
『せっかちだな。我らの悲願達成のためにディザスタブレイカーは開発された。だが、完成した災厄を払う存在はただの災厄でしかならなかった。ならば、ディザスターを完全なディザスタブレイカーにするために、我らの悲願を達成するためにディザスターの性能を向上させなければならない』
「災厄ということは滅びのことか?」
『それもある。だが、私の、いや、我らの目的は目先の問題をどうにかすることだ』
「もし、このディザスターなるものが災厄のために使うフュリアスの失敗作ならば、どうして音界に、しかも、この日にやってきた?」
『戦いが起きていたからな』
そう言いながら相手が笑う。もしかしたら、いや、もしかしなくても、天界はガルムス達とは違う勢力のようだ。
ルーイは小さく息を吐いてエネルギーライフルを捨てた。
「今日がどういう日かを教えてやろう。今日は戦いのない平和な一日を過ごす日だった。だが、お前達のせいでたくさんの人が悲しんだ」
アストラルルーラがアンカーを放つ。だが、アンカーはエネルギーシールドによって阻まれ、エネルギーシールドに吸い付いた。
『なっ』
クロノスがとっさに後ろに下がる。それと同時にアストラルルーラがエネルギーシールドに接近していた。
アンカーを巻き戻す力と加速する力。その二つが重なった速度は尋常なく早く、アストラルルーラはそのまま手のひらをエネルギーシールドに押しつけた。
円上にエネルギーシールドが消え去りそこからアストラルルーラがクロノスに向かって飛びかかった。クロノスはとっさにエネルギーソードを作り出してアストラルルーラに斬りかかる。だが、アストラルルーラが不自然にズレた。
エネルギーソードが空を裂き、代わりにアストラルルーラの蹴りがクロノスを蹴り飛ばす。
空中で姿勢を戻したクロノスに迫っていたのはアストラルルーラの膝だった。膝蹴りがクロノスに直撃しくの字に折れ曲がるとアストラルルーラはすかさず取り出した対艦剣を振り下ろした。
クロノスの右腕が宙を舞い、クロノスが大きく後ろに下がる。
アストラルルーラとは違う軌道で飛ぶクロノスが見たのは、対艦剣をクロノスに向けて近づいてくるアストラルルーラだった。
『く、来るな!』
クロノスがエネルギーソードを振る。だが、それを回避するようにアストラルルーラが不自然に後ろに下がりそして、エネルギーソードが通り過ぎると同時にアストラルルーラが加速した。
クロノスのコクピットを貫通する対艦剣。
ルーイは小さく息を吐いてクロノスから対艦剣を引き抜いた。
「アストラルルーラ相手に室内戦を挑んだのが間違いだな。室内戦でアストラルルーラに勝てるのはダークエルフくらいだろう」
そう言いながらアストラルルーラはそこら中に突き刺す、又は張り付けていたアンカーを全て戻した。その数13。
変則的な軌道が出来たのは全てアンカーのおかげだった。
「さて、破壊するか」
そう言いながらアストラルルーラはエネルギーライフルを超巨大な出力エンジンに向けた。