第百二話 災厄の名を冠する存在
降り注ぐエネルギー弾。フレキシブルカノンによって曲線射撃が行われる状況に鈴は必死で聖盾ウルバルスを構えて受け止めていた。
聖盾ウルバルスは極めて大きく大抵の前から来る攻撃は受け止めてしまうが横からねじ曲がった攻撃は受け止められない。
聖盾ウルバルスを構えながら周囲の状況を確認しつつ鈴は必死に耐える。
「くっ、攻撃密度が高すぎて、攻撃出来ない」
下手に回避すれば街に当たる可能性がある。それがわかっているから鈴はイグジストアストラルの持つ聖盾ウルバルスで極力受け止めるようにしていた。だが、やはり限界はある。
地上を見れば所々で火の手が上がっている。
「せめて、もう少し攻撃密度が低かったなら、良かったのに」
衝撃を感じながらも必死にフレキシブルカノンから放たれるエネルギー弾を受け止める。そして、フレキシブルカノンを放つ巨大なフュリアス、ディザスターを睨みつけた。
背中の砲ではダメージを与えるのは限りなく難しいだろう。その巨体故に、そして、密度が高いエネルギー弾の嵐によって。
「誰かが引きつけてくれれば、シルヴィルスの最大出力モードが使えるのに。くっ」
鈴がそう思った瞬間、ディザスターから放たれたエネルギー弾が横からイグジストアストラルの体を吹き飛ばしていた。
鈴がとっさに体勢を戻すが、前方全方位からエネルギー弾が迫っている。
「抜けて!」
鈴はとっさにイグジストアストラルの出力を上げてエネルギー弾の中をかいくぐるように速度を上げた。だが、完全に避けきれず足に一発が直撃してイグジストアストラルは大きく吹き飛ばされた。
「っく。まだ、まだ大丈夫」
聖盾ウルバルスをとっさに構えてエネルギー弾を受け止める。だが、イグジストアストラルはディザスターからゆっくり離れていた。そして、ディザスターはゆっくり降下している。
「地上が」
それに気づいて鈴はイグジストアストラルが地上に近い位置にいることに気づいた。このままではディザスターが着地してしまう。
「一か八かで」
『何か策があるの?』
その言葉と共にイグジストアストラルに向かってきたエネルギー弾を悠遠が作り出してエネルギーシールドで受け止めていた。そして、イグジストアストラルの横に並ぶ。
「悠人!」
『お待たせ。ルーイも来たよ。多分、音界のフュリアス部隊が今からあの機体を攻めると思う。鈴は何か策があるの?』
「一つだけ。成功するかはわからないけど、あのフュリアスにダメージは与えられると思う」
『わかった。僕が引きつけるから鈴はそっちをお願い』
その言葉と共に悠遠が飛び上がる。エネルギーシールドとエネルギーライフルを構えてディザスターに向かって飛びかかる。
「シルヴィルス。最大出力モード」
聖盾ウルバルスを構えたまま聖銃シルヴィルスを構えるイグジストアストラル。聖銃シルヴィルスの銃口を背中のスラスターで合わせながら鈴は小さく息を吐いた。
「チャージ開始」
「これが、敵か」
ディザスターの横手から真っ直ぐ空に向かって飛翔するアストラルルーラに乗るルーイはディザスターの体を隈無く調べていた。
まるで要塞とでも言うかのようにたくさんの砲塔がついている。しかも、その大半がフレキシブルカノン。
恐らく、普通の砲塔に変形が可能なはずだから最悪、地上は今以上の火の海となるだろう。シェルターの防御力から逃げ込んだ人は大丈夫ではあるが。
「弱点、というのが少ないな。この大きさならエネルギー弾でもよほど上手く当てないといけない。なら、内部からしかないか」
正面ではディザスターと悠遠が激しく打ち合っている。が、悠遠のエネルギー弾はディザスターに届く前にフレキシブルカノンから放たれるエネルギー弾によって打ち消されている。
ただでさえ巨体なのにエネルギー弾はかき消される。それは例え悠人であっても戦いは辛いはずだ。
「入り口は、っく」
飛んできたエネルギー弾を回避する。そこには天界のフュリアスがいた。ルーイはとっさに翼を広げて急制動をかける。かけながら天界のフュリアスに向かってアンカーを放った。
アンカーがフュリアスを捉えルーイはディザスターに向かってフュリアスを投げる。そして、そのフュリアスに向かってエネルギー弾を一射。
的確に撃ち抜かれたフュリアスは爆発を起こす。だが、ディザスターの装甲は傷ついてはいない。
「ダメか。入り口が見つかれば話は早いが、なっ」
ルーイの視界にクロノスの群れが入ってきた。その数実に50。
クロノスの動きは悠人を助けに行く最中に見ていたためどんな能力かはわかっている。だからこそ、この数は危険だった。
「悠人がやれた。なら、僕だって」
『一人でやるのか? それは無理だな』
その言葉が入ってきた瞬間、散弾のごとくエネルギー弾が放たれていた。クロノスの群れは慌てて回避するがあまりの数に何機も撃ち抜かれていた。
アストラルルーラは振り返る。そこにいるのは『天聖』アストラルソティスとその配下の様々なフュリアス部隊。
「ガルムス」
『行け。お前は嫌いだったが、音界を思う心は尊敬出来た。ここは任せろ』
裏切り者のくせに何を言う。
ルーイはそう言おうと思った。だが、口からでかかった言葉はそのままルーイの胸の中に消える。
「僕だってお前は嫌いだ。だが、今回だけはお前に手伝ってもらう」
そして、ルーイは出力を上げて加速した。目指すはクロノスから発進して来たであろ入り口。
クロノスはそれを阻止しようとエネルギー弾を放ってくるが、アストラルルーラの姿が消える。そして、クロノスの後方に現れた。
「上、じゃない。下か」
ルーイは下降する。クロノスの何機かが追いかけようとするが、背後から撃ち抜かれて爆発する。それを尻目にアストラルルーラはさらに加速した。
「早くしないと。こいつが本格的に攻撃を始める前に何とかしないと」
上下左右あらゆる方角から歪曲して迫るエネルギー弾。すでにエネルギーシールドとエネルギーライフルではなくエネルギーシールドとエネルギーシールド状態になっている。
それらを上手く使って攻撃を受け止めながら、僕は小さく息を吐いた。
「鈴の準備が揃うまで、耐えないといけないのに」
このフレキシブルカノンの数は異常だ。下手に動けばそれだけで撃ち抜かれる可能性がある。
「僕か鈴じゃなかったら今頃撃ち抜かれているよね。エネルギーはまだまだ大丈夫だけど」
エネルギーは未だに80%はある。あれだけ戦闘したなら普通は半分は余裕で切るのに。さすがは悠遠の翼というべきか。
『虫けらの存在でこの攻撃を耐えるとは虫だとしても見事というしかないな』
その声はあのドラゴン型フュリアスに乗っていた男の声だった。
『だが、それももう終わる。この機体、ディザスターの力の前に虫けらは消え去る運命なのだ』
「すごく敵らしい名前をありがとう。でも、そんなことをさせるわけにはいかないんだ。お前達の好き勝手にされてたまるか!」
『虫が吠えるな。煩いぞ』
その瞬間、大量のエネルギー弾が悠遠に向かって降り注いだ。回避は間に合う。だけど、いくつかは鈴も狙っている。
ここはあれを使うしかない。
「『加護』の力!」
光が悠遠の体を包み込んだ瞬間、降り注ぐエネルギー弾を『加護』の光が受け止めていた。そのまま僕は悠遠を前に出す。
「『創聖』!」
作り出すのは巨大なエネルギーソード。それを頭上に作り出してディザスターに向かって振り下ろした。
巨大エネルギーソードがディザスターに突き刺さりいくらかめり込む。だが、それだけだった。
「どうして」
『やはり、私の理論は完璧だ。いくら魔鉄が魔力に関する攻撃に弱いとは言え、いくつもの重ねれば攻撃は利かなくなる。ふふふ、関節は無理だが』
「エネルギーソードじゃ無理なら、エネルギーを収束させて」
『出来ると思っているのか!?』
エネルギー弾が降り注ぐ。何とか回避しながら攻撃の機会を探る。すると、ルーイがディザスターの後ろに回ったのが見えた。もしかしたら、内部から攻撃するかもしれない。
「だったら、僕は引きつけていればいいんだ。注意を向かせるためには」
『悠人! 離れて!』
鈴の声と同時に嫌な予感を感じて僕は大きく下がった。そして、イグジストアストラルに視線を向けるとそこには巨大なエネルギーライフルを構えたイグジストアストラルが。
『いっけぇー!!』
銃口から光が迸った瞬間、極太のエネルギー弾がディザスターに向かって放たれていた。
凄まじい収束率による高密度攻撃。これなら可能、そう思った瞬間、ディザスターに当たる直前、光の膜によってエネルギー弾が散らされていた。
「なっ」
『えっ?』
『ふはははははっ。思い知ったか。ディザスターは災厄をもたらす攻撃力と、災厄であることを証明する防御力があるのだ。災厄の名を冠する存在である以上、手は出せない防御力をな』
「くっ」
もしそうなら何も出来ない。どうすればいい?
『諦めないで!』
その声と同時にエネルギー弾が背後からディザスターに向かって放たれた。ディザスターは先程と同じように防御の膜を張り、エネルギー弾がそれを貫いた。
『馬鹿なっ』
『いくら防御力が高くても、極めて高い攻撃力の前では無意味だよ! 悠人、鈴、援護をお願い!』
そこに現れたのはブサイ、ゲフンゲフン。ちょっと奇妙な形をしたフュリアスだった。その背中にはソードウルフが身につける飛行ユニットがある。
『リリーナ・エルベルム。ベイオウルフ。行きます!』
次回、ベイオウルフとアストラルルーラが活躍します。