第百話 灼熱から作られたフュリアス
新型フュリアス登場。そして、エレノアも登場。
ソードウルフが高速で空を飛翔する。そんなことはまずありえない。ソードウルフは元々地上を走るための機体だからだ。それを可能としたのはソードウルフの新たな装備。
四つのメインブースターと翼のような十数にも及ぶスラスター。それに+αがついた装備。それによってソードウルフは高速での飛翔を可能としたのだ。
ソードウルフが飛行していた姿勢を変える。スラスターを使って上手く巨大なフュリアスと平行になるように体勢を整えた。それと同時に背中のブースターが二つ腰にマウントされる。
「ぶち抜け!!」
リリーナの言葉と共にブースターの噴射口からエネルギーの塊が飛び出した。だが、それはエネルギー弾じゃない。超巨大なエネルギーソード。
腰にマウントしたブースターを握り締め、それを振り下ろす。たったそれだけで巨大なフュリアスの両腕は簡単に付け根から切断された。
「まだ。まだ一撃が」
『リリーナ! 避けて!』
悠人の言葉にリリーナはとっさにブースターから手を放して飛び上がる。それと入れ替わるようにソードウルフがいた場所にドラゴンの姿をしたフュリアスが通り過ぎた。
エネルギーライフルを取り出してドラゴン型フュリアスに向かって引き金を引く。だが、相手の飛翔速度は速く、攻撃が当たらない。
『リリーナ、大丈夫?』
「大丈夫。悠人は今」
『相手方と休戦を結んだところ。さすがに予想外だからって。僕は今から空に向かう。リリーナは』
『刃向かうか。地に堕ちた脆弱な民よ』
その言葉にリリーナは空を見上げる。おそらく、あの巨大フュリアスからの声。その声にリリーナは怒りの声を上げた。
「脆弱なんかじゃない! みんな、みんな必死に一生懸命生きているのに何であなた達はいつもそんなことを言うの!」
ソードウルフを軽やかに動かして飛来するエネルギー弾を回避する。だが、回避した先にはドラゴン型フュリアスの姿があった。
とっさに急制動をかけながら対艦剣を掴み、迫ってきたドラゴン型フュリアスにぶつける。
対艦剣はドラゴン型フュリアスが作り出したエネルギーソードによって受け止められている。
『その機体。そうか。お前が魔王の娘か』
「それがどうしたって言うのかな?」
『虫けらはやはり虫けらということか。だが、虫けらの意地を我らは過小評価していたらしい。まさか、ディザスターの腕が簡単に落とされるとは』
「災厄? あの機体のこと? 笑えない冗談だよね」
災厄。確かに見た目はそれに相応しいかもしれない。ディザスターの姿はゆっくり降下しており、このままでは街に着陸されるだろう。
あんな大きさが着陸するだけでも最悪、シェルターが破壊されるかもしれない。
『冗談? お前にはわかっていないな。あれは試作機だ。制御がまともに出来ず、街を一つ消し去った災厄そのもの。それを虫けら討伐に使用するだけだ。何がおかしい?』
「その考え方だよ!」
リリーナは素早く後ろに下がった。鍔迫り合いを行っていたドラゴン型フュリアスが前のめりになり、ちょうどそこにソードウルフの蹴りが入った。だが、ドラゴン型フュリアスを吹き飛ばすと同時に蹴りを放ったソードウルフの足が空を舞う。
ドラゴン型フュリアスは斬られた瞬間にエネルギーソードを振っていた。だから、形的には相討ちだ。
「みんなは虫けらなんかじゃない。ちゃんと生きているんだよ。そんな勝手な理由で」
『勝手? そうか。お前達は理解していないのだな。世界の異変を』
「何を言って」
いるの? リリーナはそう続けようとした瞬間、ソードウルフのコクピットを大きな衝撃が襲っていた。
モニターに映るソードウルフの体はバックパックに異常があると主張していた。すかさずバックパックをパージすると同時に前に出る。
だが、そこにはエネルギーソードを振りかぶったドラゴン型フュリアスの姿があった。
ギリギリのタイミングでエネルギーソードを対艦剣で受け止める。だが、ソードウルフの体は落下する。
「まだだよ!」
すかさず背中にブースターのバックパックを取り付けてドラゴン型フュリアスに斬りかかる。しかし、ドラゴン型フュリアスはソードウルフの対艦剣を軽々と避けていた。
リリーナは視線でドラゴン型フュリアスを追う。だが、ソードウルフは追いつかない。
さっきのバックパックならともかく、今のバックパックは地上戦を中心としたバランスの高い戦闘をするためのものであり、空中戦はあまり想定されていない。だから、飛行は出来ても浮遊は出来ない。
「まだなんだよ!」
だが、リリーナは諦めない。対艦剣からバックパックに備え付けられているエネルギーライフルを掴みドラゴン型フュリアスに狙いを定める。だが、その瞬間にドラゴン型フュリアスは機体を翻した。
エネルギーライフルの引き金を右腕で引きながら左腕で対艦剣を引き抜く。そして、二機が交錯した。
激しい振動に見まわれるコクピットの中でリリーナは必死にドラゴン型フュリアスを追いかける。ドラゴン型フュリアスは無傷。対するソードウルフは左腕と胸部に大きな傷を受けていた。
もし、ソードウルフのコクピットが胸にあったなら今ごろリリーナは死んでいただろう。
「強すぎる」
リリーナがぽつりと呟いた瞬間、バックパックが爆発を起こした。ソードウルフの体が地上に向けて落下する。
「私はもう、足手まといなのかな?」
イグジストアストラルなら未だに戦えている。鈴ならきっとあのドラゴン型フュリアスを落とせる。リリーナはそう確信していた。そして、悠人なら確実にもう倒しているだろう。リリーナはそう感じていた。
落下するソードウルフの中でリリーナは寂しげに笑みを浮かべる。
「もう、ダメなのかな。私はもう、戦えないのかな?」
モニターに映る風景には加速しながら近づいてくるドラゴン型フュリアスの姿。トドメを差しにきたのだろう。今のソードウルフはメイン出力エンジンがやられているため攻撃が出来ない。
「さようなら、悠人」
リリーナが目を閉じた瞬間、リリーナの体は暖かい感覚に包まれていた。すかさず目を開けたそこには、魔力の翼がリリーナの体を受け止めていた。
『リリーナ、無事?』
後ろを向けばそこには悠遠の姿がある。リリーナは嬉しくて思わず涙を流してしまった。
「悠人」
『後は任せて。鈴、リリーナをお願い』
『うん』
ソードウルフの機体が悠遠からイグジストアストラルに預けられる。そして、悠遠は背中の翼を最大限まで展開してドラゴン型フュリアスに斬りかかった。
ドラゴン型フュリアスは身を翻して空に駆け上がる。それを追いかけるように悠遠も空を駆け上がる。
『とりあえず、一回降りるね』
「鈴。ごめん」
顔を伏せながらリリーナは言う。本当ならイグジストアストラルは空で戦っているはずなのに、私が負けたからこんな場所にまで。
『リリーナ、怒るよ。友達が大事に決まっているから。それに、さっきエレノアさんから連絡があったから』
「エレノアから? というか、今まで何をしていたのかな?」
リリーナ達と同時期に音界に入りながら今の今まで姿は全く見ていない。リリーナはそう覚えている。
現に、第76移動隊が全員参加していたと思われている先の戦いではエレノアだけが参戦していない。
『わからないけど、エレノアさんの話だと、完成したからリリーナを呼んで、って言われた』
「私を?」
リリーナは不思議そうに首を傾げる。だが、そうしている内にすでにイグジストアストラルは地上への着地態勢を取っていた。
軽い衝撃と共にイグジストアストラルが着地する。そして、イグジストアストラルは抱えていたソードウルフをゆっくり下ろした。
『エレノアさんはあの格納庫にいるから』
そう言って指差すのはすぐ近くにある格納庫。リリーナは頷きながらコクピットを開いて走り出した。
私に何の用だろう。
リリーナの頭の中に渦巻くのはその言葉だった。格納庫の入り口から中に入る。そこには、たくさんの整備士が一機の黒いフュリアスに組み付いていた。
人型、というには少し大きい。胴体が大きく太い。もちろん、手足も太いけど股関節の形から変形出来るのはリリーナにも想像出来た。
「これは、一体」
「ついたね。待っていたよ」
その声に振り向いた先にはエレノアの姿があった。そして、エレノアがリリーナに紙の束を渡してくる。
「ベイオウルフ、取扱い説明書?」
その表紙に書かれていた文字をリリーナは口に出して読んでいた。エレノアが軽く肩をすくめながら頷く。
「アル・アジフも人が悪くて。ソードウルフの性能がリリーナの技量に追いついていない時があるって言うから新型出力エンジンの開発をお願いされたの。本当なら断りたいことだったけど、周からもお願いされて」
「じゃ、ベイオウルフは出力エンジンから新型なんだ」
「そういうこと。スペックもリリーナの技量なら扱えるレベルに達しているから。コクピットはソードウルフと同じ頭」
エレノアに押されてリリーナはベイオウルフに向かって歩く。
ベイオウルフは名前からしてソードウルフと同系統と考えた方がいいだろう。そして、ソードウルフと違うのは対艦剣がついておらず、ソードウルフより大きい。
それだけ出力エンジンが巨大なのだろう。見た目はかなりかっこ悪いのが最大パワーだけならすごいかもしれない。
「大丈夫かな」
リリーナは小さく呟いた。それは、不安から出る言葉。それにエレノアがリリーナを優しく抱き締める。
「大丈夫。これは第76移動隊からリリーナへのプレゼントだから」
「プレゼント?」
「そう。リリーナに合わせて全てが作られた現存フュリアスの中では最高の機体。リリーナなら大丈夫」
そう言いながらエレノアは優しく背中を押すエレノア。リリーナは軽く前に一歩を踏み出し、そして、地面を蹴った。
途中の足場を三回経由することでコクピットのある頭に到着する。
「すぐ出せますか?」
すぐ近くにいた整備士に尋ねると整備士は頷いた。
「後は嬢ちゃんが乗って最終確認だ」
「わかりました」
リリーナは素早くコクピットに潜り込んでコクピットを閉じた。そして、ベイオウルフ取扱い説明書にあったパスワードを打ち込む。
周囲のモニターに周囲の光景が映る。そして、素早く最終確認を行う。
四肢は大丈夫。全接続オールグリーン。メインエンジン1、2、3の始動開始。サブエンジン1、2、3、4始動開始。
そこでリリーナは気づいた。そして、顔が引きつる。
ベイオウルフに搭載されている出力エンジンは全部で七つ。多いどころか多すぎる。出力エンジンが多いということは最大パワーも高いということだ。
「ベイオウルフ、出撃します」
その言葉をリリーナがスピーカーから流すと整備士が慌ててベイオウルフから離れる。それと同時に足場とベイオウルフの体を固定していた部分が左右へと移動する。
『ちょっと待ってな。バックパックの飛行ユニット、さっきのソードウルフが身につけていた飛翔用ユニットを取り付けるから』
アンの声が流れるがリリーナにとっては会ったことがないから誰かはわからない。だから、ただ、はい、とだけ答えてレバーを握り締めた。
ベイオウルフはソードウルフとコクピットは完全に同じ。さらにはリリーナに合わせて微調整も行われている。
リリーナは軽い振動を感じた。それと同時にバックパックが装着されたことをベイオウルフが知らせてくれる。
『完了や。飛翔の仕方は問題ないやんな?』
「はい」
『やったら出撃や。うちらの代わりに音界を頼むで』
その言葉にリリーナは頷いた。そして、ベイオウルフを変形させ四足歩行にする。
「ベイオウルフ、リリーナ・エルベルム、出ます!」
「行ったな」
エレノアの隣でアンが呟いた。エレノアは軽く肩をすくめてアンを見る。
「心配?」
「そうやない。でも、ベイオウルフなんて名前、偶然やないやんな?」
「アル・アジフが決めたから偶然じゃないかな。でも、別の意味も込められているんじゃないかな?」
「どういうことなん?」
「最新型の複合出力エンジンを意味するHybrid Engineとその特殊機構によるReverse。そして、元にしたものがあるからOriginの三つを繋げた言葉」
「HERO。英雄って意味やな。なるほど、英雄やから英雄か」
アンが納得したのを見たエレノアは満足そうに頷いた。
「音界の世界で語り継がれる、完成しなかった幻の、エターナルを押しのけて最強のフュリアスとなるはずだった幻のフュリアス。私が作った出力エンジンとパーツはそれを原型としたもの。出力エンジンの作り方がかなり特殊だったから完成まで時間が足りなかったと思う」
「確かにな。マグマの中みたいな灼熱地獄でも稼働出来る出力エンジンなんて作ろうとしたら、太陽の中で精錬された最高級の魔鉄を使わなあかんもんな」
「そういうこと。ベイオウルフは灼熱から作られたフュリアス。その身を焦がして永久に力を作る不死鳥のようなフュリアス。決して諦めることのないその機体は、まさに英雄として語り継がれる物語と同じでベイオウルフの名に相応しいんじゃないかな?」
その言葉にアンはお手上げというように両手を上げた。そして、ベイオウルフが出て行った入り口を見る。
「エターナルツヴァイ、イグジストアストラル、マテリアルライザー、ストライクバースト、ベイオウルフ。みんな、本気やねんな」
ベイオウルフに一番近い形はガン○ムに出てくるズゴック(名前があってるかは自信がない)の形に頭がついたものですかね。他はちゃんと人型ですが。
一応、リリーナが乗る最終形態のフュリアスです。性能や特殊機構は次か次の次の話で。
ドラゴン型フュリアスはヴェイガンとは違います。というか元々第八章でかなり出す予定(三年ほど前から)だったのにあんなのが始まりやが
(中略)
結論。早い者勝ち。