第九十八話 勢力
ある意味かなりカオスになってきました。
おかしい。
オレは走りながら思った。中央シェルターの守りを冬華に任せてオレ達は遊撃隊のようにひたすらに走り回りながら戦っていた。
その最中、走り回りながら気づいたのだ。
『おかしいって何が?』
頭の中でアルネウラが尋ねてくる。
オレはデバイスから流れてくる連絡を頭の中で再確認しながら頷いた。
敵はどれだけいる?
屋根と屋根の間を飛び越えて全速力で駆ける。優月の薙刀を握り締めてオレは周囲を見渡す。
『どれだけ? えっと、シェルターに向かっている勢力に、街の外で戦っている勢力だから、五つに分かれていて』
そうじゃない
優月の言葉を遮って首を横に振る。
外で戦っている相手はフュリアス。でも、中で戦っている相手は精霊召喚符を持つ人。どうしてフュリアスを街中で使わないんだ?
『それは、内部に入れていないからじゃないかな? というか、街中でもフュリアスが動いている情報は無かった?』
『アルネウラ。その後に基地に向かって撃ち落としたって通信を聞いていなかった?』
『うん。全く』
アルネウラらしいと言えばらしいけど、堂々としすぎじゃないか?
オレは小さく溜め息をついて屋根を大きく蹴る。背中の翼をはためかせて通りの向こうの屋根に飛び乗った。
明らかに動きがおかしい。都市を破壊する、ファントムが行う偽りの幸福を享受する者達に幸福な死を与えることをするならフュリアスを使った方が断然早いはずだ。この世界にはありえないくらい強力な魔術師はいない。
『言われて見ると確かに。私達が戦っているのは精霊召喚符相手だし、この世界のことを考えても、精霊召喚符よりもフュリアスを使うのは当たり前だから』
『フュリアスを使う勢力と精霊召喚符を使う勢力は別ってこと? わけがわからないんだけど』
そりゃな。オレだってわけがわからない。だけど、あまりにおかしくはないか? 敵に孝治みたいな超火力を持つ奴がいるなら別だけど。
『確かにそうかも。そういう風にも捉えておけば何かあった時には動きやすいし』
『だね。悠聖、これを孝治に』
「偽りの幸福を享受せし者達に、幸福な死を!!」
その言葉に反応してオレは薙刀を振るっていた。飛んできた氷の塊を斬り裂いきすかさず返した刃で相手が持っていた精霊召喚符を斬り裂く。
確かにアルネウラの言うように孝治には連絡した方がいいけど、今はそんな暇がない。何故なら、周囲を見渡せば囲まれているからだ。
一人よりも油断してくれるから戦いやすいけど、完全に囲まれているんだよな。
『うわっ、確かに連絡が出来ないね』
『そんな呑気な話じゃないよね? でも、悠聖』
ああ。こいつら、目に生気がない。
操られているのかはわからないが、誰が見ても何かされたと思うくらいに驚くほど生気がない。
式典会場でも同じように思ったが、どうやら詳しく調べた方がいいみたいだ。この戦いが終わったら。
「さてと、これ以上の戦闘は止めて武器を捨てろ、と言っても無駄だよな」
『うん。無駄だよね』
『聞いてないと思う』
お前らが応えるな。
オレは小さく笑みを浮かべて薙刀を構えた。
ここを突破して孝治達に連絡。行くぞ、アルネウラ、優月。
『『うん!』』
『おかしい』
通信から聞こえてきた声にイグジストアストラルを空中静止させ外の敵を狙い撃っていた鈴はその手を一瞬だけ止めた。だが、すぐさま引き金を引いて街に向かっていたフュリアスを撃ち貫く。
『何がおかしいか説明してもらえますか?』
ルーイの言葉にリマが尋ねる。
『おかしいと思わないか? 街中で起きている戦闘にフュリアスの姿が見えないのが』
「確かに」
鈴は頷いた。ルーイの言うことはもっともだ。
イグジストアストラルの真下で戦うアストラルルーラは近づいてきたイージスにアンカーを投げつけた。それを防ぐためにイージスがエネルギーシールドを作り出すが、アンカーはエネルギーシールドを貫いてイージスに突き刺さる。
アストラルルーラはそのままアンカーにイージス突き刺さったまま投げた。同じように迫っていたラフリアに向かって。
ラフリアはとっさに避けようとするがそれを見切っていたルーイが微かに機体を動かすだけでアンカーの突き刺さったイージスがラフリアに直撃する。
すかさずそこにエネルギー弾を鈴は叩き込んだ。
『僕達はおびき寄せられているのか? それとも』
『考えるのは後です。次の部隊が向かって』
その瞬間、鈴の耳に聞こえていたはずの通信が聞こえなくなった。すかさず緊急回線に切り替えて通信を拾う。
『数は八ですね。ここは私が前に出ます』
『頼む』
どうやら通信障害が起きたのは鈴のイグジストアストラルだけらしい。だから、鈴は周囲を見渡した。
通信が乱れるのは近くにゲートが出来るか妨害を受けた時だけ。妨害を受けたならルーイも通信障害になるはずだ。なのに、イグジストアストラルだけということは、
「空。どこ?」
周囲のモニターを注視しながら異変が無いか見る。だが、異変はない。異常はない。
『鈴、どうかしたのか?』
地上で前に出るアストラルソティスを援護するルーイから鈴に声がかかる。鈴は周囲を見渡しながら応えた。
「今、通信障害があった。もしかしたら、ゲートが出来るかもしれない」
『ゲートが? そんな報告は』
「報告じゃなくて事実! 私は」
二の句は継げなかった。何故なら、イグジストアストラルの目の前にあるのは砲門。すかさず胸のスラスターを噴射しながら腰を軸に回転するように足のスラスターも起動させた。
砲門がエネルギー弾を吐くより早くイグジストアストラルが回転してエネルギー弾を回避する。だが、回転しながら鈴は見ていた。
頭上に出来上がったゲートを。
「くっ、そこ!」
イグジストアストラルの体が地面と平行になった瞬間、鈴は全ての砲門を開いていた。
イグジストアストラルから放たれたエネルギー弾がゲートに吸い込まれいく。だが、そのエネルギー弾はゲートから現れた巨大な何かによって弾かれていた。
落下するイグジストアストラルの中で鈴は目を見開く。そこには、巨大なフュリアス。
狭間戦役にあったゲイルナイトよりも大きい機体。その体にはたくさんの砲門がついていた。さながら、要塞のような姿。
イグジストアストラルの姿勢を戻して空中を浮遊する。巨大なフュリアスの周囲には純白の翼を持つフュリアスがたくさんいる。
天界の部隊。
そうだと一目でわかる状況。それに鈴は歯軋りをした。
「なんで、なんでこんな時に天界が」
タイミングを見計らっていた? それとも共謀していた?
鈴の頭の中で考えが渦巻く。だが、今の鈴はどうすればいいか無意識にわかっていた。
すかさず聖銃シルヴィルスを巨大なフュリアスに向ける。そして、引き金を引こうとした瞬間、イグジストアストラルを衝撃が襲った。
聖銃シルヴィルスの銃口が逸れて空に浮く天界のフュリアスを20ほど消し去る。だが、ゲートから現れている巨大フュリアスには当たっていない。
「何が」
聖盾ウルバルスを取り出しながら鈴は自分がいた場所を見る。そこにはまるでドラゴンとでも言うかのようなフュリアスがいた。
背中の翼は天界のフュリアスとは少し違う。さらには、形が人とは完全に違っている。こんなフュリアスを鈴は見たことがなかった。
『音界の者達に告げる。抵抗は止め、今すぐ武器を捨てよ。さもなくば、神の雷が貴様らの街を焼き尽くすだろう』
ゲートから現れた巨大なフュリアスは全ての砲門が街に向いていた。少しでも反抗すれば街を破壊するとでも言うかのように。
『三分だけ待ってやる。それ以上返答しなければ、神の裁きを下そう』
『ふざけるな!!』
その声はあらゆるスピーカーから鳴り響いていた。鈴は聖盾ウルバルスを構えたまま周囲を見渡す。
何故なら、その声はリリーナのものだったから。
『何が神だ雷だ裁きだ!! あんた達が望まないなら攻撃するって言っているだけだよ!! たったそんな理由で、たかがそんな理由で』
怒っていた。リリーナは完全に怒っていた。
『この音界を巻き込むな!!』
その言葉と共に基地から何かが飛び立った。すかさず鈴は飛び立った何かを映す。そこには、ソードウルフが翼を身につけていた。
『音界は音界の人達のものなんだよ!!』