第九十七話 予兆の始まり
他のを進めていたらこんな時間に。
『貴様は何もわかっていない!』
『天聖』アストラルソティスが対艦刀を振り上げて迫ってくる。僕はエネルギーソードを作り出して対艦刀を受け止めた。だが、受け止めた瞬間からエネルギーソードが霧散していく。
すかさず後ろに下がりながら『天聖』アストラルソティスに向かってエネルギーソードを放った。だが、やはり霧散する。
『この国の状況を! 歌姫の存在がどれだけ足枷になっているかを!』
「平和を望むことに何が悪いって言うんだ!!」
エネルギーソードのエネルギー密度を上げながらまたもや斬りかかってくる『天聖』アストラルソティスの対艦刀を受け止める。これでもまだ霧散していく。
『天聖』に対してエネルギーを利用するものは無理なのか。
『平和は仮初めだ!! そんな甘い言葉で世界が救えると思うな!!』
「仮初めでも、仮初めだとしても、人は平和を望むんだ!!」
『人は戦う存在だ! 世界の状況を理解もしていない子供が黙っていろ!!』
「子供はあなただ!」
執拗に斬りかかってくる『天聖』アストラルソティスに対して僕は同じようにエネルギーソードで対抗する。
いくらエネルギーソードが効かないと言っても逃げてばかりじゃ話にならない。エネルギー残量はまだまだあるからこのままやりあって隙を見つけるしかない。
「あなたは自分が望む未来を渇望している。それはわかるけど、何故力に訴えるの? 僕達は、分かり合えるのに」
『分かり合えるわけがない! あらゆる世界はこの地を虎視眈々と狙っている。それに対抗するためには力が必要なのだ!! 力無き正義に存在価値はない!』
「そんな理由で、たったそれだけの理由で、あなたはこんなことを起こしたとでも言うの?」
『平和は存在しない。それを知らしめるためにな』
「ふ、ふざけるな!」
エネルギーソードを叩きつける。『天聖』アストラルソティスはエネルギーソードをギリギリで対艦刀で受け止めるが後ろに下がってしまう。
すかさずエネルギーソードを一本取り出してそれぞれの手で持ちながら『天聖』アストラルソティスに斬りかかる。
「そんな理由で、そんな理由で人殺しが正当化されると思うな!!」
『されるとは思っていない。これから俺は大乱を起こした大悪人として後世に伝わるだろう。だが、戦いが起きるならばこの命を散らす価値があるのだ!!』
斬りかかったエネルギーソードを『天聖』アストラルソティスが受け止める。それによってエネルギーソードが霧散するけど僕は絶えずエネルギーソードにエネルギーを充填していく。
100%になることはないけど、これならエネルギーソードは持つはずだ。
「戦いを起こして何になる!? 人を殺して何になる!? そんなことをしても無意味にしかならない! ただ、無駄に命を散らすだけだ!!」
『だから貴様はわかっていない。この世界の現実をな』
一瞬の隙をついて『天聖』アストラルソティスが対艦刀を突いてくるが素早く足を上げて対艦刀の腹を蹴りつけた。そのまま『天聖』アストラルソティスにエネルギーソードを叩きつける。だが、エネルギーソードは『天聖』アストラルソティスに当たった瞬間砕け散った。
すかさず距離を取りながら新たなエネルギーソードを作り出す。
「こんないい世界に、戦いなんて持ってこさせるわけにはいかないんだ!」
エネルギーソードを握り締め『天聖』アストラルソティスに斬りかかる。『天聖』アストラルソティスは対艦刀でエネルギーソードを受け止めた。
『ならば、何故、天界はやってきた? それこそ、平和というものが間違っている証だろうが!?』
「平和は、間違ってはいない!」
『いや、間違っている!! 世界を成長させるのは戦いだ。平和があれば世界は腐っていく。このままでは世界が滅ぶぞ!!』
「そうだとしても、誰かを殺すことなんてさせるわけにはいかない! 僕は守る存在だから。メリルを、アル・アジフさん達を、みんなを守る。だから、戦いなんてさせない。させるわけにはいかない!」
とは言っても、『天聖』アストラルソティスが上手く動いてくれないからこのままじゃ全く止まらない。
せめて、『天聖』アストラルソティスが空高く上がってくれればどうにかなるのに。
「誘導するしかないよね。いくよ、悠遠」
前に向かって駆け出す。エネルギーソードを握り締めて『天聖』アストラルソティスに再度斬りかかった。
リリーナはアークベルラを地面に突き刺して息を吐く。その後ろでは座り込んだリリィが荒い息をしている。
周囲は赤く染まり、斬り刻まれた死体と気絶した人達。そして、斬り裂かれた精霊召喚符が散らばっている。
その中心に立つのはアークフレイを持つ白騎士。リリーナは小さく息を吐いてアークベルラを地面から抜いた。
「何とか、落ち着いたようだね」
「そのようだ」
白騎士がキョロキョロと周囲を見渡しながらリリーナの言葉に応える。リリィは静かにアークレイリアを鞘に戻した。
「というか、こいつらは何? どうしてこんなに湧いて来たの?」
「知らないよ。事前に何かあるとは言われていたけど、まさか、こんな状況になるなんて。ソードウルフの接続ミスは早く直らないかな」
「すぐに直るもの? フュリアスのシステムはかなり複雑だって聞いているけど」
「まあ、悠人のダークエルフやエクスカリバーみたいな特殊なタイプだとちょっとした接続ミスでも三日は動かないよ。でも、ソードウルフは『GF』が『GF』の技術で作り上げたものだから、システムのデバイス部分の異常はお手上げだけど、接続関連はそれほど時間がかからないよ」
「意味がわからない」
フュリアスについて詳しくないリリィが不思議そうに首を傾げる。それにリリーナはクスクスと笑った。
不機嫌そうな顔をしたリリィがアークレイリアの柄に手を置く。
「わわっ、そういうことじゃないよ。まさか、天界の住人とこんな会話が出来るなんて思わなかったから」
「そういうことなんだ。私も、魔王の娘とこういう会話が出来るなんて思わなかったし。さてと、少し休んだから別の場所に行かないと」
「そうだね。とりあえず、私はソードウルフのところに行くから」
そう言いながらリリーナが走り出そうとした瞬間、リリーナとリリィ、二人の動きが止まった。
白騎士が不思議そうに首を傾げる。そして、何かを尋ねようとした瞬間、二人は同時に空を見上げた。その表情に浮かんでいるのは驚愕だろう。
「ねぇ、天界はこんな予定はないよね?」
「あんたこそ、魔王の娘なら魔界の動向に詳しくないの?」
「詳しいなら先に悠人に伝えているよ。悠人>鈴>第76移動隊>魔界だし」
「うわっ、魔界の位置低っ。私は天界が一番だけど、そんな話があるなら伝えるから」
「だよね。じゃ、連絡お願いしていい?」
そう言いながら走り出そうとしたリリーナの手をリリィが掴んだ。
「どこに行くつもり?」
「ソードウルフを動かす。接続ミスももうすぐ復旧するはずだから、この感じはソードウルフを使った方がいいよ」
「わかった。じゃ、連絡は任せて。悠聖から連絡用のデバイスは受け取っているから」
「うん。信じるよ。お願いね、リリィ」
笑みを浮かべながらそう言うリリーナにリリィはそっぽを向いた。顔が赤くなっているのにリリーナは気づいているが、クスッと笑ってリリィから少し離れる。
「これが終わったら、いろいろ話をしようね」
「それ、死亡フラグ」
「大丈夫大丈夫。そんなことを言ったら第76移動隊の面々はフラグクラッシャーの塊になるよ」
「どういう会話をしているのか気にはなるけどね。頑張って」
「うん」
リリーナが走り出した。その背中を見送ったリリィは小さく息を吐いて振り返る。
「そういうわけで、私達は連絡役として」
今から動くから。リリィがそう言葉を続けようとした瞬間、純白の何かが視界の隅から動いていた。
とっさにリリィが後ろに下がるが左腕が微かに斬られる。その痛みを堪えてリリィは目の前にいる白騎士を睨みつけた。
「どういうつもり?」
アークレイリアを引き抜きながら尋ねる。白騎士は静かにアークフレイを構えた。
「天界の犬は死ね」
すごく勢力が入り乱れます。