第九十六話 天聖の力
何かとしていたら更新が遅れました。多分、これからも遅れます。
向かって来る刃を受け止める。幾度となく繰り返した行為に正は小さく溜め息をついていた。
振り抜かれる対艦剣を軽々と受け止める。問題は縦横無尽に迫る刃の数だった。文字通り縦横無尽であり、時の流れを無視した連続攻撃に正は溜め息をつくしかなかった。
「『天聖』、の力は健在、のようだね。時間操作は僕の専売特許だったはずなんだけどな」
向かってきた対艦剣をレヴァンティンレプリカで受け止めた。そして、刃を返して対艦剣を押し返す。
溜め息をつきながら見るのは『天聖』アストラルソティス。
「別に正気を失っているわけでもないし、操られているわけじゃないのはわかっているよ。そろそろ声を出したらどうかな? 臆病者君」
『臆病者? 臆病者はお前だろうが』
ガルムスの声が『天聖』アストラルソティスから聞こえてくる。
『同じ時の力を持っていながら臆病風に吹かれている癖に』
「同じ力? 聖剣と伝説の力を一括りにして欲しくはないね。その力は膨大な魔力を利用した空間操作。時の操作は伝説と聖剣しか持っていない。それをまず理解した方がいいんじゃないかな?」
正が挑発的な笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと、だけど、確かにレヴァンティンレプリカを構えた。
「それにね、この力を使うに値する人物はこの世に三人しかいない。一人は善知鳥慧海。一人は木村楓。そして、海道周。君なんかに使えるような安っぽいものじゃないのだよ」
『天聖』アストラルソティスの姿が消えた。普通に見たらそうだろう。だが、正は消えるより早く振り返っていた。そして、レヴァンティンレプリカを振り抜いた。
レヴァンティンレプリカの一閃によって砕け散る対艦剣。正はすかさず前に進みながらレヴァンティンレプリカを下から上に居合いのごとく振り上げた。
だが、レヴァンティンレプリカは宙を薙ぎ払う。『天聖』アストラルソティスの姿は後ろ。普通なら当たると思うだろう。だが、正はさらに動いていた。
振り上げた腕に力を込める。体を動かして半身の姿勢になる。そして、レヴァンティンレプリカを振り下ろした。
『天聖』アストラルソティスが新たに抜いた対艦刀が砕け散る。正の顔に浮かんでいるのは笑み。
「だから、言ったじゃないか。僕に君は勝てない。そして、僕は君を倒さない。ここにいてくれるならね」
『どういうつもりだ?』
「そうだね。じゃあ、空を見上げようか」
正が空を指さした瞬間、漆黒の影が降り注いだ。すかさず『天聖』アストラルソティスが後ろに下がる。それと同時に四本のエネルギーソードが『天聖』アストラルソティスのいた場所に突き刺さった。
そして、漆黒のフュリアスが着地する。その背中には魔力の翼があった。
「君の相手は彼以外には存在しない。頑張るんだね。彼は僕達と同じだから」
信じられなかった。目の前にいるフュリアスは紛れもなく『天聖』アストラルソティス。まさか、悠遠の翼を持つ機体が敵に回っているなんて。
「ガルムス、どうしてお前はメリルの敵になっているんだ!? お前も歌姫直属親衛隊を目指していたんじゃないのか!?」
『その機体。貴様がその機体に乗っていいわけがない!!』
ガルムスの声と共に背後から嫌な予感する。すかさず悠遠を振り向かせながらエネルギーソードを作り出した。
それと同時に目の前に『天聖』アストラルソティスが姿を現す。普通なら反応は出来なかったけど、やっぱり『天聖』の力相手にはこの予測は最強だ。
エネルギーソードをすかさず振り抜こうとした瞬間、『天聖』アストラルソティスに当たる寸前、エネルギーソードが霧散した。
すかさず『加護』による壁を作りながら後ろに下がる。だが、その『加護』による壁すら『天聖』アストラルソティスが取り出した対艦剣によって簡単に砕かれていた。
どういうこと?
『加護』の防御力は極めて高い。それはよほどの威力でなければ砕けないはずなのに。そもそも、『天聖』の力は時間を操作するものじゃないの?
とっさにエネルギーソードを作り出して射出する。だが、それは『天聖』アストラルソティスに当たる寸前で霧散した。
『口だけか! 小僧!』
通信を通じてガルムスの声が響き渡る。完全に優位に立ったと思っているようだ。まあ、確かにこちらの攻撃は通っていないから仕方ないけど。
背中から来る嫌な予感を感じながら僕は前に飛び出した。エネルギーソードを抜刀のように振り抜くけどちょうど『天聖』アストラルソティスの姿が消える。
『天聖』が時空の操作ならエネルギーソードが消える理由にはならない。なら、どうしてエネルギーソードは消えるのだろうか。
「エネルギーソードは魔力の塊。それを霧散させるということは魔力を中和しているということだよね。えっと、魔力を中和するということは」
ポケットからデバイスを取り出して端末につける。片手と両足で悠遠を動かしながら欲しい情報を求めてせわしなく目を動かす。
機体の動きは全て感覚任せ。他の全神経をデバイスに収めたライブラリィフォルダにある魔力関連の情報をモニターに出していく。
「魔術中和の方法は、あった」
反射的に悠遠を動かしつつその項目に目を通した。
魔術の中和方法。特殊能力による中和と、同質の魔力をぶつけること。
『創聖』と名前が似たものがエネルギーから物質を作り出すこと。それを考えると聖という文字はエネルギーと考えればエネルギー物質を創り出すと考えれば、『天聖』の力は、
「聖がエネルギー物質。なら、天から授かると考えたら繋がる」
『天聖』の能力は時間を操るものじゃない。無尽蔵、他の悠遠の翼以上のエネルギーを作り出す力。だから、エネルギーソードの相殺を可能とするし、『悠遠』の力を消し去ることだって可能。
そうなると、純粋な倒し方しか不可能だ。相手が小手技でも倒せないくらい強大な相手。さらには時を操るとかいうむちゃくちゃな性能すらある。
「悠遠、僕に力を貸してくれ!!」
最大限まで出力を上げる。エネルギー残量は未だに100%。だから、可能なはずだ。
悠遠の両手にエネルギーソードを作り出し、『天聖』アストラルソティスに向かって駆け出した。
「ふふっ、始まったね」
本格的に攻撃を始めた悠遠を見ながら正は楽しそうに笑みを浮かべた。そして、レヴァンティンレプリカを鞘に収めて腰を下ろした。
正が座っているのは大破したギガッシュの上。コクピット部分が派手に斬り裂かれており中を覗き込めばコクピット内部は赤く染まっているだろうことは容易に想像出来る状況だった。
「どうやら、君は『天聖』の力に気づいたか片鱗がわかったようだね。そうだよ、それでいい。今の悠遠の力はそれほどではなくても君が空の民である以上、悠遠は君に答えてくれる。そういう風に開発されたからね。そうだろ、悠遠の守護者」
笑いながら虚空に語りかける正に対する反応はない。だけど、正は満足そうに頷いていた。
「そうかい。それもそうかもね。彼は彼女とは違う。だけど、潜在的な能力は彼女とは比べ物にならない。だからこそ、僕は期待しているんだよ」
正が空を見上げる。だが、その視線は空を見ているようには見えなかった。
「この空の果てにあるあの場所で、彼らはきっとやり遂げる。僕や君達が出来なかった新たな未来を」