第九十五話 翼の力
悠遠の翼はチートです。
都さんにメリルを預け、僕はアストラルソティスに乗り換えるルーイを置いて一足先にエターナルツヴァイがある場所に向かってアストラルブレイズを飛ばしていた。首都のいたるところで戦いが起きており、大破しているラフリアも少なくはない。
「みんな、大丈夫だよね」
出来るだけ見つからないように上空を飛ぶ僕からすればみんなの動きはよくわかる。でも、よくわかっても不安になることがいくつかはあるけれど。
「戦いがシェルターに向かっている? 敵の目的は避難している人達? せめて、式典用アストラルブレイズに武装があれば」
式典用アストラルブレイズは武装が一つもない。ただ、機体の全身にあるエネルギーの回路は普通のアストラルブレイズと同じであるためエネルギーライフルは使えるだろう。
まあ、普通のアストラルブレイズと違うところと言えばエネルギーシールドが両腕に内蔵されているところだけど。
欲を言っても仕方ないから今はエターナルツヴァイの場所に向かわないと。あれなら武装はあるはずだ。
「エターナルツヴァイの場所は確か」
モニターにメリルがマッピングした地図を展開する。そこにはエターナルツヴァイがある格納庫の位置が描かれていた。
南区画にある格納庫Kか。ここならそれほどは遠くはないけど、直線距離の上で戦闘が起きているため高く飛んでいて良かった。
「後は、ここから降下するだけ、っつ」
とっさにアストラルブレイズの体を横に回転させながらその場から飛び退いた。それと同時にアストラルブレイズがいた場所をエネルギー弾が切り裂く。
「上空にも敵? 待ち構えられていた?」
視認出来る位置にいるフュリアスがこちらに向かっている。あの形態は、イージスとラフリア二機。イージスが前に出てラフリアが後ろ。
典型的だけど手堅いパーティだ。
「対するこっちの武装はエネルギーシールドだけ。でも、エネルギーシールドだけだからって戦えないわけじゃないよ」
ペダルを踏み込み出力を上げる。そのまま加速して三機のフュリアスと肉迫する。ラフリアがエネルギー弾を放ってくるけど避けるのは簡単だ。
軽々と機体を翻し、時にはエネルギーシールドで弾きながら近づく。すると、ラフリアの一機が対艦刀を取り出した瞬間、出力を最大まで上げてイージスを避けつつラフリアの懐に入り込んだ。
すかさずエネルギーシールドを出したまま対艦刀を持つラフリア右腕の関節にエネルギーシールドを叩きつけた。
ラフリアの関節から火花が散り、ラフリアが対艦刀を落とす。
人もフュリアスも関節部分は極めて弱い。特にフュリアスはエネルギーシールドのようなエネルギー弾と似たエネルギーを利用する鈍器を受ければ回路がショートしやすい。
今回はそれを狙った。
すかさず対艦刀を掴み回転しながら振り切る。こちらにエネルギーライフルを向けたラフリアのエネルギーライフルを持つ腕を斬り飛ばし、返す刃で頭を飛ばした。
そのままイージスを蹴り飛ばしながら振り向きつつ対艦刀を一閃する。エネルギーライフルを向けたもう一機のラフリアの頭部を飛ばし、放たれたエネルギー弾を回避しながら腕を斬り緒とした。
後はイージスだけ。そう思った瞬間、ラフリアがアストラルブレイズに組み付いてきた。
「なっ、この損傷率でまだ。でも、アストラルブレイズに勝てると思うな!!」
すかさず蹴り飛ばしながら残った腕を斬り飛ばす。返す刃でもう一機の腕を斬り飛ばした。
だが、嫌な予感が背中をかける。振り向いた先にはエネルギーライフルを構えたイージスの姿。嫌な予感が増大する。
避けられない。そう思った瞬間、放たれたエネルギー弾がアストラルブレイズの右肩を撃ち抜いていた。
油断していた。イージスは防御特化だから攻撃はないと思っていた。だけど、エネルギーライフルを持っていた。
回路が一部ショートしたコクピットの中で額に痛みを感じながら体勢を崩したアストラルブレイズを戻して地面に降下する。
損傷箇所は右肩と右翼。右腕はもぎ取られ、右翼はほとんどが機能停止。左翼のブースターとスラスターだけでどうにかしている状況だ。
「久しぶりに、ミスったね」
被弾していない状況からここまでダメージを受けたのはいつ以来だろうか。エクスカリバーやダークエルフは相手がストライクバーストだったし。
「でも」
イージスがエネルギーライフルを向けてくる。僕は処理されたデータを基にエネルギーシールドの設定を変える。
「もう、君に勝ち目はないよ」
イージスがエネルギー弾を放つ。そのエネルギー弾に対して僕はエネルギーシールドを構えた。そして、エネルギーシールドがエネルギー弾を弾き返した。
リフレクト系統の魔術の応用だ。これならエネルギーシールドだけでも戦える。ただし、一度被弾しなければならないけど。
跳ね返ったエネルギー弾がエネルギーライフルと腕を破壊するのを見て僕は左翼だけでアストラルブレイズを降下させていく。
すでに場所は視界に捉えたし、周囲にあるフュリアスの残骸の近くに僕はアストラルブレイズを着地させた。
痛みをこらえてコクピットを開き、立ち上がる。
「悠人君、大丈夫って、血が出てるよ!」
すると、開いたコクピットに音姫さんが跳び乗ってきた。相変わらず凄まじい身体能力だ。
僕が額を触ると手のひらに血がべったりとついていた。これだけで倒れてもおかしくないよね。
「大丈夫です。エターナルツヴァイは」
「うん。準備は出来ているけど、今は手当てを」
「そんな場合じゃない!」
コクピットから外に出る。戦闘はいたるところで続いている。早く終わらさないと、たくさんの人が死ぬ。
「ちょっとだけ切っただけだから、大丈夫。それよりも、今は戦いを止めないと」
「捕まってて」
その言葉が聞こえた瞬間、僕は音姫に担ぎ上げられていた。そして、景色が変わる。
一瞬にして過ぎ去っていく風景はエクスカリバーに乗っている感覚だった。
これが、音姫さんが見ている世界。
その加速は止まり僕はいつの間にか一機のフュリアスの前にいた。漆黒のフュリアス。ただ、その背中は前にみた七枚の翼ではなく、七枚の板、という表現が一番近いものになっていた。
「ようやく来たな。これが、エターナルツヴァイや」
アンの言葉が聞こえ僕は振り返る。そこには少しだけ疲れた表情をしたアンの姿があった。
音姫さんが僕を下ろす。
「受け取り」
アンが僕に向かって鍵を投げる。おそらく、これはエターナルツヴァイの始動キー。
「エクスカリバーのデータからちょちょいのちょいで設定変えたから機体は大丈夫やと思うで。乗るんやろ」
「うん」
僕はエターナルツヴァイのコクピットに飛び込んだ。そして、素早くシートについてベルトをつける。始動キーを入れると全てのモニターに光が灯った。
コクピットを閉じてペダルを踏みしめレバーを握る。変形要素はないけどダークエルフ感覚で行けば大丈夫だ。
すると、モニターに文字が浮かんでいた。パスワードという文字の後に:のものと空白があった。
「パスワード? エターナルツヴァイ」
しかし、反応はしない。試しにキーボードを使うけど、反応はしない。どういうことだろう?
「パスワードなんて聞いていないのに」
考える。何かメリルが呟いていなかったか考える。確か、エターナルという名前は魔科学時代の悠遠という機体の名前だったはずだ。
「悠遠」
僕は呟いた。呟くと、何故かその言葉がしっくりと来る。
「悠遠」
もう一度呟く。やっぱり、これが正しい。だから、もう一度。
「悠遠」
『ようこそ、マイマスター。悠遠の世界へ』
その言葉が流れた瞬間、世界が広がった。いや、広がったんじゃない。後ろを見れば三枚の光の翼がある。そして、何故か、その翼の名前がわかった。
「加護の翼、豊翼の翼、創聖の翼」
慌てて顔を戻してモニターを見る。エネルギーは十分。いや、十分以上だ。背中のものは全て悠遠の翼。エネルギーが足りないことはない。
「行くよ、悠遠」
格納庫の天井が開く。僕はそこから大空に向けて飛び立った。
体に悠遠が馴染む。背中のも翼があるのが当たり前のように主張している。
『豊翼、解放』
モニターに文字が流れると同時に悠遠の体が加速する。
豊翼の力は翼を作り出す力。だけど、この力は本来は一対の翼。だけど、空の民が扱うことでその翼は七つまで作り出すことが出来る。
理解出来る。今までわからなかった『豊翼』の力が。つまり、悠遠の翼は、
「空の民が使うためのもの? じゃ、魔科学時代にも空の民がいたんだ。帰ったらアル・アジフさんにでも聞こうかな」
僕は感覚を頼りにその場で宙返りを行う。すると、振り返ったさきにはこちらにエネルギー弾を向ける七機のギガッシュの姿。
悠遠に識別コードはあるからどうやら敵のようだ。
「創聖、解放!」
『創聖、解放。豊翼と並列処理を開始します』
悠遠が加速する。加速したまま創聖の力を発動した。
創聖はエネルギーを利用したものを作り出す。それは何でも可能だ。
エネルギーライフルを作り出して引き金を引く。エネルギーの塊によって作られたエネルギーライフルなんて初めてだけど十分に使える。
放ったエネルギー弾はギガッシュの頭を吹き飛ばした。それに応じるようにエネルギー弾が飛んでくる。
『加護、解放』
すると、それを受け止める壁を悠遠が自動で作り上げていた。
『加護』は空の民を守るためのもの。だから、何者にも貫けない。
『加護』の壁を全面に押し出してエネルギーソードを作り上げた。柄を握り締め、そのまま『加護』の壁を盾代わりにギガッシュの中を駆け抜けた。
ちゃんと、三機のギガッシュを斬り裂くのを忘れずに。
すかさずもう片方の手にエネルギーソードを作り出し体を翻しながら前にいた二機のギガッシュに突き刺した。残るは一機だけ。
残る一機のギガッシュは対艦刀を振り上げている。その対艦刀に僕は新たに作り出したエネルギーソードを叩きつけた。
対艦刀が砕け散り、返した刃がギガッシュを破壊する。
「うわっ、これでエネルギー残量100%なんだ」
対艦刀を砕くくらいのエネルギー密度のエネルギーソードなんてかなりエネルギーを消費するはずなのに。
「でも、これくらいのエネルギーがあればいいかも」
悠遠を戦闘が激化している首都近郊に向ける。まずはそこから制圧しないと。
僕は出力を最低から少し上げてその場所に向かって加速した。
あれだけの戦闘をしながら悠遠は最低出力です。最大になったらどうなるかは20話ほど後になると思います。