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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第九十四話 里宮本家八陣八叉流VS八陣八叉流

最近学校の課題が大変でなかなか更新出来ませんので気長に待ってください。

「だけど」


メグの心配そうな声が由姫の耳の中に入る。対する由姫は笑みを浮かべながら腰を落とした。


「大丈夫です。相手はただの八陣八叉流ですから」


「ただの? お前も近接格闘家ならわかるのではないか? 八陣八叉流の恐ろしさを。まあ、いい。どうやら俺達の正義を行うにはお前を排除しなければならないようだ。さあ」


男が前に踏み出す。そして、加速した。


対する由姫は微かに半身になり男の拳をギリギリで回避する。そして、カウンターの一撃が男の頬を捉えていた。男は大きく吹き飛んで地面を転がる。


八陣流返し『雀』。


八陣流の基本となるカウンターだが、男の拳の速度に合わせて最適のタイミングで最適の加速で行うのは不可能に近いだろう。それを由姫は軽々と行った。


男がすかさず立ち上がる。


「今のは、八陣流」


「八陣八叉流同士の戦いではまずは名乗り上げるのが普通だと師匠から聞いています。里宮本家八陣八叉流免許皆伝の白百合由姫」


「さ、里宮本家八陣八叉流の免許皆伝だと。それは里宮本家しか継承されないものではないのか!?」


「別にそういうわけではないみたいです。メグ、行ってください」


由姫が振り返る。完全に隙だらけだが、相手からすれば里宮本家八陣八叉流なら釣っているようにしか思えない。だからこそ、動けない。


メグは小さく溜め息をついた。そして、頷く。


「すぐに合流しに来てね。待ってるから」


「大丈夫です。軽く復習をしながらすぐに行きますから」


メグが走り出す。それを見た由姫は小さく息を吐いて拳を握り締めた。


「偽りの幸せを享受する者達に幸福な死を、でしたっけ。私には何故そのように言うかわからないのですけど」


「お前達にはわからない。偽りの幸せを受けている者達にはな!! 苦労など知らない、天才達に俺達の何がわかる!?」


その声は完全な叫び声だった。だが、それを聞いても由姫は何ら心を痛めなかった。


確かに、由姫は天才だろう。白百合家でありながら類い希なる才能で里宮本家八陣八叉流を教えられた。神への重力グラヴィタスを自由に扱えるようになっている。だが、苦労していないわけじゃない。


凡人が天才に近づこうと努力する以上に神に愛された二人の天才に近づこうと努力をした。


白百合家でありながら剣の才能が無く、一時期は親族及び姉から疎まれた。


たくさん傷つき、たくさん傷つけられ、たくさんの苦労をした。それこそ、並み以上に苦労をしているだろう。


お金はある。親もいる。親友もいる。仲間もいる。人間関係は恵まれているだろう。だけど、目指す場所が違っていた。


「そうだ。俺は負けない。里宮本家八陣八叉流が何だ。偽りの幸せを享受している奴なんかに俺は負けない。負けるはずがない。天才に勝つために努力をした俺は最強だ」


「最強、ですか。別に誰が最強を名乗っても構わないですけど」


由姫が身構え、拳を握り締めながら男を睨みつけた。


「あなたが目標としていたのは天才ではありません」


「何?」


「努力だけで勝てるなら、それは天才じゃないということです。天才はそれに相応しい努力をする。そして、強くなる。その意味が理解出来ないわけじゃないですよね?」


「俺は強くなった。強くなったんだ!!」


男が地面を蹴る。その速度はまさに神速。だけど、由姫からすれば遅い。


相手の動きに合わせて前に踏み出す。繰り出すのは足。振り抜かれた拳を弾いて由姫の蹴りが完全に顎を貫いていた。


男が転がる。そのまま動かなくなった。


「確かに、天才は恵まれていますよ。でも、それは苦労をしていないというわけではありません」


『確かにそうだな。強さという意味を履き違えている。我はそう思うが』


動かなくなったはずの男がゆっくりと起き上がる。それに由姫は身構えた。今まで以上に警戒している。


何故なら、男はまるで糸で引っ張り上げられたかのように起き上がったからだ。そして、男の瞳に光はない。


『力さえあればいいとは思わないが、絶対的な力の前にはひれ伏すしかないだろ? そうは思わないか?』


「あなたは、誰ですか? 多重人格というわけではありませんよね?」


由姫が拳に栄光を身につける。さすがの由姫もこの気配を相手にすれば油断なんてしていられない。


男が確かに両足で立つ。だが、力は入っていないようにしか見えない。


『ふむ、まだまだ未完成か。どうやら、我が力を完全に行使するのには不完全なようだ。だが、今はそれでいい』


男が身構える。いや、身構えさせられる。どう考えても自分の意志ではない。


『八陣八叉流とやらを使わさせてもらおうか』


男が踏み出してきた瞬間、由姫は動いていた。放たれた拳を肘で払いながら懐に潜り込みつつ逆の肘を叩き込む。しかし、それは簡単に受け流されていた。


カウンターに対するカウンター。男の拳が由姫の顔面に放たれる。だが、それは空を切るだけだった。


45°近くまで背中を反らせた由姫はすかさず動く。放たれた腕を取りながら逆に曲げようとした。だが、力任せに戻される。


力では勝てない。そう判断した由姫はすかさず男の腹を蹴って大きく距離を取った。


『反応は早いか。我が拳を放っても回避されるようにしか思えない状況は幾年ぶりだろうか』


「そういうあなたこそ、重い打撃を放っているのに軽々と弾くなんて化け物ですね」


『確かに重い。だが、この重さはまだ軽い。重さというものを見せてやろう!』


男が動く。踏み出しながら地面を砕きつつ力の限り突き出される拳。


八叉流『砕拳』。


八叉流で最も基礎となる攻撃であり、最も威力の高いものである。ただ、全く実用的ではないが。


由姫も同じように踏み出した。そして、栄光を握り締めて拳を放つ。


八叉流『砕拳』。


由姫と男の同じ技がぶつかり合い、由姫が大きく弾かれていた。


「っつ」


さらには由姫が顔をしかめている。栄光を身につけた左腕を押さえながら由姫は大きく下がった。


同じ技のぶつかり合いによってダメージを受けたのは由姫だった。左腕の筋肉の一部が大きなダメージを受けている。そのため、今の由姫では左腕は使えない。


『肩を外すつもりだったが』


「肩を外されるような威力だったら左腕は再起不能にならなかったんですけどね。それが、あなたの力ですか」


『そうだ。次は右だな』


「わかりました。あなたのような化け物が相手なら、最大限まで力を使っても大丈夫ですね」


男の眉がピクリと動く。


『本気では無かったというのか?』


「技術は本気でしたよ。でも、力は最大じゃありませんでした」


『ほざけ!』


男が動く。先ほどと同じ砕拳を放つ男に由姫は右の砕拳を放った。拳と拳がぶつかり合い、その体勢のまま、男は背中から地面に転がった。男が素早く起き上がる。


先ほどは威力が少しだけ上回られていたため、由姫は腕が弾かれるだけだった。だが、今回は圧倒的な差があり、倒れるように吹き飛ばしたのだ。


だが、由姫はそれだけでは終わらない。懐に飛び込みながら膝蹴りを叩き込み、地面を踏みしめた足を回転させて回し蹴りで蹴り飛ばす。そのままさらに踏み出して蹴り飛ばされた男を下から拳がすくい上げられた。


里宮本家八陣八叉流連携『崩玉旋斧』。


膝蹴りから回し蹴りに繋げて最後はアッパーで締める。体勢を立て直したばかりの相手に叩き込む技だ。だが、それだけで由姫は止まらない。


落ちてきた男が繰り出した蹴りを由姫は軽々と弾き、そのままボディに拳を叩き込んだ。


里宮本家八陣八叉流突破『螺旋拳』。


ただ殴っているわけじゃない。螺旋拳は本来遠距離にまで攻撃を届かせる技。渦巻く闘気を解き放つというある意味むちゃくちゃな技だが至近距離で放った場合、大きなダメージと吹き飛ばしを同時に行える。


だが、由姫は微かに眉をひそめていた。


「受け流された? 空中で不破を使われた?」


「空中不破は難しくはない。覚悟さえあれば」


いつの間にか男の顔に意志が戻っている。すでに戦闘によってサングラスもマスクも剥がれているが、その表情には笑みが浮かんでいた。


「お前が、俺が目指すべき場所か」


「まあ、確かに八陣八叉流なら里宮本家八陣八叉流は目指す場所ですけど」


「ここからが本番だ!!」


男が踏み出しながら体を勢いよく回転させる。前に突っ込むエネルギーを全て回転につぎ込んだのだ。もちろん、慣性によって前に滑りながら由姫に向かって回し蹴りを放つ。


八叉流回脚『裂脚』。


対する由姫は痛む左腕を使ってその足に肘打ちを放った。痛みに顔をしかめながらも蹴りを弾きさらに踏み込む。


男は大技を使ったためすぐに戻れるわけじゃない。だから、由姫は体を懐にねじ込んで鳩尾に肘を突き上げるように入れた。


男の体が浮かび上がる。もちろん、俺は肺の中の空気を吐き出したためすぐには動けない。その男の顎を左腕の肘が下から上に突き上げられた。


里宮本家八陣八叉流弾き返し『砕刃裂破』。


相手の大技に対して叩き込むカウンターの大技。そして、由姫は軽く後ろにステップを取った瞬間、まるで弾丸のごとく前に踏み出して拳が男の腹を殴り飛ばしていた。


里宮本家八陣八叉流崩落『綺羅朱雀』。


最速の一撃は男の意識を完全にもぎ取り大きく吹き飛ばしていた。由姫が小さく息を吐く。


「それにしても、間のあれは何だったんだろう」


男とは雰囲気が違った。しかも、あの雰囲気を由姫は知っている。


「まるで、あれは狭間の鬼みたいな。ううん、気のせい気のせい。この人を縛ってシェルターに向かわないと」


小さく溜め息をつきながらも由姫は男に近づいていった。

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