第五十八話 入学の日 中編
前後の予定が前中後に分かれました。
自分の言いたいことを書いたらいつの間にか文字数が・・・
入学式。
それは、とある人にとっては新しい始まり。とある人にとっては長ったらしい話が続く式。とある人にとっては友達と会話をする場。
そして、オレにとっては、
「せめて事前に教えてくれよ」
オレは小さく溜息をついていた。
本来なら一組の一番の人が新入生を代表していろいろ話すことになるのだが、何故かオレが話すことになった。
「仕方ないわよ。言うはずだった男子は椅子を投げつけた人らしいし」
琴美は呆れたように言う。
あの騒動はかなりの騒ぎになった。
騒いだのは先生とオレのファン(自称)の面々。一体、何人の人からサインを求められただろう。
今は落ち着いた最初の頃の都がたくさんいる感じだった。
ただ、騒ぎの主導者というか、キレた由姫や殴りかかった男子達は今でも説教されているだろう。
由姫は覚悟していたようでオレに、
『後で入学式の話をお願いね』
と言ってきたけど。
「あなたが入らなければもっと大変なことになったかもしれないけど」
「どういうことだ?」
「私達がそのクラスに向かっている最中にキレた音姫と出会って食い止めていたから」
そういうことね。納得しました。
姉妹揃ってキレていたとは。まあ、オレが気づかなかったら戦場になっていただろうな。
「で、オレだと」
「けじめだそうよ。あなたの噂は有名だから、校長が許可したみたい」
「はあ、わかった。やるだけやってみるさ」
「はい」
琴美は紙を差し出してくる。
だけど、オレは受け取らなかった。
「そんな形式ばかりにとらわれた原稿はいるか」
「そういうと思ったわ。でも、校長からの手紙よ」
オレはそれを受け取って開く。そして、そこに書かれている内容を一瞬で把握した。
「新入生代表だけど、第76移動隊隊長として話せ、ね。父兄の方々は気にするなとも書いてあるな。つか、いいのか?」
「いいんじゃないの? ここの校長って生徒からの人気は高いけどPTAからの人気はすこぶる悪いって聞いているし」
よく校長を続けていられるよな。
「わかった。覚悟を決めるしかないか」
「都の挨拶が終わればあなたの番よ。期待しているわ」
「任せろ。さて」
オレは頭の中で文章を反芻する。
即席で作ったものがあるから決していい出来ではない。ただ、みんなに言いたいことを言う。
新入生代表であり、『GF』の正規部隊隊長として。
「周様」
都の声が聞こえ、オレは頷く。
『次は、新入生代表兼『GF』移動課第一部隊第76移動隊隊長海道周からの言葉』
新入生代表がついていなければ第76移動隊隊長としての祝辞になっただろうし、『GF』とかが無ければ新入生代表としての宣言とかになっただろうな。
オレは小さく息を吸って壇上に出た。
そして、マイクの前に立つ。
「今期に入学する一年二組の新入生兼『GF』移動課第一部隊第76移動隊隊長海道周です。今回は代役としてこの場にいます。ですから、新入生として、そして、第76移動隊隊長としての言葉を述べたいと思います」
最初に言うべき言葉とかは知らないから言わない。国語はほとんど勉強しないからな。だけど、第76移動隊隊長としてもいるから幾らかは気は楽だ。
「この暖かな春の日差しを受け、私達新入生はこの狭間市立狭間中学校に入学します。これからは新しい学校生活を楽しみつつ将来の役に立てるよう日々努力しようと思っています」
即席で考えた新入生代表としての言葉。とりあえず、これくらいは言った方がいいだろう。
これからは第76移動隊隊長としての言葉だ。
「皆さんは勉強することが将来何ら役に立たない。そうお考えの方も多いはずです。人によっては親に言われたからしぶしぶ勉強している方もいるでしょう。逆に、勉強することが好きな方もいるはずです。確かに、勉強は将来にとって直接的な意味を成さないものです」
その言葉に出席している親達が騒ぎ出す。直接的な意味を成さないという言葉は勉強を否定しているとも捉えれる。
「ですが、勉強するということは将来にそれを使うという意味ではなく、考え方を学ぶということです。小学生の頃、九九を習い始めた頃、皆さんは最初から九九がわかっていたわけではありません。ですが、九九を知ることで、今では自ら計算が出来るはずです。自分の頭の中で自分の考えで。それが、勉強の本当の意味だと思います」
勉強というものは日常的にするものだとオレは考えていた。だけど、それはオレが他を知らないだけだった。
知った今でも、自分のために勉強はしている。将来のために。
「知らないことを知ろうとするために勉強する。それが本来の勉強という意味です。今の日本では知識を詰め込むだけの教育が多いですが、自分達で考え、自分達から何かを学ぼうとする。それは、学校の勉強だけではありません。楽器について、スポーツについて、社会について、外国について。知りたいことを見つける。それを在学中に出来れば、それこそ勝ち組です。でも、出来ない人は負け組ではありません。人生は長く、何があるかわからない。それは皆さん新入生と同じ私が思っています。第76移動隊として何をするか、どこに行くか。でも、わからないからこそ、答えは必ず未来にある。そう確信しています」
自分はやりたいことを見つけた。何かに縛られてやるのではなく、自分から動くということを。
「私は外国に言った時、現地の皆さんと話がしたいと思い必死で勉強をしました。それはみんながどう考えているか知りたかったから。今では複数の言語を話せますが、それは必要だったからやったではなく、自分が学びたかったから。何かに熱中出来れば、自分がやりたいことが見つかると思っています。でも、誰もが挫折を味わう瞬間があるでしょう。全て成功する者はまずいません。私も失敗しました。でも、それを慰めてくれた人がいます。死にたいと思った時も救ってくれた人がいる。辛い戦いでもそばにいてくれた人がいる」
慰めてくれたのは都だ。オレは久しぶりに誰かの前で全力で泣いた。あの日から泣かないと決意していたのに。
救ってくれたのは由姫だ。オレを見つけてくれた。失意の底にいたオレを。
そばにいてくれたのは亜紗だ。どんなに辛い戦いでも、どんなに負け戦でも、そばにいてくれた。
「挫折をしても仲間が助けてくるます。友達が助けてくれます。それだけは断言します。人は一人で生きていけない。迷惑をかけあって生きている。人生は勉強の連続です。その中で、味方を作り上げてください。小学校から中学校に上がり、知らない顔ぶれもたくさんいます。ですが、学校から社会に出ればそれは当たり前です。知らないから仲良くする。そして、友達になる。勉強してください。知り合いの作り方を。そして、知ってください。皆さんのやりたいことを。これを最後の言葉として締めくくろうと思います。ありがとうございました」
言いたいことは全て言った。だから、オレは深々と礼をした。
これがオレの思う勉強だ。途中で強引に話を変えた部分もあるがいいだろう。
そして、聞こえてくるたくさんの拍手。顔を上げると一部の父兄が冗談抜きのスタンディングオペレーションだった。
オレは軽くひきながら退場する。そこには目を輝かせた都とポカンとする琴美がいた。
「さすが周様です。輝いていました」
「あなた、即席で考えて今のことを」
「ただ、思っていたことを述べただけだ。つか、そこまで良かったのか?」
「はい。この演説を見たなら総理大臣は泣きながら土下座をして内閣を解散するでしょうし、大統領は歓迎して周様を次の候補とするでしょう。いえ、もしかしたら泣いて教えを請う可能性も」
久しぶりに出たよ。都の暴走。
オレは軽く肩をすくめて席に戻ろうとした。だけど、誰かがこちらに向かって来る音がする。来たのは男子教師。確か、一組の担任だ。
「貴様、なんだあの演説は? 間違ったことを押し付けるな!」
何かを言いかけた都をオレは手で押し止めた。
「何が間違いか説明をお願いします」
「はん。自分の間違いが気づかないとは子供だな。いいか、学校はそんな甘ったれた場所じゃない。友達を作ることは認めてやろう。大切なことだ。だがな、勉強するという意味を間違えている。お前らはただ大学に行くための知識を詰め込めばいい。そうしなければいい大学には入れない。わかるか?」
「人生の最終目標は大学だと思っているのですか?」
オレはあくまで挑発するように言う。
確かにその意見もある。大学に行くためには学問が必要だ。その知識が無ければ大学には入れない。
「愚問だな。いい大学に入らなければいい会社には入れない。親の威光で『GF』に入った奴にはわからないだろうがな」
また都が何かを言おうとするが、オレはまた止める。
「学問が出来るだけの大学卒業生なんてわんさかいるだろうな。そんな奴らに埋もれて就活をするならさぞ大変だろう。だけどな、そんな些細なことを気にしすぎるようなら、オレは賛成出来ない」
「何だと?」
「いい会社に入っただけではいい人生を歩めない。ただ、だらけて過ごす人生になるだろうな。だから、何をやりたいか知ること。知りたいことを知ること。それが大事なんだよ」
「貴様、教師に向かって」
「教師なら自分の考えを生徒に押し付けるな! 勉強の知識を教えるならまだしも、考えは唯一無二の自分だけのものだ。それは自分で作り出すもの。誰かが介入していいものじゃない!」
オレは真っ正面から教師と睨め合った。そして、時間が過ぎる。
教師は舌打ちをすると背中を向けて歩き出した。
「よく言うわね」
「初日からここまであるのかよ。明日から生き残れるのか?」
「周様」
都が心配した顔で尋ねてくる。
「いいのですか? 親の威光と言われて。周様は実力で」
「いいんだよ。実際に親父もお袋もすごい人だった。親父は天才って言われていたほどだ。妹も。だから、オレは期待された。親の威光って言われても仕方ないさ」
「周様は自分の力で頑張っています。ですから」
「ありがとうな」
オレは都の頭を撫でてやる。
「ここに来て、お前と出会えて良かった。由姫や亜紗とは違うやり方でお前はオレのそばにいてくれた。だけど、自分の道を追求したらどうなんだ。オレはそれだけが心配で」
「私は周様が好きです。ですから、いつも見守っています。疲れた時に、帰って来てもいいように」
「都」
「由姫さんや亜紗さんには負けたくありません。でも、由姫さんや亜紗さんの場所を取りたくない。ただ、それだけですから」
都は優しい。優しいからこそ見守ってくれる。
それは本当に嬉しいし、都みたいな可愛い女の子に言われたら幸せな気持ちになる。
オレは笑みを浮かべて頷いた。
「後悔だけはするなよ。オレも、後悔しないようにするから」
「はい」
都が満面の笑みを浮かべる。
「コホン」
すると、近くからわざとらしい席が聞こえてきた。
「空気が熱いわね」
「ちゃ、茶化さないでください。周様、戻りましょう」
「はいはい」
オレは笑うのをこらえながら歩き出した。