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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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幕間 正義

ミルラは冬華に執着していたり任務では冷徹になれる以外は普通の女の子だったりもします。

「というわけだ。何か質問はあるか?」


私達は少し広めの会議室の中にいた。そのメンバーは第76移動隊全員。武器は携帯しないように言われたから炎獄の御槍は聖骸布アストラルを巻いて封印している。


みんな武器を携帯していない、または隠している中で孝治さんが私達の前で今日の仕事について言っていた。


簡単に言うなら見回り。ただし、お祭りを楽しみながらの見回り。目的としてはテロ行為を行おうとする集団を見つける、ということ。


私達を見渡す孝治さんに対して夢がゆっくり手を上げた。


「あの、その」


みんなの視線を受けて困惑する夢。だけど、誰もが優しい目で夢を見ている。


「確定した、情報、ですか? それとも」


「不確定情報らしい。とは言っても、警戒しないわけにはいかない。俺達が求められているのは『GF』の代表であることと、緊急時の戦力であるということだ」


まあ、周は総長の孫だし孝治さんは評議会の偏屈爺の孫。そして、第76移動隊自体は音界のどこでも自由に行動が出来る。


それを考えても万が一に備えておくのは悪くはない。


「では、解散だ。これからは自由行動。自由に動け」






「自由に動けと言われてもね」


「そうだね」


隣を歩く夢が私の言葉に同意してくれる。まだ少しだけ震えているけど大丈夫だろう。


周囲を見渡しても祭りの風景しかない。ここは楽しむべきなのかな?


「孝治さんは自由って言ったから、とりあえず楽しむ?」


「うん、賛成」


昨日は内勤だったから外には出なかった。だから、今日は楽しんでもいいだろう。うん、そうだ。絶対にそれがいい。


そういう理論を私の中で組み立てて一歩踏み出した瞬間、前方で誰かが手を振っているのが見えた。


あれは、茜さん?


「やっほー、メグ、夢」


手を振りながら茜さんが近づいてくる。


親族推薦によって第76移動隊に入隊した茜さんは私より年上だけど同い年くらいの親友だ。少し前まで病院にいたのに今では元気よく走り回る世界最強の魔術師。


さん付けをしないように言われているけど、茜さんは何かとすごいから思わず付けてしまう。


「二人も今日は外?」


「茜さんは昨日もだっけ」


「うん。内勤は嫌いだから。縛り付けられるのなんて大嫌い。ななちゃんは少し可哀想だけど」


「検査のために、病院、だったよね?」


「そういうこと。ななちゃんはあの時に死にかけたから念には念をね。だから、二人は今人界だよ」


音界の医療技術は確かに高い。だけど、人界の魔術治療技術には及ばない。それに、医療技術だけを見ても人界の方が上だったりする。


だから、七葉さんは和樹さんと一緒に病院にいる。


「あ、茜。ちょっと待ってよ~」


人混みの中から緒美が抜け出してきた。元は敵だったけど、調整を受けていた病院にいた茜さんと意気投合。


観察処分のはずが何故か第76移動隊になった人物。少しドジっ子だけど戦闘はかなり高め。


「あ、あれ? メグと夢もいる? 夢ですか?」


「夢じゃないから。ばったり会ってね。ちょうどいいから四人で行動しない?」


茜さんのその言葉に緒美がビクッとなって私を見てきた。まあ、その気持ちは分からないわけではない。


だって、あの時に緒美を倒したのは私だから。


「大丈夫大丈夫。誰かが何かしてきたら炎王具現化と雷王具現化の同時打ちをするから」


「即殺コンボ」


「というか、避けられる人がいるの?」


ちなみに、私の考えではいない。


「うーん。お兄ちゃん?」


確かに受け止めそう。ファンタズマゴリアに『天空の羽衣』とレヴァンティンの固有ユニークスキルがあるから。


「わ、私は、だだだ、大丈夫です、から。い、一緒に、い、いい、い、やっぱり無理です!」


緒美が背を向けて走り出す。そんな姿を見ている私達は思わず苦笑してしまった。


確かにあの時は必死だったから怖がられても仕方ないか。


「メグ、夢。私は緒美を追いかけるね。それじゃ」


緒美が駆けていった人混みの中に茜さんも飛び込んでいく。あの二人って魔術師の中でも最高クラスだけど、なんというか、ズレているんだよね。


私は夢と顔を見合わせた。そして、思わず苦笑してしまう。


「じゃあ、行こうか」


「うん。そうだね」


私達は同時に人混みに向かって歩いていった。






手のひらの上にあった紙トレーに乗る最後のたこ焼きを口に入れる。程よい熱さを感じながらもよく噛みそして、呑み込んだ。


隣の夢もすでに食べ終わっている。だから、すぐに紙トレーを近くの袋の中に入れた。


「ごめんね。私ばっかり食べて」


「ううん。見ているだけで、お腹いっぱいに」


そう言いながら夢が見るのは私の隣にある袋に入った紙トレーの山。ともかく、今日は食べた。


「炎属性魔術の基本だから。炎属性魔術は他の魔術と違って日常で訓練が可能だから。食べたものをすかさずエネルギーにする。または、そのエネルギーを燃焼させて消費する。最近、巷で有名な炎属性魔術ダイエットということかな」


「少し違うと思う」


確かに少し違うかもしれないけど大きく間違っているわけじゃないからいいとしよう。


私は小さく息を吐いて魔術を発動する。一瞬にして数万度に到達した炎が私の隣にあった紙トレーの群れを灰に変えた。


炎属性魔術の中でも上級難易度に位置する白炎光。最近は上級魔術もかなり出来るようになってきた。


「相変わらず、すごい」


「炎属性の術士なら当たり前じゃないかな。炎属性魔術はそれほど多くないけど」


「炎魔術は難しいから」


「難しいかな?」


灰によって一杯になった袋を持ち上げる。燃やしたから重さはかなり軽くなっている。これなら20m先に投げつけられるかも。


そのまま立ち上がりゴミ箱に向かって踏み出して、


「誰か捕まえてくれ! 泥棒だ!」


「夢!」


「うん!」


私達はその声に反応して走り出した。やっぱり、『GF』として反応してしまう。


標的はカバンを抱えて追いかけてくる人達から逃げる子供、達。数は六人か。全員がカバンを抱えている。今はまだ固まっているけどバラけられたら捕まえるのは難しい。


だから、私は投げつけた。灰の入った袋を。


一番前にいた子供に袋がぶつかり中身が爆発する。灰にまみれ、子供達の足が止まった。そこに私は飛び込んでいた。


足を払い、その場に転がしながら前にいた子供の肩を掴む。


「捕まえた」


「っつ、離せ!」


「ちょっとだけ動かないで。さもないと」


私は背後で立ち上がった子供がこっちに向かって一歩を踏み出したのを感じた。そして、素早く体を回転させながら私に向かって突かれたナイフを白炎光によって蒸発させて吹き飛ばした。


子供の顔が驚きに染まり、その腕を取る。


「はぁ、盗むのは犯罪なんだけどな」


「でかした、嬢ちゃん」


追いついてきた大人達が子供達を捕まえていく。ほとんどが灰まみれであり、商品も灰まみれだった。


悪いことをしたかなと思いながらも私は捕まえていた二人の子供を大人達に渡した。


「この餓鬼が、盗みをしやがって」


「離せよ! 離せ」


「静かにしろ!」


捕まえられた状態でも逃げようとした子供に対して男の一人が手を上げた。そして、子供に向かって腕を振り下ろそうとして、その手を夢が掴んでいた。


振り向いた男に夢は首を横に振る。


「殴ったら、ダメ。危険、だから」


「ちっ、わかったよ」


「どうして、カバンを、盗んだ、の?」


夢が男に捕まっていた子供に尋ねる。子供はブスッとした表情のまま顔を逸らしていた。他も大体こんな感じだ。


多分、少しは強引なことをしないと話さないだろうな。だから、私は吹き飛ばしたナイフを拾い上げた。そして、持ち主である子供に返す。


「はい。こんなのになったけど返すよ」


刃の部分が完全に溶けて無くなったナイフを。


子供は青ざめた表情でナイフを受け取る。


「どうしてカバンを盗ったの?」


私は目線を合わし、頭を撫でながら尋ねた。子供は少しだけ青ざめた表情で口を開く。


「弟や、妹達にお土産を持って帰りたかったから。カバンなんて、姉ちゃんや兄ちゃんの仕事用しかなかったから」


「お土産ってことは屋台の景品?」


「食べ物も。冷めるけど」


なるほど。そういうことか。


「お金は無いの?」


「うん」


大体の事情はわかった。だから、私はにっこり笑みを浮かべて言う。


「じゃ、盗みはダメってわかっているよね?」


「うん」


「だったら、今すべきことはわかる?」


子供はコクリと頷いて大人達に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい」


許されるわけはないけど、最低限のことはしてもらわないと。すると、呆れたような溜め息が連続して広がった。


「嬢ちゃんはすごいな。こういう時は殴って聞き出すんだが」


「確かに暴力が一番手っ取り早いけど、この子達も同じ人間だからお話だけで解決したいし」


「はぁ。まあ、俺らも毒気が抜けたし、後は保護者に話して」


「大丈夫。もうすでに見ていたから」


その声は私の背後から聞こえていた。誰もが驚いているということはいつの間にかいたのだろう。私もわからなかった。


「お姉ちゃん!」


口々にそのようなことを言う子供達が後ろにいる誰かに駆け寄る。だけど、私は振り返ることが出来なかった。


振り返ったら殺される、じゃない。多分、振り返っても移動するだろう。


「さすがは北村恵だよね。状況判断が早かった」


「あなた、『黒猫子猫』?」


「殺り合うつもりはないから。ここにいるのもこの子達の保護者だからだし」


少しだけ疲れたような声に私は肩の力を抜いた。


こういう時は信じた方が話が早く進む。


「ともかくありがとう。おじさん、カバンは全部で幾らするの?」


「払うのかい? いや、灰まみれになっているから商品価値は無いし」


「灰まみれになったのはこのお姉ちゃんのせいだけど、原因をつくったのはこの子達だから」


あれ? よくよく考えると一番の原因って私?


「だから、灰まみれのカバンを買うよ」


「私もお金を出すから」


私は小さく溜め息をついて財布を取り出した。






「助かったよ。財布の中身がピンチだったんだよね」


『黒猫子猫』のミルラと名乗った少女と私達は噴水のある広場に来ていた。人は相変わらず多いけど、ベンチは少し空いている。


そんなところに私はミルラと座っていた。夢は子供達を見ている。


「あの子達も、『黒猫子猫』の一員?」


そう尋ねるとミルラがクスクスと笑った。


「やっぱり、勘違いをしてる」


「勘違い?」


「私は『黒猫子猫』。あの子達は『黒猫子猫』に保護されている一般人。結城家や真柴家、そして、海道駿達に関わってしまった親の子供。簡単に言うなら第76移動隊の敵だった子供かな」


その言葉に私は少しだけショックを受けていた。第76移動隊はみんなを守るために戦っていた。でも、被害者が目の前にいる。


もし、真実を知ったならどうなるのだろうか。


「今の私は保護者。通報するなら別にいいけど、あの子達をどうにかするなら私は抵抗するよ」


「正義って、何だろう」


『GF』は本当に正義なのだろうか。


「正義なんてこの世にはないよ、お姉ちゃん。でも、お姉ちゃんならその意味がわかっているんじゃないかな?」


「えっ?」


「正義の答えは我が心の中にあり。ちょっとお節介すぎたかな?」


「ううん。助かった」


「それなら良かった。じゃあね。また、戦場以外で会えることを祈って」


ミルラが立ち上がる。そして、夢と遊んでいる子供達に向かって歩き出した。


正義の答えは我が心の中にあり、か。


「考えないとな。これからのことを」


私は静かに息を吐いて空を見上げた。

まさに、正義とは何か、です。これからの第76移動隊を取り巻く環境はまさにそれなので。

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