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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第七十八話 対策

「そなた、阿呆じゃな」


ガルムスを見送った僕に対してアル・アジフさんが容赦なく言い放ってきた。まあ、売り言葉に買い言葉だったから言われても仕方ない。


だけど、アル・アジフさんが言ったのはそれだけを含めているわけじゃないよね。


「ダークエルフの修繕は間に合う。じゃが、リアクティブアーマーは間に合わん。つまりはFBDシステムを起動させた状態で戦わなければならぬのじゃ。それで悠遠の翼持ちの相手と戦わなければならぬのだぞ」


「無謀すぎるよ。ソードウルフはそもそも私の背丈に合わせて改造しているから悠人には乗りにくいし、イグジストアストラルはそもそも反則だし」


「相手が『天聖』である以上、イグジストアストラルを使わない方がいいかもしれませんね」


その言葉に僕達は首を傾げた。いったいどういうことだろうか。


「『天聖』は『栄光』や『天剣』とは違い『悠遠』や『加護』よりの能力です。能力は空間制御です」


空間制御?


その言葉だけでアル・アジフさんは納得したのか呆れたように溜め息をついていた。


「空間制御、か。ならば、『悠遠』の力はどうなるのじゃ? あれこそまさに空間制御であろう」


確かに、ルーイの『悠遠』はまさに空間制御になるだろう。あれは空間と空間の間に穴を開ける。それを二カ所で繋げることで機能する。


あれだけは僕の勘が無ければ避けることは難しい。というか、あれを避けられるのは僕くらいだと思うけど。


「あれとは少し違うタイプの空間制御です。天なる聖の力を操る機体。悠遠の翼の中で一番上位に位置する機体でもあります」


どうりでパイロットがあんなにも態度が大きいというわけか。ルーイには一目置いているみたいだけど、自分の方が上だと思っているに違いない。


「『天聖』の力は身を強くする『栄光』や剣を作り出す『天剣』には通用しませんが、防御壁を作り出す『加護』や空間を歪曲させる『悠遠』には天敵と言える能力です。詳しくは知らないのですが、ルーイは封じられると言っていました」


「そのルーイは?」


「今は麒麟工房に。式典に向けてアストラルルーラを綺麗にするそうです」


微整備ということは明後日に戻ってこられる可能性は高いけど、明日には間に合わないよね。


ルーイから話を聞きたかったんだけどな。


「今は『天聖』について知るのが先決じゃろう。他には何か情報はないのか?」


「すみません。『天聖』だけは未だに未解明な部分が多くて」


「なるほどの。悠人。そなたは『天聖』について調べるのじゃ。我は今すぐダークエルフの修理に取りかかる。対策が決まったらすぐに来るように」


その言葉と共にアル・アジフさんはアル・アジフに腰掛けて空に浮かび上がった。相変わらずの不思議スキルだよね。


『悠遠』とは少し違う空間制御の能力。しかも、『悠遠』を封じ込めるものか。


うん。全く想像がつかないや。


「ふぅ。お手上げだね。リースは何か思いつかない?」


「全く。私はフュリアスに詳しくない」


「そもそも『悠遠』の力がどんなのかから考えてみた方がよくないか? 『天聖』は同じ空間制御の『悠遠』を封じ込める力があるんだろ?」


浩平さんの言葉にその場にいた誰もが固まっていた。浩平さんだけは不思議そうに僕達を見ている。


まさか、あの万年留年ギリギリの成績をキープしている浩平さんからそんな案が出てくるなんて。ある意味奇跡のように思えるのは僕だけだろうか。


「奇跡」


いや、リースが完全に口に出していた。


浩平さんは呆れたように溜め息をつきながらも苦笑する。


「いや、まあ、『悠遠』について詳しく分かっていないだけなんだけど。でも、周は俺にこう言ってきたことがあるぜ。『お前は馬鹿だ。だから、最初から考えろ』ってな。まあ、理解するのに三年かかったけど」


「馬鹿」


「馬鹿だよね」


「馬鹿だね」


「馬鹿ですね」


やっぱり浩平さんは馬鹿だった。


「でも、考え方としては悪くはないですね。『悠遠』については図書館の書物に詳しいものがあります。そこで相談しましょうか」


「図書館で相談? 他人に迷惑」


リースの言う通りだけど、メリルが言うことだから必ず何か考えがあるに違いない。現に、メリルはクスッと笑っている。


「そうですね。ですから、図書館にある部屋を利用するんです。そこなら話しても大丈夫ですから」






目の前にある本を手に取る。そして、ページをパラパラと捲り、元に戻す。


そうした作業をリリィはひたすらに繰り返していた。自由時間となってすぐにリリィはここに来ていた。調べているのはフュリアスについて。しかも、悠遠の翼について。


「詳しい資料が少ない。せめて、詳細なものがあればな」


リリィが目をつけたのは技術的には不可能なものでありながらそれぞれが異なった能力を発揮出来るところ。


どう考えてもカラクリがあるとしか思えない。だけど、いくら探したところでそのカラクリは容易には見つからなかった。


あるのは構造、の推測と原理、の推測だけ。事実はどこにも書いていない。


「フュリアスの原理に近いもの、だと書いてある書物は多いけど、悠遠の翼はエネルギーを作り出すものではあるけど内部から作り出したエネルギーを供給するものなのよね。他の出力エンジンは魔力粒子をエネルギーに変換するもの。似ているようで違うのに。自立的なエネルギー機関と考えても、特殊能力がどういう原理か理解出来ないのよね。バラしたいな」


「お勉強ですか?」


その質問にリリィはその場で飛び上がりそうになった。だが、それを必死に堪えて振り返る。


そこには都と琴美の二人の姿があった。二人共、リリィに対して全く警戒していない。


「あなた達は?」


「都築都と」


「そういう意味じゃなくて、というか、名前は知っているから。あなた達はどうしてここに? フュリアスに対する書物は多くても、基本的な項目に対する書物は人界より少ないのに」


「勉強です」


そう平然と答えた都に対してリリィは空いた口が塞がらなかった。対する都はニコニコしたまま近くの本棚から一冊の本を取り出す。そして、椅子に座ってその本を読み始めた。


リリィはただ呆然とするしかない。


「そんなに驚かなくても。まあ、都もフュリアスについて調べたいと思っていたから」


苦笑混じりにリリィに話しかける琴美にリリィは呆然としていた口を閉じた。


「どうして? 『光学兵器』の異名を持つ都築都なら調べなくてもいいのに」


「都、『光学兵器』なんて呼ばれているのね。まあ、本気の都はシャレになっていないけど」


溜め息をつきながらも琴美はどこか警戒した雰囲気でリリィに話しかける。


「前の戦いで都は自分の力を最大限まで発揮出来なかったから悔しがっているのよ」


「悔しくありません」


「まあ、本人はこう言っているけど。私からすれば戦術に押さえ込まれたって感じかしら。そういうルーリィエこそ、こんなところで勉強」


「フュリアスについて詳しくなれば、いざ戦いになった時でも応用出来るから」


「嘘ね」


即答だった。リリィは完全に固まってしまう。そんなリリィの姿が面白いのか琴美はクスッと笑った。


「フュリアスじゃなくて、悠遠の翼、について調べている。違うかしら」


「どうして」


「どうしてわかったのかって? 強いて言うなら勘だけど、まあ、私と同じだから、かしら」


そう言いながら琴美はリリィの後ろから一冊の本を取り出した。そして、ページを捲る。


「悠遠の翼は不思議な部分が多い。それはあなただって分かっているでしょ?」


コクリと頷くリリィに琴美はニコッと笑みを浮かべた。


「それを調べるの。私は科学者じゃないし技術者でもないから詳しいことはわからないけど、素人は素人なりに調べておけば、それだけで意見にはなるし対策にもなる。悠遠の翼への対策は一応は必要だから」


琴美の言う言葉はもっともだった。そもそも、悠遠の翼の機体は音界にしか無い上、大なり小なり強力な能力を持っている。それを考慮すればフュリアスのパイロット以外でも対策を立てるのは間違っていない。


ただ、都は一心不乱にフュリアスについての書物を読んでいるが。


「六つしか無いとされる悠遠の翼はかなり性能が高いわ。だから、あなたも危険視した。違う?」


「なんでこうも隠し事が出来ないんだか。ええ、そうよ。悪い?」


「悪くはない。だって、フュリアスへの対策はどこでも急務だから。まあ、スパイに見られなくはないけど」


「勝手にしなさい。覚悟はしているから。それに、白川悠聖と約束したこともあるし」


そう言いながらリリィは本を手に取った。


「殊勝な心掛けじゃな」


その言葉に、リリィは文字通り飛び上がっていた。そして、手に取っていた本をその場に落とす。だが、床に落ちるより先に琴美がその本を掴んでいた。


リリィがぎこちなく振り返る。そこにはアル・アジフや悠人達の姿があった。リリィからすれば会いたくない人物なのかもしれない。


「ちょうど我らも悠遠の翼について調べようとしていたところじゃ。そなたも手伝わんかの?」

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