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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第五十七話 入学の日 前編

学校生活スタート。ただし、一日目から波乱の幕開けです。


狭間市立狭間中学校。


そこがオレ達が入学する中学校の名前だ。音姉もここに編入する。


何故公立かと言うと、お金がないから。簡単な理由だ。


その入学式に参加するためオレ達はやって来ていた。


「なあ、周隊長」


「なんだ?」


「すっごく見られていないか?」


悠聖が周囲を見渡しながら言ってくる。確かに、オレ達はかなり異質だ。


入学する大半が親がいる。両親のどちらかだ。なのに、オレ達は固まっている。ある意味音姉が親代わりみたいだ。


「今更だろ。オレ達が入学すれば嫌でも目につくさ。でも、羨ましいな」


オレは親子を見ながらそう言った。義父さんや義母さんは仕事が忙しいから来れない。だから、オレ達はみんなでいる。


「考えても仕方ないし、行くか」


「周君! こっちこっち!」


声のした方を見ると、そこにはぴょんぴょん飛び跳ねる千春がいた。側には都や琴美がいる。


「よっ」


オレは三人に近づきながら片手を挙げた。


都は頭を下げて、琴美は小さく笑っている。千春はオレに駆け寄ってきた。


「入学おめでとうだね。ボク達は君達を歓迎するから」


「千春は何かの役職についているのか?」


「うん。入学式の警備担当だよ。ちなみに、生徒会長は都だからね」


「千春、止めてください。私はお祖父様がいるからなったようなもので言いふらすものではありません」


都はどこか恥ずかしそうに言う。


オレは小さく笑みを浮かべた。


「つまり、無理やりやらされていると」


「違います。自分で立候補しました」


「だったら、胸を張っていいだろ。というか胸を張れよ」


「はい。そうですね」


都は小さく頷いて笑った。うん、都は笑った方が可愛いや。


「で、琴美は?」


「別にどうでもいいという言い方ね」


「一緒にいるのはわかるけど、何か役職についているのか?」


「裏方よ。私は、この学校で嫌われているから」


ただ巫女に選ばれたという理由だけではないようだ。前からいじめられていると考えた方がいいか。


都は不思議そうに首を傾げた。


「皆さんは?」


「後ろにいないか? いないな」


オレが振り返ればそこに誰もついて来ていなかった。変わりにアル・アジフ達と話している姿がある。


オレは小さく溜息をついた。


「ったく。まあ、音姉がいるから大丈夫か。まあ、異質な集団だけどよろしく頼むな」


「はい。入学式のプログラムは」


「まずはクラス分け。それからクラス単位で体育館に入場して入学式の開始。違うか?」


「はい。クラス表は、今張り出されてますね」


都が向いた先にある壁にちょうど先生らしき姿が紙を貼り付けていた。あれがクラス表なのか。


オレは小さく頷く。


「じゃ、オレは見てくるわ」


そう言ってクラス表に向かう。ちょうどたくさんの人がいるが、オレは誰ともぶつからないように上手くクラス表の前に出た。


クラス表は全部で五つ。三十人学級だから全部で百五十人か。


一組には、亜紗と中村の二人か。二組はオレと由姫。三組に孝治一人で、四組は悠聖一人か。上手くバラけたな。


オレは小さく息を吐いた。


「亜紗は大丈夫かな? まあ、考えても仕方ないか」


「そうじゃな」


いつの間にかアル・アジフが隣にいた。明らかに異質な組み合わせにスペースが開く。


オレはまた小さく溜息をついた。


「つか、何でここにいるんだ?」


「そなたらを見に来たでは駄目かの。その様子じゃと、もう落ち着いたみたいじゃな」


「覗いていたのか?」


「ちょうど帰ったところじゃったからの。まあ、年相応だったと言っておこう」


「恥ずかしいな」


もちろん、そういう気持ちは口だけにしておく。本気で恥ずかしいと思うのは都だけだから。


オレは小さく息を吐いた。


「写真、撮ってもらえないか? オレ達や都達を入れて」


オレはそう言いながらレヴァンティンを取り出した。


時雨や慧海、そして、お父さんお母さんに見せる写真を撮らないといけないから。


「みんな、写真撮ろうぜ」


だから、オレはみんなに駆け寄った。







一年二組。


オレと由姫が一緒に配属されたクラスだ。ちなみに、オレは海道周と名乗っているけど戸籍の上では白百合周だ。だから、席の順番は由姫の前で、一番後ろだった。戸籍も海道で通したかったけど、戸籍だけは白百合にしないと法律に引っかかる。


オレは席を座りながら溜息をつく。


明らかにオレを見る目が不審だ。どうしてかわからないけど。ただ、


「つか、なんでオレと由姫が同じなんだ?」


それだけは疑問に思っていた。どちらも白百合を名乗る以上、ちょっとややこしいことになるはずなのに。


「俺、篠宮和樹って言うんだ。お前の名前は?」


すると、前の席に座っていた男子が声をかけてきた。


とりあえず、応じないとな。


「白百合周ってことになっているけど、海道周って名乗らせてもらうさ」


「白百合なのに海道?」


「おそらく、養子なのだろう」


篠宮の前に座る男子が立ち上がってよってくる。


「なーに、これくらい考えれば算数より簡単な式だ。養子になった子供は旧姓を名乗ってもなんらおかしくはない。ただ、戸籍は白百合なのだ」


「そうなるな。ちなみに、前にいる白百合由姫とは義理の妹だ」


「ほう、詳しく話を聞かせてもらうとしますか。佐々木、手伝え」


佐々木と呼ばれた男子は髪をかき上げた。


「いいだろう。この佐々木俊輔にかかれば捕虜の口を割ることなど造作ない」


「捕虜の口を割るっていつの間に捕虜になったんだ?」


「可愛い女の子を知る者がいる。なら、捕まえても文句はない」


「おおありだ」


オレは小さくため息をつくと、由姫の方を見た。由姫は由姫で近くにいた女子と話している。


これなら、上手くやっていけそうだな。


「ま、その話は置いておいて」


「ほう、和樹が女子に興味を持たないとは」


「聞きたいのは、お前はあの海道周なのか? 春休みに来た第76移動隊のメンバーの」


その言葉に周囲が静かになり、視線が向かってくる。いつ来るかと思っていたが案外早かった。


オレは頷いた。


「ああ。第76移動隊隊長海道周だ。まあ、こんな肩書きあるけど気にせずに」


「サインください」


いつの間にか篠宮が土下座をして色紙をオレに差し出していた。つか、座っていたよな?


オレは小さく溜息をついた。


「誰がやるか」


「プレミアつくだろ? 俺は絶対そう思う。だからよ、サインください」


「やらない。オレはまだあまり有名じゃないんだ。スーパースターのようにサインは出来ない」


「そこをなんとか」


「あのな」


オレは小さく溜息をついた時、にわかに廊下が騒がしくなった。オレは廊下の方に視線を向ける。


普通は騒がしいと感じるだけだが、今回は嫌な予感しかしない。


由姫がこっちを向くが、オレはまばたきを三回すると由姫は何事もなかったかのように話に戻っていった。


「廊下が騒がしいな」


「どうせ、下小の奴らが騒いでいるんだろ」


「下小?」


「狭間市立坂下小学校のことだ。ここの半分は下小から入ってきた奴ら。俺や和樹は別のところだ」


集合型の街である以上、校区によってバラバラな場所から来るのはおかしくはない。ただ、その比率は均等にはならない。


下小の面々は廊下で仲良く談笑しているというわけだ。


「ただ、気をつけた方がいいぜ。下小の奴らからいい噂は聞かないからな」


「例えば?」


「小動物を殺し回っているとか、身体障害者が転校してきた1ヶ月後には転校したとか。やりすぎな感じが多い」


嫌な予感がする。


冷静になりながら耳に神経を集める。聞こえてくる方角は一組から。言葉は詳しくは聞こえない。


オレは席から立ち上がった。


「どうしたよ?」


「様子を見てくる」


「ただ騒いでいるだけだろ。放っておけって」


「もし、知り合いの障害者がいるなら?」


オレの言葉に篠宮と佐々木も立ち上がった。


「早く言えって。場所は?」


「一組だ」


「行こうぜ」


オレは早足で教室を出る。そして、一組を覗き込んだ。そこには、囲まれている亜紗の姿。


オレが教室に入り込もうとすると、入り口を数人の男子が塞ぐ。


「人様のクラスに何の用だ?」


「ここは任せておけ」


佐々木がそう言ってオレの横を抜ける。どうやら説得してくれるようだ。


「愚民共が。この佐々木俊輔様の道を塞ごうとするとは愚かにもほどがある。貴様らに脳はあるのか?」


あまりの言葉に佐々木以外の周囲にいた全員が固まった。


「ないだろうな。小さなことのために他人の道を塞ぐなど底辺にいる下等な人間すらしない。そうか。お前らはただの虫けらか。だが、虫けらの分際で俺の前塞ぐなど百年早いわ」


「な、なんなんだよ、お前」


男子は明らかにうろたえていた。そして、微かに後ろに下がって道が開いた瞬間にオレは動いた。


体を捻り、その道に体を滑り込ませて教室の中に入る。すぐに近くの机に飛び乗って跳躍し天井に足をつけ、亜紗の横に向かって飛んだ。


そして、着地する。


『周さん』


亜紗がスケッチブックをオレに見せてくる。


「何の騒ぎか知らないが、興味本位で参加させてもらうぜ。とりあえず、何が起きているかは聞かせて欲しいな」


オレは亜紗の手を軽く握って離した。


興味本位ではなく、亜紗が心配だから参加したということを表すために。


「その女が一言も喋らないからだ」


「喋らないから囲んだ?」


「スケッチブックで会話しようとする憎たらしい奴はこのクラスに相応しくないからな」


オレは自分を落ち着かせるのが大変だった。ただ、亜紗のことを知らないだけだと言い聞かせる。


「ただ、こいつが話せないだけじゃないのか? 怪我とかで喉がやられたとか。オレの知り合いに戦いで斬られて小指がない人もいるしな」


「体に欠陥がある奴を俺達と同列に扱えって? バカ言うなよ。人間ってのはな、五体満足で正常な奴のことを言うんだよ。そうだな、そいつはただの虫だ。虫がスケッチブックなんて持つわけないよな」


オレは頭の中で最後の一線が切れそうになっていた。ここでキレたら後悔はしないだろう。


だけど、最後の一線は切れなかった。何故なら、横開きのドアが倒れたからだ。教室側に向かって。


そこにいたのはドアを蹴倒した由姫の姿。


オレがキレるより先に由姫がキレたか。


由姫はオレ達に近づいてくる。


「その理論だと、あなた達はゴミですね」


どうしてみんな、喧嘩したがるんだろうか。


「人間を人間と見なさないのは人間ではありません。ただ、あなた達は服を着ているのでよく袋に包まれるゴミが似合ってますね。ゴミの皆さん」


由姫はにっこり笑みを浮かべながら言う。


この状態の由姫は本気で怖いんだよな。実力者にしかわからない殺気がびんびん出ているから。


どうして実力者にしかわからないかと言うと、額に汗をかいているのがオレと亜紗だけだからだ。


一番近くにいた男子が由姫に手を上げた。拳を握り振り上げる。そして、由姫を殴った。いや、その男子からすれば全力で殴ったつもりだろう。


由姫は体をそらして微かに拳が当たるだけで済む。そして、体がぶつかってきた男子を簡単に投げ飛ばした。男子は背中から床にぶつかる。


「汚いゴミを制服に着けないでくださいね。後、あなた達は近づかないでください。体がゴミ臭くなるので」


オレはもう溜息をつくしかなかった。


由姫は挑発はするが自分からは殴っていない。これならいくらでも弁解は出来る。


「言いたい放題言いやがって!」


数人の男子が由姫に飛びかかった。オレ達はその隙に亜紗を連れて包囲から出る。


包囲から出ると、服が乱れてすらいない由姫が立っていた。ちなみに飛びかかった男子は全員床に転がっている。


「くんくん、体がゴミ臭くなっちゃった」


まだするのか我が義妹よ。


「調子にのんな!」


すると、立ち上がった男子が椅子を持ち上げて由姫に向かって投げた。由姫は避けようとして、椅子との対角線上に倒れている男子がいることに気づく。


オレはレヴァンティンを取り出した瞬間、由姫は椅子を蹴り上げた。


バキッという音と共に椅子が天井に突き刺さる。

「正当防衛してもいいですよね? 椅子を投げるということは殺す気だったということですし」


「お、親父に言いつけるぞ! 俺の親父は市長の」


「知り合いですか? それで?」


「えっ?」


「たかがそんな小物の子供に私が頭を下げるとでも? 甘く見ないでください。そんな奴に頭を下げるほど、私は自分の行動に後悔していませんから」


オレは小さく溜息をついた。


由姫の圧倒的な力でこれ以上は何も起きないだろう。だから、閉めにかからないと。


「お前らは中学生になったんだろ。だったら少しは考えろよ」


誰もが静かにオレの話を聞く。


「小学生のまま、無邪気に誰かをいじめても、ただ怒られるだけですむかもしれない。だけど、大人になってやればそれは問題だ。自分が強いという気持ちを持ちたいのはわかるさ。だけど、それで誰かを不幸にしていいのか? 自分だけが幸せになっていいのか? 違うだろ。みんなで仲良く過ごす。みんなで思い出を作る。それが、学校だ。考えることを学び、人間関係を学び、小さな社会を知る。それがこの学校の役割だ。誰かを虐げる場所じゃない」


オレはそう言って紳士っぽく礼をする。


「ご静聴ありがとうございました。まあ、オレの自己紹介でもしておくわ。第76移動隊隊長海道周。何か厄介なことがあるならいつでも相談に来てくれや」


もちろん、静寂があっという間に喧騒に変わったというのは誰もが思うだろう。



このまま学校生活が続きます。一応、物語の分岐点までですね。


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