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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第七十七話 歌姫の騎士

「どうやら、覚悟を決めたようですね」


みんなの元に戻った僕達に対してメリルが真剣な表情で口を開いた。


リースが僕を振り返り小さく頷く。その頷きに頷きを返すとリースは僕から離れて浩平さんの隣にまで戻った。


ここからは僕が言わないといけない。


「決めたよ。これからどうするかを」


「そうですか。ですが、先に道を示しておきます。悠人が少しでも迷っている可能性があるので」


「信用ないね」


僕は思わず苦笑してしまった。でも、メリルの言葉は間違ってはいない。僕は未だに具体的な案が決まっていないからだ。


だから、正直に言ってかなりありがたい。


「一つは今まで通りに第76移動隊として活動すること。ダークエルフの修理に時間がかかるため、その間は音界から機体を一時的に貸し出します」


第76移動隊にフュリアスは余っていても、強襲航空空母のエスペランサがここにはいない。だから、貸し出してもらえるのはありがたい。


「一つは戦いを止めて平和に暮らすこと。音界ではなく人界にはなりますが、戦いとは無縁の生活になります」


その選択肢だけは選ばない。そう決めている。


「一つはイグジストアストラルのメインパイロットになること。イグジストアストラルは副座式であり、鈴はサブパイロット、つまりはオペレーターの訓練を受けています。イグジストアストラル自体が強力なフュリアスであるためあなたの力を生かせると思います」


問題があるとするならイグジストアストラルとの相性はそれほど高くないんだよな。照準装置も使えないし。


鈴は射撃オンチだから使えているだけ。


「一つは音界でパイロットとなること。悠人ならすぐに悠遠の翼を持つ機体に乗れるはずです。今から、というわけではありませんが」


確かにそれなら強力な機体を手に入れられる。ルーイもいるから訓練相手には困らない。


「そして、最後が『歌姫の騎士』になることです」


「『歌姫の騎士』?」


「はい。最強のパイロットが名乗れる称号であり、私の護衛です。今までルーイが兼任していました、示した中で二番目に強い機体を手に入れられる道です」


「二番目? そんなに重要な役目なら一番で手に入れられそうだけど」


「それは秘密です。悠人、あなたはこれを式典までに選んでください」


期限は今日を含めて三日、ということだね。でも、何をするかはもう決めているけど、一応は聞いておこうかな。


「アル・アジフさん。もし、すぐに機体を用意出来るとしたならどんな機体になるの?」


「そうじゃな。『GF』の最新型試作機のギガントかレオパルト。又は、日本のイージスじゃな」


「メリル。もし、すぐに機体を用意出来るとしたならどんな機体になるの?」


「今のところは式典用アストラルブレイズ。『歌姫の騎士』になるなら、三日後には最新型を、音界側になるなら、二日後には悠遠の翼を持つアストラルソティスを渡せるはずです」


『歌姫の騎士』だけは特別、ということか。式典の時に最新型を渡すのだろうけど、おそらくアストラルリーネになるに違いない。


あの機体でもストライクバーストには厳しいかもしれないけど、希望はある。


「僕を、メリルの『歌姫の騎士』にして欲しい。ストライクバーストに対抗出来るからじゃない。僕が望むこれからの姿に一番近づけるものだから」


「待って」


僕の言葉を遮るようにリリーナが一歩を踏み出した。その手にはいつの間にかアークベルラが握られている。そのアークベルラが静かに僕に向けられた。


最初からそのつもりだったのだろう。多少の緊張はあれど誰もが驚いてはいない。


「悠人はどうして『歌姫の騎士』になるの? それが一番、敵を殺せるから?」


僕の返答次第では殺すつもりなのだろう。そう決めているはずだ。


「うん。敵を一番倒せるから」


その言葉にリリーナのアークベルラを握る手に力がこもった。


「僕はこれから苦難の道を行くと思う。ずっと、ずっと戦っていかなければならないと思う。平和に暮らして欲しいと思っているみんなには申し訳ないけど、僕は戦う。戦わなければ守れないものがあるから」


「たくさん殺すよ。きっと、悠人は変わっていく。狂っていく」


「うん。たくさん傷つくと思う。でも、みんなも同じだから。みんな傷つきながら戦っている。それなのに、僕だけが傷つかないために戦うのは間違っている。だから、僕は戦う。みんなと一緒に。そして、守りたい人を守るために。傷つく人を少なくするために。ダメ、かな?」


「ダメじゃない。ダメじゃないけど、私は、悠人が変わるのが怖い。あの時のように、ころすことを楽しむようになった悠人を見るのが怖い。だから」


「大丈夫」


確証はない。確証はないし、約束もできない。それなのに、僕は大丈夫だと言うことが出来た。


「みんながいるから。一人で戦っているんじゃないから」


すると、リリーナは小さく息を吐いてアークベルラを下ろした。


「そんな風に思っているなら、私も頑張らないといけないじゃない。悠人のバカ」


「ごめんね」


「悠人。それは、あなたが一人で考えた選択ですか? どうしても、リースさんが何らかで関わっているようにしか思えないのですが」


確かにそのように思うだろう。でも、これは僕の考えだ。


「だったら、メリルは歌姫の力を使えばいい。歌姫の強制力は竜言語魔法程度じゃ破れない。僕は自分で決めたから。戦うことを」


「悠人」


「僕を『歌姫の騎士』にして欲しい。もちろん、メリルが望まないならしなくてもいい。だから」


「そう勝手に、人界の人間を『歌姫の騎士』にされては困りますな。歌姫様」


その言葉にその場にいた全員が振り返っていた。


そこにいるのはパイロットスーツを着た坊主の男。ただ、身長は190近くあり、体格もよく、顔が爬虫類じみているような気もする。


「『歌姫の騎士』は音界の人間がなるもの。それを見ず知らずの子供に与えたなら、それこそ笑い物になるでしょう」


男がゆっくり近づいてくる。それを見るメリルはどこか苦虫を潰したかのようになっていた。


「あなたですか。ガルムス」


「『歌姫の騎士』に相応しいのは最強の俺だと思いませんか? こんな子供が俺の乗る『天聖』アストラルソティスに勝てるとでも?」


つまり、ルーイ、クーガー、ラルフ以外の悠遠の翼持ちの男。


「ルーイに今まで地位を譲っていましたが、それは音界の人間だったから。人界の人間、フュリアスの技術がろくに確立していないような世界の住人を名誉ある『歌姫の騎士』にするなら、俺が名乗り出ますよ。俺の方が強いから」


その言葉には少しカチンときた。こいつは確かに強いだろう。でも、戦ってもいないのに僕に勝てるように言うなんてすごくいらつく。というか、殴りたい。


でも、殴っても効果はないから勝負をつけないと。でも、ダークエルフは壊れているしな。


「わかりました」


「では」


ガルムスの顔が輝く。だが、メリルは僕を見ていた。


「あなたが本当に強いか私に証明してください。私の中では悠人が、彼が最強ですから。悠人に勝てるというなら、私は『歌姫の騎士』の選定を最初からやり直しましょう。今年はルーイになりますが」


「構いません。俺はこの子供がなるのが嫌なだけですから。機体は、俺の機体を使ってもいいのですね?」


メリルが僕を見てくる。だから、僕は頷いた。


「そもそも、別の機体で負けても、あなたは難癖を付けるだけだよね。だったら、お互いの最高の機体を使えばいい。ただ、僕の機体は中破、大破に近いけど、そういう状態だから、修復するまで時間が欲しい」


「いいだろう。こんな余裕の勝負、欠伸しながらでも勝てるさ」


ガルムスが笑みを浮かべる。それに対して僕は笑みを浮かべた。


「いいよ。何なら、僕はレバーを握らずに勝ってあげるから」

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