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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第五十五話 白百合流秘剣

音姫を出したのが久しぶりすぎて若干キャラがブレている可能性があります。というか、本当にいつ以来だろうか。

腰を落とした音姫に対してミルラとラウの二人は必要以上に距離を取る。音姫が使う白百合流は間合いに入れば並の使い手ならば簡単に倒されるからだ。距離を取ることは正しい。だが、間違っている。


音姫は小さく笑みを浮かべながら光輝の刃を少しだけ鞘から抜いた。そして、パチンと鞘に収める。


「そんな馬鹿な話があるか! 僕達が動いているという話はほとんど人界に伝わっていないはずだ! それに、世界を跨いでの移動は第76移動隊の権限には入っていない!」


第76移動隊は国を越えての移動は無許可で可能だ。もちろん、必ず入る旨を伝えなければならない。ついでに拒否は出来ない。


だが、それは世界間に関しては全く意味のないものだった。音界や魔界に第76移動隊は強硬侵入は出来ない。本来なら。


「そうだよ。未だに天界とはその協定を結んでいないから。でもね、運がいいと言うべきかな? メリルもギルガメシュさんも協力的だから」


「天界以外なら、どこでも侵入出来るということか」


絶句するラウに音姫は頷きを返した。


「弟くんや悠人くんが築き上げた絆だから。私はそれを信じている」


「だ、だが、僕達はまだ負けていない。あの白百合音姫と言っても速度では僕には勝てないはずだ!」


「駄目! ラウ!」


ラウが床を蹴る。もちろん、狙いは音姫だ。だが、対する音姫は柄から手を放した。


ラウは鞘に入った刀を抜こうとして、その場に沈み込んだ。よく見ると、切り裂かれた床がラウの体重に耐えきれず陥没したのだ。


ラウはすかさず後ろに下がる。


「うーん。やっぱりイマイチかな」


「音姫、何をしたの?」


何が起きたかわからない冬華は音姫に尋ねた。音姫は振り返ることなく光輝を鞘から抜き放って床を砕いた破片を宙に打ち上げる。そして、光輝を鞘に収めた。


光輝が少しだけ鞘から抜かれ、パチンと収まる。その瞬間、打ち上げられた破片が砕けていた。


「白百合流秘剣第一節『紫電零閃』。鞘から抜き放たれた瞬間から戻るまで零の間に済ます秘剣の一つかな。私の場合は予備動作がいるけど」


冬華からすれば完全に見えなかったというのが正しい。本来の紫電零閃を見切れるのは反応速度が一番速い時雨くらいだろうが。


ラウは悔しそうに顔を歪める。速さで勝てると思っていた相手にそれ以上の圧倒的な速さを見せられたのだ。しかも、白百合流で紫電が付く名前の攻撃は危険だとわかっている。


おそらく、『黒猫子猫』が一番戦いたくない相手だろう。


「来るなら容赦はしない。御希望なら、秘剣第八節までお披露目するけど」


「それが世に聞く最強の白百合流の由縁なんだね。噂では聞いていたし、白百合音姫がまだ使わないと言う話は聞いていたけど」


「使えることには使えたけど、どれも完全じゃなかった。これも第九節と最終節を除いて学園都市騒乱から死に物狂いで習得しようとしたものだから。来る? それとも」


「引く、しかないよ。ラウ、下がるよ」


「嫌だ」


ラウがゆっくり腰を落とした。それにミルラが声を荒げる。


「力の差は歴然だよ! 黒猫様か教えられたことを覚えていないの!?」


「覚えているさ! だけど、我慢ならない。こんなところで僕は、負けないんだ!」


ラウが床を蹴る。対する音姫は小さくため息をついて、光輝を鞘から抜き放った。高速の居合が宙を裂き、ラウが体を捻ってそれを避ける。すかさず地面を踏みしめてラウが刀から鞘を抜き放った瞬間、翻った光輝が抜き放たれた刀の刃を砕いていた。


「白百合流秘剣第三節『雲散霧消・一閃』」


雲散霧消は本来勢いを利用する剣技。だが、この雲散霧消・一閃は紫電一閃からの返しの振り下ろしだった。一応、よく似た技に紫電逆閃は存在するが、それとこれとは大きな違いがある。


紫電逆閃はその後の攻撃も視野に入れられているが、雲散霧消・一閃は完全な振り下ろし。その後の行動を完全に捨てた全力の振り下ろしだった。


ラウはすかさず音姫から距離を取る。そして、砕けた刀を地面に叩きつけた。それと同時に光り輝く光輝が色を失う。


「神剣に対して絶大な力を発揮する光輝。無名の神剣でも難なく砕くんだね。さすがは白百合音姫だよ」


「多分、普通の刀でも砕けるんじゃないかな? 雲散霧消・一閃はそのための秘剣だから。どうするの? 弟くんからは私はここにいる人を守るように言われているから、逃げ出せば私は追いかけないけど」


「私は、だよね。それに。扉付近に一人、隠れているよね」


「ばれてました?」


その言葉と共に姿を現すには髪を肩くらいにまで伸ばした由姫だった。その手には栄光が身に付けられている。


「まさか、白百合姉妹がどちらも来るなんて想像すらしていなかったな。ラウ。そろそろ引くよ」


「神剣まで破壊されて引けると思っているのか!? 僕は、倒すんだ。ここにいる全員を」


「そう。じゃあ、少しだけ痛い思いをしてもらうね」


音姫が静かに抜き身の光輝の先を床に向ける。そして、小さく息を吐いた。


誰が見ても好きの多い構え。この状態からではさすがの白百合音姫でも攻撃できないのではないかと思ってしまう。だから、ラウは動いていた。


床に手を当てて物理魔術による生成で刀を作り出すと、そのまま音姫に向かって駆ける。音姫はそんな姿を見て、少しだけ笑みを浮かべた。


「ラウ! 引いて!!」


ミルラの叫びはラウには届かない。そして、ラウが刀を振り抜こうとした瞬間、音姫の姿がぶれた。そして、駆け抜ける。それと同時にラウはその場に崩れ落ちていた。全身に傷を負って。


「白百合流秘剣第八節『琥珀乱舞・霧消』。やっぱり、まだまだ未完成かな」


「未完成でその威力なんだ。本当に脅威だね」


ミルラが音姫を警戒しながらも背後にいる由姫を警戒する。由姫は隙なくゆっくりと距離を詰めていた。


ミルラ一人では無理と言わざるおえない状況。この状況下で生き残れるとするなら海道周のような防御力の高い能力のあるオールラウンダーか善知鳥慧海のようなこの状況を跳ね返すくらい強い人物か。


そのどちらにもミルラは当てはまらない。だけど、ミルラは何もしないわけではなかった。


「これでも『黒猫子猫』のリーダーなんだから。簡単に諦められるわけがないよね。白百合音姫、白百合由姫。私は逃げも隠れもしない。だから、来たらどうかな?」


剣を握り締めて周囲を警戒する。すると、由姫が動いた。床を蹴り、神速の速さで駆け抜ける。ミルラはとっさに振り返りながら剣を振り抜いて、由姫がミルラの横を駆け抜けていた。


慌てて振り返ったそこには、この部屋に向かって飛来する何かの姿。


「八叉流突破『絶砲』!」


そして、窓を突き破って表れたその何かに由姫は栄光をぶつけた。その何かは跳ね返って窓から外に飛び出て爆発する。


その瞬間、ミルラは駆けだしていた。ラウを抱きかかえ、地面を蹴る。背後からの追撃は無い。


音姫はそんな姿を見送りながら光輝を鞘に収めた。


「音姉様!!」


そして、音姫の背中にメリルが抱きついてくる。音姫は少しだけ体勢を崩すが、すぐに耐えきってゆっくり振り返った。


「久しぶりだね、メリル。元気だった?」


「はい。今は何かと騒がしい状況ですが、私は元気です」


「姉さん。せめて、今の状況を考えてくれませんか?」


由姫が呆れながら上げていた腕を下ろす。すると、こちらに向かって飛来するはずだったガラスの破片が全て空中で止まっていた。それが全て地面に落下する。


「音姫も由姫ももう少し早く来てくれればよかったのに」


「ごめんね、冬華ちゃん。これでもかなり急いだつもりだったんだけど、七葉ちゃんの治療のために立ち止まったから」


「それに移動もさせましたしね。間に合ってよかったとは思いますけど」


その言葉に冬華は思い出す。


「七葉は大丈夫なの?」


「そうだよ。歌姫の力で治療したから」


その言葉を聞いた冬華は力が抜けてその場に崩れ落ちた。そして、安心したように息を吐く。


「良かった。本当に良かった」


最初、ミルラに七葉が死んだと聞いた時に冬華の中ではどす黒い怒りが渦巻いていた。その結果がクロウとジェシカの二人だ。


冬華は殺すために刀を振り、そして、殺した。だから、その衝動を抑えるためか冬華は自分の体を抱き締めた。


「悠聖、アルネウラ、優月」


そして、冬華が一番信頼している三人の名前を呼ぶ。それを見た音姫は冬華の頭を優しく撫でた。


「大丈夫だよ。きっと、大丈夫だから」


「音姫」


「今はゆっくり休んで。由姫ちゃん、悪いけど外に回ってくれる? 私はここを守るから」


「わかっています。姉さんも気をつけて」


「由姫ちゃんもね」


由姫が割れた窓ガラスから飛び降りた。それを見た音姫は小さく息を吐く。そして、音姫が視線を向けた方角はフルーベル平原の方角だった。


「さてと、みんな無事に頑張っているかな?」

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