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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第五十二話 子猫の目的

半開きドアを蹴破り雪月花を構える。だが、そこには予想していた人達ではなく、メリルと護衛の兵士達がこちらにライフルを向けていた。私は小さく息を吐いて雪月花を下ろす。


「大丈夫だった? 敵襲と聞いていたけど」


「はい。こちらは大丈夫ですが、軍本部と連絡は繋がっておらず、現在確認中です」


「さきにそっちを襲撃された可能性はあるわね。とりあえず、ここの守りは私も参加するわ。万全とは言い難いけど、これでもそこそこ強いわよ」


「ふふっ。頼りにしています」


ドアを閉じて周囲を警戒しながらメリルに近づく。


そう。私は万全の調子じゃない。体に無理を言って動かしている。多分、あの子なら必ずここに来るから。だから、私はここまでやってきた。


最後の覚悟を決めるために。


「それにしても、どうしてここが襲撃されたのでしょうか」


「考えられるのは少数精鋭による電撃戦。又は、フルーベル平原が囮で本隊はこっちに向かっていたか」


「軍本部から流れてきた最後の連絡では先遣隊が壊滅的な被害を受けたと聞いています。囮だとは考えにくいのですが」


「先遣隊の次、第76移動隊が苦戦する相手なら囮じゃなくて本隊でこっちが少数精鋭の工作部隊ね。連絡が無ければわからないけど」


「そうですね。ですが、不安なのです」


メリルは胸元で拳を握りしめた。


「何か嫌な予感がします。大きな何かが迫っているような」


「大きな何か? 詳しく説明できる?」


「いえ。詳しく説明することは出来ないのですが、大きな、とても大きな何かが迫っている。そして、たくさんの人が帰ってこない感じがするんです」


どういうこと?


私は微かに眉をひそめた。こういう時の勘は馬鹿にならないものだから信じた方がいい。だけど、それにしてはメリルの言葉はあまりに的を得ようとしている。


それに、『黒猫子猫』や黒猫の配下があの軍隊と戦うのは分が悪い。だから、あちらが本体の可能性は低いとしても、大きな何かが当てはまらない。ドラゴンならすでに感じているだろうし、ドラゴンを含めた本隊をこそこそ移動させるなんて真似は出来ない。


いや、待てよ。ドラゴンは移動できなくても、ドラゴン以外なら移動できるんじゃないかしら。例えば、ドラゴンを囮にすればそれだけで戦力は大きくなる。狭間市での戦いでも悠人ですらドラゴンに少しだけ苦戦したと聞いている。なら、ここにむかっているのはおそらく、


「フェンリル。少しだけお願いできる?」


私は雪月花を床に突き刺した。すると、雪月花がフェンリルの姿である狼を形取る。


「私の考えが正しければ危険があると思うから軍本部でもいい。ともかく、この街を守れる戦力があるところに伝えてきて」


フェンリルは静かに頷いた。そして、姿が消える。私は小さく息を吐いて窓の外を見つめた。


窓の外は見る限り平穏だ。でも、何時この静寂が破られるかがわからない。


「冬華さん。一体、何が」


「多分なんだけど。今ここにいるのは少数精鋭の『黒猫子猫』という敵の特殊部隊。そして、それを追いかけるように本隊の一部がこっちに向かっているはずだから。フェンリルに命じて街を守れる戦力のところに伝令として行かせたの。フェンリルなら止められる心配はないし」


「お見事です。お姉様」


その言葉に私は振り向いた。すると、ドアが大きく開かれる。


そこにいたのは私よりも少し幼い少年少女。そして、誰もが見知った顔を成長させた姿だった。


私は腰の刀を鞘から抜き放つ。


「やっぱり、あなた達だったのね」


「さすがはお姉様。こちらの思惑を感じてフェンリルを行かせるなんて。もう少し早くここに来る予定だったけど、お姉様の仲間に足止めをくらってね」


その言葉に私は微かに目を見開いた。そして、刀を握り締める。


「ミルラ、殺したの? 七葉を」


「そうだよ。七葉お姉さんは本当に強かったけど、私達の敵じゃなかったな。せめて、油断さえなければ私も少し冷や汗を」


「黙れ」


私はミルラの言葉を遮った。そして、刀を構える。


「殺す。あなた達は私が殺す」


「味方がやられたから敵討ち? お姉様にしてはかっこ悪いな」


「黙れ!」


私は怒りに身を任せて床を蹴っていた。ミルラの隣にいたクロウとジェシカが剣を握って私の前に跳び出す。だけど、遅い。


すかさずクロウの懐に向けて一歩を踏み出す。クロウはそんな私を見て目を見開き、私の持っている刀が魔力を纏ってクロウを防御魔術ごと両断した。血が体にかかるのを構わずその場に踏みしめて回転するように刀を振る。


ミルラは後ろに下がっているけど、斬りかかってきたジェシカの胴体を切断し、返した刃で首を飛ばした。


降り注ぐ鮮血。人体だったものから赤黒い臓器が飛び出し、その表情は痛みに染まっている。私はそれを踏みつけながらゆっくりミルラに近づいた。


「あはははっ。お姉様、昔に戻ったんだね。私は嬉しいな」


「そう。なら、死んで」


前に一歩踏み出しながらの振り下ろし。だが、それは剣に受け止められた。


「お姉様に私がどれだけ強くなったか見てもらうために私はまだ死ねないんだよね」


「だったら、本気でいってあげる!」


鍔迫り合いに持ち込んでいた状態からすかさず力任せに剣を押さえつける。対するミルラはすかさず剣を返して首めがけて振った刀が受け止められた。そのまま私は回り込むように動くが、ミルラも同じように動くため鍔迫り合いのままになる。


私は一歩後ろに下がり、そして、前に踏み出した。刀で剣を払うような軌道を取って攻撃していく。直接当てるようにすれば受け止められやすくなる。だが、当てるのではなく相手の武器を弾くことを念頭に置けば受け止められるのはされにくくなる。


ミルラは私の動きに必死についてくる。だが、その動きに鋭さはない。


技術が極めて高いと言われてるオールラウンダーは力や速さでは劣る。周がいい例だ。だから、このまま攻め立てる。


「あなたの敗因は、オールラウンダーとしての性質を秘めていることよ!」


「お姉様! まだ、戦いは終わっていないよ!」


「絶氷の力よ大地を砕け!」


だから、私は私が使える最大級の魔術を使用することにした。ミルラの足元の床が砕け、ミルラの足を氷が絡みつき、動きを封じる。そこに私は斬りかかった。ミルラはとっさに力任せに剣をぶつけてくるが、私はそれに真正面から刀をぶつけた。


二つが力任せにぶつけられた結果、刀の刃が砕け散る。だが、それはミルラの剣も同じだった。


「天氷の鎖よ汝を捕えよ!」


今の状態で刀は必要はない。今は、ミルラの隙を作ることに集中していればいい。


空中に現れた魔術陣から放たれた鎖がミルラの腕に絡みつく。ミルラはその鎖を力任せに破壊しようとするが、破壊できない。


「ここに集いて剣と為し、束縛されし汝を砕く刃と為せ!」


私の手に氷が集まる。相手を無防備な状態にして切り裂く氷属性でも最上級クラスの拘束魔術。炎属性もりようするのがポイントだ。


「終わりよ、ミルラ」


「いや。私はもっと、お姉様と」


「さようなら」


そして、私は氷の剣を振り下ろした瞬間、氷の剣が砕け散った。


いつの間にか私とミルラの間に誰かが入り込んでいる。いや、誰かじゃない。『黒猫子猫』最速のラウだ。そのラウがギリギリで入り込み、抜刀で氷の剣を砕いたのだ。


私はとっさに魔術を消して後ろに下がる。ミルラは小さく息を吐いて胸を抑えた。


「ラウ、ありがとう」


「礼には及ばない。僕は僕の目的のために動いているのだから」


「それでも嬉しいな。お姉様、降参してくれないかな? 私達の今回の目的は三つ。まずは白川七葉を殺すこと。これはラウが達成してくれた。そして、歌姫メリルを拘束すること。そして、お姉様の身柄を拘束すること」


「目的は私ですか。私を誘拐したところで何の利益にもなりませんよ。私の言葉は確かに絶大ですが、首相なら私の言葉を無視して動いてくれるでしょう」


確かにそうだ。わまり詳しくはないけど、首相は歌姫に対して唯一対等に物を言うような存在らしい。だったら、メリルの言うことも一理ある。だが、ミルラは笑っていた。


私は周囲に飛び散ったままの氷を操作して凝縮し刀とする。


「でもね、歌姫を慕う人はたくさんいるよ。特に、レジスタンスの人達は。だからね、ちょっとだけ情報を流せば内乱勃発。それが私達の狙いなんだ。だから、大人しくついてきてくれるかな? そうしたら、今回の事で私達はもう誰も殺さないよ」


「どうだとしても、そんな自体を見逃すわけにはいきません。私は、戦います」


「メリル。逃げなさい。この二人が相手なら私が万全な状態でも勝てるかどうかってところよ。だから」


「聞き捨てならないよ」


ラウが刀を鞘に納めて腰を落とす。


「冬華姉さんは『黒猫子猫』の中で最速かつ最強と言われていた。でもね、僕はそれが我慢ならなかった。最速は」


ラウが一歩踏み出した瞬間、私の視界の中でラウの体があっという間に大きくなっていた。苦し紛れに氷から作り出した刀を振り、それがラウの抜いた刀によって砕かれる。翻された刀を私は転がるように避けて氷の刀を再度作り出した瞬間、目の前に今にも抜き放ちそうな刀を握り締めたラウがいた。


「僕だ」


そして、腕が動く。避けられない。防御魔術では斬り裂かれて障壁魔術は間に合わない。ここで、私は、死ぬ。


「お姉様!!」


ミルラの声。敵なのに心配してくれるミルラの声。


私の視界ではラウが抜き放った刀が白銀を輝きを煌めかせて私の命を奪おうと斬りかかってくる。だから、ただその軌跡を見つめ、光り輝く刀がラウの刀を受け止めていた。


「ギリギリ間に合ったね」


その言葉に私は思わず顔を上げた。そこには、ここにいないはずの人物の姿があった。


「どうして」


私の口から声が漏れる。光り輝く刀を握る人物は私に向かって笑みを浮かべた。


「大丈夫。七葉ちゃんは私が助けたから」


「何故だ」


ラウがそのまま後ろに下がった。そして、そこにいる人物を見て青ざめている。


「あなたは人界にいると僕は聞いていたのに」


「うん。そうだったよ」


光り輝く刀が鞘に収められた。そして、腰を落とす。


「弟くんに招集をかけられてやってきたんだ。だから、これ以上はさせないよ」


「音姫」


私は目の前で構えている音姫の名前を呼んだ。


そう。そこにはここにいるはずのない音姫がいたのだ。


「あなた達の好きにはさせない。私が、守るから」

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