第四十九話 剣狼VS古代竜
ソードウルフが握る対艦剣にエンシェントドラゴンが絡みついた。リリーナはとっさに対艦剣を手放しながら落ちていたクラスターエッジハルバートを掴み上げた。そして、勢いよく振り抜く。
エンシェントドラゴンはとっさにその場から飛び退き、クラスターエッジハルバートの刃が対艦剣を殴り飛ばした。
小さく舌打ちをしながらリリーナは大きく後ろに下がった。
胴体の大きさに似合わずこのエンシェントドラゴンはかなり速い。だからこそ、最大出力で攻撃を仕掛けているソードウルフですらダメージを与えることが出来ていなかった。
『まだまだだね。それだと攻撃は当たらない』
「うるさい!」
リリーナはすかさず前に踏み出しながらクラスターエッジハルバートを振る。振りながらチラッと側面のモニターを見た。そこには、こちらに向かってくるエンシェントドラゴンの群れの姿。
小さく舌打ちをしながらソードウルフを後ろに下がらせる。
「悠聖達が向かっているとは言え、このままだとジリ貧かな。エネルギー充填率はそれほど高くはないし」
『余所見をしていたら殺しちゃうよ』
リリーナは歯を食いしばりながら全神経を集中する。エンシェントドラゴンを振るう尻尾を力任せにクラスターエッジハルバートで打ち払う。だが、クラスターエッジハルバートは半ばから折れていた。
背中の武装をバスターカノンに変更してエンシェントドラゴンに向けて引き金を引いた。反動で後ろに下がるが素早くバスターカノンからブースターに武装を変更して飛び上がる。それと同時にソードウルフがいた場所にエンシェントドラゴンの尻尾が叩きつけられていた。
リリーナはチラッとエネルギー充填率を確認する。ソードウルフのエネルギー充填率は85%。動くには十二分で使うには不十分。
使えるまで後は約三分ほどだとリリーナは頭の中で計算する。
『何かを待っているのか?』
エンシェントドラゴンがその大きな口を開いている。それはまるで笑っているようにリリーナには思えた。
『私を倒すことは不可能だ。私は気高いエンシェントドラゴンだからな。もし、来るなら容赦はしない。だが、尻尾を巻いて逃げるなら何もしない。私は私の役目がある』
「確かにあなたは強いよ。イグジストアストラルは負けた。このソードウルフが勝てるかはわからない。でもね、だからといって戦わないわけにはいかないんだから!」
『勝てるかわからない? 面白いことを言うよな。機械の塊で私を倒そうだなんて笑わせてくれる!』
エンシェントドラゴンが動く。それに対してソードウルフも動いた。
エンシェントドラゴンの口が開いた瞬間、ブースターを最大限まで展開して対艦剣を取り出す。そして、そのまま対艦剣をエンシェントドラゴンの口の中に突き刺した。そのまま素早くソードウルフを横にズラした瞬間、エンシェントドラゴンの口から灼熱の炎が吐き出され、対艦剣を一瞬で消し去った。そして、周囲一体を焼き尽くす。
余波に巻き込まれた航空艦が火を吹き上げ落下する。リリーナはそれを見つつエネルギー充填率を確認した。
84%。
先ほどより減っている。やはり、最大出力を急に出したため浪費したのだ。
『避けたか』
「怖れるな」
リリーナは自分自身に言い聞かせる。
エンシェントドラゴンの威力は極めて高く、一歩間違えれば死ぬ可能性を孕んでいる。
「立ち向かえ」
エンシェントドラゴンが動く。その動向を注意深く見ていたリリーナはエンシェントドラゴンの突撃を大きく飛び上がることで回避出来た。だが、そんなソードウルフに尻尾が迫る。
それを上手く宙返りで回避し、すかさずエンシェントドラゴンから距離を取ろうとした。だが、エンシェントドラゴンの口が光っている。
「足掻くわけじゃない」
瞬時に弾き出された予測した軌道を頼りにリリーナはペダルを踏み込んだ。そして、ソードウルフが大きく飛び上がる。
横に薙ぎ払われた炎を回避してリリーナはエネルギー充填率を確認した。
88%
後少しだ。
「道を自ら掴み取る」
エンシェントドラゴンに向けてソードウルフが加速する。エンシェントドラゴンはすかさず尻尾を振り、ソードウルフはそれを上手く回避した。だが、エンシェントドラゴンは胴体を絡みつかせるように襲いかかる。
距離的には回避出来ない距離。だから、リリーナの判断は一瞬だった。
「力を今ここに」
レバーから右手を離し、近くにあった蓋のついたボタンに上から拳を叩きつけた。
「負けられないのよ!」
その瞬間、ソードウルフのモニターの一つである出力のメーターが跳ね上がった。それと同時にソードウルフの腰元に一本のフュリアスサイズの刀が鞘に入ったまま現れた。
ソードウルフの腕がその柄に触れ、そして、抜かれた刃の無い刀は勢いよく振り抜かれた。
エンシェントドラゴンが半ばから断ち切られている。血を撒き散らし、そのまま地面に落下している。
ソードウルフの手にはエネルギーだけで構成された刃を形取る刀があった。
高出力密度型抜刀機。
それがこの武器の名前だった。出力を限界以上に跳ね上げ、総エネルギーの90%近くを消費して放たれる一撃はイグジストアストラル以外に斬れないものはないとされている。実験では周のファンタズマゴリアや幻想展開すら断ち切っている。
そんな刃にはエンシェントドラゴンも耐えられなかったのか、姿を維持出来なかったエンシェントドラゴンが人の姿に戻っている。つまりはまだ生きている。
リリーナは小さく息を吐いてエネルギー充填率を確認した。
0%。
いくらエネルギーの精製が早いソードウルフと言っても0%の状態からまともに動けるわけがない。
リリーナは唇を噛み締め地面に落下した。上手く着地をしながらおっさんになったエンシェントドラゴンを見る。その目は殺意に染まっていた。
『殺す。絶対に殺す。よくも私の体を、下等な人間ごときが!』
おっさんが動いた瞬間、リリーナは一か八かで高出力密度型抜刀機を振り上げた。振り抜いたと同時に刃が形を崩し砕け散る。だが、おっさんを倒すことは出来なかった。
精製した状態よりも劣った密度かつ限界時間ギリギリだったのだ。そんな攻撃でエンシェントドラゴンを斬れるわけなく、おっさんの姿のエンシェントドラゴンに弾かれたのだ。
リリーナはすかさずなけなしのエネルギーを使ってブースターを噴かす。だが、そんな状態でエンシェントドラゴンから逃れるわけがなく、おっさんの手はソードウルフの足を掴んでいる。
浮遊感を感じた瞬間、ソードウルフの体は空を舞っていた。そして、地面に叩きつけられる。
「あぐっ」
必死に衝撃を堪えてソードウルフの部位を確認する。左足損壊。エンジン出力低下。右腕稼働域30%減少。右足稼働域80%減少。
足は動かない。エンジンの出力低下は思っている以上に激しく、ソードウルフの体は全く動かなかった。だが、おっさんは待ってくれない。
「動いて。動いて、ソードウルフ!」
『さあ、終わりだ』
おっさんが笑みを浮かべる。対するリリーナはペダルを踏み込んだ瞬間、ソードウルフが息を吹き返した。ブースターが起動し、おっさんから距離を取る。だが、それと同時にコクピットに赤いランプが光り出す。
限界なんてとっくにわかっている。それでも、ソードウルフは必死に力を振り絞っている。だから、リリーナはそれに応えるだけ。
「最後まで応えるから! だから、最後まで頑張って!」
取り出したのはグラビティカノン。ただし、エネルギーパックがついているものだ。それをおっさんに狙いをつけて引き金を引いた。
本来の威力よりかは弱いものの高密度のエネルギーはおっさんに直撃し、エネルギーの奔流が包み込んだ。それと同時にソードウルフが完全に沈黙する。
「はぁ、はぁ、はぁ。これなら」
『残念でした』
その声が聞こえた瞬間、ソードウルフを大きな衝撃が襲った。機器が沈黙しているためか何が何だかわからない。
『後少しだったのに。さあ、死に』
『リリーナ!!』
おっさんの声を掻き消すように悠人の声が響き渡る。
「悠人!」
『お前は絶対、僕が倒す!』