第四十七話 ドラゴンの群れ
壮絶な勘違いをしている部分があるので数話前を近々修正する予定です。パソコンが使える時になれば。
『リリーナ、見える?』
ロングレンジライフルを構える四足歩行の通常形態になったソードウルフに乗るリリーナに対してスナイパーライフルを構えたイグジストアストラルに乗る鈴が尋ねた。
リリーナは上手くピントを合わせながら首を横に振る。
「敵の動きはまだ見えないよ。というか、ソードウルフのロングレンジライフルより通常のスナイパーライフルの方が倍率が上だよね?」
『うん。でも、ロングレンジライフルは両目で見れるから分かりやすいかなって』
今のソードウルフの背中には巨大な砲身と巨大なスコープがついたロングレンジライフルしか装着されていない。だが、背中の左右両方についているため片目で見るより見やすかったりもする。
リリーナは小さく溜め息をつきながら再度スコープのピントを合わした。
「左と右のどちらもピントを合わさなければいけないから大変なんだよね」
『そっか』
鈴の言葉を最後に話すことがなくなったからか二人の間に沈黙が降りた。
リリーナが悠人に怒った件で少し気まずいからだろう。リリーナはただ黙々とスコープのピントを合わせていた。対する鈴はコクピットの中でもじもじとしている。
「リリーナ」
そして、鈴が口を開いた。
「悠人だって考えているんだよ。だから、怒りを収めて」
『ごめん』
鈴の耳にリリーナの声が入る。
『悠人は人殺しになったら駄目なんだよ。悠人は最強のパイロット。それが戦争中なら英雄。でも、戦いが終われば』
「邪魔者になるということ?」
『うん。過去にもそういう事例があるから。善知鳥慧海もその一人。第四次世界大戦前に彼は中東の英雄と呼ばれていた。でも、第四次世界大戦が始まるまで彼は死神扱いもされていた。強い力はね、両刃の剣なんだよ』
今までの悠人は出来る限り殺さないように戦っている。フュリアスにはどんな姿であれ戦闘不能箇所があるからだ。そこを攻撃出来れば一撃で戦闘不能に出来る。
でも、それは極めて難しい。悠人はそれを軽々と行える技量がある。
『味方を守りながら敵を救う。そんな真似は天才にしか出来ない。そして、敵味方関係なく救う象徴になる。悠人はそれを目指さないと、いつしか孤立するよ』
「そんなこと」
『そんなことはないと言える? 実際に第76移動隊の評価は、器用貧乏の海道周を頭に白百合音姫と花畑孝治の二翼が支え、アル・アジフ、白川悠聖、真柴悠人他数名が体となっている。悠人は世界にも注目されている人なんだよ。私達よりも雲の上の存在』
悠人の何が凄いか言えば、フュリアスを使った戦闘では右に出る人がいないというところだ。だからこそ、敵組織からは畏怖される。
単身で世界最大級のフュリアス部隊を圧倒出来る技量があるから。
もし、そこに敵を確実に殺すという評判がついたとしよう。敵は刃向かうことを止めるかもしれないが、味方からは厄介に思われるだろう。もし、矛先が逆になれば殺されるのだから。
『悠人だけは、悠人だけは人殺しになって欲しくない。そんな汚れ役は私だけで十分だから』
「リリーナだけはそんな汚れ役にはさせないよ」
鈴は小さく、でも、はっきりと答える。
「私だって、汚れ役に」
『動いた!』
リリーナの声に鈴は慌ててスナイパーライフルのスコープを覗き込んだ。
拡大された映像からは空に浮かぶ航空空母から数機のフュリアスが動き出していた。今頃、ブリッジでは連絡が飛び交っているだろう。
『ロングレンジライフルの射程圏外だね。鈴はどう?』
「敵の姿はまだ見ていないよ。でも、どこから」
倍率を上げつつピントをしっかりと合わせる。だが、フュリアスが飛び出しているのにドラゴンの姿はどこにもない。
『先遣隊は見つけたみたいだからもうすぐ見えると思うけど』
リリーナがそんな言葉を呟いた瞬間、航空空母艦が一機、爆発した。
「っつ! イグジストアストラル、発進します!」
発進許可を取らずに鈴はイグジストアストラルを地走型空母艦から飛び上がらせた。何故なら、鈴は見たからだ。
爆発した航空空母艦から他の航空空母艦に飛び移る人物の姿を。
『鈴!』
「リリーナは待機していて! 私が様子見をするから!」
「白川悠聖! 動き出したって、何してるの?」
ドアが突如として開き、リリィが姿を現した瞬間、必死だった形相が呆れたような表情になっていた。まあ、無理もないだろう。
オレは読んでいた本を閉じる。そして、近くの机に群がっている精霊達の内の二人に声をかけた。
「アルネウラ、優月、出番だぞ」
『ちょっと待って! もうすぐで終わるから!』
「後少しだけ。もうすぐでアルネウラを倒せるから」
二人が必死の形相で振り返り、そして、ルーレットを回す。
二人が、いや、精霊達全員がやっていたのは人生ゲーム。しかも、かなり波乱万丈タイプ。というか、こんな人生ゲームがあるんだよな。
誰もが一回は破産する人生ゲームなんて。
「白川悠聖。私達って戦場にいるよね?」
「ああ。まあ、気を張り詰めているのは悪くないけど、こいつらは空気を読まなすぎ。で、どう動いたんだ?」
「あっ、うん。先遣隊から出撃する旨があったから慌てて。相手の動き方次第だけど、こちらも準備を」
その瞬間、赤い光が窓から降り注いだと思った瞬間、振動と爆発音が鳴り響いた。オレは慌てて窓に駆け寄る。
そこには、炎上しながら落下する航空空母艦の姿があった。
「遠距離射撃? 相手はフュリアスでも乗っているとでも言うの?」
「何はともあれ戦闘準備だ。アルネウラ、優月、ダブルシンクロを」
『悠聖! 勝負の邪魔だから黙ってくれないかな?』
「このルーレットによって勝負が決まるんです」
オレは問答無用で拳を二人の上に落とした。
出力を上げつつ前方を睨みつける。そこには爆発する航空空母艦の姿。その上にはやはり一人の人がいた。
「いつの間に上がられていたの? でも、そんなのは関係ない。今、この場で、っつ」
カメラがその人物の顔を捉えた瞬間、鈴は息を呑んでいた。
笑ったのだ。遠目だから正しいかわからないが鈴にはそう見えた。そして笑いながら何かを呟いたような気がした。もちろん、鈴の見間違い、という可能性はある。
だけど、鈴はそう感じた。
だから、とっさに背中に付けていた装備を手にとっていた。
クラスターエッジハルバート。
イグジストアストラル専用に設計された特殊兵器で射撃及び近接の両方を可能とした武器。見た目はただのハルバートなのだが。
背中の翼全ての推力を前進に使いながら鈴は距離を詰める。そして、ようやくちゃんとした姿が鈴の目にも確認出来た。
年齢は40くらいだろうか。顎髭が特徴的で見た目はおっさん。そんなおっさんが黒い服を着ている。そして、笑っていた。
翼の砲をいくつかそのおっさんに向けて鈴は放つ。おっさんはそのまま飛び上がり、空中で静止した。
『ようこそ、音界及び人界の諸君』
鈴の頭の中で鳴り響く声。鈴はクラスターエッジハルバートを両手で握り締めてその先をおっさんに向けていた。
先遣隊は残った航空空母からフュリアスが出撃している。鈴はチラッと横を見ると、森に隠れるように身を丸めているドラゴンの姿があった。
だから二人にはわからなかったのだ。
『君達と出逢えて私は嬉しいよ。少しばかりの時間ではあるが楽しもうじゃないか』
『鈴! 今すぐその場から引くのじゃ!!』
アル・アジフの怒鳴り声がスピーカーから聞こえた瞬間、周囲が赤く染まった。
鈴はすかさずブースターを噴かしてその場から飛び退く。
『もうすぐ君達は、死ぬのだから』
胸部カメラに映るおっさんの姿。鈴はすかさず全ブースターとスラスターを最大限まで跳ね上げた。
イグジストアストラルが凄まじい勢いで距離を取ろうとする。しかし、おっさんはぴったりとイグジストアストラルについてきていた。
『開始の合図は大きな花火と行こうじゃないか』
おっさんが拳を振る。それはイグジストアストラルにぶつかった瞬間、まるでボールを投げたかのような勢いでイグジストアストラルが地面に激突していた。
鈴は衝撃による痛みを受けながらモニターを見つめる。そこには、ドラゴンの群れによる炎によって焼き尽くされる先遣隊の姿があった。