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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
563/853

幕間 苦悩

幕間終了。


かなり物語の根幹に入っていっているのでなかなか白熱して書けました。

「そんな、バカな」


そんな声を出すのが精一杯。オレの追い求めていた理想は正が成し遂げて失敗した夢想。普通なら信じない。けれど、正の目は本気だった。


「信じられないと思うよ。過程や結果は違うくても、君は、海道しゅうは私と、海道あまねと同じ道を進んでいる。本当なら言うつもりはなかったよ。でもね、僕が考えていたよりも遥かに早く音界で事態が動いているからかな。だから、僕は君に話すと決めていた。本当なら、音界の戦いが終わった後で」


「正は、オレの理想の姿なんだよな?」


「結論から言えばね。僕と君は非常に似ている。『誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うこと』その言葉を聞いた時、僕は驚いたよ。まさか、今まで違うはずの海道あまねは海道しゅうになることで同じ理想を得ただなんて」


だけど、それはある現実をオレに知らせてくる。


理想の先にいる正をオレは追い越すことが出来ない。到達出来る限界よりもさらに上まで正はいるのだから。


「でも、理想はただの夢物語だよ。君が本当に世界を救いたいなら理想を捨てた方がいい。君はもう気づいているんだろ」


生贄を使って復活させた狭間の鬼の力を借りようとした魔界の貴族派。いる人いらない人を区別しようとした結城家。精霊を利用しようとした真柴家。悠遠の翼を利用した攻撃を考えた海道駿。世界を滅ぼすことで新たな創世を見ようとした海道椿姫。


どれもこれも端から見れば自分勝手にしか見えないが、本当に世界を救うなら過激な手段を取るしかない。それが一番正しい。世界の平和だってそうだ。


『GF』と『ES』。この二つが強大な軍事力を持っているから国連の国家は変に手を出せない構図になっている。それは、国家の思惑によって戦争を起こさせないための手段。でも、それはある意味歪な形でもある。


力を抑えるためには力によって抑えるしかないという矛盾だ。


でも、それが正しい。力という最も過激な手段こそが世界を仮初めながらも平和にする。


そんなことは気づいていた。昔から、ずっと。


「現実を直視するんだ。君の考えている理想はただの夢想。悪く言うなら幻想だ。君は僕と同じだからこそ、僕は君を理解している。だからこそ、僕は君に言うよ。夢を諦め現実的に生きるべきだと。今から世界を変えれば、上手く梶を取れば世界を救える可能性は限りなく上がるだろう。それこそ君の選択次第だ」


オレの理想は、


『誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うこと』


それは子供なら誰しもが考えるだろう。全てを守り、全てを救い、そして、英雄となる。そんな想像をした子供はごまんといるだろう。


でも、それはただの理想にしかならない。現実ではありえない。達成することなんて不可能。


そんなこと、そんなことはわかっている。いや、わかっていながらそれと直視しなかっただけだ。みんなが現実的なやり方をするなら、オレは、オレ達はどこまでも理想を追い求めようと決めていた。


だから、正の言葉は全く間違っていないし、今の世界の動きは、いや、裏の世界の動きはそうなっているだろう。各国各組織が必死に妥協点を探している。でも、誰もが自らの、自らの国家の幸福を祈っているから達成することは出来ない。それでも、現実的だからこそ一番確かな道でもある。


「君は何も間違ってはいない。それは僕が保証する。いくら世界が君を責めても、いくら世界が君を憎んでも、僕は君のその尊い考えを尊重する。だけど、君はそろそろ現実を直視して、理想は理想のまま胸に」


「そんなことが出来ればすでにやっている!」


オレは拳を握り締める。


「理想は理想? 現実的? そんなものは誰に言われなくてもわかっている! 理想なんて、オレ達がまだ子供だから言えることだ。誰も傷ついて欲しくない。誰も死んで欲しくない。誰も戦って欲しくない。だから、みんなを守りたい。そんなことは出来ないなんてとっくの昔からわかっているさ! 『赤のクリスマス』はオレにそんな理想を与えた。でも、それと同時に理想は理想でしかないとわかることだったんだ。でもな、そんなことで諦めることが出来ると思っているのか? 出来るわけないさ! オレは、みんなを守りたい。理想? 現実? 関係あるか! オレはただ、みんなを守りたいだけなんだ。狭間戦役のあの日、オレは守れなかった。学園都市騒乱の最後で、オレは救えなかった。どれだけ無理な理想なのかはわかっている。現実で達成すら出来ていないことはわかっている。だからって、理想を諦める理由にはならないだろ!?」


「理想は理想。現実は現実。それが大事だと僕は思うよ。君がいくら語った所で、君には世界を動かす力なんてない」


「ああそうさ。オレはちっぽけだ。ちっぽけだからこそな、みんなに頼る。オレみたいな器用貧乏はみんなと一緒になってようやく力を発揮できるんだ。だから、みんながいれば何だって出来る」


「それこそ夢想だよ。何だって出来るわけじゃ」


その言葉を遮るようにオレは正に近づいていた。そして、正の背中にそっと手を回す。驚いたような正の表情。そんな表情見ながらオレは正を抱き締めていた。


「少しだけ、少しだけこうさせてくれ」


「周」


正がオレの名前を呼ぶ。その名前を聞きながらオレはギュッと正を抱き締める。


「ずっと、ずっとそんなことはわかっていたんだ。夢物語だって。夢物語をただ夢見ているだけだって。オレは常に大人であろうとした。子供でも大人になろうとした。だから、オレは夢物語を夢見ていたかった」


「周。君は、誰よりも大人であろうとして、誰よりも子供の夢を持っていたんだね」


正の手がそっとオレの頭に触れ、優しく撫でてくれる。


「君は僕だからこそわかるよ。その苦悩がね。誰にも言えなかった。妹にも、義理の妹にも、義理の姉にも、祖父にも親友にも仲間にも、誰にも言えなかった。それは君が目指す未来、第76移動隊が目指す未来を真っ向から否定する現実的な意見だったから。その先頭を走る君はそれを否定してはいけなかった。だから、胸に抱えるしかなかった。考えないようにするしかなかった。他人の意見を否定するしかなかった。周、君は最も理想を愛しながらも、現実的な人間だからこそ、君は苦悩している。だからね、君に一つだけ言葉を送るよ」


正は優しく語りかけてくる。優しく抱き締めてくれる。そんな正が、オレは愛おしい。


「君は君だけの道を進め。全てを理解し、全てを飲み込み、全てを知り、そして、君は君だけの道を築け。その時に僕は君の前に立つよ。世界を救う手段を賭けて」


「『伝説』の力をか?」


「そうだよ。僕が持つ『聖剣』と君が持つ予定の『伝説』。僕は世界を救いたい。だから、僕は僕の道を行く」


オレは小さく頷いて正の背中に回していた手を戻した。正も笑みを浮かべながらゆっくり離れる。


理解か現実か。でも、今はそんなことは関係ない。今は第76移動隊として行動しなければいけないのだから。


「ったく。何かいろいろと吹っ切れたら倍の悩みが出来上がったぜ」


「悩みがあるから人は成長するんだよ」


「だろうな。学園都市に帰ったら手続きが大変だよな。そうとなればさっさと戻るか」


オレの言葉に正は首を傾げる。


その仕草にオレは小さく笑いながら正に向かって言葉を放った。


「音界に行ったら言いたいことがある。首を洗って待ってろよ!」


オレは満面の笑みを浮かべ、正に向かってそう言い放った。

次からは音界での物語になります。

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