第四十三話 会議の姿
現首都にいるメンバーが会議をするとこうなります。
無理矢理借りたこじんまりとした会議室。そこに音界の首都にいる第76移動隊のメンバーの姿があった。
楓、俊也、光、リリーナ、鈴に第76移動隊じゃないけど白騎士とリリィの姿もある。
喧嘩しないか心配だったけど大丈夫みたいだな。
「みんなは詳しく話を聞いていると思うから大まかなことは省くけど、その前に一ついいか?」
オレは頬をひきつらせながら周囲に話しかける。それを不思議に思ったリリーナが首を傾げてオレの姿を見てきていた。
「ほうはひはたの?」
「何で机の上にお菓子が散らばっているんだ?」
「そんなこと気にしやん方がいいで。美味しいから」
「そういう意味じゃねえよ!! ってか、会議中にお菓子を」
「リリーナ、それ取ってくれへん?」
「人の話聞けや!!」
オレの怒鳴り声が周囲に満ちるがそれに不満そうな表情でリリィがオレの顔を見てくる。
「白川悠聖、うるさ、痛い」
オレは隣でばりぼりお菓子を食べていたリリィの頭に拳骨を落とした。リリィは涙目でオレを見てくるがオレは気にすることなく大きな音を立てるように拍手をした。
それにみんなの視線が向く。
ちょっとした魔術だ。音に注意を引かせるような魔術を組み合わせる方法で、常に流す場合は違法になるが、会議の場合でこういう時にはかなり有効な手段となる。
「お前ら、呑気すぎじゃないか? 機能は襲われて敵勢力が近づいているんだぞ」
「そこら辺はどうにかなるんじゃないかなって思っているし。私や光の二人がいれば遠距離砲撃で敵の大多数は防御の上から蹴散らせるよ」
「それを言ったら全てがおしまいだよな?」
楓と光の二人の砲撃は文字道理の暴力にしかならない。そもそも、二人の攻撃の威力が高すぎるのだ。いくら相手が精霊召喚符を使うと言ってもその火力の前では無意味。
そう考えると作戦云々よりもどう先制攻撃を与えるかを考えた方がいいだろう。
「そんなの、私のソードウルフと鈴のイグジストアストラルも負けてないよ」
「まあ、確かにソードウルフもイグジストアストラルものかなり強力な火力は持っているけど、やっおぱりうちらと比べたら些細な火力やわ」
「むかっ。ソードウルフの火力を舐めちゃダメだよ! 楓ならともかく、光には絶対に負けないんだから!!」
「そうかそうか。なら勝負しようか?」
「グラウ」
オレの意図をくみ取ってくれたグラウが二人の頭上に拳骨を落とした。二人は頭を押えてその場にうずくまる。
「あのな、今回の作戦の詳細を軍本部から聞いてきたけど、先遣隊は音界の部隊だ。それらを壊滅させるような攻撃をしていいわけがあるか。フレンドリーファイヤにもほどがあるぞ」
「そうだね。せめて、味方がいる状況だと仮定して作戦を組み立てないと。そうなると、私や光は足手まといになるかな」
先遣隊が先頭していると仮定した場合、楓や光の様な強力な火力を持った攻撃はまず出来ないと考えていた方がいいだろう。
そうなると、考えられる手段はかなり限られてくる。
「お前らは近接もできるだろ。相手がどんな実力か不安だけど」
「そういう問題じゃないと思うんだけど」
楓が話している最中にすごい顔になっていく。もちろん、見ているのはリリーナや鈴だ。何故か白騎士も一緒になってお菓子を食べているし。
完全にキレそうになっているな。オレは小さく溜め息をついて拍手をもう一度しそうになった瞬間、急にドアが開いた。
そこから姿を現したのは首相だ。
「第76移動隊の会議はまるで幼稚園みたいだな」
全く否定出来ない。
「お菓子食べる?」
空気を読まないリリーナが首相にお菓子の袋を差し出した。首相はチラッと物欲しそうにそれを見ると、小さく溜め息をついた。
首相の意外な一面を見ることが出来たな。
「会議は進んでいるのか? 自ら直々に連絡に来たが」
「進むと思うか? そもそも、本来ならここに参加するのはオレを含め二人だけど、完全に非効率だろ?」
「なるほどな。外は騒がしいというのに。まあ、いい。作戦決行は明日明け方。すでに戦力は整っている。先遣隊の後に出てもらえるな?」
「そりゃな。本当なら傍観だけど、奴らがオレ達を狙うなら自衛権を行使するだけのこと」
オレは軽く肩をすくめて答える。
案外間違われやすいことなのだが『GF』は積極的な攻撃は禁止されているだけで、それが自衛の範疇に入るレベルなら攻撃しても『GF』内の規約に違反するわけじゃない。
特に、オレ達は一度、命を狙われている。というか殺されかけた。それなのに攻撃出来ないだなんてお気楽すぎる。
「それならいい。先遣隊にはアストラルブレイズとギガッシュを中心とした混成部隊だ。最も、お前達の出番はないだろうがな」
「そうであることを祈るよ。国を守るのはその国の人達だ。普通なら手出しは無用だが、今回ばかりは事情が違うからな」
どんなに大勢力を繰り出しても最悪の場合は全滅する可能性がある。
ドラゴンに精霊召喚符。音界の人達では完全に気が重い。
オレはこの時になってようやく、いつの間にか白騎士がいなくなって、いや、隠れているのがわかった。まあ、白騎士は政府レジスタンスだからね。
「せいぜい、油断しないことだな」
首相が去っていく。ドアが閉まるのと同時にリリーナが呆れたように溜め息をついた。
「はぁ、出されたお菓子くらい食べて行けばいいのに」
「それはそれで間違っているよね?」
リリーナの言葉に鈴が苦笑している。この二人は言うほど作戦の要じゃないから安心しているのだろう。
楓や光なんて慣れているからかなりリラックスしているし。緊張しているのは俊也とリリィくらいか?
「お師匠様、大丈夫でしょうか?」
「心配なのか?」
俊也は少し曇った表情で頷いた。
「こちらの動きはバレていると考えたほうがいいですよね? 相手が変な行動に」
「心配するだけ損、だとは思いたいけどな。さすがにそれだけは俊也に賛成だ」
「えっと、どういうこと?」
何もわかっていないリリィが尋ねてくる。まあ、リリィはかなり実戦慣れしていなさそうだしな。
「相手が何か仕掛けてくる可能性があるということだ。はっきり言うなら、相手は何か切り札を隠していてもおかしくないし」
「それってかなりヤバくない?」
「かなりを通り越して」
というか、ヤバいというレベルじゃない。
数的優位はこちらにはある。だが、戦力的優位はこちらにはないだろう。もし、オレ達が抜かれた場合、それを食い止めれるのはまずいない。
ここにいるのは現在、音界政府側で最も強いメンバーなのだから。
「どうすればいいのよ。そんなの、戦わない方が」
「戦わなかったら首都が火の海になるよ」
楓の言葉にリリィは肩を落とした。
そんなことはリリィもわかっているだろう。わかっているからこそ、口に出してしまう。それがリリィの性格なのかもしれない。
「そこまで言うことはあらへんと思うけど、やっぱ、状況が状況やしな」
「そうならないことを祈るだけだよね。最悪は私と鈴がどうにかするしかないよ」
「悠人もいるよ?」
「私達で頑張るの!」
まあ、オレも悠人も本調子じゃないだろうし、みんなが頑張ってくれないとあまり意味はない。
「負けなんてない、ということか」
白騎士がいつの間にかリリィの隣に座っている。リリィはその手でアークレイリアを回しながらポツリと呟いた。
「第76移動隊って化け物の巣窟?」
あながち間違ってはいないんだよな。周隊長とか孝治とか音姫さんとか。
まあ、オレも負けるなんてありえないと思っている。
「じゃ、次の作戦の詳細な配置を決めるぞ」
オレの言葉に全員の視線が向く。
本当に、どうなることやら。
次回は幕間。周視点です。