第五十三話 過去
周の大きな過去話です。周が言った義務とは何か。その原因が書かれています。
オレは屋敷の縁側に座っていた。隣には都がいる。
オレは由姫のお見舞いの後に直接都の家に向かった。都の家ではちょうどリースも悠人もいないらしく、のんびり縁側で話をしようということになったのだ。
話と言っても一つだけ。オレが狭間市を出ることに関してだ。
「そうですか。周様が査問会に」
「負けたのは事実だからな。『ES』と協力した以上、評議会の爺は結果が欲しかったようだし」
「結果は得られず敗北した」
「そうなるな。まあ、事実だから仕方ないけど」
都は不安そうな顔でオレを見てくる。
「周様が戻って来ない可能性はあるのですか?」
「ああ」
オレは隠すことなくそう言った。負けるつもりはないけど、最悪の可能性としては普通にある。
オレからすればあまり考えたくないけど。
「周様が隠している能力を使えば」
「都が何を知っているかはこの際には聞かない。でも、全てを公にすることは出来ない」
「何故ですか?」
都はおそらくオレがどうして隠しているかの理由を知っている。知っていて尋ねてくる。
オレは小さく溜息をついた。
「確かに、あの時にあの力を使えば勝っていた。オレはそう断言する。だけど、使わない方がいい」
「どうしてですか?」
「そのレアスキルは、化け物だろ」
「それは」
都は言葉を濁らせる。
オレの能力を知っているからこそ、都は反論出来ない。
「それに、オレの能力はあの事件を引き起こした原因なんだ」
「あの事件ですか? 一体どんな」
「史上最悪の犠牲者を出した世界同時多発テロ。それを隠れ蓑にオレの誘拐が目論まれた」
別名『赤のクリスマス』。
犠牲者は負傷者含め一億近く。主にアメリカや中国などの先進国やインド、ブラジルの新興国が狙われた。
先進国の中で一番被害の少なかったのは日本だが、それでも三百万人近くが亡くなっている。特に酷いのがアメリカの都市ニューヨーク。
今では復興がされ新しいニューヨークの意味でニューニューヨークと呼ばれているが、『赤のクリスマス』当時は生存者がたった五人だった。
「『赤のクリスマス』の理由がオレなんだ。オレがいたから『赤のクリスマス』が起きた。オレのレアスキルのせいで」
「周様」
「あの日、オレのレアスキルは使えなくなったとされているんだ。実際に使えない時期もあったからな。だから、今は見過ごされている。もし、レアスキルが残っているとわかったなら?」
また、『赤のクリスマス』が起きるかもしれない。みんなを不幸にするかもしれない。
「でも、もう隠せないな」
「誰かを守るためですか?」
「ああ。狭間市で知り合ったみんなを守るために、オレは使う。使えるかわからないけど」
オレはそう言って軽く肩をすくめた。
もし、あの場で出していたならあいつらもこの狭間市に来る可能性がある。その目を欺くためにさらに大きなテロが起きる可能性もある。
だから、オレは使えなかった。由姫がやられた時も。
「っつ」
いつの間にか力強く拳を握りしめていたらしく、その手から血が溢れていた。
「なあ、都。オレは強いのか?」
「周様は強いです。確かに第76移動隊の中での強さならなんとも言えませんが、私は強いと」
「妹に守られて、音姉の力で生き延びた。オレは、弱いんだ。力なんてない。どうすればいいんだよ。どうすれば、みんなを守って戦えるんだ。誰か教えてくれよ」
自分一人なら生き残れる自信はある。だって、オレのレアスキルは生存に特化した能力だから。
でも、第76移動隊のみんなを守るとなれば話は違う。みんなが生き残れる可能性は難しいと思っている。まともにぶつかれば、誰かが死ぬ。
その時のオレはいつものオレじゃなかったと思う。いや、大人ぶって頑張っていた糸が切れたというべきか。都の前なのに泣いていた。
自分のレアスキルではみんなを救えない。どうすれば救える。
「周様」
そうしていると、オレは都に抱きしめられていた。
「もう、いいんですよ」
「都?」
「そんなに頑張らなくても、原因となったから義務で戦わなくても」
「オレは」
「周様は戦うことはエゴだと言ってました。でも、周様が一番他人に捕らわれています」
「オレがいたから、たくさんの人が死んだ。怪我をした。オレがいたから」
「あなたがいなければ、たくさんの人が死んでいたと私は思います。周様の活躍は耳にしますから。村を救い、街を守り、民を助け、民族を救う。私よりも年下なのに、周様はたくさんの人を助けています。私が、いえ、みんな知っています。誰も殺さず、敵だったものと仲良くなる。あなたがいたから救われた人はたくさんいます」
「もう、たくさんなんだ。誰かが死ぬのは。誰かが、怪我をするのは。オレは、自分だけが、傷つけばいい」
そうすれば、傷つくのは自分だけで済む。
あの時も、自分だけが標的にされていれば良かった。そうしたら、誰かが傷つけられて心が痛むことはない。
オレだけが傷つけば。
もう、感情が止められない。必死で隠していた全てが溢れ出していた。
「みんなを守りたいのに、その力が欲しかったはずなのに、オレは由姫を見捨てたんだ」
オレがあの時油断しなければ、オレが白百合の家にいかなければ、オレが生まれてこなければ、
「違います」
「何が違うって言うんだ! オレは、オレは、守れたはずなのに。なのに、なのに」
「周様は自分が生まれて来なかったら良かったとお考えですか?」
「当たり前だ。オレがいなければ」
都が離れる感触がする。オレが顔を上げた瞬間、頬に衝撃が走った。叩かれた?
都がオレをゆっくり抱きしめる。
「周様は、周様の近くにいる人を見ていてはなかったのですか? 周様のそばにいた由姫さんや亜紗さんを見ていてはなかったのですか? 二人は周様と一緒で幸せそうでした。そんなことは私でもわかります。周様は、みんなを幸せに出来る。周様がいるから今がある。例え、あなたがあの事件の原因だとしても、私は常にあなたを見ています。見守っています。あなたがいたから私がいる。私の気持ちがある。もう、あなた一人の問題ではありません。確かに、周様にはたくさんの人が期待しています。最年少で正規部隊隊長。あの海道駿の息子。周様はその中で頑張っています。でも、一人で頑張らないでください。一人で背負わないでください。みんなに、分けてください。私は一緒にいます。一緒にいますから、私にも少し分けてください」
もう、涙で視界が無かった。
そんなこと言われた事が無かった。親父やお袋は茜とオレを見比べて、『GF』では時雨の背中を追っかけるように期待された。
だから、自分はただ力を求めていればいいのだと思った。体のいい理由で上書きしておけばいいと思った。
オレは、世界が怖かった。ただそれだけだったんだ。
オレは都の胸に顔をうずめた。
そして、泣く。自分でもどう泣いているかわからない。
今まで本当の自分を理解してくれたのはいなかった。
由姫や音姉はわかっていながら聞かなかったに違いない。家族だから、隠し通すことは難しい。
でも、都はそんなこと関係なく、オレの本心を理解してくれた。
初めてだった。そして、怒ってくれた。オレが偽っていることを。
だから、オレは泣く。
後悔と感謝を織り交ぜて。
オレは泣く。
都と会えて良かったと。
そして、オレはゆっくり落ち着いていった。
「寝ましたね」
都は膝の上で寝る周の頭を撫でていた。周はあの後泣き疲れたのか寝てしまっている。
こうして眠っている周は見る限り年相応だった。
「心配しなくていいですよ、亜紗さん」
『やっぱり気づかれていた』
亜紗がスケッチブックを出しながら物陰から出て来る。
「周様が泣き抱きついた時に殺気を当てられたら誰でもわかります」
『都。周さんをありがとう』
「いえいえ。私は卑怯者ですから。自分で見たわけではなく、リースさんからの話を聞いただけで、周様と共にいたわけではありません」
都は亜紗と違って活躍を見たわけではない。周の苦悩の姿を見たわけではない。ただ、出会った中での言動からそう考えただけだった。
「私は、本当に卑怯者です」
『誰かから話を聞いて感じることは悪くない。それに、周様を救ったのは都。私は、助けられたの助けることが出来なかった』
「誰もが誰も助けることは出来ません。周様はそれで苦悩していました。でも、亜紗さんには亜紗さんのやり方があります。私は、そこまで強くありませんから」
都の言葉には悲しみが含まれていた。まるで、力が欲しかったとでも言うかのように。
亜紗は不思議そうに首を傾げながらスケッチブックを開く。
『私はそうは思わないけど。でも、都がそう思うなら別にいい。一つ聞きたいことがある』
「なんでしょうか」
『周様のことが好き?』
「はい」
都は即答していた。
その言葉に亜紗は頷く。
『だったら、今からライバル。私は、あなたには周様は渡さない』
「由姫さんには良さそうですね」
『由姫は周さんにとって大事な人。でも、ライバル。由姫には伝えておくから。後、今晩は周さんをお願い』
「わかりました」
亜紗が立ち去る。
それを見ながら都は周の頭を撫でた。
「私は戦闘で周様の力にはなれませんが、周様をお待ちしています。周様がいつでも日常に戻れるように」
周が普通の人生を捨てた理由。大人であろうとした理由を書きました。周が混乱しているのも大人になりきれていないからです。
勢いとノリで書いた文章ですが、ここの感想を書いていただければ嬉しいです。こういうことは第一章では三回ほど書く予定なで、今後の指針とさせていただきます。
後、間違えている部分やおかしな部分を教えてもらえたら嬉しいです。自分で探してもなかなか見つからないので。




