第四十話 メリル、暴走
はっちゃけ過ぎた
ゆっくりとネジを外す。そして、焼け焦げた外装をゆっくり外した。
その中にあるものを見て僕はにこりと笑みを浮かべる。
そこにあるのは中央のデバイスを中心に広がる基盤。それがいくつも重なった姿で透明な特殊加工の耐衝撃ケースに入れられていた。
エクスカリバーの本体でもあった集積デバイス。それが本来の形のままここに存在していたからだ。
「どうですか?」
「うん。ちゃんと生きてたよ。取り出すのは苦労しそうだけど、これなら大丈夫」
「でも、いいんですか? その集積デバイスは」
「いいんだよ。エクスカリバーはもう役目を終えたけど、相棒はまだ生きているから。ここなら、また、新しい姿を見せてくれるよ」
そう言いながら僕は中に入り込んだ。そして、上手く下に着地する。集積デバイスを収められたスペースにはギリギリで人一人が入るスペースがある。
僕はそこの中に体をねじ込んでいた。
外すとなれば特殊な工具が必要だけど、ここは天下の麒麟工房。ないわけがない。
「メリルは反対?」
「はい。音界にとっては賛成すべきことですが、エクスカリバーは悠人にしか扱えないものです。それに関する危険性もありますし、何より、人界との仲を悪くしたくはありません」
「まあ、機体の設計図ならともかく集積デバイスはある意味ブラックボックスだからね。でも、大丈夫だよ」
僕は集積デバイスをロックしていた全八ヶ所の金具を外した。そして、ゆっくりと集積デバイスを持ち上げる。
集積デバイスはそれほど重くはない。大体5kgくらいだ。基盤の集まりだけで5kgもいくのはすごいけど、持ち運べない重さじゃない。
「メリルはアンの言うことを疑うの?」
「そう言うわけではありませんが、集積デバイスというのは秘密事項ですから」
「まあ、エクスカリバーの集積デバイスは未だに世界最高峰の水準だからね。でも、もうこの子は使えないよ」
僕はゆっくりとエクスカリバーを触った。
僕が酷使しすぎたらから壊してしまったもの。それが今のエクスカリバーの姿だ。
今更だけど、もっと優しく扱えなかったのかと疑問に思ってしまう。
「アンが新たに機体を作ってくれるって言うから託してみたいんだ。新たな機体に、この集積デバイスを」
「悠人がそう考えているなら私に反対する理由はありません。手伝いましょうか?」
「大丈夫だよ。これくらいの重さなら、僕一人で持ち上げたいし」
僕はそう言いながらしっかりと集積デバイスを抱えて下半身に身体強化魔術を発動させる。そして、そのまま飛び上がった。
開けた部分から僕は飛び出してエクスカリバーの体に着地する。そして、そのまま優しく飛び降りた。
腕の中の集積デバイスは無事だ。
僕はホッと息を吐きながらゆっくりと集積デバイスを下ろした。
「じゃあ、アンの所に向かおうか」
僕達が麒麟工房に来てからすでに一日が経過した。朝、メリルが連絡を取り合ったことから大体の内容は入っているけど、はっきり言うなら状況は芳しくない。
いや、芳しくないというより最悪という方がいいだろう。
首都では悠聖さん達第76移動隊の面々が狙われた。しかも、狙って来た相手は冬華さんの昔の知り合いで、狙いは悠聖さん、冬華さん、そして、鈴を殺すこと。
何とか未然に防いだみたいだけど、最後に自爆したらしく、冬華さんは未だに放心状態だとか。
ダークエルフやソードウルフは無事だったらしいから良かったけど、一歩間違えれば全滅していたに違いない。
そこは運が良かったというべきか。
フルーベル平原にいる敵勢力は目下、首都に向かって進軍中。昨日の段階で孝治さんが妨害してくれたからか進みは遅いらしい。
もしかしたら、メリルや僕が間に合うかもしれない状況だ。
今日中には迎えが行くって聞いてはいるけど。
「ご苦労さん。これがエクスカリバーの集積デバイスか」
アンの部屋に集積デバイスを持ち運んだ時、アンの姿はどう考えても下着に近い状況だった。
僕は一心不乱に視線を逸らしながら集積デバイスをアンに渡す。
「アン、せめて服を着てください」
「大丈夫や、問題ない。勝負下着やから」
「問題ありすぎです!!」
メリルが顔を真っ赤にして叫んでいる。こういうメリルを見るのは真新しいかも。
「ケチやな。見せても減るようなもんやないし。悠人、うちの胸はメリルよりもあるやろ?」
「見たことないからわからないけど」
「えっ? 毎日一緒に寝てるんとちゃうん? 今日やって布団の中におったやん」
僕とメリルの顔が同時に赤くなった。
確かに今日の朝は何故かメリルと一緒に寝ていた。本当に何故か。
おかげで僕は起きた瞬間に大きな悲鳴を上げたほどだ。
「なんや、初々しいな。初夜を迎えたんとちゃうん?」
「迎えてないよ!」
「頭文字Dから卒業やろ?」
「とっくの卒業してるけどね! そもそもメリルとは初夜自体迎えていないし!」
「メリルがせっかく夜這いをかけたのに」
「そうなの!?」
僕は驚いてメリルを見た。メリルは顔を真っ赤にして頷いている。
夜這いをかけてきたってことは僕が寝静まってからだろう。でも、例えメリルが夜這いをかけても僕はずっとルナのことを思い続けている。
「はぁ、悠人は女の子のことがわかってないな」
「さすがにそこはわからなくてもいいと思うのは僕だけかな?」
「まあ、それはいいとして」
「よくないです!」
話を戻そうとアンがそう呟いた瞬間、メリルが顔を真っ赤にしながら叫んでいた。
僕もアンも呆気にとられている。
「悠人はもう枯れているんですか!」
「いきなり何でそんなことを言われなくちゃいけないのかな!?」
いきなり意味がわからないよ。
「私に魅力はありますんか?」
「可愛すぎてお持ち帰りしたいくら」
「アンは黙ってください」
「はい」
ヤバい。今のメリルには誰も刃向かえない。というか、刃向かえる人がいるのかわからないくらいの状態だ。
涙目で上目づかい。この時点で大抵の男子はコロッとやられるだろう。しかも、メリルは本気で涙目になっている。演技じゃない。
さらに言うならメリルは可愛い。だから、男子は刃向かえないし、女子に対しては牙を向く。女子が猫だとするならメリルはパンダだ。あれはあれで凶暴だから。
「悠人はどうなんですか!?」
「メリルは可愛いよ」
「なら、抱いてください!」
「わけがわからないし怒りながら言うことじゃないよね!?」
「優柔不断もいい加減に止めてください!!」
「何で僕が怒られるの!?」
本当に、わけがわからないよ。
アンは助けるつもりが無いからか大爆笑しているし。
「悠人、決めてください。私をこの場で抱くか、私に殺されるかを」
「いきなり究極の選択だよね!? というか、それは僕に選ばすつもりはないように思えるのだけど!」
「恋する女の子は強いですよ」
「可愛いく言ってもダメ?」
「どうやら、心配するのは無駄だったようじゃな」
呆れたような、でも、どこかホッとするような響きの声に僕は振り返っていた。そこにはまるでお姫様のようなドレスを着たアル・アジフさんがそこにいた。
このドレス、アル・アジフさんが持つ戦闘服で一番防御力があるからだろう。見た目もアル・アジフさんと見事にマッチしているから綺麗だし。
僕はそんなアル・アジフさんを見た瞬間、アル・アジフさんに抱きついていた。
「アル・アジフさん」
「よく頑張ったの。話は聞いておる。よく、あの状況でメリルを助けたの」
「うん、僕、頑張ったよ」
「偉いぞ」
アル・アジフさんが頭を撫でてくれる。この時、ようやく僕はあの状況がどれだけ危険だったかについて気づくことが出来た。
そして、その恐怖を思い出してアル・アジフさんを強く抱き締める。
「えっと、あんた誰や?」
不思議そうなアンの声。それにアル・アジフさんはきっと笑みを浮かべて返すのだろう。
「我が名はアル・アジフ。この子の保護者じゃ」