第三十八話 侵入者
一度は書いて見たかったアル・アジフとネクロノミコンの同時登場。
「こっちじゃ」
アル・アジフの言葉にオレ達は格納庫の中に入っていった。格納庫の中にあるのはイグジストアストラルとソードウルフ。そして、ダークエルフ。
中にはオレ、アル・アジフ、リリィ、リリーナ、鈴に冬華と楓の合計七人の姿がある。
アルネウラと優月は格納庫の入り口でグラウと一緒に見張っている。
「今の我らは戦わぬ方がいい。楓も冬華も疲れておるからの」
「いやいやいや。あんたが言う言葉じゃないよな」
多芸に秀でたアル・アジフな音界の侵入者だろうか人界の侵入者だろうか関係ないような気がする。
本当に、アル・アジフはどこでも戦えるからな。
「我が音界では戦わないと決めておるのじゃ。そもそも、音界の魔力粒子は我の肌には合わぬ」
「肌って、おい。まあ、アル・アジフがそう言うならオレらは何も言わないから。みんなもそれでいいよ」
「アル・アジフが前に出ればいいのじゃないかしら」
「人の話を聞けよ!」
尋ねようとした瞬間には冬華は全く空気を読まずに発言していた。
そうなると話がかなりループするような気もする。
「分かっているわよ。まさか、侵入者騒ぎがあるとは思わなかったから。医務室の方には心配ない戦力がいるから大丈夫だけど、ここはそう戦力は高くないわ」
まあ、怪我人一名。パイロット一名。中レベルクラス一名。来客一名だからな。リリーナが殺気立っているところを無視しても危険性はかなり高い。
一応、ゼロ式精霊銃は準備しているし、バレットもすぐ放てるように準備も終わっている。
「それはいいんだけどさ」
殺気立ったリリーナがリリィに視線を向ける。リリィはオレの後ろに隠れた。
「どうして天界の、しかも、アークレイリアの持ち主である、敵、がどうしてここにいるのかな?」
「オレが招待した」
「悠聖も空気読まないわよね」
隠すようなことじゃないし。
リリーナがアークベルラを構える。リリィはとっさにアークレイリアに手を伸ばそうとするが、途中で手を止めて、そして、下ろした。
それにリリーナは驚いたように目を見開く。
「どういうつもり?」
「今日は戦いに来たわけじゃないから。イグジストアストラルのパイロットと話がしたいから来たのよ」
「私?」
急に名前を呼ばれた鈴が驚く。確かに、こういう流れで呼ばれるとは思わないだろうな。
リリィは小さく息を吸い、そして、オレの後ろから横に移動した。
「傷つける気はない。もし、私が危険ならアークレイリアは白川悠聖に預ける。それでもいいから話させて欲しいの」
「どうだか。天界は口先三寸だから信用出来ないし。じゃ、亀甲縛りにでも」
「わかった」
鈴がゆっくり前に踏み出す。
「その前に、名前を聞いていいかな? 私は結城鈴。イグジストアストラルのパイロット」
「ありがとう。私は」
その瞬間、カツンという音が天井付近から鳴り響いた。それにオレ達は周囲を見渡し、リリィが動いていた。
アークレイリアを引き抜いて鈴に向かって一直線に走っている。隣にいるリリーナは反応が遅れ、リリィは手を突き出した。
飛び散る鮮血。それにより、鈴の顔に血が飛び散った。リリィの左肩から飛び散った血が。
押し倒された鈴の上にリリィが倒れ、その手からアークレイリアが滑り落ちる。
「リリィ!」
オレはリリィの名前を叫びながらゼロ式精霊銃を引き抜いた。そして、リリィの肩を切り裂いたものを見る。
矢、にしては大きい。槍とは少し違う。これは、何だ?
「なるほどの。そういう武器を使うとは意外じゃったな」
アル・アジフがアル・アジフを開きながらリリィに駆け寄った。そして、すかさずリリィの肩に治癒魔術をかける。
オレ達は倒れ込んだ二人を囲むように四方を固めた。
天井付近を見上げてみれば、天井付近にある足場に何人もの姿が見受けられる。正面から来た戦力じゃないな。
「アル・アジフ、あいつらは何を使ったんだ?」
「古代の武器で簡易型バリスタじゃ。本来は槍より大きな槌を飛ばすためのものじゃが、簡易型は持ち運び出来るサイズにしたもの。魔力保護も一切かかっておらぬから生半可な防御魔術では簡単に砕かれるぞ」
「そいつは嬉しくない誤算だな。数は大体8か?」
「いえ、13よ。楓、ブラックレクイエムは」
「警戒されてる。それに、ブラックレクイエムはバリスタ対策に使った方がいいと思う。私の残存魔力は少ないから」
さっきの模擬戦があったからだよな。
ゼロ式精霊銃のバレットを交換する。そして、それを天井に向けた。
バリスタの位置さえわかればいいんだけど。
「イグジストアストラルの上」
リリィの小さな声。リリィに視線を向けるとアークレイリアを拾い上げて笑みを浮かべていた。
それにオレは笑みを浮かべ返す。
「漆黒の闇は全てを包む存在」
ゼロ式精霊銃に魔術陣が展開される。ゼロ式精霊銃に使える必殺技だ。オレはその魔術陣を展開したままゼロ式精霊銃をイグジストアストラルの上の足場に向けて引き金を引いた。
漆黒が駆け抜ける。
身体強化した人ならそう見えただろう。駆け抜けた漆黒は設置されたバリスタを砕き、バリスタを操作していた人を貫いた。
もちろん、魔力弾だから気絶するだけだ。
それにしても、ディアボルガの魔力から作ったバレットは使えたな。
オレは新しいバレットに替えながら周囲を見渡す。エネルギー弾のスピードを遥かに超越した弾速に周囲は完全に固まっていた。
「脅しとしては充分ね」
「脅すつもりは無かったんだけどな。まあ、いいや。さて、相手方はこのまま動くつもりはないのかね?」
今の弾速を見れば撃たれたら終わりだと思っているに違いない。だけど、問題がある。
ディアボルガの魔力で作ったバレットは一発しか撃てない。それに、一発分しか持っていなかった。まあ、今入っているバレットはそれより速度を出す最速の弾丸だけど。
これも一発分しかない。
「はぁ。このままでは埒があかぬの。それに、どうやら何かを待っているようじゃ」
「待っている? まさか、アルネウラ達を」
「それな無いじゃろ。アルネウラ、優月の二人ならともかく、グラウ・ラゴスがいるならまず負けぬ。それに、もしもの時はディアボルガが飛んでくるじゃろ」
「気づいていない可能性は否めないけどな」
あいつらの事だ。周囲は警戒しているけど中は警戒していない可能性は大いにある。
オレは小さく溜め息をついてゼロ式精霊銃を構えた。
「さてと。なら、もう一発だけ使って」
「それはさせないとだけは言っておきましょう、白川悠聖」
そんな声が天井の足場の方から降ってくる。オレはゼロ式精霊銃をそちらに向けた瞬間、誰かが飛び降りた。そして、地面に着地する。
着地した男、牛乳瓶の底みたいなメガネとボサボサで伸び放題な髪の毛をした清潔な服装をした男、が笑みを浮かべる。
「さすがは世界最高の精霊召喚師。厳重に光学迷彩をしていた私達の兵器を破壊するとは天晴れです。しかーし、私がここに来た以上、私の教え子はやらせません」
オレがゼロ式精霊銃でしっかり狙いを定めると、冬華が呆れたように溜め息をついてオレの横に並んだ。
「はぁ、相変わらずね。先生」
「この声この姿その刀はもしや、冬華君ですか!? いやー、お久しぶりですね。そちら側、ということは私達の敵ですか」
「あんまり戦いたくないのよ。先生は頭は狂っているけど優しくて教え子思いだから」
「誉めてないよな?」
頭が狂ったってかなりヤバい人じゃないか。
「ノンノンノン。冬華君とは戦いたくはありませんが、イグジストアストラルはこれからの作戦において邪魔になるもの。パイロットには少し痛い目に合ってもらいますよ」
「させると思うか? それに、出来ると思っているのか?」
「出来ますよ」
男は笑みを浮かべて懐から一冊の本を取り出した。
「これはかの有名なアル・アジフの上位互換の自動書記魔術書ネクロノミコン。これさえあれば世界最高の精霊召喚師に勝てるはずです」
あれ? こいつ、もしかして、気づいてない?
隣で冬華が呆れたように溜め息をつく。オレがアル・アジフを見ると、アル・アジフは笑っていた。
「いい、度胸じゃ」
あー、うん。確かにそうだね。本人の前で上位互換とか言うなんて。
「悠聖、冬華、楓。手を出すではないぞ」
「まさか、あなたみたいな子供が相手ですか? 私は子供が大好きですからあまり相手にはしたくはないのですが」
「ふふふっ。いい度胸じゃな。我の前でそれほど余裕だとは。いいじゃろう。少しばかし本気を出させてもらうとするかの」
アル・アジフは笑みを浮かべていた。見たら誰もが引くような笑みを。
「我が名はアル・アジフ。世界最古の魔術書にして世界最高の魔術書じゃ!」
次回、アル・アジフVSネクロノミコンですが、まあ、どうしてアル・アジフなのかについても本人の口から語ってもらいます。おそらく。