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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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幕間 離散

ドアをゆっくり開ける。去年なら涼しい冷房の効いた風が迎えてくれるが、今年はそんなものはない。


オレは小さく息を吐きながらドアを閉めた。


真っ暗な部屋。そして、不自然なまでに綺麗に整頓されている部屋。


「寂しくなったな」


学園都市騒乱が一段落し、ようやくオレも説明ばかりのために世界を飛び回る必要が無くなったのだが、ここ、第76移動隊の駐在所には誰もいなかった。


今のオレは学園都市の代表じゃないし、第76移動隊自体が休止中だから支障はない。でも、寂しいものは寂しいな。


部屋の灯りを最低限だけつけて机に座る。机の上に置かれているのはアルに頼んでいた『ES』視点からの『GF』についてだ。


アリエル・ロワソからの考察まで書いてある。


「慧海、時雨、お前達は何がしたいんだ?」


本来なら来るべきでは無かった学園都市騒乱の際に二人はやって来ていた。ギルバートさんはいいとして、時雨まで来る理由がわからない。


秘密裏に処理されたことだってたくさんある。慧海に聞いても惚けられて終わりになるだろう。


「わからないな。あいつらの考えることはよくわからないからな。せめて、もう少し情報があれば」


一番の問題点はギガントの強奪やエクシダ・フバルを狙った面々。それらが慧海によって秘密裏に処理された以上、真相を調べるのは難しい。


それに、他にもたくさんの違和感がある。


「お帰り。帰ってたんだ」


考え込んでいたオレの耳にメグの声が入ってきた。オレが顔を上げるとそこにはメグと夢の二人がいる。第76移動隊で学園都市に未だに残っている二人。


オレは軽くすくめて言葉を返す。


「ついさっきな。事後処理は大半が終了したし、これからは何とか学園都市にはいられそう」


「それなら良かった。私も夢もたった二人で頑張っていたんだから」


そう、オレが戻って来るまで学園都市にいる第76移動隊は二人だけだった。


由姫は里宮本家に向かい、里宮本家八陣八叉流のさらなる上達を。音姉は白百合本家に向かって白百合流の最終奥義やら何やらの習得を。帰省組は帰って来ていないしベリエやアリエも帰省した。“義賊”には調べ物を頼んでいるから学園都市にはいないし、和樹はいるが、戦闘員ではないから無視。


「もう、大丈夫、なの? 忙しい、って聞いていたけど」


「大丈夫と言えば大丈夫だな。一時は第76移動隊の存亡すら危なかったけど」


「第76移動隊の、始まり、は、『赤のクリスマス』、だから」


「まあな」


『赤のクリスマス』を起こした大犯罪人の息子がいる第76移動隊なんて許せない。そんな風潮が一時期、世界中に広がった。だけど、『赤のクリスマス』にオレら自体も巻き込まれているためあっという間に沈下したのが現状だ。


ただ、楽観視出来る状況でもないが。昨日まで滞在していた国で聞いたとある内容。それはオレを不安にするだけの十分な内容でもあった。


「ただ、今でも少しマズい事態になっているんだよな」


「マズい事態? どういうこと?」


メグが不思議そうに首を傾げる。本来なら不安を煽らないために言わない方がいいのだろうけど。


「白百合家と里宮家が最近、海道家と出会っているらしいんだ」


「名家が三つも?」


「名家の、仲は、悪かったはず」


「夢の言う通り。白百合家は剣の一族。里宮家は情報の一族。海道家は魔術の一族と上手く別々になっているんだ。どれもこれも一筋縄ではいかないけど、確実に言えるのは戦い方の考え方から思考まで全く違うということ」


「どこのテロリスト集団?」


あながち間違っていないのが怖いところだ。今では大々的に動くことはないが、それらはこの百年以内に起きた事件に由来している。


そもそも、慧海が第四次世界大戦によって宿命を背負った少女を英雄にすることになったのは白百合家が原因であり、この時はさっきの名家三つの他に善知鳥家を含めた四つが四皇家と呼ばれていたりもするが、これは余談だ。


第四次世界大戦終盤では里宮家も入って来たが、あえなく白百合家と共に滅亡の危機に立たされたりもした。


というか、慧海の仲間に白百合家と里宮家の直系かつ次期当主候補がいなかったから確実に潰れていたよな。まあ、白百合家と里宮家はまだ仲はいいかもしれない。


まあ、一般的に見れば仲は悪いけど。一番の問題が、


「でもさ、海道家って今は大人しいって聞いているけど。ほら、海道姫子。新しい海道家のトップは私達と同年代だし」


「あいつは大丈夫だ。今は茜もそこにいるし。問題なのは現海道家のトップじゃなくて、前海道家のトップ及びそれに追随する存在。一番厄介なのは、レヴァンティン」


オレはレヴァンティンを机の上に置いた。そういう話は一番こいつがわかっている。


『海道家宗家の足取りは未だに掴めていませんよ。どうやっているかはわかりませんがあらゆるデータ取引を利用していないので私では出だし出来ません』


「っていう状況だ」


別名、不可能問題。


レヴァンティンはあらゆるネットワークに介入することが出来、『GF』が作った対レヴァンティン用ネットワークですら簡単に潜り抜けることすら出来た。


最近は今まで以上にオーバースペック化しているような気もするが。


ネットワーク上のあらゆるデータ、特に海道家宗家については目を光らせているけど、未だに見つかっていない。


どういうことなのか全くわからないけど、相手が巧妙なねか、ただ単に別の世界にいるか。


「最近だと『GF』も怪しくなってきたからかなりマズいんだよな。というか、オレ達が孤立してきているし」


「本当に?」


メグの顔が引きつる。オレ達というのは主に第76移動隊を指すから『GF』の中でも孤立してきているという意味だ。


今ではかなり部隊自体がバラけているし。


「それはとある情報筋からなんだが、十中八九間違いはないらしい。まあ、気になる話はいくつか増えたけどな」


メグと夢の二人は絶句している。


時々ギリギリ犯罪みたいなことをしているからか危機意識は強いみたいだ。まあ、今回ばかりはそういうものでは終わりそうにもないけど。


「考えとかないといけないかもな。オレ達の立ち位置を」


「つまり、『GF』から逃げないといけないということ?」


「そういうわけじゃない、とは考えたい。だけど、問題がな」


相手があの慧海と時雨なんだよな。


慧海は何だかんだいってオレ以上にハイスペックな何でも最強オールラウンダーで時雨は単体での戦闘は極めて強い。


それに、時雨は未だに本気を出していないらしいし。


この二人が敵に回れば、それだけで今の第76移動隊にはチェックメイトを宣言されたのと同じだ。時雨はどうにか出来ても慧海がな。


「周君。周君は、何を、考えて、いるの? 一体、何を」


夢が少し怖がるように尋ねてくる。オレはその言葉で自分の頬に手を当てていた。


笑っている。いつの間にか、笑っている。


「そうか」


オレは笑みを浮かべる。そして、自分の体の中に語りかけた。


「いや、少し思いついただけさ。この状況をひっくり返すことが出来る手段の一つを」


そうなると、あそこに向かわないといけないよな。


「だから、行くしかないな。狭間市に」

次の幕間の内容は周が狭間市ですることです。多分。

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