第三十二話 増援
悠人と悠聖にとって馴染みの深い人が増えます。
左手を伸ばし本棚にある本の一冊を掴む。そして、それの表紙を捲った。
「これじゃないな」
小さく溜め息をつきながらオレは本を本棚に戻す。そして、隣にあった本を掴んで本棚から抜いた。
軽くパラパラ捲りながら内容に目を通す。
「これでもない、かな」
本棚に本を戻しながらオレは小さく息を吐いた。そして、今持っている三冊の本に目を落とす。
他に本が見つかりそうもないからとりあえずこれだけを読むとするか。
オレは小さく息を吐きながら近くの机に向かって歩く。
ここは首都にある公共の図書館。ただ、図書館にしては人はまばらだ。理由としてはフルーベル平原のことがあるだろう。実際に首都から逃げ出す人も少なくはない。
だから、図書館にいるのは知識階級というべきか、とりあえず、貴族が多かった。もちろん、一般の人もいるが。
「というか、情報が少ないんだよな。アストラルの名前が付く機体は造られているのにアストラルに関する文献は本当に少ないし」
二時間ほど本棚をあらかた探し回ってようやく見つけたのがこの三つ。
アストラル解体真書。アストラル神話。そして、アストラル秘伝。
内容的にもどれも文句はない程度だからこの三つでわかればいいが。
「考えても仕方ないか。とりあえず、読むとするか」
オレはアストラル解体真書を手に取った。
アストラル解体真書はアストラルの名を受け継ぐ機体について様々なことがかかれた本だ。本当に詳しくは書かれていないが、オレの興味はアストラルシリーズではなくアストラルの由来。
イグジストアストラル自体がアストラルという名前の聖女だったか忘れたけど、ともかくアストラルというすごい人のために造られた機体というのは知っている。だから、存在するアストラルなのだ。
だから、イグジストアストラルというのはそれで置いていても、どうしてアストラルシリーズというのが生まれたのかがわからない。名前なら他にあったはずだ。
魔科学時代に造られた機体である六つ、イグジストアストラル、マテリアルライザー、ストライクバースト、ヴェスペリア、ラインセントラルにエターナル。
別に他の名前でもいいはずなのにどうしてアストラルシリーズなのかは音界に行ったら是非とも調べたい物事の一つだった。
「アストラルシリーズの生まれについては書いているな。最初のアストラルシリーズはグレイル・メゾレフによって開発された高性能フュリアスで、聖女の名前を使った国を守護する存在として名付けられた、か。そもそも、アストラルという人物がどうして聖女なのかは書いていないな」
書いていたら色々と推測することは出来たが、どうやらアストラル解体真書ではアストラル=聖女というのは当たり前のことらしく理由は書いていない。
音界では一般的な話ということだろうか。
「こういうことなら単独で来るべきじゃなかったな。とりあえず、アストラル解体真書は横に置いておいて、次はアストラル神話にするか」
神話という程だからアストラルについて書いている、そう思っていた。そして、表紙を捲った一文目の文字に目を疑う。
『この本を、聖女アストラル様に捧げる』
思わずまばたきしてしまった。
「聖女、ね。これならアストラルについての詳しい話が」
「それにアストラルについて詳しい話は乗ってないわよ」
その言葉に顔を上げた瞬間、目の前に純白のナイフが突きつけられていた。
周囲にいる人は誰一人としてこちらを見ていないが、偶然というより何らかの能力だろう。
ナイフを突きつけているのは純白の服を着た少し幼い女の子。
「気配を遮断するタイプのレアスキルか」
「使い勝手は悪いけどね。どうしてアストラルについて調べているの?」
「どうして? 人界にいた頃から調べたいことを調べているだけだ。それで、天界の民がどうしてここに?」
オレがそう尋ねると女の子は完全に狼狽していた。何を言おうか迷っている雰囲気はあるが完全に何を言えばいいかわからないみたいだ。
多分、天界の民だとバレたことなんだろうな。
「あのな、上から下まで服装が純白なんて怪しいぞ。しかも、靴まで白いのに汚れがないのはここまで飛んできたんだろ?」
「うぐっ、地上の民の癖に生意気よ。私はただ、アストラルについて調べに来ただけ。あなたがアストラル秘伝を持っていたから」
「アストラル秘伝?」
オレはアストラル神話を横に置いて最後の一冊であるアストラル秘伝を掴んだ。そして、ページを捲る。
女の子も机を飛び越えてオレの横から本の内容を覗き込んできた。
「えっと、何、この文字」
「わからないのかよ?」
「そもそも、天界で使っているものと違うし」
「だろうな」
天界の文字はかなり特殊で人界にも天界の文字を読み解く専用の語学すらあるくらいだ。話している分には簡単に通じるんだけどな。
天界では天界中心に物事が進むし、基本的には天界の文字さえ覚えておけば大丈夫だろう。だから、この子はわかっていないということか。
「これは英語って言って人界で最も使われている言語の一つなんだ」
「英語か。話すことは出来るけど読むことが出来なくて」
「なるほどね。って、どうしよう。読めなかったらここに来た意味は無いし」
確かに問題だよな。というか、この状況だったらオレが読むほうが手っ取り早いか。
「じゃあ、オレが」
「懐かしいものじゃな」
オレの手にあった本がいつの間にか消え去っていた。代わりに、桜色のコートに身を包んだアル・アジフが向かいの席でオレの持っていたはずのアストラル秘伝を開いている。その後ろには七葉の姿まで。
何で?
「悠兄、驚いているね。心配だったんだよ。悠兄がやられて意識が無いって聞いて。悠人もやられちゃうし。だから、私達が代わりにやってきたわけ」
「そういうことじゃ。それにしても、懐かしいものを読んでおるのじゃな。とっくの昔に紛失したものだと思っていたが」
「知っているのか?」
オレの言葉にアル・アジフが懐かしそうに笑みを浮かべていた。ただ、そこか年老いた感じがする。まあ、年齢的には凄く年上なんだけどな。体を除いて。
「これの作者は我だぞ。悠聖にルーリィエ・レフェナンスよ」
「「はっ?」」
オレの言葉と七葉の言葉が重なった。そんなこと初耳だし、どうしてアル・アジフが記述した本がこんなところにあるのかがわからない。そもそも、アル・アジフ自体、音界の存在を知ったのは狭間戦役の頃のはずだ。
オレらが驚いているのと対照的に女の子はゆっくり一歩後ろに下がった。
「じゃあ、私はこれで」
アル・アジフにルーリィエ・レフェナンスと呼ばれた女の子はすかさずこの場から離れようとするが、それより早く七葉の頸線がルーリィエ・レフェナンスを縛り上げていた。
どうやら最初から打ち合わせをしていたらしい。というか、多分、オレの後を付けていたよな? そうじゃなかったらこんなところにいるわけがないし。
「そなたには色々と聞きたいことがあっての。まあ、危害は加えんし、危害を加えようとする輩がいるなら我が全て倒すから安心せよ」
「安心できると思っているの? アル・アジフって言えば生きる伝説で敵対したなら無事でいた者はいないっていうくらいに化け物じみた存在よ。そんな人物相手に安心できると思う?」
「それもそうじゃな」
「いやいや、納得するなよ。オレ達が知りたいことはその本についてだ。えっと、ルーリィエだっけ?」
「リリィでいい。みんなからはそう呼ばれているから」
「そっか。リリィが知りたいことはなんなんだ?」
ここに著者がいるなら直接講義してもらった方がいいと思う。その方が確実だし安全だし、何よりわかりやすい。
リリィは少しだけ考えて、そして、小さく頷いた。
「私が知りたいのはアストラルについて。イグジストアストラルのアストラル機装についても知りたいけど」
「アストラル機装?」
オレの疑問にリリィが頷く。
「そうよ。マクシミリアン様を苦戦させたイグジストアストラルの装備であるアストラル機装。それがどんなものかよくわからなかったから解説して欲しいの」
「そうじゃな。本当に詳しい話は出来ぬが、その程度なら可能じゃ。では、授業といこうかの」
一応、第三章で音界にいる人界の面々はこの話で全員集合したんじゃないかなと思っています。もしかしたら突発的に増えるかもしれませんが、第四章の都合でまずあり得ないと思います。
次はアストラルとアストラル機装について、ではなく、人界での話になります。つまりは幕間です。