第三十一話 アストラル機装
新たな言葉です。
「どういうことか説明してもらおうか」
広大な基地の中にある格納庫の一つ。そこでルーイは鈴に尋ねていた。鈴の隣ではリリーナが立っている。正確には格納庫にあるイグジストアストラルを見上げている。
イグジストアストラルの横にある装備。それはイグジストアストラルを覆い隠すほど大きな盾と通常の倍近い大きさのエネルギーライフル。
ルーイは小さく溜め息をつきながら壁に背中をつけた。
「別に無理に言いたくないならそれでもいい。だが、あの武装、アストラル機装に関してだけは説明して欲しい」
「アストラル機装?」
リリーナが振り返る。それにルーイは頷いた。
「文献を調べていてようやく見つけた。アストラル機装。過去に失われたとされるフュリアスの装備。僕はイグジストアストラルの装備は一つも無いと聞いていたが?」
「どうして話さないといけないんですか?」
鈴の言葉はどこか冷たく、ルーイの疑問を完全に拒否しているのが丸わかりだった。
ただ、アストラル機装を詳しく理解していないリリーナだけが首を傾げている。
「ルーイ、どういうこと?」
「アストラル機装というのはかなり特別なものなんだ。僕が文献で把握した限り、現像しているのは四つだけ。その内の二つがあのイグジストアストラルが持つ大盾と巨大エネルギーライフルだ。大盾はイグジストアストラルと同じ装甲で、エネルギーライフルは現在の技術では再現出来ない高出力射撃が可能だ。もし、そんなものが手に入ったら」
「いい加減にして」
鈴はルーイを睨みつける。
「あの装備はストライクバーストを倒すために必要なもの。ストライクバーストを倒すまでは何も語るつもりはないし、渡すつもりもない。ストライクバーストを倒すまでは」
「別に君から取り上げるつもりは僕には無いし、使うなとは言わない。だが、どういうことか説明して欲しい。説明しないなら、結城鈴。君を武器密輸容疑の罪で逮捕する」
人界から音界に向かう際、必ずと言っていいほど持ち込む武器について書かされる。悠聖の場合はずっと召喚しておくことでそれを逃れることは出来たが、フュリアスの場合はそういうわけにはいかない。
もし、持ち込む武器のリストに無い武器を持ち込んだなら内容にもよるが死刑というのもありえる。
鈴は唇を噛み締めるとそのまま歩き出した。イグジストアストラルに向かって。そんな鈴にルーイは手を伸ばし、掴む。
「どこに行く?」
「ストライクバーストを探しに行く」
「見当はあるのか?」
「ない」
ルーイの手を振り解こうと鈴は手を振るが、ルーイはがっちりと手を掴んでいる。
「そんなことを許可出来るわけがない。僕だって今すぐメリルや悠人のところに向かいたいがそんなことをすればただの逃亡だ。犯罪だ。行かせるわけには」
「だったら」
鈴がルーイを睨みつける。その睨みつけている目には涙が溜まっていた。
「どうしたらいいのよ!! 悠人は負けた! エクスカリバーに乗って負けた! だったら、ストライクバーストと同じイグジストアストラルが戦うしかないじゃない!」
「落ち着け! 今は闇雲に動くべきではないと言っているんだ! フルーベル平原での存在がこの首都を脅かしているんだ。そんな状況でイグジストアストラルを動かせば、反乱勢力として攻撃されるぞ!」
「それでもいい! 私は、ストライクバーストを」
その瞬間、鈴は頬に痛みを感じていた。叩かれたのだと気づくまでに数秒。そして、叩かれた相手がリリーナと気づくまでに数秒。
鈴は信じられないという風にリリーナを見ていた。リリーナはそんな鈴を抱き締める。
「お願いだから、お願いだから鈴もいなくならないでよ」
「リリーナ?」
リリーナがギュッと鈴を抱き締める。
「悠人やメリルまでいなくなったのに、鈴までいなくなったら、私は何も出来ない。だから、お願いだから私の前からいなくならないで」
「でも、私が、私とイグジストアストラルがストライクバーストを倒さないと、また、誰かが」
「一人でやるには限界があるだろ」
ルーイが呆れたように言う。その言葉にキョトンとして鈴はルーイを見た。
「ストライクバーストとは直接戦ったことはないが、あの悠人が負けたとなれば悠人以上の実力があるパイロットがいたと考えていいだろう。なら、別に一人で戦わなくてもいい。僕達全員が戦えばいい話だ」
「でも、ストライクバーストの防御力はイグジストアストラルに次くらいに高いし、並の攻撃だとダメージを与えることしか出来ないし、アストラル機装を使っても仕留めることは出来なかったし、それに、ストライクバーストのパイロットの技量も並々ならないものがあるし」
「それはイグジストアストラル単体でストライクバーストと戦ったからだろ。僕達は負けるつもりはない。負ける勝負をするつもりはない。アストラルソティス、アストラルルーラ、ソードウルフ、イグジストアストラル、そして、ダークエルフの五機がかりで戦えばいい。そうじゃないか?」
実力で勝てないなら数を揃えればいい。
確かにそういう考えは戦場において必要なものかもしれない。だが、敵はストライクバースト。だから、勝てるかどうかは不安に思うしかなかった。
イグジストアストラルと同じ時代に造られた機体でイグジストアストラルとは違うコンセプトによって完成したストライクバースト。
その強さはアストラル機装を取り出して戦った鈴だからわかる。
「でも、私はアストラル機装を隠し持っていたし」
「アストラル機装自体がとやかく言う問題じゃない。そもそも、アストラル機装を隠しておくというのはいい判断だ。だから、口頭注意は受けるが没収はされない」
「されないの?」
鈴の疑問にルーイは頷いた。
「当たり前だ。三人はメリルに招待された面々だからな。歌姫の権力は本当に偉大だ。その力を使っている以上、鈴が捕まるわけがない」
「だったら、どうして私はあんなに脅されたの?」
頬をひきつらせながら鈴はルーイに詰め寄ろうとする。だが、リリーナがしがみついているため上手く動くことが出来ない。
そんな鈴にルーイは苦笑しながら口を開いた。
「そうじゃなかったらすぐさま出て行きそうだった。最も、僕の言葉じゃ君は止まらなかったが」
「当たり前。私だって色々と考えているんだから。そもそも、ストライクバーストと対抗出来るのは私のイグジストアストラルかアル・アジフさんのマテリアルライザーくらいだし」
「ストライクバーストがどういう能力をしているかはよくわからないが、確かにイグジストアストラルやマテリアルライザーならストライクバーストと対抗は出来そうだな」
「悔しいけど、今の私の力じゃストライクバーストは倒せない。リリーナは、手伝ってくれる?」
その言葉に鈴に抱きついていたリリーナが小さく溜め息をついた。そして、ゆっくり鈴から離れて鈴の目を真っ直ぐ見る。
鈴は真っ正面からその目を受け入れて頷いた。それにリリーナは負けたかのように両手を挙げる。
「わかった。ただし」
ビシッとリリーナは鈴に向かって指を向けた。
「どこかに行く場合は必ず私と悠人に相談すること。鈴一人だと音界を敵に回すのは辛いよね?」
「ちょっと待て。どうして僕の前で平然と裏切りを宣告するような言葉を吐くんだ?」
「あははっ。でも、私は別に音界政府の味方ってわけじゃないんだよ。私は、私達はただ守りたいだけ。だから、時には戦うという選択肢を考えないといけないしね」
イグジストアストラルとソードウルフ。その二機を敵に回すということを考えるとルーイの頭の中には過去の事件が思い浮かんでいた。
それは、狭間戦役の際、結城家に加担した当時の音界政府軍はイグジストアストラルとソードウルフ、そして、アストラルブレイズやギガッシュ。さらには孝治や楓と言った部隊に負けた。
それを考えると二人を敵に回すということは極めて大変な事態なのだとよくわかる。
「せめて、そういう時が来ないことを祈るよ」
ルーイは小さく溜め息をついて歩き出した。もう、鈴に聞くことは何もない。
今まではルーイ一人で聞きに行っていたから無理だったが、リリーナを連れて行ったのは成功だったとルーイは確信出来る。
格納庫から出てアストラルルーラの格納庫に向かおうと足を向けた。
「身内の犯罪は逃すのか?」
その言葉にルーイは足を止める。そして、小さく溜め息をついた。
「盗み聞きか? 趣味が悪いな」
ルーイは振り返る。そこにいるのは首相のグレイル。グレイルの顔には笑みが浮かび、対するルーイはグレイルを睨みつけていた。
ルーイの表情が変わらないからかグレイルは舌打ちをする。
「親衛隊風情が」
「なら、僕はこう言わせてもらおう。成り上がりのグレイル・メゾレフ」
「ふん。犯罪者を見逃すのはさすがに言い逃れ出来ないと思うが?」
再び首相の口元に笑みが浮かぶ。その笑みにルーイは呆れたように溜め息をついた。
そして、首相を睨みつけながら口を開く。
「グレイル・メゾレフ。お前が何をしたいかなんて僕には想像がつかないし考えるつもりもない。だが、そのためにアストラル機装を集めるなら僕にも考えがある」
「歌姫に密告するか? 残念ながら歌姫の権限は私と同列だ」
「そんなことはしないよ。でも、アストラル機装に、イグジストアストラルに、鈴に手を出すなら僕は容赦しない」
そして、ルーイは首相に背中を向ける。
「僕はアストラルリーネを使う」
「国家反逆罪だぞ?」
「それでも、僕はあなたが音界を売るなら、僕は喜んで剣を使う。アストラル機装の剣をな」
ルーイは歩き出した。歩き出して小さく拳を握り締める。
「僕が守るんだ。悠人や鈴、リリーナと一緒に僕が守るんだ」