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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二十九話 花畑孝治と愉快な仲間達

深く生い茂った森の中。その中に孝治とルネはいた。いや、身構えていた。


孝治が静かに運命を構える。隣にいるルネもすでに張り巡らせた頸線をいつでも使えるようにしている。


孝治が運命を構えている相手。それは、体に紫電を迸らせた刹那と光明結界アーク・レーベを展開して孝治や刹那を警戒しているアーク・レーベ。


そんな三すくみの状況を見ながらルネは額に一筋の汗を流した。


「どういう状況?」


この状況を語るには少し時間を遡らなければならない。






孝治の足が止まる。横を鼻歌混じりに歩いていたルネも少し歩いてから同じように止まった。


孝治は集中しているかのように目を瞑り、耳を済ませている。それを見たルネも同じように目を瞑り、耳を済ませるが何も聞こえない。


ルネが小さく溜め息をつくと同時に孝治は目を開けた。


「戦っている」


その小さな声にルネが驚いたように孝治を見た。


「戦いの音。フルーベル平原の奴らか? それにしても動きが早い。別勢力? 先遣隊?」


「君は一体、何を言っているの?」


「微かだが音がする。俺はかなり耳が良い方だからな。方角はあっちだ」


孝治が指差した方角には森の始まりと言うべき地点があった。それを見てルネは目を細める。


「確か、フルーベル平原に最も近いレシャス森林区だっけ。私も詳しくは知らないけれど、あそこで本当に戦っているの?」


「音がする。例え視覚的に見えない位置にいても、音は人が走るより早く空間を駆け抜けるからな」


「いや、人が音より早く駆け抜けたなら大変なことになるから」


窓ガラスは全部割れるだろう。


「今は行くしかないだろう。もしかしたら、あそこで戦っているのは味方かもしれない」


「別に行かないと言うわけじゃないけど、森の中か。嫌だな」


「虫が嫌い」


「苦手なだけ。中東、特に『ES』アジト近郊だとたくさん出るから。特に、Gの名を持つあいつが」


そう語るルネの体は心なしか震えているような気もする。おそらく、あのGの存在に何かトラウマがあるのだろう。


対する孝治は納得したように遠い目をしながら頷いていた。


「楓がいれば日の目を見ることはない」


「楓は別だよ。Gを魔術で焼き殺すし」


「だが、大丈夫だろう。俺の予測が正しければあの中の虫は死んでいるか隠れているかのどちらかだろう」


「どういうこと?」


ルネは不思議そうに首を傾げる。それに対して孝治は笑みを浮かべた。


「行けばわかる」






レシャス森林区。


そこは音界の中にある数少ない自然保護区の一つで多くの研究者が通っている。ただ、自然保護区の中でもレシャス森林区は大型の肉食昆虫が出ることが有名で、研究者は皆武装している。


孝治やルネは言わずもがな。


「ひっ」


ルネが小さな悲鳴を上げながらホタルとカマキリを足して二倍にしたような大きさの昆虫に向かって右手で魔術を展開する。だが、その昆虫は飛び上がり、ルネが放った稲妻を回避する。


昆虫はルネに飛びかかり、突如として体液と共に数十の破片を周囲に飛び散らせた。


ルネは小さく息を吐きながら体液と破片を防御魔術で受け止める。


「確かにその戦闘スタイルは有名になるな。ヤクモ・ベガルタの名前の由来もそうだが、それはそれで名前を貰えるのではないか?」


孝治の言葉にルネは顔を少し青く染めて小さく息を吐きながら左の手首に巻いたベルトについた球体に広げていた頸線を戻した。


ルネの周囲にいる昆虫は全て息絶えており、それら全てはバラバラにされていた。対する孝治は周囲にはおらず、前方に頭を撃ち抜かれた昆虫が多数転がっていた。


「アリエル・ロワソ様が私のために作ってくれた武器だから私はかなり使い易いかな。まあ、これは私の武器の一つだけど」


「得意武器ではないのだな」


「私は本来、冬華や楓とチームを作っていたから。一番の得意武器は槍」


「使った姿を見ていないが?」


「あはは」


孝治の言葉にルネは苦笑いを浮かべる。


確かに、ルネは未だに投げナイフと頸線しか使っていない。だから、孝治にとってはかなり興味深い相手でもある。


「それにしても、昆虫ってこんなにも攻撃的だったの? 一体や二体ならともかく複数の昆虫が一斉に襲いかかってくるなんて」


「予測していたことだ。俺からすれば何事も無い方がおかしいな」


「森の中で戦っている存在に心当たりが無い私からしてみれば何が何だかわからないんだけど」


「だろうな」


孝治は小さく息を吐きながらも弓を構えて矢を放った。矢は的確に昆虫の頭を貫く。


また小さく息を吐いて弓を下ろしながら孝治は手のひらの上にあるものを取り出した。


そのあるものとは、膨らんだ風船。その風船は孝治の手のひらを下にしても落ちることは無かった。


ルネは不思議そうに首を傾げる。そして、ルネが風船に手を伸ばし、掴んだ。風船を見ても何らおかしな所は無い。


「これがどうかしたの?」


そう言ってルネが風船を返そうとして気づく。何もしていないはずなのにルネの手のひらに風船がくっついている。いや、引き寄せられている。


「静電気?」


「そうだ。普通なら感じられないが、闇属性というのは吸収するものだからな、微かな静電気もわかるというわけだ」


「なるほど。つまり、心当たりは」


「おそらくだが、いや、確実にあいつだろうな


孝治がそう笑みを浮かべた瞬間、孝治に向かって光が向かってきていた。それを黒い球体で受け止めながら孝治は笑みを浮かべる。


「どうやら俺の部隊の隊員が世話になったみたいだな。アーク・レーベ」


その言葉と共に森の中からアーク・レーベが砲撃槍を片手に現れた。ルネはすかさず頸線を周囲に巡らせる。


アーク・レーベは笑みを浮かべながら光明結界アーク・レーベを展開した。


「久しいな、花畑孝治。とは言っても、それほど時は立っていないか」


「そうだな。俺もそう思っている。聞きたいことは山ほどあるが、刹那も出てきたらどうだ?」


孝治の言葉と共に紫電が迸った瞬間、そこには刹那の姿がある。


孝治は静かに二人に向けて運命を構えた。


「どういう状況?」


額に一筋の汗を流しながらルネが尋ねる。


その言葉に真っ先に動いたのはアーク・レーベだった。


「雷帝。今回ばかりは矛を引かないか?」


「そうッスね。孝治がいる以上、こっちに勝ち目はないッスから」


「雷帝ともあろう者が高く評価しているのだな」


「親友の親友ッスよ。評価しないわけにはいかないッス」


その言葉と共に二人は構えを解いた。アーク・レーベは光明結界アーク・レーベを消し、刹那は紫電を散らす。


孝治も二人の行動を見て運命を下ろした。


「どうやら突発的にあったみたいだな」


「そうッスよ。フルーベル平原でドラゴンが使われた可能性があるから向かっていたんッスけど、途中で光明神に出会ってしまって」


「雷帝と出会ってしまえば戦わないわけにはいかないだろ? だが、雷帝もドラゴンか」


「も、ッスか?」


「ああ。私もだ」


二人がお互いに笑みを浮かべ合う。その光景に孝治は今までのことを思い出していた。


今までの戦い、特に第76移動隊として戦った戦いはこれとよく似た状況だと言えたから。最終的には同じ目的であっても過程が違い、戦ってきた。


こういう風に分かり合えることが出来たなら、と孝治は思ってしまう。


「ドラゴン、と言ったか。それはどういうことだ?」


孝治が一歩踏み出しながら尋ねる。アーク・レーベは刹那に視線を向けて、刹那はゆっくり頷いた。


「最近、魔界のドラゴンが減少しているんッスよ。知り合いに竜使いドラゴンマスターがいるんッスけどそこからの情報と、後は第76移動隊からの連絡ッスね」


「私はマクシミリアン様が聞いた噂の真相を知るためにだ」


「そうか。アーク・レーベには数日前の事を聞きたいが、協力するなら聞かないでおこう。どうやら俺達全員は目的が同じなようだ」


孝治は黒猫を狙いに、刹那はドラゴンが少なくなってきていることを調査しに、アーク・レーベはドラゴンが音界に存在していることを調べに。ルネは黒猫について調べに。


「つまりは、このまま全員で行動するんッスか?」


「私は賛成だ。雷帝の動向には気になる」


「そうだな。このメンバーなら負けることはないだろう」


そう胸を張る孝治に対し、ルネは後ろで呆れたように溜め息をついた。


「これってどういうメンバーよ」


第76移動隊で二番目に強いとされている花畑孝治。


魔界で二番目に強いとされている刹那。


天界で二番目に強いとされているアーク・レーベ。


そして、『ES』でも有名なヤクモ・ベガルタことルネ。


どう考えても戦力過多だ。


「一体、どうなるのかしら」


その言葉は誰がリーダーになるか視線で牽制しあう三人には聞こえなかった。

ちなみに、実力的には横一線です。

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