第二十二話 アークの持ち主
レヴァンティンレプリカが天界の兵士が振るった剣を打ち払い、代わりに側頭部に叩きつけられる。その隣ではアークフレイを握り締めた白騎士が持ち前の防御力と攻撃力で向かって来る兵士達をことごとく倒していた。
その戦いは正が前に出ているのではない。正はあくまでサポート。前で戦っているのは白騎士だ。
ただし、白騎士が周囲を警戒することなく戦っているのは正の影響がかなり強いが。
「なかなかやるね」
迫ってくる光属性の誘導系の魔術であるシューティングアローを簡単に弾きながら正が白騎士を見ながら言う。白騎士は鎧の下で笑みを浮かべながら前方にいた兵士を斬り裂いた。
「そっちもな」
正はすかさず一歩を踏み出してレヴァンティンレプリカを突く。前を塞ぐように動いた兵士の喉を勢いよく突き、そのまま体をねじこませて殴りつけた。これにより、ようやく360°完全包囲という状況から脱出することが出来た。
正は小さく笑みを浮かべつつ。振り返りながらレヴァンティンレプリカの先を向ける。
残りの数は大体30くらいだろうか。
「知っているのか? こいつらのことを?」
白騎士の疑問に正は頷く。だが、その頷くは何かが飛来する音と共に止められた。
すかさずレヴァンティンレプリカを鞘に戻す動作と共に光の矢を撃ち落とす。白百合流鞘戻し『楓残月』だ。タイミングを計ったやり方に隣にいた白騎士はただ驚くしかない。
だが、正は信じられないように自分の手を見ていた。正確には、未だに痺れているかのように震えている右手を。
「我が矢を撃ち落とすか。やりおるな」
その言葉に正は睨みつけた。そこから現れたのは純白を基調とした金の装飾の入った豪華な弓を持つ老人。純白の服装をして腰近くまである白い長い髭が特徴だろう。
正は自分の右手を握り締めてレヴァンティンレプリカの柄を握り締めた。
「風霊神アークセラー、だったかな」
「ほう、我のその名を知るのか。アークセラーを知る者は少ないと踏んでいたのだが、まさか、風霊神と共に当てられるとはの」
「正、誰だ?」
白騎士がアークフレイを構えながら正に尋ねる。正は少しだけため息をついた後、視線を風霊神アークセラーが握る弓に向けた。
「アークの名を持つ武器の一つアークセラーを持つ風霊神。本名は確か」
「セルゲイだ。元光明神でもある」
セルゲイが弓、アークセラーを構える。それに白騎士は腰を落とした。
アークの名を持つ武器は戦い合う運命にあり、つまりは白騎士とセルゲイは別の意味での敵同士なのだ。だから、白騎士は警戒する。
アークベルラほどではないが警戒するだけでアークセラーが危険であることは容易に感じることが出来た。
「アークフレイか。並々ならぬ二人組がいるとは聞いていたが、確かにアークフレイでは分が悪い」
「そうだね。アークフレイは僕の持つ攻撃のほとんどを打ち消される。本当に相性の悪い武器だよ。でもね、あなたは鎧を着ていない。だったら、勝負する場所はあるんじゃないかな?」
「確かに考えられそうなことだな。だが、アークセラーを甘く見るなよ小娘。お前みたいな元気のいい小娘は嫌いではないが、無謀な挑戦をして命を散らすならそれは無駄というものだ」
「無駄、か。そではどうかな? 僕は僕で」
「正は下がって」
白騎士が前に出る。そして、アークフレイを構えた。
「アーク同士の戦い。私は未だに一度もしてはいないけど、こいつらがなんか嫌な奴だと言うのはわかる。だから、私に戦わせてくれ」
「危険だよ。アークセラーの能力は」
「おしゃべりが過ぎるな、小娘」
その瞬間、正の体が吹き飛んだ。正確にはセルゲイが弦を鳴らした瞬間に吹き飛ばされたのだ。すかさず体勢を立て直すが、その時には正を囲むように天界の兵達が動いている。
アークセラーの能力を知っていなければきっとこれでやられていただろうと正は冷や汗を流す。
「さあ、アークの持ち主同士戦おうではないか。それに、アークフレイが最強という話は聞き捨てにならん。現魔王や天王マクシミリアン様のようなら別だが、お前はただの人間。それがアークの争いに関わるなんて言語道断だ」
「勝手に言っておけ!」
白騎士は前に走り出した。アークフレイを握り締めてセルゲイとの距離を詰めようとする。だが、セルゲイは静かにアークセラーの弦を鳴らした瞬間、白騎士の体が吹き飛ばされた。白騎士はすかさず体勢を立て直すが、その瞬間には目の前にいくつもの矢が迫っていた。
体を捻りながらアークフレイを振る。変な体勢で振られたアークフレイにちゃんとした威力は無いが、そのアークフレイは的確に白騎士に直撃するコースの矢を弾いていた。
だが、攻撃はさらに迫る。
アークフレイを握り締め、迎撃しようとした瞬間、セルゲイが弦を鳴らした。
白騎士の体が吹き飛ばされて無防備となったところに光の矢が降り注ぐ。回避できないような攻撃。だから、漆黒の矢がその光の矢を撃ち落とした。
「なっ」
「待たせたか?」
音もなく孝治が木々から飛び降りて白騎士の横に立つ。対するセルゲイは忌々しく孝治を見ていた。
セルゲイもアーク・レーベの話を聞いているからだ。ある意味天界の最大の天敵ともいえる存在であると言うことを。
撃ち払うだけで手が痺れるようなアークセラーが放つ一撃の矢を孝治は普通の矢で撃ち落としたのだから。だから、セルゲイが一歩後ろに下がった瞬間、かさっとセルゲイの背後で音が鳴り響いた。
セルゲイが振り返った先に見えたのは漆黒の鎌。完全な隙を突いた攻撃にセルゲイは反応出来ない。
「アークセラーはもらった!」
アークベルラを握り締めたリリーナがアークベルラを振り下ろす。だが、そのアークベルラは急に現れた純白のナイフによって受け止められた。
リリーナとセルゲイとの間に入ったのはリリーナよりも少し幼さのある純白の服と翼を持つ女の子。
「お爺ちゃん! 後ろに気を付けてと言っているよね?」
「助かったぞ、リリィ」
「ふふん。このルーリィエ・レフェナンスに感謝してよね。ところで、このちび誰?」
その言葉にリリーナは完全に怒ったような表情になる。
「むかっ。名前が似ているだけでイラつくのに」
「名前が似ているのはあなたの方でしょ? あんたみたいなちびの名前なんて興味は無いけど」
「ちびはそっちでしょ? 明らかに身長小さいくせに!!」
「ちびって言った方がちびなんだから!!」
「アークレイリアを持っているからって調子に乗るのは最悪だよね、ちび!」
「そっちこそ、アークベルラを持っているくせに。えっ? アークベルラ?」
自らルーリィエと名乗った少女は鍔迫り合いとなっていた状況から一歩後ろに下がった。そして、リリーナを指さす。正確にはリリーナが持つアークベルラを。
「どうしてあんたが魔王の証のアークベルラを持っているのよ!」
「パパから譲ってもらったから」
「魔王の、娘?」
ルーリィエの顔色が変わる。まるで、魔王の名前に何かトラウマがあるかのような表情にリリーナは首をかしげた。
ちなみに、セルゲイは呆れたようにため息をついている。
「お、お爺ちゃん。撤退しない?」
「しないつもりだったが」
セルゲイは苦笑しながらある方向を見る。ルーリィエもそちらを見て、そして、絶句した。
何故なら、そこには天界の兵士の死体の山があったからだ。左手にレヴァンティンレプリカを。右手に伝説の片割れである剣を握り締めた正がその中心に立っている。両手の剣からは血が滴り落ち、正の体は返り血で真っ赤に染まっていた。
ルーリィエが一歩後ろに下がる。
「した方がいいみたいだな。第76移動隊花畑孝治。どうする?」
セルゲイが孝治に言葉を投げる。対する孝治は肩をすくめながら苦笑した。
「お前達二人を相手に気絶させるのは難しいからな。だが、その前に誓え。今この時俺達を襲う運命であると」
「はあ? 意味がわからないんだけど」
ルーリィエが訝しむように眉をひそめる。その言葉に今度はセルゲイが苦笑した。
「なるほどな。お前達が襲ってこないならばの話だ。今この時、お前達を襲う運命である」
「その言葉、しかと聞き届けた。運命!」
孝治が運命を一閃する。それによって完全な拘束が発生した。もちろん、セルゲイも一つの条件を出しているので一方的に攻撃することがされないようにしたが。
セルゲイが笑みを浮かべながら姿を消す。それと同じようにルーリィエも姿を消して、そして、現れた。みんなが不審に思っている中、ルーリィエはリリーナを指さす。
「絶対あんたみたいなちびとは決着をつけるから!」
「ちびのくせに生意気だよ! ちび!」
「ちびって言う方がちびなんだよ! ちぶっ」
再度現れたセルゲイが呆れたようにルーリィエの頭に拳骨を落とす。そして、一礼してからルーリィエを抱えてその場から姿を消した。
白騎士はさっきまで二人がいた場所に駆け寄る。
「どういう原理だ? 消えたぞ?」
「空間転移。ただし、一方通行のな。今から一分以内の残り香を使えば転移することは可能だが、今は引こう。そういう約束だからな」
「仕方ない。それにしても、強かったな。あの爺さん。私がやられかけた」
孝治はその声を聞きながらも手を地面に振れていた。そして、小さく笑みを浮かべる。
「使えるな」
「花畑孝治、どうかしたのかな?」
振り返った先にいる血で真っ赤になった正に孝治は呆れながら魔術を発動した。それにより、正に服装から血の色が消える。
「何でもない。このまま奥に向かうぞ。せめて、詳しい生存者がいればいいのだが」
孝治の言葉と共に全員は歩き出した。だが、その場にいる全員の顔は少し暗い。特に、リリーナと白騎士の顔は暗かった。
「「強くならないと」」
二人の言葉は誰の耳にも入ることなく虚空へと消え去っていった。
ちなみに、アークは全部で七つ出す予定です。アークベルラ、アークフレイ、アークセラー、アークレイリアの四つが出ていますが。ちなみに、全て形状が違う予定。