第二十話 強襲作戦実行
星語りの方が若干スランプ気味なので現在はこちらに集中しています。originの更新はいつになるかはわかりませんが。
カグラの先を目標に向ける。目標地点はベルトランの残骸が見える近くの森。そこに狙いを定めながら楓は小さく溜め息をついた。
目標地点はここから2kmほど先の場所。照準術式を展開しているから狙いは付けられるが、ここからの砲撃では威力が落ちるのは楓自身がよくわかっている。
「チャージ無しのワンショット。それを届かせるようにって無茶かあるんだけど」
そう溜め息をつきながら楓は狙いを定める。定めながらカグラを握り締めた。
「方向良し。ブラックレクイエムのチャージは問題無し。作戦を、始めましょうか」
楓は小さく呟いて砲撃を開始した。
岩壁が迫る。それを高速のレバー捌きでくぐり抜けながら僕は次の地点を見据える。角度は大体120°。このレベルなら駆け抜けることは難しくない。
両翼を引っ掛けることなく僕はさらに加速する。
「悠人はすごいですね。レジニア峡谷をこの速度で駆け抜けるなんて」
「そこに何か無茶があることに気づかないかな?」
ブースターとスラスターを上手く動かしながら出力の上げ下げを繰り返す。時には加速、時には減速を繰り返して僕は峡谷の間を駆け抜ける。
本当ならもっとゆっくり向かうつもりだったけど、作戦の上ではこの速度を維持して攻撃地点とは離れた目的地に向かわないといけない。ちなみに、峡谷を監視していた人は孝治さんが上手く倒したから敵に見つかる心配なく駆け抜けれる。
「それにしても、メリルってえげつない作戦をかんがえるんだね?」
「そういうものですか?」
「そうだと思うよ。楓さんや光さんを使うなんて、相手がフュリアスを使っていたなら圧倒的な結果になると思うな」
「裏の異名で『悪魔』の名を持つお二方ですしね、私もそういう異名が欲しいです」
「メリルは冗談抜きで止めた方がいいよ」
多分、『悪魔』じゃなくて『魔王』と呼ばれるようになると思う。
すかさずレバーを立ててエクスカリバーを変形させながら逆にブーストを噴かせる。前まで迫っていた岩壁ギリギリで速度が無くなり後ろに下がっていく。すかさず振り返らせてまたレバーを倒した。
エクスカリバーが戦闘機形態に戻って加速する。
「メリル。隠密性は薄れていない?」
「はい。極めて高い水準で維持しています。悠人はすごいですね。ここまで姿を消したまま移動出来るなんて」
「そうかな?」
光学迷彩の維持の原理は未だによくわかってはいない。ただ、下手な動きでは光学迷彩事態が機能しないという事実も存在している。何が正しいかは未だによくわかってはいないけど、この操作ならまだ解けないらしい。
「そうです。光学迷彩は維持が難しく、今回の作戦はそこがネックでしたが」
「それも乗り越えたってこと?」
「はい。これからの作戦は各々の頑張りです。私達も頑張りましょう」
その言葉に僕は頷く。そして、エクスカリバーの出力を若干だけ上げることにした。
「イグジストアストラル、発進します」
鈴の言葉と共にイグジストアストラルがハッチから飛び出した。そして、それと同様に光もハッチから飛び出して『炎熱蝶々』を広げてイグジストアストラルと共に浮かび上がる。
今回の作戦は二人がかなり重要な位置にいるといってもよかった。だから、光はレーヴァテインを構えたまま岩壁と平行に飛び上がり、若干だけ上の様子を確認する。
光は視力が高くないため魔術で補助しているが、その視界の中には墜落したベルトランの近くの森で周囲を警戒しているフード付きのローブを着た人達が数人。
どう考えても怪しい人達だった。
「こちら光。敵の姿の確認を完了したで」
『こちら孝治。場所は上空1500m地点。ブラックレクイエムと共に準備に入った』
光の言葉に続いて孝治が通信を開いて話してくる。その言葉に光は小さく頷いた。
『了解したよ。こちらがポイントに着くまであと少しはかかるかな。二人は相手の動きを注意深く確認してもらえるかな?』
「どうして正が通信担当になってるん?」
『人手が足りないからだよ。幸い、僕の出番はもう少し後だ。でも、僕達はすでに準備を整えている』
「わかってる。さっきうちらはそっから発進してんで。とりあえず、第一段階は楓の砲撃から」
その瞬間、光の上を駆け抜けるように砲撃がベルトランの近くに向かって放たれ爆発した。
森の中にいたローブ姿の者達が狼狽しながらも魔術陣を展開する。遠距離からのフュリアスによる砲撃だと思ったのだろう。すかさず砲撃が楓のいる方角に向かって放たれた。それは森の中からも放たれている。
「第一段階開始やな。鈴は大丈夫か?」
『は、はい。大丈夫です』
緊張した声。今回の作戦はイグジストアストラルの動きによって成否が変わってくると言っても過言ではない。
予想外の事態が起こらない限り負けることはないが、緊張するのは無理もないだろう。
光は小さく溜め息をついて、そして、口を開いた。
「失敗してもええで」
『えっ?』
驚いたように声を上げる鈴に光は苦笑しながら振り返った。
「失敗したらサポートする。やから、鈴は自分が出来ることをめい一杯やり。わかった?」
『はい』
鈴の頷きに光は満足そうに笑みを浮かべた。そして、通信を開く。
そうしている間にも楓と敵との砲撃のやり合いは続いている。光の視界の中では何人もの敵が倒れているのがわかった。
光達はまだ手を出さない。まだ、出せない。
レーヴァテインを握る手が汗ばむのを感じて光が小さく息を吐いた瞬間、通信が入った。
『準備は出来たかい? 今から120秒後に僕達は出撃する。そして、強襲をかける。相手の防衛陣を破壊するのは君達の仕事だよ』
正の声に光は笑みを浮かべた。そして、峡谷から飛び出した。その背中をイグジストアストラルが追いかける。
「第二段階開始や」
「始まったようだね」
正は戦闘の音を聞きながらレヴァンティンとよく似た剣を鞘から抜いた。すでに白騎士はアークフレイを握り締めている。
「準備はいいのか?」
そんな正の様子に白騎士は尋ねた。
正は一瞬だけなんのことかわからないという風な顔をした後、納得したように頷いた。
「この服は特注品でね。戦闘に着る防護服と同じかそれ以上の防御力があるんだよ。だから、心配はいらない。心配するなら僕は君の方を心配するけどね」
「この鎧はどんな攻撃をも通さない。だが、注意はする。私が倒れれば多くの同士が悲しんでしまう。そんなことはさせたくない」
「殊勝な心がけだね」
正は笑みを浮かべながら目の前にあったハッチ開けた。そして、そこから顔だけを出す。
風はそれほど強くは無く、少し離れた場所から飛び降りることは可能。だから、正はレヴァンティンのレプリカを握り締めた。
「そろそろ三人の『悪魔』が猛攻を仕掛けている頃だね。さて、僕達も向かおうか」
「『悪魔』、か。人界とは化け物が住んでいるのだな」
「いや、比喩だからね」
「そろそろですね」
メリルの言葉に僕は素早くレバーを立てて変形した。エクスカリバーのスピードが落ちてその足が峡谷の下を流れる河に着地する。
「ここ?」
「はい。ここです。ここから私達は後ろから攻撃を仕掛けます。ある程度の危険は考えられますが私は悠人の腕を信じていますので」
「わかったよ。メリル、準備はいいよね」
出力をゆっくり上げる。そして、僕はペダルを踏み込む。エクスカリバーが膝を曲げ、そして、飛び上がった。
出力をさらに上げて垂直に上昇する。そして、峡谷からエクスカリバーが飛び出した瞬間、視界の中にリーゼシリーズのような純白のフュリアスとトリコロールで両肩と両腰に砲塔がついた機体。
「ストライクバースト!?」
僕は叫びながらブーストを逆に噴かしてエネルギーライフルを構えた。ストライクバーストもこちらを見て砲門を向ける。
強襲作戦の本格的な始まりは、最悪の出会いと共に始まった。
次回、一部エクスカリバーVSストライクバースト。どうなることやら