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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第十九話 人と精霊

頭がふらふらする。まだ、本調子でないのはわかっている。


委員長が持っていた琴美さん特製の着付け薬とレクサス、アーガイルの二体によって行われた治癒と痛み止めによってオレは何とか誰かの力を借りて起き上がることが出来た。


だけど、長くは続かない。今にも気絶しそうなほどの痛みが体を襲っている。


「悠聖」


冬華は嬉しそうに微笑んだ。その笑みにオレは笑みを浮かべて返す。そして、黒猫を睨みつけた。


「あんたが黒猫か」


「まだ満身創痍ながら立ち上がれるとは。若いというのはいいの」


「正直かなりキツいけどな。だけど、冬華に俊也がいるなら、オレくらい普通に守るだろ」


オレは不敵に笑みを浮かべる。そして、小さく頷いた。


「そして、お前には言いたいことがいくつかあるからな」


「精霊を戦いの道具にしていることへの反論か? お前には出来るのか? 儂はただ事実を言っているだけのこと。それに何の反論があると言うのだ?」


「否定はしないな」


否定はしないではなく否定は出来ないというのが正しいだろう。オレはみんなを戦いの道具としても使っている。それは紛れもない事実だ。


みんなの精霊武器をこの手で使ったり、シンクロして力を貸してもらったりと、様々なことでみんなを戦いの道具としている。


それは黒猫の言うように事実だ。だから、反論はしない。


オレの言葉に意外だったのか、黒猫は驚いてオレを見ていた。


「だから、否定はしない。実際にオレ達は精霊を道具としているのは事実だから」


「お前は何を反論するつもりだ?」


「だから、オレはそれを踏まえて反論するぜ」


オレは笑みを浮かべて言葉を返す。そして、隣で肩を借りている優月の体を少し抱き寄せた。


「お前は精霊を道具としてしか扱っていない。その点でオレ達とは大きくかけ離れている。オレ達は精霊を大切な仲間や友、家族として見ている。お前は精霊を戦いの道具としてしか見ていない!」


「仲間? 友? 家族? 笑わせてくれる。人と精霊は違うものだ。それを家族などと言うのはただの笑い話」


だから、オレは隣にいた優月にキスをした。優月は驚いたように目を見開いて、そして、目を瞑った。


オレは数秒口づけをした後にゆっくり優月から離れる。優月は名残惜しそうにオレを見つめているが、オレは小さく頷いて黒猫の姿を見た。


黒猫は驚いたような表情でオレを見つめ、そして、


「破廉恥な!」


「そんな反応来るとは思っていなかったんだけどな!?」


もっと別に言うことがあるんじゃないかなと思うのだが。


『悠聖は私のものだよ!』


「お前は寝ていたんじゃないのかよ!?」


飛び起きたアルネウラにも言葉を飛ばす。黒猫の意表を突けたとは思うけど、まさか、こんな反応が返ってくるなんて思わなかった。


予想外の事態と言えば完全に予想外な事態だ。


「こんな場所でそんな、そんなことが出来るなんて。若いっていいの」


「老人丸出しだな」


「儂は老人だ。老人で何が悪い!」


「逆ギレするなよ。ともかく、オレはアルネウラや優月のことが好きだ。この気持ちは誰にも否定させない。ディアボルガやセイバー・ルカ、イグニス、レクサス、グラウ・ラゴス、エルフィン、ライガ。みんなみんな、オレの友だ。それだけは誰にも否定させない。否定することなんて出来ない!」


オレはちゃんとそう考えているし、みんなもそう思っているのだと思っている。だから、オレは確信を持って言う。


「俊也はフィンブルド、タイクーン、グレイブ、アーガイル、ミューズレアルを家族のように思っている。冬華はフェンリルのことを半身のように思っている。ここにいる誰もが精霊を戦いの道具だけとは思ってはいない!」


「だが、精霊は戦いの道具であるのは確かだと思わぬか? だから、儂は精霊を使う。戦いの道具として」


「精霊だって考えがあるんだぞ?」


「だからどうした?」


平行線だ。どこまでも平行線だ。


黒猫の考えは精霊というのは戦いの道具でしか考えていない。それは感情があっても、人と子供を作れるとしてもだ。


対するオレ達は精霊は大切な仲間であり友であり家族だと思っている。戦いの道具とは否定出来ないけど、そのことは絶対に否定はしない。


否定するつもりはない。だから、平行線だ。


黒猫は自分の考えに絶対変えないだろうし、オレ達も考えを変えない。だから、平行線だ。


「冬華、俊也」


二人の名前を呼ぶ。二人はオレを振り返り小さく頷く。


「黒猫を捕まえろ」


「「了解!」」


その声を聞いたオレはゆっくり目を瞑った。そして、意識を手放した。






「ミューズ!」


俊也がミューズレアルの名前を叫んだ瞬間、俊也の体を迸る紫電が大きくなった。そして、俊也が地面を蹴る。


黒猫はすかさず手を振り上げた。だが、その瞬間には最大限まで加速していた俊也の膝が目の前まで迫っていた。そして、俊也が駆け抜ける。


俊也は目を見開いた。何故なら、確実に当たる距離での攻撃を回避されたから。


地面に足をつき、滑りながらも上手く体勢を整えて振り返った。振り返った先には漆黒のドラゴンが口を開けて俊也を狙っている。


逡巡は一瞬。俊也はすかさずその場から飛び上がった。漆黒のドラゴンが俊也のいた場所を駆け抜けて首だけを振り返す。


そんな漆黒のドラゴンに向けて俊也は手のひらに作り出した雷の槍をいくつも投げつけていた。雷の槍は漆黒のドラゴンを地面に縫い付ける。


「ドラゴンの召喚? そんな気配は一切無かったのに」


竜使いドラゴンマスターを名乗るだけのことはある』


黒猫を睨みつけた俊也にはまだまだドラゴンが襲いかかっていた。それらは全て独特であり、少し小さい。


それらを睨みつけながら俊也は両手に雷の剣を作り出した。


「ミューズ、全力でお願いね」


『相変わらず、マスターは扱いが酷い。だが、我はそれに答えよう』


「千破万雷!!」


俊也の体が加速し、ドラゴンの体を吹き飛ばしながら黒猫に迫る。視認出来るような速さではない。だが、俊也の前から黒猫の体が不自然に横にズレた。


それに視線を向けながら俊也は千破万雷を止めて地面に着地する。


「避けられた? 違う。今のは」


「それが黒猫のレアスキルね。噂でしか聞いたことのないものだけど、まさか、あなたが持っていただなんて」


冬華は雪月花を構えながら黒猫に向かって言い放った。黒猫はただ笑みを浮かべているだけだ。


「相手の攻撃の絶対回避。レアスキル『サウザンドアイ』」


「レアスキル『サウザンドアイ』ですか?」


「ええ。どんな角度からの攻撃も、回避できるという最も意味のわからないレアスキルよ」


その言葉と共に冬華は魔術を展開する。選択した魔術はサイレントバニッシャー。氷属性の拘束魔術で拘束力は高くないが誘導性と連射性に優れたものである。


黒猫は一歩も動くことなくそれを避けて行く。もう、回避というものを完全に超えていた。


冬華は呆れたように小さく呟いた。


「無尽蔵のドラゴン召喚に絶対回避。相手にするのがバカバカしいくらいよね」


「諦めるのか、長峰の小娘。お前はなかなか見所がある小娘だと思っていたのだが」


「冗談。誰が諦めるものですか。それに、どうして私が動かなかったと思う?」


その瞬間、黒猫を中心に巨大な魔術陣が展開されていた。それは黒猫が召喚したドラゴンも範囲に巻き込んでいた。範囲内にいる全てを拘束しながら。もちろん、黒猫は魔術陣から現れる鎖を軽々と避けてはいるが。


冬華が動かなかったのは着々と魔術陣の展開を行っていたからだ。


「拘束+範囲攻撃。これで当たらなかったら黒猫のレアスキルは国宝ものよ! 唸れ! フェンリルストーム!」


その瞬間、氷の嵐が吹き荒れた。範囲内にある熱量を強制的に排出させるように働き掛けながら氷の竜巻が範囲内を大きく荒らす。だが、その中にいながら黒猫は平然と笑みを浮かべていた。


その口が動いている。もちろん、フェンリルストームのおかげで何を言っているかは分からないが。だが、冬華の顔色が変わった。それと同時に黒猫の姿が消える。


「ちっ」


舌打ちと共に冬華は魔術を止めた。そこに残ったのは息絶えたドラゴン達の姿。


『冬華よ。あやつは最後に何を言ったのだ?』


冬華の反応に気づいていたディアボルガは冬華に尋ねる。冬華は少し困惑した表情で言葉を紡いだ。


「『実験は成功した。お前達のおかげで最高の精霊召喚符が作れそうだ。感謝する』と言われたわ」


『あいつめ。まだ我らを道具とだけしか思わないのか!』


イグニスの怒りの声が周囲に響き渡る。その声を聞きながら冬華は俯いた。俯いて小さく頷く。


「今は、この村で生きている人を探すわよ。私とフェンリルは向こうに行くからみんなは他の場所をお願い」


冬華は指さした方角に走り出す。その背中を雪月花から戻ったフェンリルが追いかけて行く。


他の精霊達や俊也も思い思いの行動で動きだすが、優月だけは違った。優月は一人だけ冬華が走り去った方角を見ていた。


『優月、そうかしたの?』


レクサスが不安そうに声をかける。優月は数回首を横に振ると小さく頷いた。


「何でも無い、かな。レクサスさん、悠聖をお願いします。私も捜索に参加するので」


『ええっ。いいわよ。アーガイル。もう少し手伝ってくれない?』


そんな言葉を背中に聞きながら優月は走り出す。目的の場所に向かって。


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