第十七話 強襲作戦開始
小さく息を吸う。そして、小さく息を吐いた。
両手に握るレバーを握りしめ、前方を睨みつける。
隣には出力を上げている最中の強襲用高速航空空母。後しばらくすれば強襲用高速航空空母は浮かび上がるだろう。
今回の作戦はとても単純明快だった。
楓さんを遠距離攻撃の柱に。光さんを中距離攻撃の柱に。鈴のイグジストアストラルを近距離攻撃の柱とした作戦。
そこでの僕の役割は最初の強襲と撹乱。
僕は小さく息を吐いてレバーを握り締める。レバーを握る手に汗が滲んでいる。
「悠人、大丈夫ですか?」
そんな僕の背中にメリルの声がかけられた。そう、後部座席にはメリルが座っている。
僕は少し苦笑しながら振り返る。
「大丈夫だよ」
メリルが乗るとわかったのは強襲作戦の準備時間が終わる寸前だった。もちろん、僕やルーイは必死で止めたけど、僕の被弾率の低さから考えてルーイが後部座席に乗るのが妥当だったりもした。
今のエクスカリバーは後部座席に置いていた集積デバイスを外している。集積デバイスに積まれたデータによって様々な情報を処理してもらっていたが、メリルが後部座席に乗るならそれだけで処理が行える。
問題が、相乗りは初めてだということ。
「そうですか。少し緊張しているように思いまして」
「それはそうだよ。まさか、メリルが乗るなんて夢にも思わなかったからね」
「なるほど。でも、これには意味があるんですよ」
そう言って僕と同じ青いパイロットスーツを着ているメリルはにっこり微笑んだ。
「私が乗っている以上、悠人は落ちてはいけません。あなたは守ってください。自らと、私を」
「最初からそのつもりだよ」
僕は前を向く。すでにタイムカウントは30を切っている。30を切っているから僕はレバーを微かに前に上げて出力を高めた。
少しずつ、少しずつ出力を上げていく。それと同時にエクスカリバーの機体も少しずつ前に出て行く。
「僕は負けない」
絶対に負けない。
「だから、守るよ。鈴もリリーナもメリルもルーイもみんなも」
負けないからみんなを守る。自分だけが生き延びるなんて絶対に嫌だ。
「だから」
だから、僕はカウントを見つつ出力を上げた。
「僕が倒すから。みんなを傷つける存在になるものを!」
エクスカリバーが前に加速する。即席の滑走路を駆けるエクスカリバーの機首を上に向ける。それと同時にエクスカリバーが空に浮かび上がった。
「悠人、強襲用高速航空空母が浮かび上がりました。このまま加速して10時の方角に向かってください」
「わかった。出力を上げて加速する。シートベルトはちゃんと身につけた?」
「当たり前です」
メリルの返答に僕は頷く。そして、レバーをさらに上げた。
エクスカリバーの出力エンジンが心地よい唸りを上げてエクスカリバーの速度が加速する。その速度はスピードだけを追求した強襲用高速航空空母以上の加速が可能だった。
他のフュリアスなら置いていかれる。だからこそのエクスカリバー。
「進路を変えたよ。メリル、ナビはお願いね」
「わかっています。エクスカリバーの後部座席にある機器は一世代古い型ばかりですが、ちょうどいいものですから」
「そんなに古いかな?」
速度を微調整しつつ僕は笑いながら言葉を返した。確かに、今までは後部座席に乗れる人はいなかったから後部座席の機器を最新型にはしなかったけど。
「はい。ですが、私はこちらの方が使い易いと思っています。私が訓練した時はこの型なので」
「良かった。後部座席は手をつけていないから使えるのか心配だったけど」
「見くびらないでください。私も音界の住人です」
「ごめんごめん。でも、今まで後部座席に乗る人なんていなかったから」
僕は少しだけペダルを操作して機体を水平に安定させる。
少しの間離れていたからか若干微調整が出来ない。これをレジニア峡谷に着くまでにやらないと。
「そうなんですか? 私はリリーナや鈴が乗っているものだとばかり」
「二人共自分の機体があるからね。イグジストアストラルもソードウルフも癖はあるけどいい機体だよ。だから、二人はここには乗らない。それに、僕は人見知りをするからね」
「それにしては私には喧嘩を売ってきたと思いますが」
「あれって事実を言っただけなんだけどな」
僕は苦笑しながら答えた。そして、もう一度ペダルを操作して微調整を行う。
今度こそ上手くいったと思う。
「それに、メリルは男性恐怖症なのに僕とはすぐに仲良くなったと思うけど?」
「それは、悠人が空の民だからじゃないでしょうか。海道周とも仲良くなれましたし」
「仲良くなれていたのかな?」
どっちかと言うといがみ合っている印象があるんだけど。
空の民は伝承にしか残らない種族だから。僕が音界に来てからその文献を読ませてもらったけど、それは伝承の域を出ない言い伝えでもあった。
この僕の力、『天使』の力は一体何なのかはわからない。でも、これが僕にとって必要なものであることはわかっている。
「ふふっ。悠人、あなたはあなたらしく飛べばいいのですよ。私はそんな姿のあなたが好ましく思っていますから」
周囲を見渡しつつ僕は小さく苦笑した。
すでに周囲には田園風景が広がっており、たくさんの畑や水田が見渡せば無数に存在している。
レジニア峡谷まではもう少し時間がかかるけど、もう少しはゆっくりしていられるだろう。
「そうかな? メリル、強襲用高速航空空母の位置は?」
「後方500m後ろですね。もう少し距離を開けた方がいいかもしれません」
「速度があるね」
思っていた以上に強襲用高速航空空母の速度が速い。だから、僕は翼のスラスターも起動させてさらに加速する。
これで最高速度の70%ほど。これなら大丈夫だろう。そう思った瞬間、僕は嫌な予感を感じてエクスカリバーを変形させた。
戦闘機形態から人型に急速変形したため体に強烈な圧力がかかる。
「っく」
圧力に耐えているのと同時にあのまま進んでいたらちょうどエクスカリバーがいた位置にエネルギー弾が襲いかかった。
「悠人、何を」
「敵襲だよ!」
すかさずエクスカリバーを再度変形させて周囲を見渡す。
周囲には何も見えない。そればかりか、センサーにも何も映らない。それなのにエネルギー弾がエクスカリバーを狙っているのと。一体、どこから攻撃されているのかわからない攻撃だった。
「どこから」
襲い来る感覚を肌で感じながら僕は翼のスラスターとブースターの起動方向をこまめに変える。
飛行しながらあたかも踊るかのような回避行動。ただ、これにはいくつかの弱点もある。
減速する速度を感じながら僕は出力を上げた。
どうしても出力が落ちてしまう。緊急回避用の変形はもう使わない方がいいから今の形態でどうにかしないと。
「悠人、モニターに映します!」
メリルの言葉と共に風景の一部がモニターに移された。そこには何もない空間からエネルギー弾が放たれる瞬間と近くの木々の間に隠れている数機のフュリアスの姿。
音界の機体ではないはずだ。
「識別番号はありません。悠人、撃破してください」
「撃破? 捕獲じゃなくて?」
「はい。相手の武器は何かわかりません。ですから」
「わかった」
僕はエクスカリバーを変形させる。その瞬間、嫌な予感を感じてペダルを踏み込んだ。
エクスカリバーを狙ってエネルギー弾がエクスカリバーの足をかすめる。僕はそれを感じながら両手にエネルギーライフルを取り出した。
そして、正確無比な動作でメリルが映し出した場所を的確に撃ち抜いていく。
時折向かって来るエネルギー弾にはスラスターとブースターを上手く使い分けて回避する。数は後三機。
そう思った瞬間、後方から放たれた光の塊が残った三機を撃ち抜いていた。
振り返ったそこにはカグラを構える楓さんの姿がある。
『悠人、大丈夫か?』
孝治さんの声に僕は頷いた。
「大丈夫です。でも、あのフュリアスは」
エクスカリバーを変形させて加速させる。すでに強襲用高速航空空母はエクスカリバーより前を飛んでいる。
普通は狙うなら航空空母なのに、あいつらは僕を狙ってきた。それがわからない。エクスカリバーを撃ち落としても強襲用高速航空空母はその間に逃げ切っているはずなのに。
「悠人、どうかしましたか?」
「ううん。何でもないよ。とりあえず、加速するからちゃんと捕まっていてね」
「はい」
メリルの言葉を聞いた僕は機体を安定させて速度を上げる。
相手が何なのかはわからない。でも、倒せばいい。倒せばいいよね。僕は、全てを。