第十六話 強襲された地
唐突に前話から場面が変わります。
「どういう、ことだ」
オレは一歩を踏み出しながら見下ろした先にある光景を見つめていた。隣にいる冬華は悔しそうに拳を握りしめている。
目の前にあるのは燃え盛る村。そして、逃げまどう人達に攻撃を加えようとしている集団の姿。
手は、出せなかった。
集団から放たれた魔力の弾が村人を貫き、周囲に赤い血を散らせる。
老若男女関係なく、集団は様々な精霊とユニゾンした姿のまま人を殺していた。
そこはまさに地獄。そして、地獄であり、今現在、惨劇が行われている場所。
「アルネウラ!! セイバー・ルカ!!」
「フェンリル!!」
オレと冬華の声が重なる。全速力で向かって来たため疲れているはずの体は怒りによってエネルギーが満ち足りていた。だから、最初から全力。一歩目から全速。
スピードのある冬華は先にオレよりも先にがけから飛び降りる。続いてオレも崖から飛び降りた。
ルカの持つ剣を握り締め、上空から狙いをつける。冬華も飛び降りながら狙いをつけていた。
集団が道の真ん中で人形を握り締める幼い子供に狙いをつかる。その集団の中央に、オレ達は着地した。集団が目を見開きながらオレ達に視線を向ける。だが、次の瞬間には集団の全ての首が胴体から離れていた。
すぐさま刀を振り抜いた冬華と、ルカとシンクロした時に現れる宙に浮かぶ二本の剣が周囲を薙ぎ払ったからだ。
鮮血がオレ達の体にかかるのを気にすることなく、オレ達は次の標的を狙い定める。
「私は左を行くわ」
「ああ。右を行く」
戦いが起きている場所を見てからオレ達は走り出した。走り出してオレは前方で繰り広げられている光景を見て目を見開く。
そこには、生きたまま女性の人体を解剖して笑みを浮かべている老人の姿があったのだから。その周囲には周囲とは少し雰囲気の違う感じがする人が数人いる。だけど、オレは関係なかった。
「貴様らぁ!!」
ルカの剣を振り上げて斬りかかる。だが、目の前に展開された障壁魔術に振るった剣は受け止められた。
「小僧。我の楽しみを奪うではない」
「知るか!」
次の一振りで障壁魔術を破壊する。だが、その瞬間に音界ではありえない速度で二人の男が迫っていた。その速度はまるで周隊長の速度。
だから、オレは反応出来た。
右にいる男が持つ剣を振られた瞬間に前に体を出して肘で弾く。そのまま頭突きを叩き込んだ。相手の体がのけぞるのを感じながら左の男がその手に握る槍を突いてくる。その軌道を冷静に見ながらオレはルカの剣を手放した。
地面に落下するルカの剣と槍がぶつかり合い、槍が大きく下に弾かれる。
精霊武器にある特徴の一つで、持ち主以外の何かが触れた場合、大きく弾くような効果があるからだ。浮き上がった剣の柄を握り締め、無心で振り払う。
振り払った時には二つの首が飛んでいた。オレはさらに前に踏み出す。だが、そこには何重にも及ぶ障壁魔術が展開されていた。さらにはオレを囲むように結界すらも展開されている。
完全にオレを捕える状況。だけど、オレには効かない。
オレは剣を握り締め、セイバー・ルカの持つ精霊の力を使用する。
「小僧はそこで見学をしていろ」
「魔を撃ち払え」
オレは小さく呟きながら剣をさらに強く握りしめた。
セイバー・ルカが若手ながら最上級精霊となれた精霊の力でも最強クラスの特殊能力。
「聖を砕け」
そして、無造作に一閃する。
「聖魔滅壊剣」
全ての魔術が消え去る。そして、周囲にいた人の表情も固まっていた。
オレは一瞬で周囲を把握する。このまま真っすぐ向かえばただ障壁魔術やら結界やらを張られるだけだろう。だから、倒すのは少し離れた位置にいる魔術師達。
地面を蹴り、杖を握る魔術師に斬りかかった。もちろん、倒されまいと防ごうとするものもいるが、それごとオレは切り捨てる。そして、背後に振り返りながら剣を一閃した。
背後から迫っていた女を剣ごと上半身と下半身を別れさせる。
周囲に飛び散る血や臓物。足元は不安定になっていくけど、こんな戦場はまだ生ぬるい方だ。
「かかって来いよ。一人残らず殺してやる?」
オレの言葉に老人が笑みを浮かべる。
「外交問題にならないかの? そなたは人界の人間じゃろうに」
「外交問題? 人を惨殺するようなお前らを前にして戦わない方がどうかしているぜ」
「なるほどの」
老人は笑みを浮かべたまま解剖していた女性の心臓に持っていたメスを突き刺した。その女性は体を大きく跳ねてそれ以来動かなくなる。
メスを突き刺した心臓からはまるで間欠泉のように血が噴き出していた。その血を浴びながら老人は笑みを浮かべている。
「やはり、女子の体は解剖のしがいがある。次の生贄を」
「余裕だな」
オレは一歩前に踏み出した。老人を守るように男女の集団が前を塞ぐ。それにオレは剣を一閃した。
人の体がまるで人形のように吹き飛ぶ。四肢を切断されながら、血を周囲に撒き散らしながら、光景を真っ赤に染めつつ薙ぎ払った。
オレはさらに一歩を踏み出す。
「躊躇なく殺す。本当に最近の若者は本当に若いの。感心するくらいに」
「感心する暇があるなら懺悔を済ませたらどうだ?」
すでにオレと老人の距離はこちらの攻撃圏内。剣を振れば簡単にその命を摘み取ることが出来る。
「じゃから、それが命取りなのじゃ」
その瞬間、周囲の血が光り輝いた。もちろん、オレの体に付着した血も。その輝きは魔術陣の輝き。
オレは目を見開いて、そして、魔術が発動した。
爆発。
その瞬間を表現するならそれが正しいだろう。周囲に飛び散った全ての血が大きく爆発したのだ。
血が飛び散った範囲は極めて広いため、一つ一つの威力が低くてもその数によって極めて大きな爆発となっている。
「ほっほっほっ。あの小さな小僧といいこの小僧といい、若い者は元気があっていいの。そして、罠にはまりやすくていいの。さて、次の」
「この程度が罠なのか?」
オレは土煙が立ち上り、視界が完全に塞がれた中から老人に向かって語りかけた。
オレは剣を一閃する。それと同時に風が起こり、土煙を払った。エルフィンが上手く援護してくれたみたいだ。
老人の表情にあるのは戸惑い。
「何故」
「何故? こんな威力なんて日常茶飯事なんだよ。確かに、避けられない威力だけど、収束されたスターゲイザー・バスターを受けた時と比べれば蚊に刺されたようなものさ」
あの時は本気で死にかけた。設定を間違えた楓のスターゲイザー・バスターがオレと浩平に直撃したのだ。オレは二ヶ月の入院と一ヶ月のリハビリを必要とする大怪我。
そんな威力と比べばこんな威力は簡単に防ぐことは出来る。
「懺悔は済んだか!?」
オレは剣を振った。絶対に必中する距離。もちろん、相手がこちらの速度よりも早く動けるなら別ではあるが。
ルカの剣が老人の首を捉え、宙に飛ばすはずだった。
そこには、健全な姿をした老人の姿。その顔には笑みが浮かんでいる。
「うひゃひゃひゃひゃ。かの白川悠聖の剣でも儂を捉えることは出来んようじゃな」
「今のは」
感覚が無かったというものじゃない。完全に避けられた。でも、動作を全くしていない攻撃のはずなのに。
「大きな収穫じゃ。さて、小僧には儂のペットと戦ってもらおう」
オレはすかさず距離を詰めながら剣を放つ。宙に浮かぶ剣もルカが放つ。だが、その全てを振り切っても攻撃圏内にいる老人には傷一つつけることが出来なかった。
その事実が疲れていた体と共に感覚を麻痺させてしまった。
「背後はいいのかの?」
老人が深い笑みを浮かべた瞬間、とてつもない衝撃がオレの体を襲った。それと同時にオレは建物を破壊しながら転がっていることに気づいた。
意識が追いついたのは止まってから。血を口から盛大に吐いてから。近くにはアルネウラやセイバー・ルカも倒れている。
ダブルシンクロはダメージを受ければ精霊も大きなダメージがいく。オレは口から血を吐きながらアルネウラに手を伸ばそうとした。でも、体は動かないしだんだん視界が暗くなっていく。
最後に見た光景は、
泣いた顔の優月だった。