第十三話 強襲作戦の指揮者
読んでくださった皆さんならわかるように第三章は悠人と悠聖の二人の物語です。そのため、場面が激しく変わる時がありますのでそこはご了承ください。
フルーベル平原の部隊。その話は悠聖さんが出て行ってからすぐに連絡がやってきた。
連絡の内容は極めてシンプルだった。
偵察に向かった部隊が壊滅であり村がいくつか音信不通。明らかにおかしいことは明白だった。だけど、フルーベル平原には余裕を持って部隊を送れるとも連絡が来ている。その話を信じるしかないと思う。思うのだけど、やっぱり不安だ。
冬華さんの言っていた言葉。レジニア峡谷が陽動と言う話は本当なのだろうか? そうだとしたなら、フルーベル平原にもっとメンバーを送った方がいいのではないだろうか?
そう考えてしまう。こんな時に周さんがいてくれれば。
「不安か?」
その言葉に僕は顔を上げた。いつの間にか顔を伏せていたらしい。顔を上げた僕と孝治さんの視線が交錯する。
「不安にはなるだろうな。お前は大切な人を失ったばかりだ。戦いに対して不安にならない方がおかしいだろう」
「孝治さんはフルーベル平原に人を送らないで大丈夫だと思っているんですか? あそこは」
「そうだな。なんて言っても、あそこには悠聖が向かった。なら、心配はないだろう」
その言葉は嘘いつわりのない言葉だった。それに僕は息をのんでしまう。
意味がわからない。どうしてそこまで人を信じることが出来るの? こちらの方が少数なはずなのに。
「悠聖は親友だ。そいつの力はよくわかっている。だからこそ、俺はあいつを信じている。お前は不安なのだろう? また、誰かが犠牲になるんじゃないかと」
その言葉に僕は頷いた。
誰かが犠牲になるくらいだったら、僕は前に出る。前に出て、全てを倒せばいい。そうしたら、誰も傷つくことはない。そう思っている。
「間違ってはいないな。味方を必要としないのは限られた人間だけだ。そして、そいつらには出来る限界がある。だが、味方がいれば出来ることは膨れ上がる。そして、味方を心配するのは当たり前のことだ。だから、その感情は正しい。今までお前がいた場所は環境が特殊すぎた。だからこそ、お前は気づけていなかったのだろう」
その言葉に僕は少しだけ首をかしげてしまう。一体、何に気づいていないのかわからないからだ。何に気づいていなくて何に気づいているのかの線引きが難しいから。
「だからこそ、お前は戦うのだろう? 今度こそ、繰り返さないために」
「孝治さん」
孝治さんが笑みを浮かべる。その笑みはまるで我が子を見守る親の目。他人でしか見たことがないけど。
「話は終わりましたか? 私達が行うべきことは変わっていません。私達は私達だけでレジニア峡谷に向かわなければならないのですから」
メリルのその言葉に部屋の空気が引き締まるような感覚があった。僕はその言葉に小さく頷く。
メリルは静かに周囲を見渡し、そして、小さく頷いた。
「フルーベル平原以外に受けた報告に一つ、重要なものがありました。今回使う旗艦は強襲用高速航空空母です。搭載フュリアスは四機」
「四機? たった四機か?」
ルーイが尋ねるように声を上げる。確かに、たった四機だけで戦えと言うのは少し辛いような気もする。でも、ここには孝治さん達がいるから四機で大丈夫だとは思うけど。
「四機だけならここにいる一人は置いて行かにといけないことになるな」
ルーイの言葉にようやくルーイの言葉の意味がわかった。
ここにいるパイロットは五人。二人で一機は一つもないから五機のフュリアスを運ばないといけない。でも、使う航空艦はたった四機しか乗らない。一機、足りない。
その言葉にメリルはゆっくり頷いた。
「おそらく、ルーイは置いて行くようにという意味を込めてでしょう。悠遠の翼を持つ機体がやられることに首脳部は恐怖を抱いています。ですから、アストラルルーラは置いて行くようにという強い意味合いを込めて決めたのでしょう」
「だが、リマのアストラルソティスの兵装は通常のフュリアスとは変わらない。空を制するのはアストラルルーラの方が行いやすいと僕は思うが」
「それは私も思っています。ですが、私もアストラルルーラが撃破されるのは恐れを抱いています。もし、レジニア峡谷が本体であり、フルーベル平原が陽動なら、下手に出て撃破されたならセコッティの集団はさらに登り上がることでしょう。ですから、今回は搭乗数の関係で」
「そこ悩んでいたの?」
僕は不思議そうにしながら声を上げた。
そんなこと、全く気にしなくてもいいのに。
「どういうことですか?」
メリルが不思議そうに尋ねてくる。リリーナや鈴の二人はとっくに気づいていたみたいだけど、メリルはどうやら気づかなかったらしい。
僕は自信満々に言った。
「エクスカリバーならここからどこまでも自給自足で飛んでいけるよ」
「「あっ」」
メリルとルーイの二人が声を上げる。それにリマが小さくため息をついていた。
フュリアスの常識を打ち破った機体。それがエクスカリバーだ。
「つまりは、ここにいる全員が向かえると言うことだね」
「だが、問題も山積みのはずだ。その航空艦は空中でドアの開閉は可能なのか?」
「はい。いくつかのプログラムを沈黙させれば可能です。ですが、空中でドアを開けても、外に出られる人が」
「俺達だ」
孝治さんが自分を指さした。確かに、孝治さんに光さんと楓さんは空戦能力を持っているし、全員空中戦は得意でもある。
だから、空中から孝治さん達を出すのはいい手でもある。
「そんなことが出来るのか」
「ええ。メリルくらいだと思っていましたが、目の前で飛ばれるのは本当に壮観ですよ」
白騎士の小さな呟きにリマが答えている。白騎士は見たことがないだろうな。白騎士が悠聖さんと戦ったのは建物の屋根や屋上らしいから直接空を飛ぶのは見たことが無いんだろうな。
僕からすれば白騎士も十二分に凄い人だけど。
「そうですね。お三方はどれだけ速度を出せますか?」
「速度は必要ない。狙うのは超遠距離からの射撃だろう。射撃で足を止めてからフュリアス部隊が乗り込む。白騎士や光はそこに入ればいい」
「そうだね。射撃なら私とカグラの専売特許だし、孝治くんも強いから」
「そ、そうですか」
孝治さん達の能力を知っているメリルでも若干引いている。引かない方がおかしいけど、知り合いが引かれるのを見たら少しだけ寂しくなるような気もする。
メリルは小さく咳をして話を戻すようにした。
「では、お二方には遠距離からの射撃を行ってもらいます。今回の作戦は強襲であるため、作戦指揮はルーイに任せたいと思うのですが」
「いや、ここはメリルが取るべきだと僕は思う」
ルーイの言葉にメリルの顔が固まる。気持ちは分からなくもないけど、ここはルーイの意見に賛成だ。何故なら、メリルは歌姫であり、いつかは指揮を執る可能性を考えると必要だからでもある。
でも、このメンバーの中には賛成意見と反対意見がある。それをどうにかすべきだけど。
「本音を言わせてもらうなら、不測の事態が起きても僕達の誰かがやられることはないと思っている。mちろん、それは僕達の力を過信しているわけじゃない。それを踏まえて僕はメリルに指揮を執ってもらうのが妥当だと考えている」
「でも、私は戦術を習ったことがありません。変な作戦をやるかもしれませんし」
「いや、それが有効か」
孝治さんが何かに気づいたように口を開いた。その場にいる全員が孝治さんを見る。
「ベルトランの戦力は強大だった。一撃で撃ち抜いて撃沈しても、数機は出撃できるはずだ。なのに、全滅したと言うことは相手が予想外の動きを見せたからではないか? 俺も詳しくは言えないが、むしろ奇抜な作戦を立案した方がいいかもしれない」
「奇抜、ですか?」
「ああ。周も奇抜な作戦は時々立てるからな。他人とはそういう時に面白いものだと感じている。自分の考えとは違うことをするのだからな。その作戦立案でも人は様々な作戦を立案する。メリル。お前はお前で考えてみろ。俺達第76移動隊は歌姫の意見に従う」
「ですが、私は本当に未熟者です。大きな戦闘に加わったことがありません。それなのに、私の作戦なんて」
「何事も挑戦しないと」
僕の言葉にメリルがハッとして僕を見た。
僕は笑みを浮かべながらメリルに向かって言う。
「メリルは挑戦しないと。最初の頃は誰だって出来ないと思うよ。でも、やればやるほど出来るようになるんだから。だから、挑戦しよう」
メリルは僕の言葉を考える。考えて、そして、頷いた。
「わかりました。皆さんがそこまで言うなら、私はその意見に賛成します。ですから、よろしくお願いします」
メリルの満面の笑みに僕達は頷いて返す。どうなるかはわからない。でも、僕達が頑張ってサポートすればいいだけの話だから。だから、僕は、全力でメリルを手伝うことを考えた。
この時、あんな作戦が考えられるなんて僕達の誰もが想像していなかった。もちろん、それは悪い作戦じゃなかったけど、この時、メリルの持つ非凡な才能に僕達はこれから苦労させられなかっただろうに。