第六話 白騎士VS海道正
我ながらものすごいサブタイトルです。
白騎士は屋上を駆けていた。駆けながらゆっくり後ろを振り返る。そこには薙刀を片手にチャクラムを隣に漂わせて追いかける悠聖の姿。
前に現れたラフリアを無造作に一刀両断してさらに前を駆ける。それはまるで切れ味を確かめるような一撃。
ラフリアを断ち切った剣を見ながら白騎士はさらに駆ける。
切れ味が落ちたというわけではないことを確認したかのような一撃。
白騎士はさらに駆ける。駆けて目的地を目指す。
目指す目的地は首都にある城。そこに向かって白騎士は屋上を蹴った。そんな白騎士の視界に城の城壁に立つ誰かの姿。
白騎士はそれを目を細めて見つめて、誰かが城壁から白騎士に向かって飛び降りた。
その手にあるのは時計の針がいくつもついた剣。
白騎士は力を込めてその誰かに向かって白い剣を振り抜いた。だが、白い剣は時計の針がいくつもついた剣によって受け止められた。
白騎士は目を見開く。それと同時に時計の針がいくつもついた剣を握る人物が空中で姿勢を変えて蹴り抜いた。
白騎士はぎりぎりで籠手で受け止める。
「鎧の強度が極めて高いね。剣も極めて堅い。この聖剣でも押し返されるとはね」
その人物、ゴスロリ服の女性は不適に笑みを浮かべた。そこに悠聖が到達する。
「白川悠聖。ここは僕、海道正に任してもらえないかな?」
「ここが非常用シェルターです」
メリルが指差した先に地下に続く通路。そこに私達が来ていた。
緊急事態に私達はすかさずメリルとメイド達のここに向かった。
悠人は戦える状況じゃないし、ここからソードウルフやイグジストアストラルの格納庫は遠い。それに、白騎士は白い鎧を着た生身の人間らしい。そんなのを相手にフュリアスは使わない方がいい。
だから、私はアークベルラを片手に振り返った。
「リリーナ?」
私の背中にメリルが声をかける。
「みんなはシェルターに入って。私は白騎士の顔を拝みに行くから」
「危険です。白騎士と対抗出来る人物は音界にはいません。対抗出来るとしても私の歌姫としての力くらい。それ以外で食い止める術は」
「私が戦っていたなら、必ず部隊の誰かが助けに来てくれる。それが、第76移動隊だから。だから、みんなはシェルターの中に」
私はにっこり笑みを浮かべて言葉を返した。
白騎士がその話の通りなら最悪は全滅するだけだ。だったら、パパから受け継いだこのアークベルラを使ってどうにか時間を稼ぐ。
いくら白騎士だとしても孝治や悠聖を倒すのは難しいはずだから。
「リリーナ」
歩き出そうとした私の背中に悠人が声をかける。私は振り返った。
「必ず、帰ってくるよね? いなくならないよね?」
泣きそうに、まるで、子供みたいに悠人が語りかけてくる。それに私は笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。私は魔王の娘。アークの武器を受け継いだ魔王の後継者の一人。必ず、悠人の前に戻ってくるから」
その言葉と共に私は走り出した。そして、アークベルラを握り締めてさらに加速する。
アークについては誰にも言っていないけど、そろそろ話した方がいいかもしれない。パパからそのことは度々言われていたし、それに関して大きく動かないといけないから。
道を曲がり、床を蹴ってアークベルラを握り締めながら私は一直線に続く道を最速で駆け抜けた。そして、窓ガラスを突き破って外に出る。
そこでは、戦闘が起きていた。白い鎧を全身に着た騎士と悠人を襲った女性。
だけど、私の視線は白騎士が握る剣だった。真っ白の剣と真っ白の鎧。真っ白ではあるが、よく見れば、剣の柄のところにエンブレムがある。本当によく見なければわからないし、白色だから見分けもつかないけど、あの形、あのエンブレム、あの色。その全てが私の知る武器と鎧でもあった。
「どうして、アークフレイがあそこにあるの?」
聖剣と白い剣がぶつかり合う。それを僕は笑みを浮かべながらさらにぶつけ合った。
相手、白騎士はとても強い。強いと言っても音姉やギルバートさんにような強さじゃない。攻撃が的確で自信がある。そうわかる一撃が多かった。
僕はその攻撃を受けながらさらに笑みを濃くする。
「君の太刀筋はとても綺麗だね。まで、斬り慣れているかのような一撃。しかも、今まで全てが一刀両断だった。違うかい?」
僕の言葉に白騎士は無言で後ろに下がった。後ろには悠聖の姿がある。アルネウラと優月とのダブルシンクロした姿。本来なら音界じゃお目にかかれないはずだけど、これも新たな未来に向かって世界が動いているということだろうね。
僕はそれを嬉しく思いながら聖剣をしっかりと握りしめた。
「その太刀筋は本当に見事だよ。白騎士とは言い得て妙かもね。今回の目的を考えたら」
僕の言葉に白騎士の剣がぴくりと動いた。
誰が白騎士の名前を流したかは分からないけど、これから白騎士がしようとしていることを考えれば確かに騎士の名前に相応しい。しかも、全身を白く着飾っているから白騎士というのは本当にぴったりだ。
「だけどね、君が狙おうとしている人はキーパーソンの一人なんだよ。だから、ここは通さない」
聖剣の先を白騎士に向ける。白騎士は建物の屋根を踏みしめて僕に向かって地面を蹴ってくる。愚直なまでに真っすぐに。だから、僕は聖剣を白騎士に向かって投げつけた。白騎士はそれを白い剣で受け流し、僕は懐に入り込んでいた。
白百合流と八陣八叉流の加速を使った移動。それに白騎士は反応出来ていない。
振り下ろそうとする腕を左手で支えて、僕はそのまま右の肘を白騎士の鎧に叩きこんでいた。
八叉流鎧通し『桜響』。
肘での打撃だけで相手の鎧を無視して攻撃する手段は近接格闘では極めて有利だ。だけど、なかなか成功しにくい。威力を奥に通すのが極めて難しいからだ。これに関しては習得するのにかなりの年月を経てしまった。
だけど、その威力は絶大。白騎士は体をくの時に折り曲げた。僕はそのまま白騎士の胴体を掴み、バックドロップを決める。
さすがに、鎧を着ていても威力は通るだろう。僕は小さく息を吐いて空から落ちてきた聖剣を掴んだ。
「さて、実力の差は明確だとは思うけど、まだ戦うのかい?」
振り返った先には剣を構える白騎士の姿。桜響は確実に通ったから下手すれば内臓破裂はいっているはずなのに、白騎士は普通に剣を構えている。あの鎧がおかしいというべきか。
本当に、未来が変わった世界は予測が難しいよ。
「じゃ、僕も本気を出すとしようか」
聖剣を鞘に収め、レヴァンティンレプリカを引き抜く。レヴァンティンと同じサイズ同じ重さだけど、レヴァンティン特有の能力は持っていない。というか、そんなのは再現できなかった。
でも、使い慣れた感覚は完全に同じだと言える。
白騎士は地面を蹴った。僕も地面を蹴って白騎士と剣を合わせる。剣を合わせて勢いよくお互いに弾き返した。すかさずレヴァンティンレプリカに紫電を纏わせる。
「破魔雷閃!」
白騎士が一歩を踏み出した瞬間、僕は勢いよくレヴァンティンレプリカを振り下ろしていた。そして、白騎士が紫電の斬撃によって呑み込まれる。でも、そこで止まるわけにはいかない。
僕はすかさずレヴァンティンを勢いよく突いた。レヴァンティンの切っ先が白騎士の鎧を捉える。さらに二回、前に踏み出しながら突きを放つ。その突きは風を纏い白騎士の体勢を大きく崩していた。そして、振り上げで振り下ろす。それによって現れた風の刃が白騎士の体勢を致命的なまでに崩していた。
だから、僕は前に踏み出す。
「金色夜叉!」
最大威力の一撃必殺技。それを至近距離から白騎士の側頭部に叩きつけた。白騎士の体がゴム毬のように吹き飛ぶ。
「これでどう?」
その瞬間、僕の背中を嫌な予感が駆け抜けた。だから、すかさずその場から、その嫌な予感から逃げるように屋上を駆け抜ける。
嫌な予感がなくなったところまで駆け抜けた瞬間、僕がいた場所を純白の光が通り過ぎた。そして、通り過ぎた後には何も残っていない。
僕はレヴァンティンレプリカを握り締めて不敵に笑みを浮かべた。
「まだまだ戦えるというわけか。なら、僕もその期待に沿わないとね」
レヴァンティンレプリカを構える。背中に冷や汗をかきながら、一切のダメージを受け付けない白い鎧に少しの恐怖を感じながら。
少しずつ話が膨れてきましたが今のところは予定通りに進んでいます。次回はアークという名を持つ武器について少しは語れるんじゃないかなと思っています。