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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第三話 襲撃者

僕は一人、ベットに寝転がっていた。寝転がって小さく息を吐いている。


今日は何も食べられなかった。いつもならお粥よりも柔らかいものを食べていたのに、今日はそれすらも吐いてしまう。


僕は小さく息を吐いてベットの上を転がる。


「このまま、僕は死ぬのかな?」


そうなったらどれだけいいことかと思ってしまう。そうなってしまえば僕はルナと再び出会うことが出来るのだから。


そうだとしても、鈴やリリーナ、メリル達と出会えなくなるのは嫌だな。


「僕はこのまま、ずっと眠りたいな」


だけど、そう思っていても眠れないのが今の体でもある。


僕は小さく溜め息をついて体を起こした。そして、窓の外を見る。そこにはちょうどフュリアスの訓練場があった。


第五世代型フュリアス『ラフリア』。


防御が高く、体が大きいのが特徴だけど、機動力はあまり高くはない。そんなラフリアが三機で戦っているのは一機のギガッシュ。


ギガッシュの動きは極めて高く、ラフリアを簡単に投げ飛ばしている。


「後ろの隙が大きい。半歩後ろに下がって投げ飛ばして体勢を戻せばいいのに。攻撃を受けるんじゃなくてカウンターを叩き込む。受け流しながら」


僕は小さく溜め息をついた。もう、フュリアスには乗らないと誓ったはずなのに、フュリアスを見ているとどうしてもフュリアスについて考えてしまう。


フュリアスのことを考えれば必ずルナのことを思い出すのに。


「僕は、これから何をすればいいのかな」


「どうやら悩んでいるみたいだね」


その声に僕はバルコニーがある方向を振り向いた。いつの間にかバルコニーにはゴスロリ服の女の子の姿がある。


ただ、周さんが女装して髪を長くしたならこうなるであろう姿でもあった。


「あなたは?」


「僕かい? 僕はただのお節介だよ。歴史の歯車が大きく変わり始めたこの世界でどういう風に未来が動くのかに興味があってね。危険を覚悟で僕はこっちにまで来た。まあ、今現在は君の味方でもあるよ」


「どうして僕のところに。僕なんていらない存在なのに」


「いらない、か。それは現在君が思っている姿だよね? なら、過去の君はどう思っていたのかな?」


僕は一瞬だけ顔をしかめた。思い出したからだ。ルナと過ごした短くとも楽しみ日々を。思い出してしまったから、ルナがやられた瞬間も思い出してしまう。


それと同時に僕に吐き気が襲いかかっていた。思わず手で口を押さえる。だけど、胃から漏れるのは胃液くらいだ。


「僕はいらないんだよ。僕がいたからルナは死んだ。あんなところで僕なんかを助けたからルナは」


「それは、助けなかったら君が死んでいたかもしれないんだよ。それでも」


「リアクティブアーマーだったら何でも防げるよ」


「どうかな?」


その笑みに僕はイラっときた。リアクティブアーマーは僕のために、僕なんかのために作ってもらったものだから。


「君が考えているほどこの世界は絶対という言葉はありえないものなんだよ。わかっているよね」


「黙れ!」


僕は走っていた。そして、拳を、


「君は、自分の力を過信している」


世界がひっくり返った。いや、僕がひっくり返った。振り抜いたはずの拳を取られて投げられた。ただ、その動きは周さんに似ているような。


「海道周ですら自分の力を理解しているよ。君は常に最強だった。海道周は常に器用貧乏だった。それが君の弱点なんだよ」


「僕は強い。僕は強くて最強だ! 最強で何が悪い!」


「悪くなんてないよ。でもね、君は最強であることに驕りを持っている。それが君の弱点なんだよ」


「何を」


その瞬間、僕の目の前に剣が突きつけられていた。


「君はわかってはいない。だからね、僕はこれから君を傷つけないために殺すよ」


「どうして」


「これ以上戦ったなら君はまた、誰かを殺す」


そう言っている彼女の視線は本気の目をしていた。まるで、何かを知っているかのように。


だから、彼女の持つ剣が鈍く僕に向かって光っていた。


「これ以上は、誰も殺したくないだろう? あの時みたいに、君のせいで」


「そうだよ」


「だから、僕はここで殺す。もちろん、痛みはないよ。一瞬だからね。こういう時に水属性は便利だよね。体内にある水を利用して眠るように殺すことが出来るからね」


僕は後ろに下がる。だけど、倒れているからそれほど早くはない。相手は立っているから普通に追いかけてくる。


それでも僕は彼女から離れる。


「君は死にたいんじゃないのかい? 君は自分をいらないと思っていたんじゃないかな?」


「そうだけど」


そうだけど、そうだけどこういう風に死に直面すると僕はどうしても逃げてしまう。死にたくないと思ってしまう。


「だから、殺してあげるよ」


その瞬間、嫌な予感を感じて僕は横に転がった。それと同時に僕のいた場所を剣が通り過ぎる。


剣は床を砕き僕に向かって破片を飛ばした。


僕はその勢いを利用してさらに後ろに下がる。


「死にたくないのかい?」


「し、死にたくない」


「どうしてだい? 君はいらないと思っているんじゃないのかい? だから、僕が殺してあげるよ。だからね、死んでくれる」


「嫌だ」


僕の背中が壁に当たる。


僕には第六感がある。この第六感があれば攻撃を避けることは可能だ。だから、僕は生き延びる。


感覚に従って剣を避ける。だが、その瞬間には新たな感覚がやってくる。だけど、次の感覚はわかる。


避けられない。


剣が振り下ろされる。その剣を僕はスローモーションのように見えて僕が目を瞑った瞬間、金属の何かと何かがぶつかり合う音が響き渡った。


僕は目を見開いた。そこには愛用の鎌を握り締めたリリーナの姿があった。


「何をしているのかな?」


リリーナのドスの利いた声。それに彼女は笑みを浮かべた。


「何をしているのか聞いているんだよ!」


リリーナの力強い言葉と共に弾き飛ばしながら鎌を返した。だけど、鎌は剣によって受け止められる。


しかし、リリーナは止まらない。そのままドロップキックを彼女に入れようとする。だけど、彼女の姿がリリーナの後ろに回り込んでいる。リリーナはそのまま滑って振られた剣を避ける。


だが、その瞬間には彼女は標的を僕に定めていた。


殺される。そう思った瞬間、僕の前にメリルと鈴の二人が道を塞いだ。


「彼は死にたいと思っているようだけど?」


その言葉にメリルが笑みを浮かべたような感じがした。


「そうですか。ならは、【捕まえなさい。永久の鎖】」


その瞬間、虚空から伸びた鎖が彼女を狙う。だけど、彼女はそれすらも簡単に避けていた。背後から迫っていたはずなのに。


リリーナの鎌も避けて彼女は大きく後ろに下がった。


「どうしても、君達は僕の目的を食い止めようとするんだね。彼の望みだと言うのに」


「そうですね。それが悠人の本当の望みならば、私は喜んで殺しましょう」


その言葉に僕はビクッとなってしまう。まるで、メリルは本気で殺す覚悟があるのだとわかってしまった。


僕なんかのために。


「ですから、【少しの間、動かないでいてくれます】か?」


その瞬間、彼女を取り囲むように半透明の膜が現れた。すかさずその半透明の膜に剣を振っているけど、半透明の膜は剣を弾き返している。


これが、音界の歌姫の力。


「中から出るのは防いで、外から入って来るのは防がない、という感じかな?」


「いえ、どちらも防ぎます。とりあえず、私の質問に」


「答える義理はないよ」


目の前にいた。いつの間にか、半透明の膜に囲まれていたはずなのに、僕の目の前でメリルの首筋に剣を突きつけていた。


僕も鈴も動けない。リリーナですら。


「ちなみに、言葉を出せば僕は容赦なく剣を引くよ。そうしたなら、今度こそ彼は動かなくなるんじゃないかな? また、自分のせいで誰かが死んだのだから」


メリルの体がピクリと動く。それに満足そうに笑みを浮かべたような気がした。背中を向いているからわからないけれど。


「さて、どうしようか。君達の命は僕の手のひらの上にあるけど、君達はどうなりたい?」


「確かに、あんたはメリルの命を手のひらに置いているよね」


リリーナが鎌を床に放り投げて両手を上げる。だが、その顔には笑みが浮かんでいた。


「その鎌は、っつ」


姿が消えた、と思った瞬間、僕とメリルの間に鎌が突き刺さった。


リリーナはすかさず走りながら床に放り投げた鎌を拾い上げる。


「アークベルラ・プライ」


そのままバルコニーに向かって鎌を回転しながら投げつける。普通な体を切りそうだけど上手く放り投げていた。


彼女が剣で鎌を弾いた瞬間、リリーナの手には同じ鎌が存在していた。正確には三本目の鎌が。


鎌と剣がぶつかり合う。


「思い出したよ。アークベルラなんて君が持っていたなんてね」


リリーナが剣によって弾き飛ばされる。さらに距離を詰めようとした彼女に向かって10にも及ぶ同じ形の鎌が向かっていた。


小さな舌打ちと共に彼女の体がバルコニーの手すりまで戻る。


「今日はこれくらいにしておくよ。次はどうにかするから」


彼女の姿が消える。それと同時に僕達は揃って小さく溜め息をついてその場に座り込んだ。


「し、死ぬかと、思った」


リリーナがへたり込む。僕なんかすでに腰が抜けているし、鈴に至っては放心していた。メリルは信じられないようだし。


メリルは小さく何かを呟く。それと同時に存在していた半透明の膜が消え去った。


「彼女は一体、何者?」


僕の質問にリリーナが首を横に振る。


「わからない。わからないけど、もしかしたら」


「もしかしたら?」


「海道正?」


その言葉に、僕達は首を傾げるしかなかった。


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