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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第一話 音界

ここから本格的に第三章の話が始まります

音界。


それはたった一つの国家だけが収める人界でも例の無い世界。その世界は国家として首相をトップに様々な地域からの貴族議長が下につき、その下に貴族議員及び平民議員がついている。


その音界の首都アルビノは音界で最大と言っても過言ではない大きさを誇っていた。


100万にも及ぶ住人が住む都市。その都市に隣接するアストラルルーラを含めた悠遠の翼を持つフュリアスが三機存在する総フュリアス数6000の巨大な基地。そして、国の政治を司る政治特区。


その政治特区の中には一際目立つまるで城のような建物がある。そこは音界での最高権力者であり象徴でもある歌姫やその歌姫の周囲の世話をするメイド達及び歌姫の許可を受けた人だけが入ることを許された聖域でもあった。


そんな聖域の中に鈴とリリーナの二人はいた。二人は周囲を見渡しながら通路を歩いている。


「音界で最も豪華な建物と聞いていたけど、魔王城と比べたら貧相な場所だよね」


「そんなことを思っても言わない方がいいよ。そもそも、私からすればかなり豪華だし」


そう言いながら鈴はまた周囲を見渡す。


鈴の目に留まったのはどう考えても純金で作られた装飾。技術力の高さは人界を遥かに超える音界だからこその装飾だった。


「それに、ギルガメシュ王は豪華な城を好んでいるし」


「それ、ママの影響。ママは人界の貴族の娘で、誘拐されたのを魔界でパパが見つけたの。パパは一目惚れして助けて、一年間ぐらいずっとアタックしたんだって。時には人界に行ったくらいに」


「リリーナを見ていればなんとなくわかるかも」


鈴はそう言いながら苦笑した。苦笑して前を歩く二人のメイドを見る。


一人はもう60くらいのお婆さんみたいなメイドだが、もう一人は20代のメイドだった。だが、鈴は顔を見ていない。


20代のメイドは確実に武器を隠し持っている。そう直感が教えてくれている。さらには鈴とリリーナの二人をずっと見ている気配もある。


「大丈夫だよ」


そうしていると、リリーナが笑って鈴に声をかけた。


「この程度なら鈴を守れるから」


「それはわかっているけど」


「でも、鈴も気づいているよね?」


その言葉に鈴は頷いた。


二人はずっと通路を歩かされている。それは目的地が遠いのと別のことがあるのだとわかっていた。


「さすがは歌姫の城、かな。メリルの警護も力を入れているし、何より悠遠の翼を持つフュリアスの一機が周囲を警戒している。基地にはそんな機体よりもっとすごい機体があるのに、『蒼鉛の悪魔』だっけ?」


「リリーナ、それだけは言わないでよ」


鈴が恥ずかしそうに顔を赤らめる。それにリリーナは笑みを浮かべた。


「すごい活躍だったじゃないか。『蒼鉛の悪魔』殿」


その言葉に二人は振り向く。そこにはいつの間にか二人のメイドが通路の端に寄り、その中央にはルーイとリマの姿があった。


二人共、階級証らしきものがついた軍服を着ている。


「さすがに僕達のようなエースパイロットでもそこまではいかなかったよ」


「あうあう」


ルーイの言葉に顔を真っ赤にして恥ずかしがる鈴。それにルーイは苦笑してリリーナを見た。


「戦果は聞いている。見事な活躍だったそうじゃないか」


「まさか、音界に政府レジスタンスがいるとはね。魔界よりかはましだけど」


「一枚岩ではないということさ。いや、一枚岩にすらなれないと言った方がいいかもしれないな。僕達ですら二つに分かれている」


「メリル側か政権側か」


その言葉にルーイは頷いた。頷いて今度はメイドの方を向く。


「二人は僕達が案内する。だから、控えているように」


「かしこまりました」


メイドの二人が頭を下げて通路を歩いて行く。そんな姿を見ながらリリーナは呆れたように溜め息をついた。


「良くも悪くも国の象徴ってところだね」


「確かに、今回のような歌姫に対する政府レジスタンスが出ることある。だが、それは稀だ。あそこまで多くなるのも」


「ギガッシュが100ほど。囲まれていた時はゾッとしたけどね」


「それも一枚岩ではないということだ」


ルーイは呆れたように溜め息をついて歩き出した。その後を追いかけるようにリリーナも歩き出すが鈴はその場に立ったままだ。


それを疑問に思ったリリーナが足を止め、首を傾げる。


「鈴、どうかしたの?」


「リリーナ、どうしよう。そんな呼ばれ方したらお嫁にいけないよ」


「いや、あんたずっとそれ考えていたの?」






「ご苦労様です」


メリルは小さく息を吐き、書簡を持ってきたメイドに声をかけた。メイドは一礼して部屋から出て行く。


そんな様子を目で追いながらメリルは聞こえないように小さく溜め息をついた。そして、書簡に目を落とす。


「やはり、不自然な精霊による事件が多発しているみたいですね。悠聖さんが来るとは聞いていますが、解決には時間がかかるはずですし、もうすぐ式典がありますし、簡単には行かないということですか」


また溜め息をつく。すでにメイドは部屋にはおらずその溜め息は大きな溜め息でもあった。


メリルはまた小さく溜め息をつく。


「溜め息は不幸になると言いますが、溜め息をつかなければやっていられないというのも事実ですし」


メリルはまた小さく溜め息をつくとドアがノックされた。メリルは書簡に報告書を戻しながらどうぞとドアの方に話しかける。すると、ドアが開き、そこからルーイ、リマ、リリーナ、鈴の四人が部屋に入ってきた。


メリルは顔に笑みを浮かべて席から立ち上がる。


「お帰りなさい。すみません。お二人を戦場に向かわせるようなことをして」


「大丈夫だよ。私も鈴も今は音界の軍にいる身だからね。そういう命令にメリルが断れないと知っているし、実戦経験は少なくても大規模戦闘経験があれば十分に大丈夫だし、何より私のソードウルフと鈴のイグジストアストラルは並の敵には負けないよ」


「言いたいこと全部言われた」


リリーナの横で露骨に落ち込む鈴にメリルは苦笑した。そして、書簡から報告書を取り出す。


「無事で何よりです。二人は親友ですから、無事で帰って来て欲しいのですから。ところで、話は変わりますが、少し状況が変わりました」


「精霊暴走事件か?」


ルーイの言葉にメリルは頷く。


「最近、音界で多発している精霊が暴走する事件ですが、お二人に確認してもらった精霊召喚符のお話を第76移動隊に連絡したところ、悠聖さんが音界に来ることになりました。こちらで冬華さんと俊也さんと合流するそうです」


「悠聖がこっちに来るんだね。でも、さすがの悠聖でも事件はなかなか沈静化しないと思うよ。悠聖も俊也も攻撃型だから探査や捜索は得意じゃないし」


「それは承知の上です。私達もそう簡単に終わるとは思っていません。現に、情報部に属する隊員の何人かが行方不明になっていますから」


「ただ何かの事件巻き込まれて行方不明なのか、真相を知ったから消されたのか」


ルーイの言葉に部屋に沈黙が舞い降りる。


精霊暴走事件はほんの二ヶ月ほど前から大きくなってきた事件だった。最初は原因不明だったが首都で起きた事件の際、ちょうどそこにいたリリーナが精霊召喚符の存在を確認したのだ。


精霊を使う相手は音界ではフュリアスが無ければ太刀打ち出来ない存在となる。だから、それに対抗する策を作り出すのは当然ながら急務を要する作業でもあった。


そして、メリルが思いついたのはスペシャリスト達を対抗策とすること。


ちょうど、基本的な八属性の全ての最上級精霊が人界の第76移動隊には存在している。だからこその策だった。


「さすがに悠聖さん達は強いからそういうことにはならないと思うけど、私達が思っていたよりも大きな事件だったなら」


「式典にも影響を与えます。私は式典は無くなってもいいと思っている側ですが」


「それ、胸を張って言うことではありませんよね」


「メリル、君は式典を主導する側だろうが」


リマとルーイの二人が呆れた声を出す。それにメリルはてへっと舌を出しながら笑みを浮かべた。


それに鈴とリリーナの二人が苦笑する。


「リリーナ、鈴。悠人のところに行きましょう。ルーイ、リマ、重要な話を除いて通しては駄目ですよ。歌姫の命令です」


「別に命令されなくても僕達は通さない。最悪は声をあげるからその時は」


「わかっています。では、行きましょうか」

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