プロローグ 一日の始まり side:悠聖
第三章は舞台が音界。つまりは人界を基点に考えて異世界です。異世界こそファンタジーだと私は思っています。
「朝っぱらからご苦労だよな」
オレは小さくため息をついて軽く苦笑している周隊長を見た。とりあえず、見送りは周隊長一人だけか。
オレはその言葉に頷きながら呆れたようにため息をつく。
「まあな。そもそも、これはオレが言い出したことなんだからオレがやらないと。悪いな。こんな時期にいろいろと任せてよ」
「そもそも、中心はオレと茜だったんだ。あらゆる場所に引っ張りだこなのはわかっていたことさ。そんなことより、お前が掴んだ情報は正しいんだろうな?」
未だに半信半疑なのは納得できる。何故なら、オレが掴んだ情報は信憑性が低い割にはかなり重大な内容が記されていたからだ。
あの狭間市にいた頃、真柴昭三によってばらまかれていた精霊召喚符。それが音界で見つかっただなんて信じられるわけがない。あれは、精霊と違法な契約を結ぶもの。精霊の恋人がいるオレからすれば許せないものだから。
だから、オレは一人で音界に調査しに行くことにした。一人と行っても、オレの家族が一緒にいるけど。
「こういうことなら冬華も残しておくべきだったな」
「大丈夫だ。冬華や俊也とは連絡取って向こうで合流する手はずを整えている。それから、本格的に情報を集めるのを開始だから。まあ、周隊長が心配するような事態にはならないって」
「そうか。ならいいんだけどな。向こうには政府のレジスタンスがいると聞いている。人界の面々は政府側だ。ドジって誘拐されたらお前の身代金は払わないからな」
「わかってるって」
周隊長の視線にあるのは不安。
学園都市が襲われたあの日、学園都市騒乱から周隊長の性格は変わった。なんというか、落ち着きが出てきながら誰をも心配しすぎるようになったのだ。近くにいたからこそわかる変化。
まあ、周隊長はほぼ毎日各メディアにひっきりなしででているからだろうけど。
学園都市騒乱で世界にもたらしたものは国連への批判と、周隊長に対する興味の変化だった。その中で周隊長は必死に動き回っている。そのタイミングであの行事が重なっているんだもんな。
今、人界にいる第76移動隊は大体半分くらい。もし、反乱でも起きたら簡単に制圧される可能性だってある。
「じゃあ、悠人によろしくと言ってくれよ。あいつ、絶対痩せているから」
「そればかりはどうしようもないだろう。まあ、気持ちはわからんでもないけどな。最近の音界はきな臭い噂しか聞かないし」
「だからこそ、お前に頼むって言っているんだよ。頼れる親友」
周隊長が笑みを浮かべる。それに対してオレも笑みを浮かべ返した。
「ああ。頑張ってくるぜ、親友」
そして、オレはトランクを手に歩き出す。その背中に朝日を浴びて、音界に続くゲートに向かって。
次は音界での物語、ではなく周視点での会話です。第二章で残していた内容のいくつかを回収していきます。