プロローグ 一日の始まり side:悠人
この話から第三章が始まります。
逃げて。
手を伸ばす。目の前にいるのは一機のアストラルブレイズ。僕は手を伸ばしているのにアストラルブレイズは僕に向かって手を伸ばしていた。
そのコクピットにいるのはルナ。パイロット用のパワードスーツを着てヘルメットをかぶっているルナの姿。その表情にあるのは安堵。
逃げて欲しいのに。逃げて欲しいのにルナの乗るアストラルブレイズは僕に向かって手を伸ばしている。だから、僕は叫ぶ。
逃げて。
でも、声は届かない。何度も叫ぶ。
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。
でも、声は届かない。声は届かずに、一つの弾丸がアストラルブレイズのコクピットを貫いた。
僕のせいだ。全て僕のせいだ。僕が何の力も無かったから、無かったから、僕はルナを守ることが出来なかった。
ルナが死んだのは僕のせいなのに、誰も、僕を攻めようとはしない。ルーイも、リマも、鈴も、リリーナも、メリルも、周さんも、アル・アジフさんも、リースも誰も、何も言わない。僕のせいなのに、僕のせいなのに、僕のせいなのに。
僕は、どうしたらいいんだよ。僕は、一体どうしたらいいの? 教えてよ。
ルナ
朝日が差し込む。
それはカーテンの隙間から。
その朝日がちょうど僕の顔に当たっている。
そうなるようにベットを移動してもらったから。
だから、僕の目は覚める。目が覚めて起きた時には枕元が涙でぬれているのがわかった。
「また、あの夢か」
あの日からずっと見ている。最初は一週間に一回。でも、最近は二日に一回。
あの夢を見た日は上手く動けない。体が動かない。動きたくない。このまま死んでしまいたくなる。そうだ、ルナの代わりに僕が死ねばよかったのに、ルナはどうして僕を救ったのだろうか。こんな僕を救って今の世界になんの意味があるのだろうか。
「悠人様」
入り口からメイドの声が聞こえてくる。若いメイドじゃない。年齢は56歳と聞いている。優しいメイドさんだ。
「歌姫様がお呼びですが、お加減はよろしいですか?」
「ごめん。メリルに伝えて。今日は行けないって」
「かしこまりました」
入り口のドアが閉まる音がする。
メリルは毎日僕と一緒に朝ご飯を食べようとしてくれる。最初は一緒に朝ご飯を食べていた。でも、あの夢が一週間から五日間隔に変わった時、僕は普通の食事を食べることが出来なくなった。簡単に言うなら吐いてしまうのだ。
医者の話では心因性だそうで治す方法は僕が元気になるしかないらしい。
夢の感覚が短くなるにつれて食べられるものはどんどん少なくなっていった。どんどん、それこそ、お粥をさらに細かくした離乳食に近いものにならなければいけないようになるほどに。
もし、夢を毎日見れるとするなら僕はどうなってしまうのだろうか。多分、何も食べられなくなってしまう。
そうなったら、僕は死ねるのかな? 死んで、ルナのところに行けるのかな。そうだったら嬉しいな。また、ルナに会えるなら僕は、死んだ方がいいんじゃないかな?
すごーくネガティブな悠人です。次は第三章のもう一人の主人公である悠聖視点。