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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第四話 依頼の中身

設定とかはおいおい書いていく予定です。

「評議会と『ES』からの依頼。はっきり言うならお前達以外に適任者がいないんだ。理由としては、事件が発生した地区の市長が正規部隊と地域部隊の介入を拒否しているから」


『GF』にとって正規部隊は数が少ない。だけど、その戦闘能力はかなりの高さを誇っていると言える。それ以外にも地域部隊もたくさんいるので数には困らないけど。


二つの違いは国を越えて活動できるかどうか。活動で気うなら正規部隊だ。


そんな正規部隊の介入を考えるほど大きな事件。心当たりがあるのは、


「狭間市か?」


「そうだ」


二ヶ月前、狭間市でとても大きな事件が発生した。狭間市にいる『GF』の地域部隊メンバーが全員失踪した。18才から47才までの計23名が一夜、いや、一昼夜にして失踪したのだ。


原因はまだわかっておらず、事件とされたのは、『GF』狭間市本部にかすかにあった真新しい血痕だけ。目撃者すらいない。噂では完全にお手上げ状態らしい。


「狭間市市長は新しい『GF』が来るまで『ES』から傭兵の依頼をした。『ES』はアル達が依頼を受けて『GF』に変わって警備をしている」


「なら、問題はないとちゃうん?」


確かに『ES』は頼れる組織だ。『GF』に並ぶ一般メンバーの熟練度。そして、穏健派だからこその安心感。アル・アジフがいるなら直属部隊もいると考えると下手な正規部隊よりはるかにましだろう。


だけど、中村は深く考えていない。『ES』が傭兵として警備に当たって何も無かったなら、オレ達がそのことで呼ばれることはまずない。アル・アジフからの依頼があることはない。


なら、どうして呼ばれるか。狭間市で何かがあったとしか思えない。


「それでも何かあったんだな」


「ああ。簡単に言うなら、『ES』から失踪者が出た」


予期していた答えにオレは頷いた。そういう事態にならなければ『ES』で十分なはずだ。


「ただ、今回はどうして人が失踪したかがわかった」


「孝治、時雨総長の言いたいことがわからないけど、お前はわかるか? 周はわかっていそうだけど」


「安心しろ。理由がわかれば失踪ではない。そのことに関してならボロ雑巾の意見に賛成だ」


後ろの二人の会話に大いに賛成だ。ただ、この場でボロ雑巾とか言わないで欲しい。


失踪と言うのは行方が分からなくなることだ。厳密な意味で言うなら正解になるのだが、『GF』メンバーも同じ理由と考えられるなら失踪と言うより事件の意味合いが強くなることを二人はわかっているのだろう。


オレはとりあえず候補を一つ上げてみた。


「魔物か?」


オレは考えの中にあった一つの候補を尋ねていた。


オレ達が住むこの世界とは違う世界である魔界に存在する魔物。それは人を襲うものもいれば人と仲良くなるものもいる。オレは前者の魔物かと尋ねた。


「そんな楽な敵ならどれだけ簡単だっただろうな」


その言葉にオレの表情が固まるのがわかった。魔物は時には厄介な敵となる。


正規の手段で来ない魔物は大抵の場合は傷ついているが、召喚された場合は無傷の魔物が来ることがある。それで滅んだ街は少なくない。


「アル・アジフが見た限り、鬼が人を喰らったそうだ」


「ありえない」


オレは思わずそう答えていた。


鬼というのは空想の産物でしかない。実際に、そういう存在の目撃例は皆無であり、存在していないものとされている。実際に、桃太郎とかの童話で出てくる鬼は海賊という説の方が今は強いくらいだ。


伝承の中にしかいない存在。それが鬼だ。人を喰らうのは鬼なら納得できるとしても存在が納得できない。だけど、時雨の目は本気。つまり、


「実在するのか?」


オレは少し呆れたように尋ねた。


「オレだって眉唾ものだ。慧海やギル、他の幹部の見解も同じ。ただ、アルですら逃す手練れということだ」


その言葉にオレは眉をひそめた。


「アル・アジフですら捕まえられない? アル・アジフは最強の魔術師じゃないのか?」


オレはアル・アジフを見た。


アル・アジフの名前は『GF』の中ではとても有名だ。簡単に言うなら『GF』幹部級の実力者。幹部級は天才ばかりと考えてもらえばわかりやすいだろう。そして、魔術師単体なら世界最強とも言われている。


そんな実力者が逃がすほどの鬼。オレ達からすればかなり荷が重いとしか感じれない。


「そうじゃ。我が全力を発揮しても捕まえることが出来なかった。奴はそれほどまでに強い。いや、厄介と言うべきかの。真正面からぶつかり合ってはいないからわからぬが」


そんな存在を野放しにはできない『GF』としては正規部隊を出して鎮圧に乗り出したいところだが、市長が拒否するので向かえない。だから、オレ達というわけか。


「だから、オレ達を学生『GF』の最大戦力として送るわけか」


「理解が早くて助かる」


『GF』には学生が加入する学生『GF』があり、任務の際には学生『GF』を任務先の学校に転入させるだけで簡単に移動出来る。さらには向こうは拒めないという荒技を時雨は使おうしている。


確かにそれなら可能だ。だから、オレ達の新部隊か。正規部隊に学生『GF』が入っていることはあるが、正規部隊全員が学生『GF』ということはない。聞いたこともない。


「よく評議会が依頼してきたな」


「仕方ないだろ。このままじゃ事件は悪化する一方だ。なら、天才達を集めたお前の新部隊構想に乗った方が利益が出る。最悪、部隊は送ったが敵が強すぎて全滅したで収まるからな」


確かにそうだな。オレが隊長として作る新部隊は学生『GF』としては完全なオーバースペック。だからこそ、今回の依頼を出した。オーバースペックだからこそ、失敗したとしても害はほとんど少ない。何人かの首が飛ぶ可能性はあるが。


「ところで、海道、新部隊って何? 今まで聞かんかったけど」


中村が純粋な疑問をぶつけてくる。それに対してオレは小さく溜息をついた。孝治にはちゃんと伝えるように前に話していたはずだ。特に、部隊設立を決定した時は特に。


「孝治?」


「すまん。忘れていた」


「だろうね」


オレはまた小さく溜息をつきながら振り返った。


姿勢を正し小さく息を吸う。


「今日これより現時刻を持って『GF』移動課第一部隊第76移動隊の設立を完全宣言する。部隊メンバーは隊長に海道周。副隊長に花畑孝治、白百合音姫。隊員に白川悠聖、中村光。隊長以下全員は異動届を前部隊に提出すること」


新しい部隊を設立する宣言。


評議会からの依頼が来るということは部隊として認可されたことであり、『GF』の上層部の推薦をもらっている以上、各部隊はオレ達の異動は止められない。だから、この場で宣言する。ちょうど時雨もいるしな。


「周、いや、周隊長。質問があるけど」


「すまん。オレが理解出来る言語で頼む」


「お前はオレを何だと思っているんだ。まあ、いいけど」


いいのかよとつっこみたい自分を抑えつけて耳を傾ける。


「オレが聞きたいのは『GF』移動課第一部隊第76移動隊という名前なんだが、移動課に移動隊ってなんだ? そんな話はされたことはないけど」


悠聖の言葉に音姉が微かに目を細まる。


「私も。弟くん、もしかして」


「忘れたわけじゃないから」


オレは必死に弁解する。こういうことは音姉は厳しい。ちゃんと説明しないと伝わらないことはよく知っているから。


「移動課だけど、簡単に言うなら世界を自由に飛び回って任務をこなす部隊の所属場所だ。移動隊自体が今までに無い発想だったからな」


オレが慌てて弁明していると、後ろの方から時雨とアル・アジフの会話が聞こえる。


「確かにそうじゃな。部隊を送るには緊急の時を除いて時間がかかる。それを縮小するのが移動隊か。よく考えておるの」


「発案はオレね。周達の才能は承知しているから認可出来た。まあ、今回の依頼を出せるただ一つの部隊」


「確かににそうじゃな。世界でもトップクラスの実力者である音姫と孝治の二人を入れた部隊。これなら我らと共に行動ができる」


「やっぱりお前たちもいるのか。一応言っておくけど」


「わかっておる」


オレはそんな言葉を背後で聞きながら小さくため息をついた。


まあ、この二人の会話には大人の事情というもんがあるのだろうし、オレ達の様なまだ大人じゃない面々が話に入っても事態をややこしくするだけだろう。


「弟くん、移動隊を作ることはいいとして由姫ちゃんはどうするつもり? これ以上、忙しくなったら」


「わかってる。今日帰ったら話すつもり。他に質問はないか?」


オレがみんなに尋ねると、孝治が静かに手を挙げた。


「アル・アジフに尋ねる。鬼の単純な戦闘能力は?」


「そうじゃな、速度と魔力共に世界でもトップクラスとして通用するじゃろうが、一つ気になることがあるのじゃ」


アル・アジフはそう言いながら不安そうな顔で言葉を続ける。


「奴は本気を出していないように思える。まだ、力が完全ではないと思うのじゃ」


本気じゃない? アル・アジフを相手に?


孝治が何か考えるように下を向いて、そして、オレを見てくる。


「力が完全ではない、か。周、お前の見解を聞かせてくれ」


オレは本気で嫌そうな顔をして抗議する。


「なんでオレなんだよ」


「俺では思いつかない可能性をお前は思いつく」


オレは小さくため息をついた。まあ、孝治もいろいろと思いつくけど、オレが思いつく回数と比べたら圧倒的に少ないのは自分がよくわかっているからだろうな。


とりあえず、今までの情報を並べよう。


・狭間市において『GF』のメンバー23名が失踪。『ES』のメンバーも失踪

・失踪した理由はおそらく鬼が喰べたから

・アル・アジフ一人では鬼を捕まえることはできない

・鬼の単純な戦闘能力は現時点でアル・アジフと同レベル

・鬼は本気を出していない可能性がある


それらから導き出せる考えは、


「完全に復活していない?」


何かと端折って結論を出したら音姉が首を傾げてくる。ですよねー。


「弟くん、説明をお願い」


「あ、ああ。オレの考えだけど、その鬼は狭間に地に封印されていたものじゃないかと推測したんだ。もちろん、遥か昔から」


そう考えれば本気を出していない理由が理解できる。


「根拠はなんじゃ?」


「オレ達、いや、時雨や慧海ですら把握していない事柄だから。鬼が人を喰らうのは復活のための行為。そう考えれば違和感なく繋げられる」


もし把握しているなら時雨達はもっと早くに行動しているはずだ。でも、オレが知る限り後手に回っているようにしか思えない。そして、鬼が存在するとするなら復活のために人を喰らい力を溜める。これなら全てが繋がってくる。


オレがそういうと時雨は少し考え込んだ。状況を整理しているのだろう。多分、自分の考えとどれくらい同じであるかどうかを。オレが気づいたことをこいつらが気づいていないことはない。


アル・アジフは少し驚いたようにオレを見ている。まあ、子供がここまで推測することに驚いているのだろうけど。


「やはり、そうくるか」


「時雨も同じ考えなんだな」


多分、自分でも納得できない部分が多かったのだろう。


「ああ。オレ達も同じ考えだ。問題はいろいろあると思うが今のところはそれが最有力候補か。周、狭間市に行ってもらえるか? このままだと大変なことになりそうな気がする」


「第76移動隊としての初任務の依頼、受けた。みんなもそれでって、一人寝ていないか?」


オレは振り返ってから呆れたように中村を見た。


立ったまま寝ている。しかも、全く体が動いていない。まるで、ベッドの上でぐっすり眠っているような感じだ。話がかなり退屈だったのだろう。


まあ、中村らしいと言えばらしいけど。


「だけど、周隊長。オレ達だけで大丈夫か? せめて後、四、五人は連れて行きたいと思うけど?」


「そりゃな。でも、心当たりがないんだよな。時雨、誰か推薦してくれ」


「お前らにレベルについて来れる奴らの方が大人を含めても少ない」


ですよねー。


まあ、心当たりがないってことはないけど、あいつはある任務に出ているからな。


「ところで、亜紗の任務はどうなっているんだ?」


「ちょっと待ってろ」


時雨がデバイスを繫げた機器にを操作する。そして、小さく頷いた。


「大丈夫だ。一週間ほど前に長期任務は終わってある。今はニューニューヨークで部隊内で出来た友達と遊んでいるらしい」


「男か?」


「女だ」


オレは安心したように息を吐いた。本気で良かったと思っている自分がいる。


時雨がオレを見ながらニヤニヤしている。


「いいのかよ」


「何が?」


時雨がさらににやりと笑みを浮かべる。


「三角か、うおっ」


オレは床に落ちていた灰皿を勢いよく時雨に投げつけた。もちろん、身体強化魔術を全力展開して。だけど、時雨はそれをよける。


灰皿は時雨の背後の壁にぶつかり粉砕した。


「ちっ」


「殺す気か?」


「お前がこの程度で死ぬわけがない」


もちろん本気で言っている。時雨は小さくため息をついて椅子にしっかり座った。


「わかった。亜紗には、こちらからメールを送っておく。これでお前の面々は六人か?」


「そうなるな」


六人というのもかなり不安なんだけど。だって、『GF』の一番少ない正規部隊で八人。対するここは六人。


オレの中には他の候補が見つからない。


「周、一人心当たりがある」


「本当か?」


孝治はしっかり頷いた。ただし、不安そうな顔で。


なんでいやな予感しかしないんだろう。


「佐野浩平。腕だけは確かだ」


「腕だけかよ」


不安しか残らないが、まあ、メンバーが増えることにはいいだろう。これで七人。正直に言うなら後三人は欲しいところだな。


まあ、無いものをねだっても意味はないからあきらめる。


「まあ、候補はオレの方で見ておく。お前たちは依頼の詳細を見ていてくれ」


時雨は机に上にあった書類を一枚、オレに向かって差し出してくる。オレはそれを受け取った。今回の依頼の詳細が書かれている書類だ。そこそこの分厚さを誇っている。ページは大体200ページくらい。普通だな。


「話はこれで終わりだよな。じゃ」


オレはそう言って部屋から出ようとする。すると、時雨がオレに向かって何か投げてきた。


オレは軽く体を反らしてギリギリで避けて飛んできたものを手に取った。


「記憶媒体?」


「詳しい事柄はそっちだ。みんなで仲良く見ろよ」


「わかってる」


オレは小さく笑ってみんなと総長室から出て行った。そして、小さくため息をつく。


「さて、どうなることやら」

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