第二百二十五話 最終日
前日が驚きのアクセス数でした。自己最高。まあ、数にしていうならそれほどの量ですが嬉しいことにはとても嬉しいです。
読んでくださってありがとうございます。
晴れ渡った空。みんな、どのように過ごしているのだろうか。
体育祭最終日の準備をしているのか、親によって連れ帰られたか、はたまた、
「筋肉痛で倒れているのはオレくらいだろうな」
「絶対兄さんだけですよね」
オレが寝ているベッドには由姫が腰かけている。まあ、由姫だけじゃないくて茜の姿もあるんだが。というか、茜は検査のために病院に行ったはずなんだけどな。
検査が終わって来ただけだよな。
「お兄ちゃんの体ってそんなに貧弱だったっけ?」
「デュアルオーバードライブを使用した弊害だろうな。まあ、筋肉痛でまだ動けるだけマシだよな」
前回なんて魔術の使用禁止を食らったからな。今回はそれほど長時間じゃなかったし、体も成長していたから大丈夫だったんだろう。
筋肉痛の程度が桁違いにヤバいけど。
今まで筋肉痛で動けなくなる経験はしたことがない。筋肉痛で動くのが億劫になるのはある。
「はぁ、今日は用事が立て込んでいるのに」
「そうなの? 私と回る約束はないのかな?」
「つか、茜がここにいることが驚きなんだが」
筋肉痛による痛みを堪えてオレはゆっくり起き上がった。だが、痛みですぐに倒れそうになってしまう。
筋肉痛というより魔力の回路が少し傷ついただけなのだろう。それが筋肉にも影響を与えている。多分だが、そうに違いない。
「私は抜け出してきたよ、病院から」
オレと由姫は顔を見合わせて小さく溜め息をついた。
それは昨日の話。
第二階層にいた由姫、亜紗、都達と合流して地上に戻ったオレ達を待っていたのは何故か時雨、慧海、ギルバートさんの三人だった。
それに関してはかなり驚いたけれど、どうしてこの三人がいるのかがわからなかった。
「何でいるんだ?」
「孫の勇姿を見るのは不自然か?」
「孫みたいな奴の勇姿を見るのは不自然か?」
「弟子の勇姿を見るのは不自然かな?」
三者三様の答えが返ってくるけど慧海の回答だけは殴っていいよな?
「僕はただ、日本政府からの伝言を持ってきただけだけど。さすがに、慌てふためいていたね。表の部分は」
そう言いながらギルバートさんは苦笑するけど、その言葉は完全に日本政府が裏で手を引いていたってことだよな。
だが、オレはこの三人が来たのは少し違うように感じた。何というか、勘なのだが、目的を果たしに来た感じがしたからだ。
オレは小さく溜め息をついて尋ねる。
「何を企んでいる?」
「企んでいないさ」
慧海が笑みを浮かべて答える。普通なら今の言葉に違和感はないが、オレや亜紗に都は気づいたらしい。
「なら、動揺してほんの少し反応が早くなったよな」
「そんなわけないだろ」
慧海は平然と返してくる。やはり、慧海は強敵だ。ポーカーフェイスというレベルじゃない。
オレは小さく溜め息をついて歩き出す。
「学園都市はこれから明日の準備に入る。一応、来賓をお断りするけど」
「日本政府からは許可しない、だそうだよ。君はそれでもするのかい?」
「そんなもの、オレ達が決めるものじゃないだろ」
その言葉にギルバートさんが一瞬だけ驚いたようになって、そして、納得したように頷いた。
学園都市の行く末を決めるのは学園都市『GF』代表のオレじゃない。だから、オレ達はただ準備をするだけ。決めるのは体育祭実行委員。おそらく、実行委員長を除く実行委員だろう。
もし、その決定で体育祭が中止されたならオレ達は従うだけのこと。
「開催出来ると思っているのか? 学園都市を襲った集団が学園都市『GF』代表の親だった。関係者は黙っていないな」
時雨が痛いところを突いてくる。確かにそうなんだよな。学園都市を襲ったのは親父とお袋。普通に考えたら父兄の方々が何やら言ってくるだろう。
確かに、一斉に来たなら体育祭なんて開ける状況じゃなくなる。
「なあ、時雨、慧海、ギルバートさん。あんたらは何を考えているんだ?」
だから、オレは尋ねた。
三人をそこそこ知るオレでもこいつの目的が何なのかが全くわからない。確かに、世界を救うことを考えているみたいだけど、その世界を救うこととは少しズレた目的があるように感じる。
「オレ達か? オレ達はただ、世界を救いたいだけなんだよ。正直に言うならこれからが大変だから」
「オレが言いたいのはそういうことじゃない。真の目的だ。あんたらが本当は何を目的としているのか」
その言葉に今度こそ慧海の顔が変わった。全員が真剣な表情になっている。
茜達はその真剣な表情を見て完全に固まっているだろう。オレだって固まっている。だって、下手に動けば殺される雰囲気を出しているから。
「やはり、血は争えないか」
時雨が小さく呟いた言葉にオレは担いでいる親父を考えた。つまり、そういうことか。
「一つだけ言っておく。そんなんで世界が救えると思っているのか?」
「ああ、思っているさ」
オレの言葉に慧海が答える。オレが微かに目を伏せた瞬間、時雨達が一気に飛び立った。オレは顔を見上げて三人を見上げる。
「お兄ちゃん」
オレの手を茜が掴む。オレはただ、その手を握り返すしか出来なかった。
「結局、自由参加になったんだよな」
オレはいつもの制服であるほぼスーツに着替えながらベッドに腰掛けている同じように制服姿の由姫に尋ねた。由姫は本を読んでいる。タイトルは『燃えた剣』。
あれのパクリか?
「そうですね。体育祭実行委員長を除く体育祭実行委員が参加した体育祭実行委員会で決定したことのようです。被害の激しい部分は取り除いて、種目は少なくなりますが、自由参加型の体育祭を行うようです」
「ここ、家の中だよな?」
由姫が外で使うような会話をしているのにオレは若干ながら驚いていた。いつもなら、普通に妹として接してくるのに。
「だって、茜ちゃんがいるから。お兄ちゃんがかぶっているし、話し方も少し似ているような気がするし」
「茜の方が明るいしな」
「どうせ私は暗い人間ですよーだ」
「んなことあるかよ」
オレは呆れたように息を吐いて由姫に手を伸ばした。
「お姫様、デートと行こうか」
「うん」
その手を由姫が握り締めてくる。どうしてこうなったかと言うと昨日の出来事が関係している。
「それじゃあ、また明日。夕陽が沈む頃に」
親父とお袋をしかるべき場所に送り届けた後、手伝ってくれた正はその一言と共に姿を消した。まるで、楽しそうに笑みを浮かべながら。
実際には本当に楽しみなんだろうな。オレだって楽しみなんだが、背後が絶対零度の殺気を放たれているからどうなんだろ。
「兄さん? 今の話はどういうことですか?」
由姫の言葉にオレは振り返る。由姫は笑っていた。にっこり笑みを浮かべて、栄光を身につけた拳を握り締めながら。
『説明を求む』
亜紗も隣でスケッチブックによって尋ねてくる。もちろん、こちらも笑みを浮かべて七天失星の柄を握り締めていた。
七天失星は実は七天であり七天失星によって七転八倒、違った七天抜刀が出来るから防御出来ないんだよな。
「説明してもあまり変わりませんけどね」
おそらく、この中で一番の笑みを浮かべている都が断章を握り締めて後光がさしているかのように言ってくる。
ただし、死刑宣告を。
「はぁ、そなたらは。ボロボロだと聞いて心配して来てみれば、元気が有り余っているようじゃな」
全く笑みを浮かべていないアルは呆れたように溜め息をついているが、完全にこの状況を楽しんでいるのはわかる。
というか、一人だけ余裕だよな?
「何か埋め合わせを要求します」
『賛成』
「身柄も余裕します」
とりあえず、この三人をどうにかしないと。
「そうじゃな。明日一日で夕方までに四人とデート、でどうじゃ?」
「完全にそれを狙っていたよな」
オレは小さく溜め息をついて頷いた。そして、全員が振り返りながらガッツポーズをする。
かくして、オレの最終日の予定がほぼ埋まった。
「兄さん、浮かない顔ですよ」
由姫がオレの顔を覗き込んでくる。誰のせいだと叫びたくなったが我慢我慢。
「悪い。昨日のことを思い出していた。とりあえず、由姫はどこに行きたいんだ?」
「兄さんと一緒ならどこでもいいですよ」
「ある意味それが一番困るけどな」
オレは苦笑して由姫の手をしっかり握り、人混みの中に飛び込んだ。
そろそろ第二章の終わりに近づいてきました。