第二百二十三話 過去を断ち切る
戦闘終了
幾つもの閃きが高速で対面にいる正を狙う。その槍捌きはどこか焦っている風にも思えた。正は小さく溜め息をつきながら槍を全て剣で受け流す。
「何故、何故お前は邪魔をする!? お前の目的は私と同じではないのですか?」
「同じ? バカにしないで欲しいね。僕はあなたとは違う。あなたのような目的とは違う。世界に恨みを持っているわけでも、人生を決めた相手を恨んでいるわけでもない」
海道椿姫の動きは見事というしかなかった。突くだけが槍の動きではないとは言え、やはり、突くという攻撃は槍の持つ特性の一つだ。海道椿姫はそれを上手く使っている。
基本的には振り回しだが、正が前に出ようとした瞬間に突いてくるのだ。受け流しても力任せに振られて吹き飛ばされる。
だが、正は倒すことが目的ではないためその戦いを甘んじて行っている。
「僕はただ、この世界を救いたいだけなんだ」
「何故ですか? あなたはこの世界に恨みがあるのではないのですか? 大切な人達を失ったこの世界に」
「確かに僕は恨んでいたさ」
突かれた槍を受け止めて正はわざと弾き飛ばされる。そのまま正はゆっくり剣を右手で構えた。
「でもね、僕は出会ってしまった。この世界を変えて、救う可能性を作り出せる人物に出会ってしまった。ならば、僕は戦うよ。世界を救うために」
「周のことですか? あのような出来損ないにそんなことが」
「出来る。彼は理想を目指す。不可能だと分かっていながらも理想を、不可能を目指す。それは諦めないからとかバカだから、というわけじゃない。彼は彼が望む道が世界を変えていけると信じている。だから、僕は彼を助ける。彼なら世界を救えると信じられるから」
「不可能ですよ。そのようなことで世界が救えるほど甘くはない。それに、こんな世界なんて滅びてしまえばいいのです。そして、再生される。私達は新しくやり直せばいい」
「世界は再生なんてしない! 滅びの先にあるのは滅亡だ。そんなことはさせない。それが僕の使命だ」
正が地面を蹴る。対する海道椿姫も地面を蹴った。海道椿姫は槍を振り、正は右手に持つ剣で槍を受け止める。そのまま正は左手に新たな剣を取り出した。柄や鍔にあたる部分に時計の針がついた剣。
それを海道椿姫に向かって突く。だが、その剣は空を切った。海道椿姫が槍を振り抜いたのだ。正は吹き飛ばされて上手く地面に着地する。その瞬間には海道椿姫が槍を突いていた。
ギリギリで左手に持つ時計の針がついた剣で受け止めるが、剣は槍によって弾かれた。
「終わりです」
正の側頭部を狙って槍が振り抜かれる。だが、正は上手く体を反らしてギリギリで回避していた。槍は空振り変わりに正の右手に持つ剣が海道椿姫の体に叩き込まれた。
海道椿姫が叩き込まれた部分を押さえながら後ろに下がる。
「やはり、一筋縄では行きませんか」
「ここまで強いとはね。危なくやられかけたよ」
実際、体が反れなければ槍は側頭部を打ち抜いていただろう。威力的にかなり高いため最低でも脳しんとうが起きていただろう。
ほんの少しの反応の差。その差が今の勝負を分けた。
「本気を出さないといけないようですね」
「勘弁して欲しいよ」
正はチラッと弾き飛ばされた剣を見た。距離が離れすぎているために取りに行けば隙が出来る。その隙を作れば負けるのは正だ。
「あなたを倒せば幻想種に苦戦している周を殺すのは容易い」
「誰が容易いって?」
その言葉が空間に響き渡る。海道椿姫が振り返った先には笑みを浮かべる周の姿があった。
「正、助かった。後はオレに任せろ」
「大丈夫かい?」
「大丈夫だ。これはオレがつけないといけない決着だからな」
周は笑みを浮かべてレヴァンティンを構えた。
「まさか、あなたから殺されに来るなんて」
オレはレヴァンティンを構えてお袋を睨みつける。
「この場で礎となりなさい。それが世界に対するあなた達の償いです」
「償い? 償いをするのはお前のはずだ! 『赤のクリスマス』でニューヨークをフェニックスの力で壊滅させたお前が償いをすべきだ!」
「それが世界にとって必要なことなら? あの事件によって世界を滅ぼす礎となれば良かったのですが、ここまで時間がかかりました。ようやくです。ようやく、世界は創世の時に戻るのです」
お袋が地面を蹴る。オレは高速で突かれた槍をレヴァンティンで受け止めた。レヴァンティンと槍が火花を散らす。
「創世の時に戻してどうする!? それが世界に必要なことでも言うのか!?」
「このくだらない世界を戻すのに必要なのですよ」
振り払われ、突かれ、振り抜かれる。レヴァンティンで上手く受け止めてはいるがかなり辛い。本気を出してきたか。
「それはお前にとってだろ!」
レヴァンティンで槍を受け止めて鍔迫り合いにまで持ち込む。
「世界はくだらないものじゃない! 滅ぼしていいような世界でもない! お袋にとってはくだらない世界かもしれないが、この世界に住むたくさんの人にとってはくだらない世界なんかじゃない!」
ドライブから瞬間にブラストドライブに移り、力任せにお袋を弾き飛ばす。そして、レヴァンティンをモードⅦに変えて投げつけた。
お袋は槍でレヴァンティンモードⅦを弾き飛ばす。だが、レヴァンティンモードⅦが分裂してレヴァンティンモードⅧに変形した。
四つの刃が迫りながらオレも地面を蹴る。
お袋は周囲を見渡して、そして、槍を振るった。槍を握ったまま一回転。穂先と石突で刃の内二つを弾き飛ばし、回転したままオレに向かって槍を振るってくる。
その槍は上手く穂先で残る二つを弾いていた。オレは思わず笑みを浮かべてしまう。
上手い。槍捌きが本当に上手い。まさか、ここまで弾かれるとは思わなかった。だから、オレはギリギリで槍を避ける。避けて、前に進もうとして嫌な予感が体を襲った。
オレはすかさず後ろに下がり、オレがいた場所から炎が立ち上った。
「炎? まさか」
レヴァンティンモードⅧから通常の剣に戻しつつ後ろに下がる。それと同時にお袋の持つ槍に炎が纏わりついた。
炎獄の御槍じゃない。つまり、あの炎はもしかして、
「フェニックスの炎か」
「焼き尽くされなさい!」
お袋の槍からオレに向かって炎が放たれる。オレはレヴァンティンの力で炎を打ち消した。
「早く世界を始めるために、このくだらない世界を破壊するために」
「確かに人は苦しくなって、この世界が嫌になることだってある!」
レヴァンティンを握りしめ、オレはお袋に話しかける。
「それでも、苦しくてもオレ達は生きていかなくちゃダメなんだ。苦しくても生きていけば、必死に一生懸命生きて行けば、オレ達は必ず新たな道を掴める。オレがそうだったから。だから、オレは」
レヴァンティン、最大限まで使うぞ。
『了解です!』
レヴァンティンと頭の中で会話をしてオレはレヴァンティンモードⅢに変えた。そのまま最大までドライブを展開する。
「デュアルオーバードライブ!」
多分、明日はまともに動けないだろうなと思いつつ、オレはデュアルオーバードライブを発動した。
最大よりもさらに上の力が体を駆け巡り、オレは全力で地面を蹴る。そして、鞘にレヴァンティンを収め、全力で引き抜いた。
対するお袋はフェニックスの炎を纏う槍を振るってくる。レヴァンティンと槍がぶつかり合い、槍を弾き飛す。
「破魔雷閃!」
すかさず返す刃でお袋に斬りかかった。だが、破魔雷閃はお袋にギリギリで受け止められる。受け止められたくらいではオレは止まらない。
受け止められ手とは逆の手にもつレヴァンティンモードⅢをお袋に向かって突き出す。だが、それは炎の壁によって受け止められた。
「お前は世界に絶望しないのですか!?」
「絶望なんてするもんか! 未来は、オレ達の手で作り出す!」
少しだけステップで後ろに下がり、オレはレヴァンティンを振り上げた。だが、その瞬間にお袋はオレに向かって炎を放ってくる。
一か八かの賭けにはなるが、それぐらいしないとかなりマズい。
「幻想空間!」
すかさず、幻想空間の力を展開する。展開するものはオレが持つ光の翼。これならば、魔力を吸収する能力を伸ばすことが出来る。
オレは翼を炎から体を守るように広げた。フェニックスはオレの翼に直撃し、翼が炎を吸収する。
「なっ」
お袋が上げる驚きの声。オレは前に踏み出していた。
「レヴァンティンモードⅣ」
レヴァンティンが巨大な剣となる。炎を受けながらもその剣には金色のオーラが纏っていた。
「これで終わりだ」
「終わらせるわけにはいかきません!」
お袋の前に炎の壁が出来上がる。幾重にも幾重にも。オレはそれを一瞥して手に力を込めた。
「金色夜叉!」
レヴァンティンモードⅣを振り下ろす。レヴァンティンモードⅣは軽々と炎の壁を斬り裂いてお袋の体に直撃していた。
お袋がその場に倒れ込む。オレはレヴァンティンモードⅣを通常の剣に戻して小さく息を吐いた。
「終わったね、お兄ちゃん」
背後から茜が声をかけてくる。
「ああ、終わった」
オレはレヴァンティンを鞘に収め、笑みを浮かべた。
ただし、体育祭は続きます。